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真空で鳴る音  作者: youkey
崩壊した家庭編 3章 ホンモノになろうとするニセモノ
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8話 完全崩壊

俺は2度目の不登校になった。


掴みかけた光は、いとも簡単にこの手を擦り抜けた。


ただ布団の上で天井を見上げるだけだ。


『終わったな。』


あれからアイツは、俺の元に戻ってきた。


消えたんじゃなかったのか?


『言ったろ。俺はお前だ。』


そうだったな。


『無様だな。』


そうだな。


『一年。幸せだったか。』


幸せだったよ。


『その代償がこれだ。』


代償……。


『重いだろ。』


重いな。


『浮かれてたから、そうなるんだ。』


浮かれてた……か。

そうかもしれないな。


『もう諦めた方がいいんじゃないか?』


何を。


『全て。』




——————




「また、お前は同じことを繰り返すのか。」

『それは、お前のことを言っているのか。』


男は怒鳴っている。


これは再放送か。

だとしたらエンディングは見える。


終わらせに行こう。

俺はドアをゆっくり開いた。


「同じことを繰り返すのはお前たちだ。」


「なんだと。」


「約束を破り、俺をこうしたのはお前だ。」


俺は母親を指差す。


母親は、一度俺の目を見て俯いた。


「家に連れて来るなと言ったのに。」


「そうなのか?」


男は白々しく言う。


母は、黙って頷いた。


静寂がこの家を包む。



「全部、お母さんのせいか?」


次に聞こえたのは、聞き覚えにあるセリフ。


「そうだ。」


迷いはない。


『くるぞ。』


「甘ったれるな。」


耳に金属音がする。

エラー警告。


もう痛くは無かった。


「殴りたいなら、殴ればいい。」

「俺は、お前とは違う。」


こんな奴と、同じ土俵に立ちたくなかった。


男は、俺の胸を押して、寝室の広いとこまで連れて行く。


そして、馬乗りになり殴り続けた。


無抵抗を貫いた。

プライドだけは、折れたくは無かった。


宗介は、布団を被って啜り泣いている。


母親の姿は、男の陰に隠れていた。


男はつまらなそうに、殴るのをやめた。


「これで満足か。」


俺は立ち上がって、二人に言った。


男は何も言わず、母はただ俯いていた。



——————



俺は部屋に戻り、いつものようにイヤフォンを押し込む。


もう何も感じない。


『よかったな。』


何がだ。


『初めて勝った。』


負けてるだろ。


『勝ちさ。』


そんなのどうでもいいよ。


『見たかよ、アイツらの顔。』

『最高だったぜ。』


最悪の気分だよ。


『もっと見たかったな。』

『あの滑稽な姿を』


性格悪いなお前。


『俺だろ?』


俺は、机に突っ伏して目を閉じた。



——————



目の前に、眠っている母と男。


———今日も泊まったのか。


左手に、重みを感じる。


そっと目をやる。





なんだよこれ。






気づけば、包丁を握っていた。


母が料理で使うもの。


一気に、頭の血が沸騰する。


気づいたら、包丁を投げ、尻餅を付いていた。


「はあ……はあ……」


呼吸が一気に荒くなる。


何をしようとしたんだ俺は。


『殺そうとしたんだろ。』


淡々と言った。


俺じゃない。


『いや、お前だ。』


違う!


『じゃあなんで、そんなもん持ってたんだ。』


床に転がる刃物を見る。


『やっちまえよ。』


……。


『こいつらはクズだ。』

『俺がこうなったのも、コイツらのせい。』


いやだ!


『気持ちいいと思うぜ。』

『上から見下ろしてたコイツらの泣き叫ぶ姿。』


いやだ!!


『必死に許しを乞う姿。』

『想像してみろよ』


いやだ!!!


『さっきからガキかよお前。』


そんなこと絶対しない!


『もう一度言うぞ。』

『コイツらのせいでお前はこうなった。』

『コイツらがいなきゃ自分を偽らずに過ごせた。』

『コイツらがいなきゃ毎日、学校にも行けた。』

『そしてこの俺も。』


『何もかも、コイツらのせいだ。』


『お前は可哀想なやつだ。』

『誰も責めはしない。』

『さあやれよ。』


……。



俺は、包丁を握り締める。


『そうだ。思いっきりやれば良い。』


その時、左端に宗介が見えた。

目が真っ赤に腫れていて、それでも気持ちよさそうに寝ている。


やっぱり出来ない。


『意気地なしが。』


俺は勢い良く家を飛び出した。


親父のとこへ。


出来るだけ遠くへ。

走った。



——————



「どうした?」


親父は、目を丸くして言う。


「助けて!」


「何を?」


「母さんを殺してしまう!」


「母さんから俺を離してくれ!」


親父は、一瞬で冷静な顔つきになり、「わかった。」と言った。


「もう戻るなよ。」


念を推すように言う。


「わかってる。」


俺も力強く答える。



——————



それから、数日が経った。

俺は、一切眠ることが出来なかった。


すこしでも、眠ると動悸がする。

そんな日々だった。


「蓮介。親権を移すからな。」


親父は言う。


「1日でも早くお願い。」

「あと宗介も、連れて来れないかな。」


俺は望みを話す。


「本人の意思と何をされたかが重要らしい。」


「何をされたか。」


親父はため息をついてから言う。


「母親が、親権を手放すことを拒んでる。」

『やっぱりな。懲りない女だ。』


「良い加減にしろよ。」


つい溢れた。


「おまえと話したいと言ってる。」

『何を今更。』


「話すことなんてないよ。」


「ああ。断ってる。」

「電話来ても出るなよ。」


「うん。」


「宗介の件は、本人に聞かないとどうにもならない。」

「俺から言っても、母親は応じない。」

『だろうな。』


「今度来た時に聞こう。」


「ああ。」

「そういや今度、一緒に病院に行こう。」


「どこの?」


「お前、精神科行ってたんだろう?」


「うん。」


「一緒に行くから。」


「わかった。」


親父の背中がいつもよりデカく見えた。



——————


いつも、怒鳴っている声が聞こえる待合室は静かだった。

なんなら笑い声さえ、聞こえた。


俺の番。


「いいお父さんだね。」


主治医はそう言った。


「ゆっくり、休みなさい。」

「眠れないみたいだから、睡眠薬をだしておくから。」


「先生。僕は病気なんですか。」


「うつ症状は強いね。」

「寝れてないのも大きい。」

「でも大丈夫。あのお父さんなら。」


それだけだった。


帰り道、親父に聞いた。


「うつだって。なんで俺、病気になったのかな。」


「母親のせいだって。」

「あの人は異常だって先生が言ってた。」

「あと、あの人から離れれば、お前は大丈夫だって。」


「そうか。」

『本当にそうか?』

『本当にそうか?』


なんだよお前。


『あの医者、お前とはさっぱり話さないのに、何がわかるんだ?』


でも医者が言ってる。


『医者は神か?』


……。


『医者は、俺のことを知っているのか。』

『もう手遅れだ。』

『お前は壊れてる。』


うるさい。


『まあすぐに答えは出るさ。』


やっと終わった。

———そう思っていた。


真空で鳴る音 崩壊した家庭編 完

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