5話 卒業
卒業式に涙はつきものとよく言う。
俺には全く、当てはまらないが。
クラスメイトは、教室でアルバムに寄せ書きをしている。
寄せ書きにいい思い出がない俺は書く専門。
涙が込み上げることはなかったが、寂しさについては込み上げてきた。
多分、人生で一番幸せな一年だっただろう。
コイツらには感謝しかない。
1年間、どこか他人事みたいに過ごしていた。
それでも幸せだった。
「浸ってんな。」
照井が笑いながら言う。
「元不登校だからな。」
「現ヤンキーでもわからんではないな。」
「お前もかよ。」
「ヤンキーの俺を避けなかったのはお前だけだ。」
「お前が受け入れてくれたから、周りが受け入れた。」
「ありがとうな。」
「なんだお前死ぬのか。」
遺言にしてはしょぼい。
「この後の打ち上げいくだろ?」
「ああ。」
「俺、原チャで行くわ。」
「卒業取り消しになりたいのか。」
「そりゃ勘弁だな。」
そう言って照井は門を出て行った。
「うっちゃん。卒業おめでとう。」
大洋と隼人が笑顔でやってくる。
「2人のおかげだよ。」
「2人もおめでとう。」
「高校は違うけど定期的に集まろうな。」
隼人は言う。
「家近いし余裕だよ。」
「俺たちはこれからも一緒。」
大洋は俺の肩を抱える。
「いいなー。同じ高校。」
「隼人も受け直せば?」
俺は笑いながら言う。
「城西行けるなら東陵は余裕だしね。」
「それは勘弁。」
———「ほら3人並んで」
大洋のお母さんが写真を撮る。
この瞬間を切り取って保存。
過去に戻ることになったらこの写真から戻るだろうな。
——————
3人で歩く最後の帰り道。
いろいろな思い出が蘇る。
あの頃の俺に見せてやりたい。
「じゃあ、水曜日ね。」
「どこ行くかはLINEで。」
「俺らは打ち上げで。」
そう言って二人と別れた。
家へ帰ると、母と祖父母とケーキが待っていた。
「卒業おめでとう。」
3人に揃って祝われる。
「本当に頑張ったね。」
母は涙ぐんでいた。
祖母は泣いていた。
「ありがとう。」
それしか出てこなかった。
「この後、予定あるんやろ。」
「早くケーキ食べよう。」
5人でケーキを食べる。
「宗介ももうすぐで卒業式だな。」
祖父が言う。
「うん。俺はケーキじゃなくて焼肉がいい。」
下の奴は要領がいい。
「ごめん。もう時間だからいくね。」
ケーキを食べ終えて俺は、制服を脱ぎ捨て外へ出た。
——————
——悪いな宗介。
食べ放題をいいことに、肉だけが網の上で踊る。
「食え食え!谷が奢ってくれるってよ!」
ハンニバルが盛り上げる。
「いやいや、全額は無理よ。」
新婚の懐事情は切ない。
「えー夢がないな、教師。」
周りは爆笑している。
ケーキの後に油は辛い。
あとこの盛り上がりに胃もたれした。
「ちょっとトイレ。」
俺は襖を閉じてトイレではなく外へ出る。
「トイレ行くんじゃなかったの?」
甲高い声が背中から聞こえる。
「高宮さん?」
「ちょっと疲れちゃって、うっちゃんも?」
「そんなとこかな。」
一軍でも疲れるのか。
「ありがとうね。何も言わないでくれて。」
「なんのこと?」
「わかってるでしょ。」
「俺が言ってもどうにもならないし、知ってる奴は他にもいるでしょ。」
「みんな私に興味ないから。」
「俺は逆に尊敬してる。」
「たまたまうまく行っただけ。」
「ことちゃんと仲良くなれたから。」
「森田か。」
生粋の一軍女子。
「裏では無茶苦茶に言われてたと思う。」
「でもよかったじゃん。」
「大事なのは結果だよ。」
「そうだね……。」
高宮は浮かない表情だ。
「どれだけ変わっても本当のとこは変わらない。」
「えっ……。」
見破られたようで驚いた。
「やっぱりイケてる女子でいるのは疲れちゃった。」
「そうか。」
「うっちゃんもそうだったりする?」
「そうだな。」
「私たち似た者同士だね。」
「ああ。」
多分、思春期拗らせた普通の中学生なら、胸が飛び出るようなムードだ。
俺は違う。
なんなら冷や水をかけられた感じ。
「私さ、県外の高校に行くの。」
「そうなんや。」
「私のこと誰も知らない場所で、私らしく生きる!」
高宮は高らかに告げる。
「怖くねえの?」
口が勝手に動いた。
初めてできた居場所を追われることに、不安を感じていたからだと思う。
「怖いけど、楽しみ。」
「そっか。すげーな。」
「うっちゃんには感謝してる。」
「どっちの私も受け入れてくれたのは、うっちゃんだけだった。」
「俺は一度も悪い印象を持ったことないよ。」
「ありがとう。」
高宮は大きく伸びをする。
「じゃあ、一軍女子してきます!」
上目遣いで敬礼ポーズを取る。
ドキッとしてしまった。
多分俺は、初めて誰かを可愛いと思った。
——————
月の下に輝く海。
波の音が聞こえる。
打ち上げを終えて、男子だけで海へ来ていた。
服なんてどうでもいいと海に入り、お互いびしょびしょになりながら投げ合う。
青春映画のワンシーン。
いやこれが俺の青春だった。
俺はバテて先に砂浜に上がる。
「いやーキツイな。」
照井が上がってきた。
「大洋、相撲強すぎ。」
「昔から強いんよあいつ。」
「内村は勝ってたな。」
「この体格で負けれん。」
「ケンカなら勝てたのに。」
「見てらんねえよ、それ。」
二人で笑う。
———「お前なんで不登校だったん?」
照井にしては珍しい。
「なんとなく知ってんだろ。」
「家の問題だっけ。」
「その通りだよ。」
照井は少し黙った。
「……俺も同じなんだよ。」
「そうか。」
察していた。
根はいいやつのコイツが望んでこうなるはずがない。
「お前、将来のこと考えてる?」
照井らしくない言葉だった。
「やっと高校受かったんだぜ。それ以外に考える隙なかったよ。」
「俺は高校でてすぐ働く。」
「1日でも早くあの家を出る。」
いつもふざけているコイツの顔が、妙に大人びて見えた。
「中卒じゃどうにもならねえもんな。」
「お前も負けんなよ。」
「親がクソでも自分でなんとかすればいい、俺はそう思う。」
この鋭い目はケンカで対峙したら、怖気付くやつもいるだろう。
「あと3年だ。」
「俺は負けない。」
照井が拳を俺に向ける。
「ああ。俺もだ。」
俺は拳をぶつけた。
臭えな。
でも悪くない。
そう思って月を見上げた。
「うっちゃん!決勝やろう!」
大洋が待ち構える。
「昔から俺には勝てんかっただろ!大洋!」
「今日それも卒業する!」
大洋は息巻く。
この時の俺は、まだ知らなかった。
これからの3年。
俺が戦うのは自分自身になることを。
はっけよーい!のこった!
俺は勢いよく踏み出した。




