7 破魔矢
「あなた、カバン、忘れものよ」
「あっ、いけねぇ、ありがとう」 いかんいかん、忘れ物は命取りっと。
「じゃあ、行ってくる!」
「夜は遅いの?」
「あゝ遅くなるつもりで頼むよ」
「わかったわ」
「明日からだったっけ? 浜松の実家に戻るの」
「明日からニヶ月間よ、部屋の中綺麗に使ってね。 それと毎日朝、電話で起こしてあげるから、ちゃんと起きて遅れないよう出勤してね」
「助かるよ」
——助からねぇ!
「自炊してね」
「自炊しますとも」
——やる気しねぇ!
「一に倹約よ、二に倹約よ」
「三から五まで倹約ですぬ」
——しないからごめんなさい!
「私も出産頑張るから、あなたも頑張ってね」
「頑張ってこいよ」
「あなたもね、行ってらっしゃい!」
「頑張ってくるよ」
——ある意味頑張るよ!
かくして粕谷は、ダマ休を使い自由を得たのだ。
何にも縛られず、
好きな時に起き、
好きなように食べ、
好きなように時間を使い、
生きたいように生きまくる。
これすなわち、
贅沢の極まりなり。
二ヶ月と言う限りある時間に、
へそくりという限りある資金で、
何を成してやろうか?
旅行、グルメ、習い事、何だってできる。
でも、金がなくなったらすべてが破綻する。
なら、稼げば良い。
どうやって?
賃金労働はまずい、
何のための育休なのか、
本末転倒になる。
いや、育児しないことこそが、
本末転倒なんだから、
何をしても同じことになる。
仕事から離れても、
仕事のことは忘れない、
これも社会人の掟だ。




