第4話 欲しかったコート(--:--)
彩花は3年前のあの日のことを思い返す。ちょうどこのくらいの季節だっただろうか。少し涼しかったのを覚えている。
というのもお小遣いを貯めてやっと買えたコートを買いに行った日だったからだ。
そのコートは年末に近場のショッピングモールで一目惚れしたものだった。とてもクールで当時の彼女の趣向にドンピシャであった。買う気満々で入店したものの思いの外高価で買うことができなかった。
冬服ともなると翌年の2月ごろには春服に総入れ替えされてしまう。もしかしたらもう棚に並ばないかもしれない。
そういった焦りからお金を貯めるために友達付き合いや放課後の食べ歩きなどを控えめにした。おかげで資金が貯まったと共に体型もスリムになるという副産物を得ることができた。
その翌週の土曜日、足早にその店へと赴いた。
はしゃぎ過ぎて開店の10分前に着いてしまった。
だがその甲斐もあり(あったのかは分からない)、お目当てのものを見つけることができた。
数ヶ月前と比べて痩せた事もあり念の為に試着した。腕を回したり腰を捻ったりして着心地を確認する。前回よりも心なしかフィットしている気がした。
そんなことより早く新しいコートを着て歩き回りたかった。
「タグ切って貰ってもいいですか?」
今すぐ着たかったがそれは躊躇して袋は購入した。一先ず購入したコートを中に入れてもらった。レジに持ってきたときよりも重く感じる。
ありがとうございました、と爽やかな挨拶を背中越しに受ける。なんだか空を飛べる気がした。
◇
着替えるために少し離れてショッピングモール内の広場の所までやって来た。
ここは駅と直通のモールのためすぐそこに大きな改札も見ることができる
着替えるというより荷物を置ける落ち着いた場所が欲しかった。
また店で着替えるのもはしゃいでいるようでなんだか恥ずかしかった。
もう大人なのだ!そんなはしたない真似はできない。
辺りを見回してみるといくつか並んでいるベンチから手頃な場所を見つけた。その中でも若干目立たなそうな方にした。
上にリュックと戦利品を置いて一息付く。1月の風が汗ばんだ身体をセーター越しに冷えて心地いい。そんなに私は興奮していたのか、汗をかいていることに全く気が付かなかった。
ああ、心地いい。早くコートを着たいのに気持ちがいいのでなかなか上着を羽織れない。やっとのことで紙袋に手を掛けたのは10分も経った後のことだった。
コートを袋から取り出す。頭の中でファンファーレが鳴ったような気がする。軽く折りたたまれていた戦利品は入れ物から抜け出したことにより広がり全容を見せた。
ああ、カッコ良すぎて我慢できない。早速羽織ることにした。
これだよ、これ。羽織った瞬間、買ってよかったと心底思った。膝まで着きそうな長い裾、くびれに合ったスリムなシルエット。
狭い試着室で着たものと本当に同じものなのか疑問を抱いた。さっきのは偽物だったのだろうか。
これなら『マトリックス』に出られるかな。
そんなことを思いながら次はサングラスをかけたくなった。
気分はキアヌリーブスに昇華する。
それからはしばらく歩いた。
誰もが私を見て羨ましいとかあの服かっこいいとか思っているだろうか。
そう妄想しながら通りすがりに視線を伺ってみたりしていた。
◇
それに飽きてからは喫茶店を探した。
この辺りには雰囲気の良さそうなところが多い。
ガラスに映る自分を眺めながら中を吟味する。
すると車道越しに気になる店が目に入る。
店の雰囲気というより店前のメニュー板に書かれたカエルのイラストが可愛いくて目を引いたのだ。
これは入るしかない。
いつもなら個人経営のお店は避けてしまうのだが今日は違かった。
横断歩道の信号が点滅していたので急いで渡った。
車は停止線で止まっていたので大丈夫だと思ったのだ。
すると突然、横断歩道に足を掛けた所で視界の端に何かが映った。
左側から動物の影のようなものが一瞬見える。
スローモーションで世界が動く中で私はその正体を知る。
車だ。
止まっていた車を反対車線から追い越したのだろう、完全に死角になっていたのだろう。
気が付いたときにはすでに手に届く距離にいた。




