あなたの嫌いなその日のこと 2
その大きな駅に辿り着き飛び出すようにしてホームに飛び降りた。人混みの中を可能な限りの全力で走り新幹線乗り場を目指す。窓口に飛び込んだ。
「あのっ! この額ぴったりだとどこまでのが買えますかっ」
額を提示すると係員は狼狽えたような顔をした。こういう訊き方をされるのははじめてだったのだろう。けれど一瞬考えるように間を置き、それでしたらと丁寧に答えてくれた。西方面の県だった。そっちに何の用事が、しかも隠して向かうような用事があるのだろう。二泊三日というのも恐らく嘘だ。
今日は平日だし自由席だろうと思い目安を付け、自分もチケットを購入した。係員にお礼を言い新幹線改札口へと駆け込み階段を三段飛ばしに駆け上る。辿り着いたホームの上、自由席の車両まで駆け抜けてーーーいない。いない。くそ、どこかで読み間違えたか。
発車ベルが鳴る。あとほんの少しで西行きが発車する。彼女はひょっとしたらもう中にいるのかもしれない。一か八か乗ってみるか、いやでももし間違いだったらーーー
その時視力ではなく別の何かが捉えた。ーーー導かれるようにそちらを向く。
視力が追い付く。ーーーふわりと色を変え靡く、あの髪の色。
売店から出て来た彼女が、ベンチに座った。
「……っ!」
駆ける。駆ける。ーーー求めて。
ざわつくホームの上、激しい足音に気付いたのか彼女が顔を上げ、ぎょっとした表情になる。その次の刹那にはもう自分は彼女まで辿り着き椅子に座る彼女の両サイドに駆け寄った勢いそのまま両手を突いてその小さな身体を閉じ込めていた。
「……っ、どこ、いく、の、」
「へ……え? な、なんでともりが……?」
驚いたように。驚愕したように。眼を見開き自分を見上げて来る彼女に、苛立ちにも似た焦燥感が込み上げほとんど乗りかかるように片膝も脚の横に突いた。
「ひゃ、」
「どこ、いくの! ……っ……、どこ、行っちゃう、の」
声を一瞬荒げてーーーそれから何とか飲み込んで、言葉を落とす。
こめかみを汗が伝う。自分の影がかかり薄暗くなった彼女の、それでも内包された場所から静かに光る眼がーーー深い深い眼が、自分を見上げている。
ふは、と、……さびしげに、微笑った。
「……ごめんね」
「っ……」
「ちゃんと、帰るよ」
今はまだ。と、声も言葉なく付け足されたのがわかった。
「何て言ったらいいのかわからなかったし、そもそも言いたくなかったのかもしれない。ごめんね。ーーーでも、ここまで来たら隠すのもね」
それでも本当に避けたいことだったら今からでも酷く上手に一分の隙もなく隠すであろう彼女は、そのさびしげな表情をそのままにーーーゆる、と首を傾げた。
「お父さんのお墓参りに行くの」
……雨は酷くなる一方だった。
「ともり、寒くない?」
「うん。平気」
「でも汗すごいかいてたよね。冷房効いてるけど大丈夫?」
「大丈夫。……でも」
「ん?」
「ごめん、今本当精神的に無理だ。……手、繋ぎたい」
「うん。……ごめんね」
小さくて華奢な手を、握る。
深い深い眼が自分を見る。
「ごめんなさい。傷付けた。……ごめんなさい」
「……」
本来ならば、きっと、
謝られることですらないのだーーー自分がただ、行かないで、今はまだやめてと勝手に喚いているだけなのだから。
だから小さく首を横に振って、それに応えた。




