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真空で鳴る音  作者: youkey
崩壊した家庭編 2章 正しさ
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4話 リスタート

「おかえり。本当に、ごめんね。」


母は、会うなり少しだけ間を置いてから抱きしめた。


「いいよ。こっちこそごめん。」


並ぶ言葉は重たい。

それでも、空気は少しだけ軽かった。


きっと母さんもこれで変わってくれる。

そう信じていた。


半年ぶりに着る制服は、クリーニングされてタグが付いたまま、少しだけよそよそしかった。


「おはよう!」


2人の声が響く。

満面の笑みだ。


「おはよう。」


いつぶりだろうか。

心地いい。


久しぶりに、3人で学校へ向かう。


「今年は3人一緒になれるかな。」


大洋は言う。


「去年は俺と大洋二人だったから。」


隼人はバツが悪そうに話す。


「まあ2:1は避けたいわな。」


俺も本心を話す。


「担任は美人がいいなー!」


「どうせババアだろ!」


浮かれる大洋に鋭くツッコむ。

———強過ぎたかな。


「じゃあうっちゃんは誰がいいん?」


———「俺は途中で居なくならないやつ。」


「自分で言うんだ!」


隼人はツッコみ、大洋は笑う。

自虐ってのはありがたい。


結果から言うと、3人はそれぞれ別のクラスになった。

と言うか俺は知っていた。

同じ担任が持ち上がることになっていた。

……そういうことらしい。


教室へ入ると何かと騒々しい。

久しぶりだからだろうか。

教室の中心で馬鹿笑いしている連中に、イライラしてくる。

机を囲んで座り、我が物顔で居座っている。


『同族嫌悪だろ。』


久々に聞こえた声だった。


俺はあんなんじゃなかったよ。


『見る立場が変わっただけでお前も同じだ。』


いや、俺は……。


俺は言い返せなかった。


でも、一つだけ違った。

確かに俺はあっち側にいた。

ただ、教室の端のアイツは、あそこまで居心地が悪そうではなかったはずだ。


———なあ、ヤマケン。

でも、話しかけられなかった。


「授業始まるぞ!静かにせんか!」

物理の岡部がキレて教室に入ってくる。

甲斐達は気怠げな返事をして自分の席に着く。


机を奪われていた奴らからすればとばっちりだ。


イケてる雰囲気を出す、集団心理の塊みたいな連中が牛耳るクラス。

その空気だけが、どうしても馴染まなかった。



——————



授業の間の休み時間、トイレに行っていると


「親が離婚したから学校来んかったんやろ?」

『うるせーな。黙ってろよ。』


意地悪く部活仲間が聞く。


「なんで離婚してるの知ってるの?」


「先生が言ってた。」


一瞬、言葉が出なかった。


『どーなってんだよ。学校は。』


「別に離婚が理由じゃないよ。」


「そうなんや。部活はどうするん?」


「辞める。今はそれどころじゃない。」

『お前みたいなのいるなら余計だ。』


「へー。」


そう言って立ち去った。

『学校ってのはクソだな。』


今まで普通に関わっていたやつに、下に見られてるような気がする。

いや、上から見ていたからそう感じるのか。

俺は奢っているのだろうか。


『わかってんじゃねえか。』


アイツは意地悪く言う。


黙ってろよ。



——————



教室に戻るとクラスはやはり騒がしかった。

『ぎゃーぎゃー騒ぎやがって。』


俺は黙って席に着く。

すると隅にいたクラスメイトが寄ってくる。


「うっちゃん、なんか変わったね。」


「そう?」

『そりゃ変わるだろ。』


「昔のうっちゃんってさ、なんか中心におったよね。今は……ちょっと違うけど。」

「その時は、僕でも入りやすかったんだ。」


「今の俺には、合わないだけさ。不登校で中心なんておかしいだろ。」


「あいつら高圧的で居心地が悪いよ、僕。」


「悪いが、今の俺にはどうにもできんな。」

「まあ同じクラスなんだし、俺にはいつでも話しかけてくれていいよ。ヤマケン。」


「ありがとうね。」


そう言ってヤマケンは立ち去った。


———昔の俺か。

このクラスには、見えない役割のようなものがあった。

それに従って、みんな動いていた。

俺も面倒だから、それに合わせていた。

———不登校のやつ。


ヤマケンの言う通りだ。


昔の俺なら、あんな空気ぶっ壊してた。


それが正しいと思ってたから。


でも、もう俺にはできない。

……悪いな、ヤマケン。



——————



夕日を背に3人で帰る。


「バカボンの歌詞って嘘だったんだな。」


「確かに!西に沈むもんね!」


大洋は笑う。


「あれで間違った人って結構いそうだよね。」


隼人も夕日を見ながら笑う。


「そういえばクラスどうだった?」


答えはわかっている。


「いいクラスだよ!」


大洋はそう言う。


「俺も普通かな。」


隼人も言う。


お前らはそうだよな。

いるだけでいいクラスになる。


「うちはちょっとなー。」


俺はわざとらしく言う。


「嫌な奴いた?」


大洋が心配する。


「いや、嫌とかじゃなくて甲斐のグループってあんな感じなの?」


俺は恐る恐る聞いてみる。

自分の感覚に自信がなかった。


「あー……。」


二人は何かを察したように顔を見合わせる。


「バスケ部の奴らはな……。」


「悪いやつではないんだけど。」


隼人と大洋は言葉を濁す。


それだけで俺が、ハズレくじを引いたことが十分なほどわかった。


「なんかあったらすぐ言ってよ!」


大洋は真面目な顔で言う。

隼人も頷く。


「まあ不登校やけど、いじめられるタイプでもないよ。」


俺は笑ってそう告げる。


二人も「そうやね。」と笑う。



——————


一度だけ深呼吸をする。

あの頃と変わらず、重いドアを開ける。


「おかえり!」


優しい声が響く。


「じいじ、ばあば!来てくれてたんだ!」


「蓮ちゃんが心配で。学校行けたみたいだしコロッケ作っといたから宗ちゃんと食べて。」


祖母は嬉しそうに言う。


「蓮介。自分のペースでいいからな。」


祖父は作業服のままゴツい手で俺の頭を撫でる。

心底、温かかった。


二人を見送ったあと宗介の机に向かう。


「にいちゃん!俺もう宿題終わるよ!」


褒めてと言わんばかりに笑顔で報告してくる。


「偉いな。母さん帰ってきたら褒めてもらおうな。」


俺は宗介の頭を撫でる。


「ごめんな、宗介。にいちゃんいなくて大変だったろ。」


「ううん。じいじ、ばあばもよく来てくれたから!」


「母さんのことさ。」


「お母さんはあんまり怒らなかったよ。」


「本当か!よかった!」


「あの人は?」


俺はあえて伏せて聞く。

宗介も感じ取ったように答えた。


「うーん。休みの日に遊びに行ったりしたけど楽しかったよ。」


嘘ではなさそうだった。


「そっか。じゃあ宿題頑張ってな。」


俺がいない間に少しはマシになったのかな。

そんなことを考えていると玄関がギギギ…と鳴る。


「ただいまー!」


「おかえり。」


「ばあばがコロッケ作ってくれとる。」


「聞いた!助かるわー」


「宗介が宿題終わりそうって。」


「よかった。じゃあご飯食べちゃおうか。」


そこからは、感じたことのない平和な食卓だった。


俺は自分の部屋に戻り、親父からもらったストラトを弾いてみた。

指から音は鳴ったがそれは歪で親父みたく綺麗には弾けなかった。


俺は風呂を済ませ布団に寝転がり、イヤフォンを押し込む。


Mr.Childrenの「彩り」が聞こえる。

こんなに家で大きく息が吸えたのは初めてだった。


この平和が、ずっと続くと思っていた。

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