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真空で鳴る音  作者: youkey
崩壊した家庭編 3章 ホンモノになろうとするニセモノ
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6話 高校生

桜が舞う道を、関係ねえと自転車を立ち漕ぎして坂を登る。

丘の上に聳える、市立東陵高校。

賢いやつは賢いがバカはバカ、そんな学校。


俺は7クラス中、2クラスしかない特進クラスに選ばれた。

入試の点が良かったらしい。

最初から言って欲しかった。


「おはよう。うっちゃん。」


大洋は汗を拭きながら言う。


「おはよう。朝練終わったと?」


「うん。高校サッカーやばい。」


「だろうな。」


部活加入率80%を誇るこの高校で、俺は反逆者に当たる。

やりたいことは決まっている。


新入生勧誘の際にガタイの良さから、ラグビー部と柔道部に囲まれたりもしたが……。


それを突っぱねてまでやりたいことが。


「大洋。バンドやりたそうなやついない?」


「いや流石に心当たりないわ。」


「そっかー。」


———というのもかれこれ3日前。


「先生!軽音部を作りたいです!」


どう見てもめんどくさそうな顔。


「いやー厳しいと思うよー。」


長引かせたら終わる。


「とりあえずまずは何をすればいいですか。」


「部員5人かなー。」


「わかりました。」


俺は用済みの担任の元を離れた。


———ということがあった。


「初心者でもやる気あれば、いいんよね。」


「いたら教えるよ。」


「あんがと。」


大洋は自分のクラスへ戻った。



———ビラでも配ってみようかな。


そう呟きながら机に座る。


「うっちゃんってバンドやりたいんだよね。」


クラスメイトの女子が話しかける。


「うん。」


「2組の寺内もやりたいらしいよ。」


「まじか。」


「あと歌上手いやつは知ってる。」

「軽音とかやりたいって言ってた気がする。」


「ボーカルか、誰?」


「3組の二宮。」


「ありがとう。声かけてみるわ。」


席を立とうとすると……




「うっちゃん、誰か呼んでる!」



——————



「牧野、お前バンドやりたかったなら早く言えよ。」


「ごめんごめん。なかなか言い出しにくくて。」


牧野は中3の時の同級生。


一緒にサッカーをしてたうちの一人だ。


「じゃあギターやりてえんだな。」


「おう。俺は布袋寅泰になる!」


片足を上げて布袋の真似をする。

コイツのセンスはおもろい。


「じゃあとりあえずギター買えよ。安いのでいいから。」


「任せろ!」

「てか、他に当てあるの?部員5人いるんでしょ?」


「なんか2組の寺内と3組の二宮ってやつがやりたいらしい。」


「ああ、蘭丸はベースやりたいって。」


「そうか。じゃああとはドラムだけでいいな。」


俺は立ち止まる。

車がものすごいスピードで何台も通り過ぎていった。




「ん?」





「お前知ってんのか!!」


ついでかい声が出た。


「どっちだ寺内か二宮か?」


「寺内だよ。同じクラスだもん。」


「お前最高じゃねえか!」


俺は牧野をもみくちゃにした。



——————



「ただいま。」


「おかえり。」


「兄ちゃん、バンド組めた?」


「まだだけど、ギターとベースは捕まえた。」


「すごいじゃん!」


「お前のほうこそ部活はどうだ?」


「うん。球速い方だし、ピッチャーできそう!」


「良かったな!」


「あんた達、ご飯できたよ。」


母が味噌汁をよそう音がする。

宗介は野球部の話をしている。

俺も普通に返事をしていた。


「蓮介、軽音部できそう?」


「部はわからんけど、メンバーは二人見つけた。」


「良かったじゃん。」


「宗介は野球どう?」


「球速いって顧問に褒められた。」


「すごいわね。」


何気ない会話。

でも違和感がある。


「どうしたの?蓮介。」


「いや、なんでもない。」


俺は食事を済ませ、部屋へ戻った。


The Fratellisの「Chelsea Dagger」を弾く。

これなら初心者でもできるか。



——————



「うっちゃん。蘭丸、連れてきた。」


「よろしく。」


「こちらこそよろしくな。」

「ベースは弾けるの?」


「いや、まだ買ったばっか。」


「十分!採用!」


寺内は初めて笑った。


「どんな音楽聴くん?」


「ワンオクかな。」


「じゃあ話は早いね。」


「そっち系好きなんやな。」


「うん。ロックが好き。」


「牧野とも話してたけど、コピーから初めてオリジナルをやりたいなって。」


「いいね、最高。」


「じゃあ寺内くんよろしくな。」


「蘭丸でいいよ。」


「おう。蘭丸。」


俺たちは固く握手をした。



——————



3組の教室は、特進クラスより騒がしかった。


「星野さん。二宮ってどれ?」


紹介してくれた星野に問いかける。


「うーん。いないなー。」



———「何かよう?星野。」



後ろから話しかけてきたのは、可愛らしい顔立ちの男だった。


「あー!いた!」


星野は声を上げる。


「君が二宮くん?」


「うん。もしかしてうっちゃん?」


「なんで知ってんの?」


「星野から聞いた。」


星野はない胸を張る。


「そっか、じゃあ話が早い。」

「ボーカル志望ってことでいい?」


「うん!」


「俺もボーカルでさ、ギタボだけど。」


「そうなんだ。じゃあ空いてない?」


少しトーンが落ちる。


「いや、ツインでいいなら是非。」


二宮の顔は一気に明るくなった。


「やりたい!てか俺、ギターもしたいんよね。」


「それはこっちとしてもありがたいわ。」



———「盛り上がってきたところで、私はもういい?」


星野が割って入る。



「おう。ありがとね。星野さん。」


「いいって事よ。」


星野は俺の肩を叩く。


「早くいけよ。用済みだから。」


「おい。」


二宮と星野は熟年のやり取りだった。


「二宮ってどんな音楽聴くの?」


「俺は歌い手が多いな。」


歌い手?

バンドじゃなくて?


「ワンオクとかは好き?」


「ああ。何曲か知ってる。」


雲行きは怪しい。

でも人数がいないと始まらない。


「なら大丈夫。」

「今度、他のメンツとカラオケでも行こうぜ。」

「一応、声も聞いてみたいし。」


「それなんか怖いな。」


「ボーカルならもっとたくさんの前で歌うんやから。」


「頑張るよ。」


これで4人。

あと一人で始められる。



——————



机に向かって宿題をするがギターが触りたくて、身が入らない。


玄関の音が聞こえる。


「……。」


声は聞こえない。

頭はすぐに切り替わる。

まずいな。


「おかえり。」


急いで玄関へ行く。


「ただいま。」


「今日は、キツイけん弁当でいい?」


「いいよ。そんな日もあるさ。」


急いで宗介を呼び、3人で食卓を囲む。


ため息ばかりが聞こえる。


「あれ、ソースがない。」


宗介が、揚げ物のソースがないことに気づく。


「は?つけてって言ったのに。」


スイッチが入ってしまった。

宗介はしまったと言う顔をしている。


母は廊下でクレームの電話を入れる。


「ごめん。兄ちゃん。」


「いいよ。俺がなんとかするから。」

「お前は早く食って、自分のことしとけ。」


宗介は深く頷いた。


当たりどころが別にあって良かった。



——————



食事を済ませて、自分の部屋で宿題をすぐに終わらせる。

様子を伺いにキッチンへ行くと大音量で、吉川晃司が流れている。


洗い物をする手からも分かる苛立ち。

ここ最近の溜まっていたものが爆発したのだろう。


「なんかあった?」


優しく、何事もなかったように。


「実はね……」


蛇口を捻ったみたいに、同僚への愚痴が止まらない。


「大変やったね。」


一通り聞いて、一言でまとめる。


「ごめんね。いつも。」


母は聞き飽きたセリフを吐く。


「いいよ。別に。」


「今週さ、たかくん泊めてもいい?」


「いいよ。そう言う時もあるよ。」

「俺は親父ん家に行くから。」


「ありがとう。」


気が緩んでいた。

この時の俺は知らなかった。


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