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真空で鳴る音  作者: youkey
崩壊した自己編 4章 定住する矛盾
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4話 手遅れ

慣れとは恐ろしい。

今は拳は痛んでも、手首は痛まない。


最近では、余裕すら出てきている。


俺と対峙する奴らの表情。

それが恐怖ということにも。


それに高揚感すら感じ始めていた。



薬は、どんどんと増えていった。

どれも効果を実感する事はできなかった。


犯罪にも使われるらしい睡眠薬も、俺には風邪薬みたいなものだった。


薬じゃ何も治らない。


———『医者に話しても無駄だ』


こればっかりは同意だ。


メビウスのインパクトワンも、吸い慣れた。


今じゃ、自分で買うほどに。

年確は緩い。


ガタイもよく老け顔の俺の証明は誰も求めなかった。


染み付いているタバコの匂いに親父は気づいているだろうか。


『気づいてるだろ。』


同じ銘柄だし。

目を逸らす理由は簡単だった。


「おい、蓮介。ゲームでもしようぜ。」


親父は笑顔で楽しそうだ。

それに心底むかついた。

能天気なのか、能天気を装っているのか。


過干渉じゃない、いつも余裕で笑っている。


昔は居心地が良かった。


『それが好きだったくせに勝手なやつ。』


わかっている。


母親の家を抜け出した。

それで全て救われると思っていた。


何も変わらなかった。



———アーハッハハ!


深夜、隣の部屋から無神経な笑い声が聞こえる。


『早く寝ろや。』


俺の神経を逆撫でしてくる。


「うるさいっちゃけど。」


ドアを開け、苛立ちをぶつける。


「おお、悪い。そうだ、お前もどうだ?」


親父は笑いながらそう言う。


「よく今の俺にそんなこと言えるな!」


溢れでた苛立ちに親父は一瞬面食らう。


「まあ、気持ちはわからんではないが。」


「親父にわかるわけねえだろ!」


「蓮介。辛いしキツいのもわかるが、”人生、笑ったもん勝ちだぜ”。」


親父は微笑んで言う。


昔は心底刺さった親父のモットーは今の俺には、机上の空論だ。


「そんな感じだったら俺もそういえたかもな!」


「そんな感じ?」


自覚のなさがムカつく。


「悩んだりせずに能天気だったらな。」


「いや、俺だって悩んだりするぜ。」


また笑っている。


「嘘つけよ!」


「嘘じゃないって。」


「悩んでいようがいなかろうが、悩んでる奴の前でヘラヘラするような無神経には、俺はまりたくないね!」


「それは悪いって。」


まだ笑っている。


「俺は毎日苦しいのに。」

「少しは責任、感じないのかよ。」


「責任?何の?」


『コイツは。』


「俺がこうなったことだよ。」


「俺のせいか?」


「親父が離婚しなければこうはなってねえよ!」


「そうかもな。」


何が「そうかもな。」だ。


「でもな蓮介。過去は過去だ。」

「今からお前は無限に未来が広がっている。」

「そんなことで、悩むより笑って前向こうぜ。」


そんなこと……?


———ゴンッ。


親父は右の頬を押さえる。


「貴様。」


そう言って親父は拳を握る。


初めて見る目。

普段からは想像できない。

俺はたじろいだ。


「いや、やめよう。」


親父は拳を左手で包んだ。


そして笑う。


「なんだよ!やり返してこいよ!」


「暴力は何も生まない。」


空手をやっていた親父にとっては俺なんて敵じゃない。

俺はじゃれ合いでいつも勝てなかった。


「親父なら無理やり言うこと聞かせれるだろ!」


「そこに蓮介の意思がない。」

「お前の気持ちが大事なんだよ。」


「こんな時だけ親父ぶるなよ!」


「俺はお前の親父だからな。」


「なんだよそれ。」


虚しさだけが込み上げてくる。


「俺は俺で楽しくやってる。その姿をお前に見せる。」

「お前も、落ち着いてこっちへ来い。」


「落ち着けるわけねえだろ!」


「大丈夫。お前なら乗り越えれる。」


「何を根拠に。」


「俺の息子だからさ。」


「親父みたいにはなれねえよ!」


「俺になんてならなくていい。」

「でも結局、お前自身で乗り越えないとどうにもならない。」


「無理だよ。」


「俺ができるのは、楽しいことをお前に教えることだけだ。」


「……。」


「蓮介。人生笑ったもん勝ちだ」


そう言って優しく親父は笑った。


俺は黙って部屋へ戻った。


気づけば涙が落ちていた。


それでも俺と親父は一方的な険悪関係になった。


今日も親父は隣の部屋で笑っていた。




——————



———ピロンッ。



スマホに通知が来る。

クラス会。


卒業してもなお、月一で集まるなんて異常だろう。


でも俺にとっては一瞬の癒しだった。


———ピロンッ。



「うっちゃん、クラス会前に隼人合わせて3人で会おうぜ。」


親友。

久々に優しく笑えた気がする。


『行くのか。』


ああ。


『もう昔のお前じゃない。』


いや、あいつらなら。


大洋、隼人。

そして照井。


一緒にいると、俺らしくいれる気がする。


『すがってるな。』


ほっとけ。



——————



カラオケボックス。


歌って暑くてクーラーはキンキン。


でも温かい。



「それでさ、顧問がうざくて。」


「あー。死んだ。」


「大洋が変な話するから。」


「えー。俺のせいなん。」


「そうだな。大洋のせい。」


俺はそう言って笑う。


親父には断ったゲームもこいつらとやると楽しい。


「うっちゃんは最近どう?」


「まあ、ぼちぼちかな。」


喧嘩に明け暮れているなんて口が裂けても言えない。


「レポートって大変なん。」


「いや、教科書見たら余裕。」


「さすがやな。」


対等ではない。

でも対等。


あの頃より、少しズレた関係でもそんなの関係ないと、こいつらは飛び込んでくれる。


幸せだった。


「明日のクラス会、何時やっけ?」


「19時やったかな。」


「まだ中学のクラスで集まるって仲良すぎな。」


隼人はそう言う。


「隼人がいたらもっと最高だったのに。」


「そうそう。」


「転校生として、来たら?」


「そりゃ勘弁。」


笑い声が大きくなる。


すがってるんじゃない。

これが今、生きてる理由。

そう思いたかった。



——————



「うっちゃん、なんかやさぐれた?」


牧野が笑いながら言う。


「ロックスターっぽいだろ?」


「確かに。」


「俺、あれからもう一度、蘭丸誘ってバンド始めたよ。」


「まじか。」


嬉しさとショックが入り混じる。


「まだ練習ばっかだけど。」


「いいじゃん。やれるだけ羨ましいよ。」


「うっちゃんはやらんの?」


「余裕ないかな。」


長らくギターは触っていなかった。


「やる時は言ってよ!」

「対バンしよう!」


「いいね。頑張るわ。」


本心か嘘かわからなかった。


「てか今日、照井は?」


「え……。」

「うっちゃん知らんの?」


周りの空気が止まる。



「何がよ。」







「あいつ、バイク事故で死んだよ。」







「今、なんて……。」


「だから。」


「照井。」


「死んだ。」


コップを持つ手が止まった。

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