表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真空で鳴る音  作者: youkey
崩壊した自己編 4章 定住する矛盾
PR
27/34

7話 Someday

「私、家に居場所がなくて……。」


彼女は下を向いてそういった。


「親は?」


「彼氏の家から帰ってきません。」


「そうか。」


「たまに荷物を取りに来て、お金を置いていきます。」


「学校は?」


「どうでも良くなっちゃいました。」

「女子って面倒なんです。」


「女子か。」


「カラオケ行けなくなったとか、購買で物が買えなかったり。」

「それだけで壊れちゃうんです。」


「安い友情だな。」


「友達じゃないならいじめの対象。」

「すぐに変わりました。」


「……。」


「その時、さっきの中の一人の男の子に声をかけられました。」


「男子?」


「可愛いって。」


「何だそりゃ。」


「嬉しかったんです。」


『女子は簡単だな。』


ちょっと黙ってろ。


「それで?」


「そういう関係になりました。」


「そういうね。」


その後は想像できた。


「そのうち、他の男の子とも関係を持つよう強要されました。」

「写真とかも撮られて……。」


「……。」


「彼女も別にいて。」


「……。」


「惨めですよね、私。」


彼女の瞳がより光る。


「じゃあ何でアイツらといたんだよ。」


「それでも居場所が欲しかったんです。」


「殴られてまでか?」


「今日はリーダーの女の子が機嫌悪くてたまたま……。」


「お前はたまたまで殴られるのか?」


『おー意地悪いな。』


うるせえ。


「じゃあどうしろって言うの!」

「また捨てられたら、もういくとこがない!」


公園に彼女の声だけ響く。


「一人になればいい。」

「俺も一人だ。」


「えっ。」


俺は気づけば話していた。


母親のこと、親友のこと、親父のこと、照井のこと。

そして頭の中のアイツのこと。

俺の全てを。


「それは本当に……。」


「慰めはいらねえよ。」


俺は遮るように言った。


「俺もお前も掴むしかないんだ。」

「自分の居場所を。この手で。」


「じゃあ、あなたは何で今ここにいるの?」


彼女は見逃してはくれなかった。


「ああ。言葉では何とでもなる。」

「でも現実は違う。」

「綺麗事だよ。悪かった。」


俺は、月を見上げる。


2人の間に初めのような沈黙が流れる。

呼吸が苦しい。

全身を針で刺されたような。


———話すんじゃなかった。


『何を今更。』


うるせえよ。


———グスッ。


横から鼻を啜る音が聞こえる。


振り向くと、彼女の悲しみは小さなシミになっていた。


俺も、自分の感情を抑えられなかった。


いい歳こいて、公園で泣く男女。


客観視したら死にそうだった。


でも世界は、今だけは、2人だけになったような気がした。


ひとしきり泣いた俺たちは、笑った。


世界を、自分たちを、嘲笑うように。


泣きながら。


そして手を握っていた。



——————



彼女は大きく息を吐いて立ち上がる。


「今日から一緒に頑張りませんか?」


そう言って笑った。


「何を?」


「”生きること”です。」


「生きること?」


「確かに現実は厳しいです。」

「でもやらなきゃ始まらないと思うんです。」


彼女はさっきと打って変わってプラス思考だ。


「なんで俺も一緒なんだよ。」


「この出会いは運命だと思うんです。」


「運命?」


「お互い変わるタイミングが来た。」


「都合いいな。」


「覚悟が足りなかったんです。」

「私たち。」


「……覚悟ね。」


「たとえば高校卒業まで頑張ってみるってのはどうですか?」


「ダメだったらどうすんだよ。」


「もしダメだったら、一緒に死にましょ!」


物騒なことをブロック塀を渡りながら笑顔で言う彼女は、月のせいか輝いて見えた。


「ていうか、話聞いてたらもしかして同い年ですか?」


「16だけど。」


「やっぱり!」

「名前は?」


「内村蓮介。」


「私は中谷美玖。」


「よろしく蓮介君。」


「いきなりタメ口かよ。」

「そっちだってそうじゃん。」


「俺は最初からだよ。」


「お互い全部曝け出したし、かしこまるのも終わり!」

「てか、お願いがあるんだけど。」


「何?」


「私とHして。」



——————



断る理由はいくらでもあった。

なのに俺は後ろをついて行った。

言われるがままやってきた彼女の家は荒れていた。

食べかけのゴミが散乱し、何らかの督促状で溢れていた。


「お風呂入る?」


「いや、人ん家の風呂ってなんか……。」


「えー臭いのやだけど。」


「とりあえず、先入っていいよ。」


「わかったー。」


そう言って彼女はお風呂場へ向かった。

気づけば俺は言われるがままだった。


無理矢理、男にヤられたのを上書きしてほしい。

それが彼女の願いだった。


もちろん断った。

しかしなんやかんやで、連れてこられた。


『思春期だな。お前も。』


うるさい。


アイツもそして心臓の音もうるさい。



「いいよ。入ってきな〜。」


バスタオル一枚で出てきた美玖に平静を装って風呂に入る。


シャワーにかかると頭が冷静になる。


———俺、今からヤるのか。


『それ以外、何がある。』


アイツは冷静だ。


見ず知らずの女と。


『嫌なら断れよ。』


———いやってわけじゃ。


すると風呂のドアが開く。


「遅い!」


背中から抱きつかれる。


「あっ。もう勃ってんじゃん。」


———もう好きにしてくれ。


そして俺の初体験は簡単に奪われた。


想像以上にあっさりと終わったそれは、温もりを感じることが全てのような気がした。



——————



「童貞卒業おめでとう。」


「うるせえよ。」


「一回言ってみたかったんだ〜。」


「お前、上書きって言うけど俺でよかったのかよ。」


自分で言っておきながら情けない。


「嫌だったらシない。」


「好きでもねえのに?」


「私を助けてくれたあの時から、気になってた。」


美玖は、俺の方を向いて言った。


「それは惚れやすすぎるだろ。」


「女の子ならあれは好きになるって。」


「そうかな。」


「蓮介は、私のこと好き?」


美玖はまじまじと俺を見る。


「まだわかんねえよ。でも嫌いじゃない。」


煮え切らないが本音だ。


「私と付き合おうよ。」


「話聞いてた?」


「聞いてたよ。嫌いじゃないなら付き合ってからお互いを知ればいいじゃん。」


最初の時からコイツの押しの強さには気づくべきだった。


「無理だな。」


「えっ。」


美玖は心底、寂しそうな顔をする。


それでも意を決して俺は言った。


「今のままじゃ依存して、共倒れになる。」


「あーあ。つまんない。」

「大人ぶってさ。」


美玖は口を尖らせる。


「俺たちはここから居場所を掴むんだろ?」

「なら付き合うのは居場所を掴んでからだろ。」


「じゃあ居場所を掴んだらいいってこと?」


顔が近い。


「それはそん時に考えるよ。」


俺は顔を逸らした。


「じゃあ蓮介が高校卒業の年にあの公園で会おうよ。」


美玖は起き上がって俺に言う。


「あと3年だぞ。」


「2年じゃないの?」


「俺は留年してるからな。」


「そっか。多分、私も留年するし3年だね。」

「今日と同じ、3/9にあの公園で。」


「死んでたらどうすんだよ。」


「だからそれまでは頑張って生きるの!」


「3年か。」

「もしそれで居場所が掴めてなかったら、一緒に死ぬのか?」


「そうだね。」

「でも私、もう死ぬ気ないから。」

「ちゃんと居場所を掴んで蓮介と付き合う。」


「何だよそれ。」


俺は笑いながら言う。


「蓮介が死ぬなら私も死ぬからね。」

「だから私のためにも3年頑張ってよ。」


「3年か。」


「それぐらいの方が自分のためより頑張れるでしょ。」


そう言っていたずらに笑う。


そんな簡単な事じゃない。


でもどうせ沈んでいく未来しかないなら。


コイツの笑顔に賭けてみてもいいかもしれない。


「わかった。」


「よし。じゃあゆびきりげんまんね!」


俺たちは小指を結んだ。


そこについた糸は赤い糸と命綱だった。


朝日が昇る。


俺はThe StrokesのSomedayを聴きながら家へ向かう。

怒りとは違う熱が胸の中に残っていた。


「ギター、弾きてえな。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ