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第34話 必殺技

 レッドがこれから繰り広げるのは飛び蹴り。

 人類格闘技の中で最も攻撃力の高い技。


 台本を読了済みの雨竜はもちろん次の展開は知ってはいたが不安に駆られていた。


『全力でやりかえせ、以上』


 怪人役に伝えた、たった一言のアドバイス。

 彼の顔や経歴すら知るところではないが、一見しても伝わる演技の技量は長年舞台関係に関わってきたこともありすぐさま信頼するに値した。


 見識者の信頼を得ると言うことは長年鍛錬を積んだ者という年齢の壁が発生してしまう諸刃の剣剣でもあることを痛感させられる。


 現に経験の浅い木原の演技は怪人役のそれとは雲泥の差。

 それでも若さを生かした勢いとフィジカルにより経験だけでは埋めることのできないスタミナの差を僅かながらにも生み出した。


 コスチュームにも大きさな差がある。


 生地の薄いタイツにマスクを被っただけのヒーロー側に比べて怪人の造形は鎧を彷彿とさせる囂々しさを誇っている。


 舞台用とはいえどもオーダーメイド。

 機能性に割り振ってクオリティを落としては本末転倒となる業界故にその総重量を支える要は演技者本人のフィジカルとテクニカルに頼り切った作りになっている。


 宿命された枷は案の定、怪人役の体力を確実に奪っている。

 このまま台本通りにレッドの技が決まれば事故になってもおかしくない状況となっていた。


 最悪の事態をただ見守ることに徹する雨竜は不安げな顔で訴えかける少女を見ないように舞台に視線を固定する。


 またここで目を背けるのは2人の俳優に対して失礼極まりない。

 木原には全力の姿勢で演技することを指導して教えを守っている。


 そして怪人役には尊敬の念を抱き全てを任せることにしたのだ。

 舞台は俳優だけが作るわけではない。

 それでも最終的に裏方にできることといえば彼らを信用して託すことだけなのだ。


 レッドが決着を付けるべく全力疾走で怪人は向かっていく。


(初速から早い…!)


 瞬く間に間合いを詰めて飛び上がり慣性を充分に利用した必殺技は人体を破壊するに等しい威力であることは予感できた。


 以前と伏せる怪人はびくともせず誰もがここで決着が着くと確信するなか。

 雨竜だけは見逃さなかった、怪人が指を動かしていたことを。


 ステージを叩きながらレッドの足音の合わせてリズムを取っていたことを。

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