第7話 彩花の葛藤(5826.am8:19)
彩花は呆然としていた。葉山が去り際に放った言葉の意味が理解できず、彩花は呆然としていた。鬱陶しい風が彼女の思考を妨げる。
葉山がタイムリープを認知?今までの周回を覚えていたってこと?
でも不可解な点がいくつか浮かんできた。
こうした異常事態が発生したときはまずは整理しろ。雨竜に教わった処世術を試すことにした。
『その1、葉山はどのようにその能力を手に入れたのか』
彩花のこの能力においてもこの力はおそらく美由紀に与えられたものだ。死の間際に言葉が何かの念とともに彩花の身体に作用したものだと考えている。
実際能力に気づいたのは事故から数ヶ月のこと。
発動の条件や動作などは自然と頭に浮かんできたのだ。その時もたしか美由紀の声が聞こえたような……。
『その2、いつから認知していたのか』
彩花が見ていた限りでは彼の反応は1回目から何も変わっていない。常に相手の動きを観察しろ、雨竜から口煩く言われるため注意深く見るようにしている。
今回も例外ではない。むしろ幾度の試行錯誤の中、些細な変化を見逃さないように注視していたつもりだ。特に表情については眉の動きまで覚えている。
それても仕草、言動、目線の位置まで何も違和感を感じなかった。10メートル先にあるゴミ箱に毎回塵紙を的中させるのと変わらない。
例え野球選手でも何千回もやればミスをすることはある。そんな中、ただの一般人が再現することは可能だろうか。
『その3、能力の範囲はどの程度なのか』
いまは俯瞰的に考察はできるが自身も最初は能力について詳しく知るには手こずった。
固定概念をなくし様々な条件を試さなければならないのだ。
それは実際にやってみてから大変だと思った。
もしかしたら認知するだけではないのかもしれない。
様々な仮定を立てつつ探るしかないだろう。
『その4、なぜ彩花のことを助けたのか』
事実、私さえいなければ彼は自分の望む確実な死を迎えられたはずだ。
彼ならそのことに気が付かないわけがない。
なにせ邪魔者が消えるのだから。
そして私が美由紀さんと接点があることを知らないはずである。
事故の日、私は一時心肺停止になっていた。
そのため重症の美由紀より先に現場を去っていた。
心臓が止まっていたのだが不思議と意識はあった。
ぼんやりとだがまた風景をなんとなく覚えている。
確信はないが一般人が近くに来た覚えはなかった。
仮に私のことを覚えていたら彼は私をひどく憎んでいるはずだ。
私は彼の妻の仇なのだから。
だけど知らないのだとしたら彼にこの事を伝えないといけないと感じた。
私は彼に謝らないといけない、許されないのだとしても。
それが私の唯一できることだ。
『最後に疑問に感じたのはなぜ彼は私に話し合いを求めたのか』
考察の余地もなく。このことに関しては葉山の頭の中の問題だ。何を考えているか分からないときは正直に聞こう。
ざっと洗い出したがこんなものだろう。幾分か頭の中が整理されてスッキリした。
だが未確定の情報が多すぎる。余計に新たな問題が可視化して頭を抱えた。
この何千回のタイムリープの中で葉山はこの事をずっと隠していたことになる。そして私に勘付かれることなくやり過ごしていたのだ。
まだ若く人間関係の浅い彩花とはいえこの仕事上、人を見る目はある方だ。雨竜など先輩に叩きこまれたり自主的にも人目の多い場所でコミュニケーションを取って練習したらしている。彼女なりの努力はしているはずだ。
しかし彼女は気付かなかった。
彩花のミスなのか、それとも葉山の対人の技量だとすればかなりややこしいことになる。
手強い相手となるだろう。
彩花は振り向く。そして昇降口を見やるが頼りの先輩はまだいないようだ。
彼は夕方までやってこない。ずっと私を見ているわけではないから。
これは相談すべきだろうか?それとも自分の判断で行動すべきだろうか?彩花は迷った。




