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真空で鳴る音  作者: youkey
崩壊した家庭編 3章 ホンモノになろうとするニセモノ
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2話 約束

試験なんて、受ける側にいないはずだった。

学んできた覚えがない。


それでも中途半端に受けた授業の断片が、頭に引っかかっている。

それを使って問題を解いていく。


適当にやったはずが、解答欄は大体埋まっていた。

そんな自分が嫌になる。



——————



試験で早帰りの帰り道、大洋が言う。


「うっちゃんは高校って考えてる?」


隼人は怪訝な顔をした。


考えてるわけがなかった。

いや目を逸らしていただけだ。


「いや、考えてない。」


「勝手だけどさ。俺、3人で同じ高校行きたいっちゃん。」


コイツの純粋さは、胸に刺さる。


「学力の問題もあるからな。俺は城西狙ってる。」

隼人が言う。


「めっちゃ頭いいやん。」

「今からめっちゃ勉強したらなんとかなるかな。」


「俺は目標、落とす気はないけんね。」


「やれるだけやってみるか。うっちゃんも行こうよ。」


「いや俺は……」


「もともと頭はいいけん、いけるって!」


無責任だ。

でも、コイツに言われるとできそうな気がする。


「間に合うかな。」


「間に合うさ!離れても親友やけど、折角なら一緒がいいやん。」


「それはそう。」


隼人も頷く。


「ちょっと頑張ってみようかな。」


「うん!やろう!って俺だけ落ちたりして。」


大洋が笑う。


「それある!」隼人も笑う。


「いや俺だろ!」思わずツッコむ。


コイツらといると楽だった。


——————


机に向かい、成績表を眺める。

1や2が並ぶ中、欠席日数だけが異様に目立つ。

三桁の数字が、やけに濃い。


『今更高校なんて、本気か?』


頭の中で声がする。


うるさい。


『大洋はああ言っても、現実はこうだろ。』


ここからやれば間に合う。


『努力したって、不登校の過去は消えない。』


点数は上げられる。


『同じ点数なら、お前を落とすけどな。』


なら落とされない点を取る。


『ただでさえ散々な成績なのにか?』


だからこれから上げる。


『……もっと大きな問題があるだろ』


……


『お前に、未来なんてない。』


声は、冷たかった。


そうだったな。


イヤフォンをつける。

Sex Pistolsの「God Save The Queen」を流す。


ドアの向こうから、怒鳴り声が聞こえていた。



——————



今日は学校に行く気分じゃない。


午前中は適当に過ごしたが、家にいるだけだと流石に息が詰まる。

俺はいつも通り量で勝負のカップ麺をかっくらって家を出た。


いい天気だ。

昔ならお天道様に顔向けできないなんて気まずさを感じていたが、今はもう振り切れてしまっている。


少し歩いて大きな公園へ。


草っ原に大の字になって寝転ぶ。


『中途半端だな。』


あいつが話しかけてくる。

グレるわけでもない俺を笑っている。


うるせえな。


『お前は何が楽しくて生きてるんだ。』


知らねえよそんなの。


『ただ日々を食い潰すだけ、それで生きてるって言えるのか。』


死ぬよりマシだろ。


『死にきれないからな。』


ごもっともだ。


『部活も誘われなくなったな。』


そりゃ毎日行かないからな。


『こんな生活がいつまでも続くと思ってるのか。』


思ってないさ。


『あと一年で卒業だ。』

『中卒で何ができる。』


わかってるよ。


『受験でもしてみるか。』


お前も無理だって言っただろ。


『そうだな。』


イヤフォンを挿し、iPodをシャッフルする。

BOØWYの「School Out」が流れる。

どういう選曲してんだクソ。



——————



「ご飯は?」


「いらない。」


一緒に食べるわけがない。

あいつがいるんだから。

日中遊びに行っている間に、夜飯分までの腹拵えはすませた。


イヤフォンを挿してお気に入りの曲をとにかくループさせる。


母と男の笑い声が聞こえる。

無性にイライラして止まらない。

宗介の笑い声が聞こえないのは救いだ。


——早く寝ろや


時計は23時を指している。

男が草野球をしているため、土曜の夜は早めに全員が床に着く。

草野球には俺も感謝だ。


寝静まったら外へ出る。

最近寒くなってきたので、部活で買ったベンチコートを着て。


お気に入りの公園は、この時間人っ子一人いない。

ここの何が良いって、屋根の下に正方形の台のようなベンチがあること。

トイレもあり、水飲み場までついている。

家賃を払ってもいいぐらいの好条件だ。

唯一の問題は立地ぐらい。

学校に近いせいで、朝部活動生とすれ違うことがよくある。

正直、陰で何て呼ばれてるかぐらい想像はついた。


———さみいな。


『親父の家に行けばいいのに。』


アイツは、わかりきったことを言う。


わかってるだろ。

親父の家に毎週行けば、「こっちに来い。」って言われかねない。


『今更気にすることかよ。』


心配かけたくない。


『いや、お前はそう言われたら、決心が揺らぎそうなだけだろ。』


ああ、そうだよ。悪いか。


『最初からそういえばいいのに。』


どんなに寒かろうと俺は逃げない。

ここで耐えてアイツらを見返すんだ。


将来。


……。


フードを被り丸まって寒さを凌いだ。


Bon Joviの「Livin’ On A Prayer」が流れている。



——————



雨は嫌いだ。

服が濡れる。

こんな日に外に出るやつの気がしれない。


親父のストラトに手を伸ばす。

触れている間だけ、1人じゃない気がした。

けど、音はどこかチグハグで、左利きの俺には、どうしても指に馴染まない。


———


気づけば日が暮れていた。

宗介は遊びに出て、また1人になる。


——ドアが閉まる。


「また学校行ってないとね。」


開口一番、それだった。


「いつになったら行くと?」

『お前がまともになったらな』


「別に、たまには行ってる。」


「高校はどうすると?そのままニートにさせる余裕ないようち。」

『ニートになるぐらいなら死んだ方がマシだな。』


「やろうね。生活費ないけんって、月末に俺の財布から持っていくもんね。」


母は俯いた。


「それはごめん。」

『ごめんで済むなら警察はいらねえよ』


「今に始まったことじゃないし。」


「でもそれとこれとは違うやろ!」

『積み重ねだろ。』


「俺の気持ちもわからないくせに。」


雨音が強くなる。


「じゃあ、あんたの気持ちを教えてよ!」

『いつも言っとるやろ。』


「母さんの機嫌に振り回される!」

「うまくいかんと親父の悪口ばっか!」

「俺を親父と比べる!」

「嫌いって言ってるのに毎週あいつ連れてくる!」

「約束も守らん!」


「いつも言ってるやん。なんで分かってくれんと。」


言葉と一緒に、涙が溢れた。


「ごめん。」


母は俯いたまま言う。


「母さんもしんどいと。」


「そんなの聞き飽きた。」


「……どうしても、つい言ってしまう。」


「母さんが親父を憎いのは知ってる。でも俺は親父の息子やし。俺は俺やん。」


「うん。蓮介は蓮介。お父さんの悪口、聞きたくないもんね。」


「うん。」


鼻を啜る。


「母さん、頑張る。すぐには無理かもしれんけど、言わんようにする。」


「約束も守る。」


「じゃあ一つだけ。あいつ、連れてこないで。」


「……たかくんのことは悪いと思ってる。でも、息子が嫌がってるって言えない。」


「受験あるし、家で勉強したいって言えばいいやん。」


「……分かった。でも、どうしても無理な時があるかも。」


「その時は言ってくれればいい。俺、親父ん家に行く。」


「……分かった。約束する。」


「俺も、3年になったらちゃんと行く。」

「高校も受けてみる。」

「約束する。」


「うん。頑張ってね。」


———



「今度こそ。」


イヤフォンをつける。

Mr.Childrenの「蘇生」を流す。


何度でも、やり直せる気がした。


少なくとも、その夜だけは。

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