あなたの嫌いなその日のこと 3
ほとんど揺れのないなめらかな進み。
日本の誇る技術の中、後ろが空席なのをいいことにシートの背凭れを少し下げる。
西へ向かう車両の中、彼女と隣り合って座り、そして今、その手を握っていた。ーーー今回はまだ、掴めた。
心の底からの深い息を吐いて。ほんの数瞬、眼を閉じる。
「……お父さんのお墓が、そこにあるんだね」
ゆっくりと眼を開けそう言うと、彼女は微かにうなずいた。言葉を探すようにその眼をふわりと虚空へ向ける。
「お父さんのお父さんとお母さんーーー私の、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんと。一緒に眠ってる。……お父さんの故郷なの。進学で上京して、こっちに来た。……こっちで新しくお墓を作ってもよかったんだけどーーーお父さん、さみしいと思うから。だから、お祖父ちゃんたちと一緒」
「……そっか」
あまりにも早くに亡くなってしまった、彼女の血を分けた父親。
「……去年も、行ってたんだね」
「そうだね」
去年はーーーひとりで。いや。
家族が海外へ行ってからは、ひとりで。
「……ともり、本当、次の駅で帰っても大丈夫だよ?」
「嫌だ」
いくら明日土曜日とはいえ、と彼女が言う。
「ちゃんと帰るから。電話にも出るしメールも返す」
「嫌だ」
ぐりっと肩に顔を押し付けた。
「嫌だ。……今回は、一緒にいる」
「……」
ふ、と視線が逸れたのを感じた。
「そう」
あたたかくも冷たくもない、声。
たぶん、今はーーー今はこの時は、繋いだ手にきゅ、と力を込めても握り返してはもらえないのだろうなと、ぼんやり思う。
「……ところで、さ」
「うん」
「どうして気付いたの?」
「あ……」
そういえば。事の発端はあのメールだった。一体誰が……そもそもクレジットカードの明細なんて個人情報の塊をどうやって調べたのだろう。
「あの……ね、このメアドからメールが来て、」
アドレスの名前については触れられない。スマホを渡し、表示させーーーディスプレイに眼を落とした瞬間彼女が舌打ちした。舌打ちした?
「……え、みーさん今舌打ちした?」
「してない。……くそ、あのひねくれ者……」
「今くそって言った?」
「言ってない。……肋骨のニ、三本折られてればいいのに」
「今誰かの肋骨折られてればいいのにって言った?」
「言ってない」
きっぱりと彼女が返した言葉に慄く。どうしたの……これ、誰?
須藤に謝罪メールを送ったあと、こっそりそのメールアドレスに返信してみた。
エラーで、全て返って来た。




