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真空で鳴る音  作者: youkey
崩壊した家庭編 2章 正しさ
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6話 正しさ

最悪の目覚め。

言葉はなく、昨日の空気をそのまま送り込んだようだった。


俺は全部どうでもよくなって、迎えに来た2人を先に向かわせた。


「またか。」


母は俺に聞こえるように言って家を出た。


布団から宙を眺める。

昨日、そして過去のいたる出来事が頭の中で反復する。

俺はそれをかき消すようにイヤフォンを挿して目を瞑った。


気づけば昼を過ぎていた。

わざわざまずい給食を食う必要はないと、コンビニでホットスナックを買い、そのまま学校へ向かった。


学校は昼休みを迎えていた。

教室に入ると、不穏な空気を感じた。

クラスメイトは一言も喋らず、視線は一点に集まっている。


机に座るヤマケンを囲む甲斐のグループ。


「お前、キモいったい!」

『やっぱりこうなったか。』


「おい!なんか言い返してみろや!」

『みんなでお手手繋いでるくせに偉そうな奴らだ。』


ヤマケンは黙っている。


「聞いてんのかこら!」

『無視されてんのわかんないの?』


「おい!なんとか言えや!」

『お前もなんかやり返せや。ザコ。』


そう言って一番小柄のイキリが机を蹴った。


ヤマケンは、とうとう顔を上げてそいつを睨みつけた。

『おー始まるのかー?』


すると待ってたと言わんばかりにイキリがヤマケンを蹴り飛ばす。

『いいね。やれよ。』


それに追随するように周りも加勢する。


『そうだ、それいい。』


———おい、俺はそんなこと思ってねえぞ。


『思ってるじゃん。知ってるくせに。』


違う!そんなことない!


ヤマケンが必死に腕を振っているが当たることなく反撃を喰らう。


『やめとけって。……目立つぞ。』


でも見過ごせない。


『お前になんの徳があんだよ。』


うるさい。


『止めればよりひどくなるかもよ。』


うるさい。


『じゃあお好きにどーぞ。』






「やめろや!」


——ガキくせえ。だっさ。


それが、自分の声だと気づいた。






クラス中の視線が一気に集まる。


「なんや?内村。」


ギロリと今まで黙って笑っていた甲斐が言い放つ。


「お前ら、よってたかってださいったい。」


『だせえのはお前だろ。

 お前が一番わかってるくせに。』


うるさい。黙れ。


「不登校のくせになんや!」


小柄イキリが詰め寄ってきた。

俺は胸ぐらを掴んで、そのまま突き飛ばした。


——ガン。机が倒れる。


「見てられんったい。」


「やるなら俺のおらんとこでやれや。」


『……ダサ』


やめろって言えない俺を、俺が笑っている。


息つく間もなく、次のやつの肩を押し返す。

一瞬、静かになる。

その空気の中、甲斐が俺を殴った。

口の割に全く痛くない。


グループの中でも一番デカい影山が出てきた。

俺は大きく息を吸う。

前蹴りが飛んでくる。

下腹部に当たるも、後ろに下がることなく耐え睨みつける。


完全に頭に来てやり返そうとすると


「行くぞ。」


甲斐は俺から目を逸らし言う。


その一言で全員が教室を去っていった。


「調子乗んなよ、不登校。」

誰かが最後にそう吐き捨てた。



地獄の空気が流れる。


ヤマケンは何も言わなかった。

ただ、目を逸らした。


俺は机のバッグを持ち、一つの授業も受けぬまま逃げるように学校を出た。



——————



「あんま痛くなかったな」

——だから、余計に腹が立つ。


俺を嘲笑うように声が聞こえる。


『丈夫に産んでくれた親に感謝だな。』


うるさい。


『正義だったら、何しても許されると思った?』


……違う。


『正義の気取って自分のために動いただけだ。』


……。


誰もいない部屋に。

The Blue Heartsの「皆殺しのメロディ」を爆音でかける。


笑えてきた。

もう、どうでもよかった。

——少なくとも、この瞬間だけは。



——————



俺は学校へ行かなくなった。


気晴らしに触る程度はしていたストラトも、スタンドに置きっぱなしで寂しく見える。


毎朝迎えにくる二人に「行かない」とだけ呟く。

俺が声を出すのはこの一瞬だけ。


それ以外は母とも、祖父母とも、宗介とも話さなくなっていた。

それでも、頭の中はうるさかった。


もう2週間が経っただろうか。

その声は、できれば二度と聞きたくない声だった。


「出てこい!貴様!」

『うるせーな。』


「なんだよ。」


顔を見るだけで、殺したくなる。


「誰に言いようとか!貴様!」

『お前に決まってんだろ!バーカ!』


「あんた他人だろ?あんたに言われる筋合いねえよ。」


宗介が寝ていてよかったと思う。


「また学校行ってないらしいな?」

『そう言うあんたは仕事探し中らしいな。聞いたぞ。』


「だからあんたには関係ないだろ。」


「関係あるやろうが俺はお前の母さんの彼氏やぞ。」

『依存相手の間違いだろ。』


母は何も言わない。

ただ止めるでもなく、見ているだけだった。


「彼氏は関係ないだろ。親父でもあるまいし。」


「話にならんなコイツは。」


「話にならんのはお前だろ。」


——さあ、スイッチ入れた。


どうせ殴るんだろ。


———ドン。


ほら来た。

あんたも憂さ晴らししたいだけだろ。


「また暴力か。知性のない猿以下だな。」


「貴様!」


もう一度、鈍痛が襲う。

流石にまずいと母が止めに入る。

興奮して暴れる姿はまさに猿以下だ。


「もう満足か?自分より弱いヤツいじめて。」


その言葉は、自分にも刺さった。


「あんたがいると吐き気がする」


そう捨て台詞を吐き家を出た。

もうなんとも思わない。


まだ春で少し肌寒い。

コートを持って来れば良かった。

土日は家が家じゃなくなった。


アイツが話しかけてくる。


『結局、変わらないだろ。』

『母親も』

『親父も』

『宗介も』

『両祖父母も』

『あの男も』

『大洋と隼人も』

『クラスメイトも』

『教師も』


『そしてお前も』


『お前が学校へ行きだしたら全て元通りだ。』


そうだな。


『お前はここで何をする?』

『期待していたものは全て打ち砕かれたぞ。』


……。


『ここにいる意味はない。』

『全て捨てて親父と一緒に、テキトーに暮らせばいい。』


いや、それはできない。


『なぜだ?』


ここで逃げたくない。


『逃げたくない?』


アイツらに負けたまま終わるのはダセえ。


『いい顔してきたな。』


それに宗介を守らなきゃ。


『自己満足だとしてもか』


ああ。それで構わない。


『覚悟は決まったみたいだな。』


ああ。もう迷わない。


『学校はどうするんだ。』


今はそれどころじゃない。


『それもそうか。』


三年になってどうするか決めるよ。


『あのクラスじゃ行くだけ無駄か。』


そうだな。


『……んでわかっただろ?』

『誰がなんと言おうと……』


———「『一番、悪いのは俺だ。』」


Nirvanaが「The Man Who Sold The World」のカバーを歌っている。


俺は、二人になった。


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