6 漏洩真相
野々山が粕谷に聞き返す。
「写真に写り込んだ時計は午後三時を指しているのに、どうしてそんなことを言われるのですか?」
「いや、この写真は反転しているんですよ」
「反転?」
「そうです。黒川課長のジャケットのボタンが左側に付いていることや、右利きのはずがスマホを右手で持ち左手で操作していることからして、写真は反転していると言えるのではないか?」
「だから時計は午後三時でなく午前九時、或いは午後九時と言うのですね」
「察しが良いですね、野々山くん」
「まあ、それくらいの想像はできますよ」
「そうですね、時計には数字表記がされていないから気づき難い所でしたがね」
「午前八時半には、筐体は開発室に移していましたから、午前九時はありえないです。となると午後九時がこの写真が撮られた時間ではないかと」
と伊藤が声を上げた。
「では午後九時には、皆さんはまだ仕事をしていたのですか?」
「いいえ。この日は確か午後七時には皆退社しています」
「つまり日曜日に出社した者の中で鍵の暗証番号を知らない伊藤くんと藤岡さんは事件に関係ないと言うのですね」
「はい」
「わかりました。では二つ目に参りましょう。二つ目は、影です」
「どう言うことかね?」
と部長がツッコミを入れた。
「この写真では、黒川課長が筐体を盗み撮るような絵面ですが、この写真を撮った時にフラッシュを入れようものならそれに気づくはず」
「確かに黒川くんはこの写真を撮った人物は知らないようだから、フラッシュはないだろう」
と部長が断定した。
「見て下さい。この部屋の照明は天井にあり、しかも写真に映る側は全体的に暗めの写りをしているのに対し、黒川課長のスーツは直接側面から光を浴びたのと同じくらい明るく写っています」
「だから合成だと」
「はい、その通りです。そして三つ目ですが、そもそもこの写真の中のスーツなんですが、私のものなんですよ」
「どう言うことかね?」
「この襟と袖先のステッチを特注で入れた僕のスーツなんです」
「なんでキミのスーツを黒川くんが着てるのだね?」
「合成だからです」
「合成か。それで犯人はわかったのかね?」
「ええ、わかりました」
「誰だね? 犯人は!」
「野々山、そろそろ茶番はやめないか?」
「何を言うんですか? 黒川課長が犯人なんですよ」
「情報漏洩の犯人はお前だな、野々山」
会議室が騒めく。
「な、何を根拠に!」
「このスーツは先月にお前と参加した遊戯協会主催のパーティーに参加した時に来たスーツなんだ。このスーツで写真を撮る姿は、僕が料理の写真を撮っていたところをお前が写したものじゃないか? それを都合よく反転させて作った合成写真だ!」
「そんな……そんな、酷すぎですよ、粕谷さん」
「何だと」
「そんなことまで見透かされてたなんて、嫌だなぁ、カスじゃなかったんですね」
「ふざけるな! 野々山!」
「ふざけてなんていませんよ!」
「はあ?」
「私はこれまで開発者として、充分過ぎるほどの貢献をして来たつもりだ。がしかし、評価ははなぜか黒川課長ばかりで、粕谷さんや僕らはただの歯車にしか扱われて来なかった」
「お前」
「粕谷さんだってわかるでしょう? このやるせない気持ちが……」
「……」
「だからですよ。課長の手柄は僕ら開発者なんだ。そうして来たことを認めて下さいよ、課長さん」
「決してそんなつもりでいた訳じゃないぞ、野々山くん」
「何を今さら……」
そこに部長が口を挟む。
「確かにな。黒川くんはいつも自分の事ばかり話してたな」
「そんな、部長、殺生な」
「まあ、確かにそれは言いすぎたかも知れんが、キミは部下を評価していたところ聞いた記憶がないぞ」
「あゝすみません……」
「しかし野々山くん、こんなやり方はないだろう。キミが優秀な開発者であることは粕谷係長を通じて十分伝わっておるんだ」
「係長……係長、そんなこととは知らず、本当に申し訳ありませんでした……」
粕谷は急にマジな顔つきで部長を見ながらこう言い放った。
「これら一連の騒動は、一義的にはわたくし粕谷に責任があるかと改めて思うところであります」
「粕谷くん、何が言いたいのだね?」
「明日から育休に入るのですが、今回の件を受けまして、自ら停職処分と受け止め責任を負わさせていただく覚悟にあります」
「ほう」
「よって野々山の処分は不問としていただきたいのです」
「勝手なことを……言いよってからに」
「申し訳ございません。不器用なんで」
「……わかった、それでいいんだな?」
「はい」
「よしわかった。じゃ、キミたちもこのことは口外しないように。また、社運がかけた新台も筐体こそ漏らしてしまったが、すべてが漏洩されたわけではない、かな?」
「いえ、すべてです」
と野々山が暴露した。
「じゃあダメじゃん」
と部長が落胆した。
「まあ、筐体こそ面前に流れていますが、システムに関しては同時並行して組み込んだものがありますので、差し替えようと考えます」
と漏洩した分際においてもなお、別プランを示した。
「次の新作用にとっておいたとびっきりのものがあります」
「実用可能か?」
「もちろんです」
野々山が自信を持ちそう答えた。
「じゃあ、これで解決だな、粕谷係長」
「ありがとうございます」
かくして育休前の一悶着は、粕谷の停職にて丸く収まり、開発チームは新台発表に向け気を引き締めたのであった。
——停職って、言っちゃったけど、やっぱり停職なのね?




