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真空で鳴る音  作者: youkey
崩壊した家庭編 3章 ホンモノになろうとするニセモノ
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5話 卒業

卒業式に涙はつきものとよく言う。

俺には全く、当てはまらないが。


クラスメイトは、教室でアルバムに寄せ書きをしている。

寄せ書きにいい思い出がない俺は書く専門。


涙が込み上げることはなかったが、寂しさについては込み上げてきた。


多分、人生で一番幸せな一年だっただろう。

コイツらには感謝しかない。


1年間、どこか他人事みたいに過ごしていた。

それでも幸せだった。


「浸ってんな。」


照井が笑いながら言う。


「元不登校だからな。」


「現ヤンキーでもわからんではないな。」


「お前もかよ。」


「ヤンキーの俺を避けなかったのはお前だけだ。」

「お前が受け入れてくれたから、周りが受け入れた。」

「ありがとうな。」


「なんだお前死ぬのか。」


遺言にしてはしょぼい。


「この後の打ち上げいくだろ?」


「ああ。」


「俺、原チャで行くわ。」


「卒業取り消しになりたいのか。」


「そりゃ勘弁だな。」


そう言って照井は門を出て行った。


「うっちゃん。卒業おめでとう。」


大洋と隼人が笑顔でやってくる。


「2人のおかげだよ。」

「2人もおめでとう。」


「高校は違うけど定期的に集まろうな。」


隼人は言う。


「家近いし余裕だよ。」


「俺たちはこれからも一緒。」


大洋は俺の肩を抱える。


「いいなー。同じ高校。」


「隼人も受け直せば?」


俺は笑いながら言う。


「城西行けるなら東陵は余裕だしね。」


「それは勘弁。」



———「ほら3人並んで」


大洋のお母さんが写真を撮る。


この瞬間を切り取って保存。

過去に戻ることになったらこの写真から戻るだろうな。



——————



3人で歩く最後の帰り道。

いろいろな思い出が蘇る。


あの頃の俺に見せてやりたい。


「じゃあ、水曜日ね。」


「どこ行くかはLINEで。」


「俺らは打ち上げで。」


そう言って二人と別れた。


家へ帰ると、母と祖父母とケーキが待っていた。


「卒業おめでとう。」


3人に揃って祝われる。


「本当に頑張ったね。」


母は涙ぐんでいた。

祖母は泣いていた。


「ありがとう。」


それしか出てこなかった。


「この後、予定あるんやろ。」

「早くケーキ食べよう。」


5人でケーキを食べる。


「宗介ももうすぐで卒業式だな。」


祖父が言う。


「うん。俺はケーキじゃなくて焼肉がいい。」


下の奴は要領がいい。


「ごめん。もう時間だからいくね。」


ケーキを食べ終えて俺は、制服を脱ぎ捨て外へ出た。



——————



——悪いな宗介。


食べ放題をいいことに、肉だけが網の上で踊る。


「食え食え!谷が奢ってくれるってよ!」


ハンニバルが盛り上げる。


「いやいや、全額は無理よ。」


新婚の懐事情は切ない。


「えー夢がないな、教師。」


周りは爆笑している。


ケーキの後に油は辛い。

あとこの盛り上がりに胃もたれした。


「ちょっとトイレ。」


俺は襖を閉じてトイレではなく外へ出る。


「トイレ行くんじゃなかったの?」


甲高い声が背中から聞こえる。


「高宮さん?」


「ちょっと疲れちゃって、うっちゃんも?」


「そんなとこかな。」


一軍でも疲れるのか。


「ありがとうね。何も言わないでくれて。」


「なんのこと?」


「わかってるでしょ。」


「俺が言ってもどうにもならないし、知ってる奴は他にもいるでしょ。」


「みんな私に興味ないから。」


「俺は逆に尊敬してる。」


「たまたまうまく行っただけ。」

「ことちゃんと仲良くなれたから。」


「森田か。」


生粋の一軍女子。


「裏では無茶苦茶に言われてたと思う。」


「でもよかったじゃん。」

「大事なのは結果だよ。」


「そうだね……。」


高宮は浮かない表情だ。


「どれだけ変わっても本当のとこは変わらない。」


「えっ……。」


見破られたようで驚いた。


「やっぱりイケてる女子でいるのは疲れちゃった。」


「そうか。」


「うっちゃんもそうだったりする?」


「そうだな。」


「私たち似た者同士だね。」


「ああ。」


多分、思春期拗らせた普通の中学生なら、胸が飛び出るようなムードだ。

俺は違う。

なんなら冷や水をかけられた感じ。


「私さ、県外の高校に行くの。」


「そうなんや。」


「私のこと誰も知らない場所で、私らしく生きる!」


高宮は高らかに告げる。


「怖くねえの?」


口が勝手に動いた。

初めてできた居場所を追われることに、不安を感じていたからだと思う。


「怖いけど、楽しみ。」


「そっか。すげーな。」


「うっちゃんには感謝してる。」

「どっちの私も受け入れてくれたのは、うっちゃんだけだった。」


「俺は一度も悪い印象を持ったことないよ。」


「ありがとう。」


高宮は大きく伸びをする。


「じゃあ、一軍女子してきます!」


上目遣いで敬礼ポーズを取る。


ドキッとしてしまった。


多分俺は、初めて誰かを可愛いと思った。



——————



月の下に輝く海。

波の音が聞こえる。

打ち上げを終えて、男子だけで海へ来ていた。


服なんてどうでもいいと海に入り、お互いびしょびしょになりながら投げ合う。


青春映画のワンシーン。

いやこれが俺の青春だった。


俺はバテて先に砂浜に上がる。



「いやーキツイな。」


照井が上がってきた。


「大洋、相撲強すぎ。」


「昔から強いんよあいつ。」


「内村は勝ってたな。」


「この体格で負けれん。」


「ケンカなら勝てたのに。」


「見てらんねえよ、それ。」


二人で笑う。



———「お前なんで不登校だったん?」


照井にしては珍しい。


「なんとなく知ってんだろ。」


「家の問題だっけ。」


「その通りだよ。」


照井は少し黙った。


「……俺も同じなんだよ。」


「そうか。」


察していた。

根はいいやつのコイツが望んでこうなるはずがない。


「お前、将来のこと考えてる?」


照井らしくない言葉だった。


「やっと高校受かったんだぜ。それ以外に考える隙なかったよ。」


「俺は高校でてすぐ働く。」

「1日でも早くあの家を出る。」


いつもふざけているコイツの顔が、妙に大人びて見えた。


「中卒じゃどうにもならねえもんな。」


「お前も負けんなよ。」

「親がクソでも自分でなんとかすればいい、俺はそう思う。」


この鋭い目はケンカで対峙したら、怖気付くやつもいるだろう。


「あと3年だ。」

「俺は負けない。」


照井が拳を俺に向ける。


「ああ。俺もだ。」


俺は拳をぶつけた。


臭えな。

でも悪くない。

そう思って月を見上げた。


「うっちゃん!決勝やろう!」


大洋が待ち構える。


「昔から俺には勝てんかっただろ!大洋!」


「今日それも卒業する!」


大洋は息巻く。


この時の俺は、まだ知らなかった。

これからの3年。

俺が戦うのは自分自身になることを。


はっけよーい!のこった!


俺は勢いよく踏み出した。 

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