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真空で鳴る音  作者: youkey
崩壊した家庭編 3章 ホンモノになろうとするニセモノ
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4話 普通の人生への扉

「ただいま。」


「おかえり。」


「宗介は?」


「友達と遊びに行ってる。」

「宿題終わらせてね。」


「そう。」


この家には似合わないほど、平和な会話。

未だに、現実かわからない。


「学校どうやった?」


「毎日行ってるから、どうもこうもないよ。」


「そりゃそうやね。」


「ご飯作るけん待っとって。」


母のヒステリックは減少傾向になった。

祖父母も安心したのか来る回数も減った。


明らかに変わったのは、俺が学校に行くようになったこと。

そして男が泊まることが減ったこと。

それだけだ。


『いや違うな。』


また勝手に喋り出す。


『母親は男の生活費まで肩代わりしている。』

『自分が生活保護を受けることによってな。』

『叩けば埃は出てくるさ。』


明らかに家に物が増えた。


男の電気代の支払い書も見た。


それでも静かだった。


家がそれだけでこんなにも生きやすいなんて知らなかった。


母は週に一度くらいは荒れる。

それでも、この家は前より静かだった。

それだけで十分な気がしていた。


「ただいま。」


「おかえり。」


「兄ちゃん、帰ってたんだ。」


「ああ。」


「ご飯できたかな?」


「今から作るって。」

「風呂先に入るか?」


「ううん。ご飯できるまで素振りしとく。」


そう言って宗介は慌ただしく家を出た。


野球少年。

素振りの音だけが、外から聞こえていた。


——————



3人で食卓を囲む。


「宗介、この間のテストは?」


「あれは簡単だったし100点やったよ。」


昔の俺なら耳を疑うだろう。


「今じゃ俺のほうが成績悪いな。」


俺はそうこぼす。


「小学生の時は、兄ちゃん成績すごかったやん。」


お世辞まで言えるようになった。


「蓮介は学校行ってなかったけん、仕方ないよ。」

「これからよ。」


母は笑う。


「兄ちゃんが本気出したら、俺は勝てん。」


宗介はそう自虐する。


「アンタはアンタなりに頑張ればいいと。」


俺は最後の白米を口に入れた。


「ご馳走様。」

「俺、塾行ってくるわ。」


受験用に塾にも入った。


「行ってらっしゃい。」


俺は重い扉を閉める。

やけに軽く感じた。



——————



次の日。

昼休みのサッカー終わり——。


「便所行ってくる。」


俺は昼休みのサッカーを終えて、廊下で涼むのをやめて立ち上がった。


「俺も行くわ。うっちゃん。」


「おっツインタワーが動いた。」


誰かがやじる。


「うるせえ。」


そう言ってトイレへ向かう。


影山が隣で用を足す。

お互い高身長だから、仕切りの上からお互いのブツが見える。


———離れたらいいのに。


「蹴って悪かったな。」


影山は壁を向いて言う。


「今日、同じチームやろ。」


誰と間違えてるんだろう。


「いや、2年の時。」


「なにそれ。」


身に覚えがない。


「山田いじめてて、うっちゃんが……」


「ああ……あれか。」


忘れていた黒歴史を全て言われる前に、俺は返答する。


「調子乗ってたわ。」


影山が言う。


「じゃあ俺は、厨二病だった。」


そう言うと影山は笑う。


「なんだそれ。」


「気にしてんねえよ、そんな昔のこと。」

「つーか、”意外“と気にしてたのか。」


「”意外“とな。」


———「青春してんな。」


個室から照井が出てくる。


「そっちはうんこの代わりにヤニ臭えぞ。」


俺はツッコむ。


「うんこしても消えねえよ。」


こいつの制服は、何もしてなくてもタバコ臭い。


「照井!恥ずいとこ聞くなよ。」


影山は言う。


「いいじゃん。青春。」


「うるせえ。」


そう言って影山はトイレを出た。


「“意外”と繊細だからな。」


俺は言う。


「元不登校が良く言う。」


「うるせえよ。現ヤンキー。」


照井は笑っている。


「お前も一本どうだ、内村。」


「ウィンストンの一ミリなんざ吸うかよ。」


「やっぱ吸ったことあったか。」


「うるせえ。」


「お前、実は元ヤン?」


「いや、元引きこもり。」


「じゃあタバコ吸うなや。」


「引きこもりもやさぐれる時があんだよ。」


自分じゃないみたいな記憶を辿る。


「お前もヤンキーなら学校来んなよ。」


「ヤンキーもダチとサッカーは楽しんだよ。」


「それ、ヤンキー仲間の方に言ってみろ。」


軽口を叩き合う。


「今度のマラソン大会、一緒走ろうぜ。」


「なんで?」


「お前体力ねえだろ?」


「喫煙者に言われたくねえよ。」


授業の鐘が鳴る。


「じゃあなヤンキー。俺、真面目だから。」


「じゃあヤンキーは帰るわ。」


そう言って照井は下駄箱へ向かった。



——————



夜、一人で机に向かって過去問を解く。


iPodからは洋楽のプレイリストが流れる。

邦楽は言葉が入ってくるから。


カレンダーを眺める。

もうすぐ年が明ける。


ギターを抱えてRANCIDの「Roots Radicals」を弾く。

初めて弾けるようになった曲だ。

今じゃ十数曲をコピーしたがこの曲だけは繰り返し弾いてしまう。


弾き語りなんて曲調じゃないが口ずさむ。


「アンタやっぱ歌上手いね。」


母親がドアから覗いている。


「ノックしてよ。」


「ごめん」と言いながら部屋に入ってくる。


「蓮介のお父さんもボーカルだったんよ。」


「親父がボーカルなのは知ってるよ。」


「そしてお母さんも歌がうまい。」


「自分で言うんだ。」


「アンタ、ミュージシャンになれば。」


「無理やろ。」


親父に笑われる。


「子供の頃、オリジナルソングを鼻歌で作りよったよ、アンタ。」


「そうなん?」


「才能はあると思うっちゃんね。」


「まあ受験終わってやってみるよ。」


「そうやね。邪魔したね。」


母はそう言って部屋を出た。


作詞作曲。

一番やってみたいこと。

だからこそ怖かった。


なあティム。俺にもできるかな。



——————



年が明ける頃には、

クラスの空気も変わっていた。


受験が差し迫るとサッカーどころではない。

昼休みはほとんどが机に向かうようになった。


「おい、やんねえのか。」


照井が暇そうに言う。


「そりゃ君と違って、受験生ですから。」


「いや、俺も高校行くぞ。」


「アホか。」


「いやいや、通信制。」


「通信制?」


「お前みたいな不登校やら俺みたいなヤンキーがいくとこ。」


「元な。」


「お前は知ってると思ってたよ。」


金のない我が家には、公立以外の選択肢はない。

そんなとこを調べる意味がなかった。


「内村も一緒行こうや。」


「嫌だね。やっと東陵の合格ラインだから。」


城西には届かなかったがその次のレベルまでは漕ぎ着けた。

公立で進学校。

大洋と一緒というデカいおまけ付きだ。


「お前、マジで頭いいよな。」

「東陵、余裕で受かるラインってなんだよ。」


「勉強したからな。」


「そうじゃねえよ。余裕で受かるのに東陵ってこと。」


「じゃないと元不登校だから落とされるかもだろ。」


「ムカつくわ。」


照井は消しゴムのカスを投げ捨てた。


「高校でも不登校になったら、お前のとこ行ってやるよ。」


「今更、ないだろ。」


照井は笑ってトイレという喫煙所へ向かった。


ないことを祈りたい。

不登校=家の問題が再発。

方程式が出来上がってしまう。

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