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神生ゲーム~天が覗く間奏曲(インテルメツォ)~  作者: 猫宮めめ
茜色の交叉路

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2話 邂逅

 古いアパートの一室に、似つかわしくない派手なワンピースを纏った少女が不機嫌そうに立っている。

 他に人はいない状況で、海里は何と話しかけるべきか、笑顔の裏で考える。


 今回の任務の依頼主、緑ノ幹部の親類にあたる少女、タオ。生まれながらの妖のみを尊ぶ純血主義である彼女は、人の血が混じった海里は強く嫌悪している。


 まあ、気持ち悪いだろうなとは思う。

 付喪神のような時間を経て妖になったものとも違う、二つの種族の血が混じりあった身体。化け物と謗られ、拒絶されても仕方がないと最早諦めている。


 受け入れてくれる人がいるならそれでいい。一番受け入れてほしい人に受け入れてもらえたら。

 脳裏にとある少女の姿が浮かんで疼く胸を誤魔化すように笑みを深めた。


「笑ってばかりで気持ち悪いわね」


「あ、ごめんなさい。悪気はなかったんですけど」


 笑顔を浮かべるのは海里の癖だ。内心を悟らせないように、他者を安心させるように、気付けば笑顔を浮かべてしまう。


「貴方は調査に行かないの? 曲がりなりにも隊員なのでしょう」


 今、レオンとレミは盗人が逃げたと思われる建物に赴いている。


 海里の護衛と監視を兼ねている妖処刑部隊の面々が離れることは本来許されないことではあるが、クリスが編んだ結界で守られたこの部屋の中で待機するという条件の下、タオと二人きりの今がある。


 海里もタオも危険だからと待機を命じられた形だ。


「俺がいても邪魔になるだけですから」


 これまで海里が妖処刑部隊の一員として動いたことはほとんどない。あっても、安全圏で身体よりも頭を使うことの方が多い。

 海里はまだ子供で、戦闘経験も少なく、護衛対象だ。ただえさえ、日常的な世話までしてもらっているのにそこで我儘は言えない。


 妖処刑部隊の三人が海里の面倒を見てくれているのは母である妖界の王の命令があるからだ。

 甘えすぎてはいけない。迷惑をかけてはいけない。


「不愉快だわ!」


「ごめっ」


「謝られるともっと不愉快ね」


 どうしたらいいか分からなくて笑顔で誤魔化す。

 タオの表情はさらに不機嫌なものに彩られた。女の子の扱いは難しいなと苦笑を零す。


「今から私は出掛けるわ。半妖、お供しなさい」


「や、でも、外には出るなって……」


「ごちゃごちゃ言っていないで従いなさい。このタオ様の命令よ!」


 言うが早いか、タオは迷いのない足取りで玄関の方へ向かう。引き止められそうにもなく、海里は慌てて後を追う。


 流石に人間界に不慣れなタオを一人で外を歩かせるわけにはいかなかった。

 申し訳ない思いはありながらも、クリスの結界を抜けて外に出た。


「こっちよ」


 タオは海里の心情などお構いなしに進んでいく。


「どこに行くんですか?」


「観光よ! せっかく人間界に来たんだもの、低俗な種族の生活でも見物して、レミ姉様にその醜悪さを教えて差し上げるの」


 どうやらタオはレミに妖界に戻ってきてほしいらしい。


 レミはかなり高貴な生まれだという話だ。それが何故、はみだし者ばかり集まる妖処刑部隊に所属しているのかまでは知らないが、レミは今の生活を気に入っているように見える。


 タオが人間の醜悪さを語ったところで折れることはない気がする。かといって、海里がそれを言ったところで納得してはくれないだろう。

 ここは大人しくタオに従うことにする。


「半分でも人間の血が混じっているのだから詳しいのでしょう? 私を案内なさい」


「え、ええと……じゃあレミとよく行くお店にでも行きましょうか」


 この辺りに観光できるような場所はない。とりあえずレミがよく訪れる場所にでも行けば満足してくれるだろうか。


 土地勘があるわけでもない海里は悩みながら歩を進める。最中、タオが不意に足を止めた。


「どうかしましたか?」


「匂いがするわ」


「匂いって……」


「茜桃を盗んだ下手人につけた匂い玉の匂いよ。こっちからするわね」


 言うが早いか、タオは匂いがするらしい方向へ走り出す。

 なんというか、思ったらすぐ行動に移すタイプらしい。少しだけあの子に似ているなと思いながら追いかける。


「下手人がいるってことですか? じゃあ、今、レオンたちが調べている場所は……」


「そこにも強い匂いがあったのは事実よ。でも、こっちの方が強い……っ」


 調査の気配を悟って逃げてきたのだろうか。いづれにせよ、二人だけで動くのは危険だ。


「一度戻ってレオンたちに連絡を……っ」


「その間に逃げられてしまうかもしれないわ。それに……いつまでも子供扱いはされたくないの。ここで活躍してみせるわ」


 意気込むとともにタオは速度をあげた。

 小柄な少女と言っても妖だ。その身体能力は人間を遥かに上回る。

 半妖であるアドバンテージを使って何とか追い縋る。

 ようやくタオは古い民家の前で止まった。


「ここね」


「場所が分かったなら……あ」


 説得する間も与えず、タオは躊躇なく敷地内へ入る。

 他所様の家に勝手に入る罪悪感はさておき、海里は慌ててタオを追う。

 インターホンすらせず玄関を開けたタオは息を飲んで立ち尽くす。


「何が……」


 後ろから覗き込む海里の目に映ったの緑色の海だった。


 扉の先には、海里たちが暮らすアパートのリビングほどの空間が広がっている。その床は一面緑色、よく見ると蔦がびっしりと敷き詰められていた。

 流石のタオもこの先を進むのは躊躇っている様子だ。


「あの、一度戻って……」


 何度目かの説得を口にしようとした海里の目が蠢く蔦を捉えた。

 複数の蔦が床から伸び、タオの体を捕らえんしていることに気付き、咄嗟に手を伸ばす。


「…っ……」


「きゃあ」


 二人の体は蔦に絡め取られ、緑の海の中に沈む。必死にタオの方に手を伸ばすが、蔦の壁が邪魔して届かない。


「いや、放して……放しなさいっ」


 もがくタオの声だけが緑色の世界の先で聞こえる。


「っ龍刀」


 掌に現れた感触を頼りに柄を握る。

 龍刀と名付けられたそれは妖具と呼ばれるもので、父が使っていたという。今は海里が持つのが相応しいと母から譲り渡された。


 龍刀は持ち主の意思に応え、どこにだって現出する。

 海里は馴染んだ感触を確かめながら、柄を通して霊力を込める。


「斬」


 一先ず、タオの声が聞こえる方向を避けながら斬撃を放つ。緑の海を駆け巡る斬撃は空間を埋め尽くす蔦を二つに裂いた。


 自由に動ける空間を確保し、龍刀を構え直す。

 持ち主の意思に答える龍刀はその形も海里の思うままに変えてくれる。刀身を短く、短刀程度の長さに変えながら、タオがいると思われる方向に向けて蔦を切り進む。


 タオの悲鳴は絶えず聞こえており、それがちょうどいい目印になってくれている。


「タオさん、今行きますから!」


 そうやって何度も呼びかけているものの、タオにはこちらの声は届いていないようだ。


 距離的な問題というより、タオがパニックになっていることが大きいのだろう。周囲の声に耳を傾ける余裕がないのだ。


 海里は急いで蔦を切り進んでいく。その最中、蔦の中に埋まる人の腕を見つけた。タオのものとは違う、海里よりも幾分か小さな子供の手だった。


「…っ……大丈夫ですか?」


 流石に無視はできないと腕の主に絡みつく蔦を切り裂いていく。


 海里たちのようにこの家に迷い込んだ子だろうか。それとも元々この家の住人だった人物か。

 意識はないのか、目は瞑られ、力なく蔦の中で横たわっている。


「これで、もうだいじょ……」


 絡みつく蔦をすべて切り裂き、笑顔を浮かべた海里は驚きで言葉を止めた。


 驚いた理由は二つ。意識がないと思っていた人物の目が突然開かれたのが一つ。

 もう一つは、目の前の人物が知っている人物だったからだ。


「なん…で……」


「一先ず、一つだけ質問しても?」


 向けられる無機質な瞳に驚きの色はなく、淡白な声は冷静に問いかけた。まだ飲み込めない衝撃の中、海里は頷く。


「あちらで騒がしくしている方は海里さんのお知り合いですか?」


「う、ん。一緒に捕まって……」


「なるほど。分かりました」


 何が分かったのだろう。混乱の中、浮かんだ疑問を処理するよりも、すぐに訪れた変化に更なる混乱を抱いた。

 常に聞こえていたタオの声が突然やんだ。


「大丈夫です。俺が一時的に眠らせました」


 表情から内心を読み取ったのか、目の前の少年が端的に答える。

 彼がそんなことをしたことにも、そんなことができることにも驚いて、最早頭の中が整理できない。


「この蔦は暴れるほど絡みつきます。殺されることはありませんが、拘束がきつくなっていきます」


 海里の混乱を他所に彼は淡々と状況の説明をする。自分よりも年下の少年がやけに慣れている様を、無理解を描いたまま見つめる。


「一先ず抵抗しないで蔦に身を委ねてください。詳しい話はその先でします」


 そう言うと彼は再び目を瞑り、すでに身体に絡み始めていた蔦に身を預ける。

 海里もまた同じように蔦に身を預ける。絡まる蔦は数を増していき、下へ下へ落ちていく。


 その先、と彼は言った。このまま蔦に身を預けていれば、どこか別の場所に行くことがてきるのか。


 その疑問は肯定という形ですぐに解消される。

 蔦の海から吐き出された海里の身体は赤黒い空間へ落ちる。意識を失っているタオと彼もまた同じ空間にいる。


 彼はタオを抱きかかえて、海里の傍まで歩み寄る。と同時に三人を囲うドーム状の結界を生み出した。


「改めて、久しぶりですね、海里さん」


「うん、久しぶりだね、健君」


 健。岡山健。史源町で仲良くしていた少年の、親友とも呼べる少年の弟だった。


 彼と会ったのは、町を離れたあの日、彼から話しかけられたのが最後だ。


 海里は町を去る際、町の関係者の記憶を消した。にも拘わらず、海里のことを覚えている様子の健に対し、驚きを抱かないのはその最後のやりとりがあったからだ。


 彼は妖華が行使した記憶を消す術に手を加える許可を海里に申し出てきた。海里はそれに許可を出し、術に他者の介入があったことは妖華からも聞かされた。


 わざわざ術に介入したのだから、自分を対象から除外するくらいのことはするだろう。許可を取りにくるくらいだから、他にも何か仕掛けているのかもしれないが、今は気にすることではない。

 それよりももっと気になることは山ほどあった。


「……健君は、妖術が使えるんだね」


 何を聞けばいいのか分からなかったので一先ず真っ先に浮かんだ言葉を口にした。


 この場合の妖術は妖が使うものではなく、妖退治屋が使うものである。

 突き詰めれば同じらしいが、妖が使うものと人間が使うものは細かい部分が違うというのはレオンから聞いた話だ。


「嗜む程度には」


「そう、なんだ」


 心臓が早鐘を打っている。どうやら自分は緊張しているらしい。

 どこまで踏み込めばいいのか分からない。下手に踏み込めば、海里のことも話さなければいけなくなる。


 海里が人間と妖、両方の血が混じった化け物であることを。

 健がそれを知れば、彼にも伝わるかもしれない。彼女にも、伝わるかもしれない。

 大丈夫だとどんなに信じていても、拒絶されるかもしれない。


 受け入れてほしい人に受け入れてもらえたらいい。でも、受け入れてほしい人に受け入れてもらえなかったら?


 こびりついた拒絶の声が海里の心を軋ませる。


「兄さんたちに話すつもりはないのでご心配なく。というか、俺も知られると面倒ですし」


 海里の内心を読み取ったような言葉を健は投げかけた。

 無機質な瞳は感情もなくこちらを見つめている。本当に何もかも読み取られているような気分になる。


「健君は一人でここに来たの?」


 彼の住む史源町からはかなり離れたところにある。小学生の子供が保護者なしに来れる距離ではない。

 ただ目の前の彼の浮世離れした雰囲気を見ているとそんな心配も無意味のように思える。


「別行動中ですが、同行者はいますよ」


 流石の健もあの距離を一人でというわけではないらしい。とはいえ、一人行動していることに間違いないので心配がないわけではないが、海里も人のことを言えた立場ではない。


「海里さんこそ、妖処刑部隊の方はどーしたんですか?」


 その口振りはまるで海里が護衛兼監視役なしに動き回ることを許されない身だと知っているみたいだった。


「いろいろあって……今は別行動中」


 意識を失ったままのタオを一瞥しての答えで健はなんとなく事情を察してくれたらしい。


「なら、早く戻った方がよさそーですね」


「健君は……俺のことをどこまで知ってるの?」


「海里さんの素性に関しては一通り。もちろん兄さんたちには話していません」


「いつ、から……?」


「初めて会ったときからです」


 つまり、海里が史源町で暮らしていたときから、健は海里の素性を把握していたのだ。

 あの頃なんて海里自身も自分のことを何も知らなかったのに。


「……健君は何者なの?」


「俺ばかりが知っているのはフェアではありませんね」


 言って、健は海里に向き直る。

 幼い見た目、年下と思えない不思議な迫力を纏って健は海里の正面に立っている。


「俺は貴族街の処刑人です。より分かりやすく言うと、貴族街のお偉いさんの小間使いですかね」


 小学生の子供が持っているとは思えない肩書きを、健はなんてことない口調で答えた。


「俺の上司、春野家当主は妖界の王とも親しいので、海里さんのことも聞かされていたんです」


 少なくとも海里が史源町にいた頃には処刑人だったことになる。年齢を考えれば有り得ないと切り捨てたくなる話だが、目の前にいる少年の佇まいには妙な説得力があった。


 何故、彼が幼い時分から処刑人なんて職業についているのか。気になりはするものの、いつまでも話をしていられる状況ではない。


「じゃあ健君がここにいるのは処刑人の仕事なの?」


「ええ。貴族街から厄介な薬が盗まれまして、その回収と下手人の始末を。海里さんの方も似たようなものでしょう?」


「……うん。お互い相手は同じってことでいいのかな?」


「そのよーですね。では、共闘といきましょう。正直あまり長居したくない場所ですしね」


 改めて周囲に目を向ける。

 一言で言うなら赤黒い空間だ。四方を肉の塊を思わせる赤黒いものに覆われている。


 時折蠢くそれらを見ていれば、ここがどこなのか嫌な予感も過ぎる。


「海里は領域型の妖をご存知ですか?」


「自分のテリトリーにおいて絶大な力を持つ妖だよね。会うのは初めてだけどこれが?」


「恐らくは。テリトリーというより、体の中と言った方がしっくり来るビジュアルですけどね」


 健も同じことを考えていたらしい。

 大きな怪物の胃袋の中。視界に映し出される景色に抱いていた印象が肯定され、複雑な気持ちになる。


「このままいたら消化されるなんてことにならないよね?」


「結界も凄い勢いで溶かされていますからね」


「そうは見えないけど……」


「常に張り直しているので、少なくとも数ヶ月は持つかと」


 さり気なくとんでもないことを言っている。

 こうやって会話を続けている間も健は消化されていく結界を張り直し続けているのか。それも数ヶ月は持つと。


 もしかしてかなりの霊力量を持っているんじゃないだろうかと健を見る。

 涼しい顔を見ていると冗談と言われた方が納得できる。


「まあ、こんなところに長居はしたくありませんけどね」


 ぼやく健の横で、眠っていたタオが身動ぎをする。その瞼がゆっくりと開き、広がる光景を目に収めて第一声。


「なっ、なんなの、ここは……。ちょっと、貴方! 早く私を……っ」


「お静かにお願いします」


 騒がしく声をあげるタオを健は一瞥で黙らせる。大きく肩を震わせるタオは恐怖を映して、小柄な少年を見ていた。


「だれ? 私をこんなところに閉じ込めて……ぃ、一体何が目的なの!?」


「当然のよーに俺を敵認定しないでもらえますか。……もーちょっと強めの術を使うべきだったかな」


 タオは健を自分たちを閉じ込めた敵だと思い込んでいるようだ。


「タオさん、彼は俺たちと同じくこの場所に捕らわれた被害者です」


「貴方が騙されていないなんて保証がどこにあるのよ? 劣等種の言うことなんて信用できないわ」


 健は呆れたような表情でタオを見ている。気分を害した素振りがないことに安心しつつ、どうやってタオを落ち着かせるか、頭を悩ませる。


 海里の言葉も聞いてくれはしないだろうし、どうしたものか。


「説得する時間も勿体ないですし、このまま進めましょーか」


 無視すると決めたらしい健が話を振ってくる。罪悪感はあるものの、それが最善と納得して頷く。


「健君は領域型の妖と戦ったことはあるの?」


「ありませんよ、少なくとも俺は」


 妙に引っ掛かりを覚える言い回しに首を傾げる。


「海里さんの持っているのは龍刀ですよね?」


「そうだけど……?」


 今更、龍刀のことを知っていても驚かない。これも春野家当主あたりに聞かされているのだろう。


「では、合図をしたら全力で壁に攻撃してください。その後はまた指示を出します」


「分かった」


 まだ横ではタオが何かを言っているが、無視を決め込んだ健は視線すら向けない。最早いないものとして扱っているようだ。

 海里はそこまでできないので、気になって横目でタオを見てしまう。


「それでは始めます」


 健のその声で一先ず意識を切り替える。


 健は目を瞑り、手で地面に触れている。そのまま数秒ほどの間があって、目の前の壁が蠢いた。

 今までの脈打つような蠢きとは違い、強い衝撃を受けたときを思わせる大きな動きだった。


「海里さん」


「――斬!」


 思考を回すよりも先に龍刀から霊力の刃を放つ。

 健に言われてからずっと込めていた霊力を一斉に放ち、壁に叩きつけた。


 肉の壁は二つに裂け、痛みを悶えて周囲の肉が激しく蠢く。海里たちか立っているところも揺れ動き、体勢を崩したタオが倒れ込んできた。


「穢れた手で気安く触らないでちょうだい」


「ごめんなさい、でも今はこっちの方が……」


 自分の方から倒れてきたとは思えない物言いは一先ず横に置き、揺れ動く空間の中でタオを支える。


「海里さん、そのまま彼女を抱えて裂け目に走ってください!」


「分かった!」


 相も変わらず文句を重ねるタオを無視して、その身体を抱きかかえて走る。地面が揺れる中で転びそうになるものの、上手く重心を動かして耐える。

 すぐ後ろを健がついてきているのを音で感じながら裂け目へと。


「ダメだ、閉じていってる!」


「大丈夫です。そのまま走って」


 ゆっくりと塞がっていく裂け目になんとか体を捩じ込む。ぎりぎり間に合った。

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