君の嘘と嘘と嘘と嘘と
R-15指定です。
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〈 君の嘘と嘘と嘘と嘘と 〉
比較的、ぐったりとしている。そんな姿を見ることは少なくないーーーけれど外では滅多に見ない姿。
気怠げに脱力した筋張った首筋も。そこから繋がる自分よりも力の込めやすいのであろう肩も。すらりとのびた、細いがごつごつとした長い腕も。ぺたりと合わせて比べたら笑ってしまうくらい大きな手のひらも。
「……みーさん」
ふわりと、長い睫毛が浮いてミユキを見た。
「はい」
「……こっち、来て」
「……はい」
うん、ではなくてはい、で。……このかつての少年は今とても機嫌が悪くて、けれどその機嫌の悪さはミユキから生じたものではなくて、だからこそ、どうしたものかなと考えつつ素直に従った。少し崩れたようにソファーに座る青年の横に腰かけようとすると、投げ出されていた長い腕がするりとのびて腰を捕まえられた。あっと思った時にはもう遅く、ひょいと抱き上げられたミユキはあっという間に膝の上になった。軽く抱きかかえられ、お互い向き合う形ですとんと落ち着く。……いや、ちょっと待って。待って。
「と、ともり。降ろそう? 隣に座るよ」
「嫌だ」
「……」
駄目、じゃなくて嫌だ。……駄目とかならまだ返す言葉があるものの嫌だと正々堂々言われるとこちらとしては返す言葉がない。
すみません、不機嫌で帰します。少し前に須藤から受け取ったメッセージをちらりと思った。軽く呼吸を止めて思考を巡らしーーー眼の前に視線を落とす。
「ともり」
「ん、」
「……挿木くん?」
「……」
ぎゅ、と、抱きしめる腕に力が篭った。正解か……。
須藤をはじめ大学の友人と飲んでくる、と言っていたし、実際そうなった。……思わぬ人間も加わったのか、あまり楽しい飲み会にはならなかったらしい。
ともりの口からは直接聞いたことがない名前。確か大学の他の仲がいいひとの誰かから聞いた名前……ということは敢えて口に出さなかったのだろう。話題に上げるまでもなく嫌いと、そういうことだ。
「……嫌いなんだよ。選ぶ言葉とか、行動とか」
「そっか……」
「今日はあいついないはずだったのに。彼女と別れて暇だからって、どこからか飲み会聞き付けて来たみたいで。……席も近いし最悪だった」
「そっか……あのね、ともり」
「ん?」
「さっきから腰をホールドする力が徐々に強くなって来てることに気付いてる?」
「気にしないで、無意識だから」
「や、気になるんだけど……」
徐々に徐々に身体が密着して来るから気になるんだけど、ともりの方は全く気にしていないようだった。というより体重。体重が気になるから降りたい。この体勢でなくても話は聞けるし……。
「ともり、話は聞くから降ろそうか? 重いでしょ?」
「嫌だ」
「……」
「嫌だ。重くない嫌だ」
「あのね……」
「だからぜってえお前にはやらねえぞ真野」
「どこ見てるの? 真野さんいないよ怖いな」
「みーさん」
「は、はい」
「真野の話はしないで」
「……はい」
「ん」
……話題を出したのはともりの方なんだけどな、とは思ったが、ともりが不機嫌なのでここは言わないことにする。なんだかなあ。悪いお酒になったかな。
「んー……みーさん、やわらかくてあったかくてやさしくて気持ちいい」
「ん、ともり、それくすぐった……」
「んー」
「んーじゃなくてね、そのね……」
首筋にすり、と頰が擦り寄せられ吐息がかかる。擽ったくて背筋がぴんとのびて、思わず軽く身を捩ったがともりにがっちり捕まっていて動けない。
「挿木くん、が? どうしたの?」
「別に。あいつがしつこくいろいろ話しかけて来ただけ。家で改めて飲ませろとか風俗行こうとか」
「そ、そう。……別に家に呼んで飲んでもいいんだよ? 私邪魔にならないよう部屋にいるし」
「ぜっっったいに嫌だ」
「そ、そっか。……」
風俗……に、関しては。あまり言えないしそもそも話題として話し難い。利用するかしないかは別として世の中的に必要ではあるのだろう、だって三大欲求のひとつなわけだから。ともりは今誰とも付き合っていないし、別にまあ頻繁にはどうかと思うがセーブするのなら利用しても……まあミユキとしては何も言えることはない。……いや、一応、一応というか確実にミユキはともりがこの家に住む間は歳上の保護者なわけだから、言っておかなければならない、のだろうか?
「……」
考えてーーー少しずつ、言葉を纏めた。
「ともり」
「ん?」
「あのね、そういうお店を利用する時は、節度と頻度と常識とその他いろいろを弁えるのならーーー」
「行きません。そこに使う金はないしそもそも行かない」
「そ、そうですか」
ならミユキがとやかく言うあれは何もない。こういう話は難しいが避けて通れるわけではないからこれで済んでよかったと内心ほっとし力を抜いた。むしろよく今まで話題にならなかったな……。
「あのねみーさん。風俗とかそういう系以前として俺は女が無理なわけ。駄目なわけ。そういう風に見るのも見られるのも触るのも触られるのも悍ましくて蕁麻疹が出て来るわけで」
「そ、そうだよね。ごめんね」
「や、いいよ。今まで気にしてくれてたからそういう話とか敢えて注意したりしなかったんだろうし。いいよ。……けどさ」
黒曜の瞳が眇められた。
「ちょっとはどきどきとかしてくれない? 全然俺にそういう意味で興味ない?」
「へ……」
至近距離でそう問われ、眼を、……瞬いた。
「え……と? ……え……と……」
こんなにくっ付いて蕁麻疹は大丈夫だろうかとかそんなのは今さら思わない。自分が特別な存在だとは思っていないが、特別大事にされていることはわかっている。だから言わない。
どきどき……どきどき? 重くないかなとか体重ばれないかなとかそういう風にはどきどきしている、けれど。
「わかった。逃げられないようにストレートに訊こう。俺としたくならない? 性的な魅力は俺に感じない?」
「っ、」
「セッ」「言わなくてよいのっ!」思わずごつんと眼の前の額に頭突きした。固い音がしたが勢いはそれほどではなかったのでお互いそこまでダメージはない。
「と、ともり実はすごく酔っ払ってるね?」
「訊いてるのは俺」
「……いや、あのね……」
どうしよう、この酔っ払った駄々っ子みたいな子。頭突きのせいではない頭痛が滲み出て来て軽く頭を抱える。
「……えー……と、ね? ともりはすごく格好いいし、そういう風に思う女の子はたくさんいると思うよ?」
「他の女はどうでもいい。蕁麻疹出る」
「ご、ごめん」
「みーさんの気持ちが知りたいの。答えて」
「……」
「……」
空気が酷く、薄い。
「……ごめん、困らせた」
「……」
「答えなくていいよ」
「ーーー、とも……」
「へいき。変な誤解とかひねくれた考えとかもしてないから」
ちょっと酔い冷めた、と、ともりが言う。……かくんとうなだれると、すぐに両頬を包まれて顔を上げさせられた。
「ごめんね。困らせたね」
「……」
力なく首を横に振り、そっと、膝から下りようとした。……が。
「ちょっと待って。それとこれとは話が別」
「ふえ……」
ぎゅう、と抱きしめられて動けなくなる。むしろさっきよりも密着した状態になって、相変わらず下りれない。




