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真空で鳴る音  作者: youkey
崩壊した自己編 5章 未来はこの手で
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3話 必要のない人

「お母さんと話できた。」


美玖は落ち着いていた。


「そうか。」


スマホをスピーカーにして、ベッドに座る。


「2人でもう一度やっていこうって。」


「そうか、よかったな。」


『嘘だな。』


アイツが的確に刺してきた。

自分でも怪しいと思ってしまった。


「新しい彼氏さんとも会ったよ。」


胸がズキっとした気がした。


「どんな人だった?」


「優しい人だった。」


「そんな訳ないだろ。」


「なんで?」


コイツはアホか。


「娘がいるのを知ってて、彼女に放置させる奴だぞ。」


「いやそれが、知らなかったみたい。」


「マジ?」


「お母さんが隠していたみたい。」


そうでもしないと男は寄ってこないのかもしれない。


———そういえば、母さんはどう出会ったんだろう。


今はどうでもいいか。


「それは、逆に懐深いかもな。」


「そうだね。騙されてたって怒らなかったみたいだし。」


「出来杉くんだな。」


「出来杉くんって。」

「じゃあ、蓮介はドラえもんだね。」


「イジってんのか。」


「違うよ。いつも私を助けてくれる。」


「いや、俺はのび太だよ。」


「じゃあ、私は誰よ。」


「……しずかちゃん?」


自分で言ってて恥ずかしくなった。


「えっ嬉しい。」


「今のなし。」


「だーめ。もう忘れません。」


誰か俺を殺してくれないだろうか。


「とにかく、学校とか今後のことを相談しとけよ。」


「うん。」


「俺のことは気にしないでいいから、今はちゃんとお母さんに向き合いな。」


「蓮介と話すのも大事だよ。」


「俺とはいつでも話せる。」

「今はお母さんに時間を割くべきってこと。」


「うーん。わかった。」


「色々決まったら、連絡頂戴。」


「うん。」


「じゃあ、おやすみ。」


「おやすみ。」


俺はスマホを閉じた。


居場所を手に入れたら、アイツはどうなるだろう。

満たされて、俺なんて必要なくなるんじゃないだろうか。


『見捨てられるのが怖いか。』


そんなんじゃねえよ。


『じゃあなんだよ。寂しいのか。』


寂しくないわけじゃないけど。


『お前、なんか弱くなったな。』


アイツはそう言って消えた。


美玖と出会ってから俺は、弱くなったのか。

そんなつもりはない。


家を出てから、ずっと一人だった。


だから寂しいなんて。



———最初から一人だったらマシだったかな。



そう呟いても、広い部屋は俺しかいなかった。



——————



スマホが静かな数日。


親父に言われた通りCRACK The MARIANのコピーに勤しむ。


ただ、心ここに在らず、気持ちが入らない。


『不満か。』


何がだ。


『上手くいってそうなことが。』


何よりだろ。


『じゃあなんでお前は、イラついてんだ。』


イラついてねえよ。


『当ててやろうか。』

『お前は自分の力で美玖を救いたかったんだ。』


別にそんなことねえよ。


『だから気に入らないんだろ。』


だからそんなことねえって!


『そして今、離れていきそうなのが不安でたまらないんだ。』


うるさい!消えろ!


俺は睡眠薬を飲み干し、何も考えなくていいように寝た。



——————



心地よいはずの朝を告げる鳥の声。

それは睡眠薬の残りで眠気が残る俺には、鬱陶しかった。


水を飲もうと立ち上がる。







「えっ。」






眠気は一瞬で覚めた。


服が外着に変わっている。

左拳に痛みがある。


俺はこの痛みを知っている。

殴った時の痛みだ。


———喧嘩。


身に覚えのある感覚に、最悪の2文字がよぎる。


しかし全く記憶がない。


背筋が凍る。


お前がやったのか。


『だから俺はお前だって。』

『お前がやってないことは、やってない。』


人の心配なんてしている場合ではなかった。


俺はコイツ以外にも内側に何かいるのか。


怖かった。


得体の知れないものへの恐怖心はコイツとは比べものにならなかった。



——————



部屋の中に微かな痕跡を探す。


無造作に捨てられた部屋着。


それ以外は寝る前と変わりない。


自分の記憶を必死で遡る。


睡眠薬を飲んだところまでは覚えている。


でもその先がない。


犯罪者にでっち上げられたような気分だった。

でも過去を振り返れば大声で冤罪は主張できそうにない。



——————



急いで玄関へと降りる。


靴は、左右を気にすることなく転がっていた。


揃っていないのは違和感があった。


「あら、蓮ちゃん。朝ごはん?」


祖母が話しかけてくる。


「いや、今日はいいや。」

「じいちゃんは?」


「さっき、朝の立番に出かけたよ。」


「そっか。」


ドアの鍵がどうなっておいたのか聞き出さないと……。


「少しは元気が出てきたみたいね。」

「お父さんから聞いたよ。」


祖母は言う。


「まあ多少ね。」


正直それどころではなかった。

俺は急いで2階の部屋に戻る。


『聞かないのか。』


何を。


『夜中に俺、どっか行ってなかった?って。』


聞けるわけないだろ。


『だろうな。』


アイツは意地悪く笑う。


そもそも行き過ぎた早寝早起きが染みついた2人に、俺の深夜徘徊を見られたことはない。


親父は夜の散歩を「いつものこと」として、気にしていないだろう。


やはり昨日の俺を見たものは、うちには誰もいなかった。


———ガチャ。


音を聞いて急いでもう一度下へ降りる。


「じいちゃん、おかえり。」


「おう、ただいま。」


「朝出る時、ドアの鍵閉まってた?」


「閉まってたけどどうした?」


「いやー締め忘れてたかなって。」


「昨日散歩したのか?」


「ああ、ちょっと寝ぼけてて。」


「夜は、気をつけなさいよ。」


『気をつけなきゃいけないのは、俺じゃない。』


うるさい。


「うん。ありがとう。」


目撃情報の希望は儚く消えた。



——————



『終わったことだ。これ以上考えても仕方ないだろ。』


わかってる。


『むしろバレたら、病院送りだぜ。』


……。


コイツの言うことは間違っていない。


病院で話そうもんなら、間違いなく「入院のすゝめ」をもらうだろう。


喧嘩ならまだいい。

一方的に誰かを傷つけたのなら、病院送りの前に刑務所を中継することになる。


一体誰を。

何度も記憶を遡っても、空白が俺を支配する。


ギターも触る余裕がない。

音楽を聴くこともできない。


静寂が怖い。

サイレンの幻聴が聞こえる。

何もできないことが苦痛だった。


LINEを見る。


美玖からの通知はない。


あいつなら、怖がらず聞いてくれるだろうか。


でも、今やっと幸せに踏み出したあいつに、俺の問題を背負わすのは気が引けた。


『結局、お前は一人だな。』


うるさい。


こんな突飛な状況、誰でも一人になるだろ。


『どうだか。』


それにアイツの幸せに俺は必要ないし、邪魔するわけにはいかない。


必要とされるどころか、いない方がいい。


一瞬でもそう思ってしまった。


それだけは、頭から離れなかった。

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