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第15話 さようなら、親友(5826.am10:43)

 彩花と京子はしばらく談笑を続けていた。

出身はどこなのかとか、趣味は何なのかとか。


 後半は子供の頃に何が流行っていたかが話題になり盛り上がった。

『たまごっち』とか『ポケモン』とか彼女もよくやっていたようだ。


 2歳しか変わらないこともありジェネレーションギャップを感じることは少なくとても話しやすい。


 つい数時間前までのモヤモヤした気持ちが不思議なくらい軽くなった。


 この瞬間だけは『後押し屋の彩花』ではなく『ただの彩花』として接することができた気がする。


 思えば今回のタイムリープもそうだが、代行屋になってからと言うもの同年代とこうして話す機会がなかった気がする。


 持ちうる時間を依頼の遂行と解決に費やしていた。

それが生きている自分のなすべきことだと信じて。


 雨竜にはよく止められていた。

だが今回を通じてその意味をようやく理解することができた。


「ところで京子さん。これからデートって言ってましたけど何時から待ち合わせなんですか?」


 ふと、彼女がここに来た理由を思い出し問いかけた。

そういえばデートの詳細についてはまだ何も聞いていなかった。


「ぜ、全然時間気にしていませんでした!たしか11時に待ち合わせなんですけど……あっ」


 左手首につけたシルバーの腕時計を確認した彼女は小さな声を上げた。

その顔は少し引き攣っている。


 そんな様子も見てスマホの画面を覗いてみる。

星空に月の浮かぶ壁紙に『10:45』と白いフォントで示されている。


 再び京子を見ると明らかに焦り始めているのを感じる。


「落ち着いてください、京子さん!どこで待ち合わせているんですか?」


「え、駅前で待ち合わせとしか……」


 この店は駅から5分も掛からない位置にある。

都合がいい、これならこの手で大丈夫だろう。


「素直にこのお店で時間を潰していると伝えてはどうですか?」


 会計などの時間を含めてもこれから向かっても十分時間には間に合う。


 だが相手には悪いが彼女には落ち着いたシチュエーションで望むのがベストだと判断した。


「まだ着いていないのであればここに来ていただくのもありかもしれません」


「たしかに外は寒いですし、いいかもしれません……」


「デート前に誰かと一緒にいたというのもあまりよくないと思うので」


 私は手を挙げて店員さんにコンタクトを取りながら京子に伝える。

先ほどのまでのパニックには陥ってなさそうだ。


 訪れた店員には会計を済ませてから残ってもいいのか相談したがすんなり了承された。


 周りを見るといくつか席がまだ空いていたからだろう。

おそらく昼前の時間帯なのが幸いしたらしい。


 私が椅子に掛けてあったコートを羽織り腕を通す。

その間、京子は備え付けのペーパーにアンケート用のペンでなにかを書き込み始めた。


「あの、何を書いてるんですか?」


「私のメールアドレスです。も、もしよければメールください。か、空メールでも送ってくれればこちらから……」


「必ず連絡します」


 次に会うときは赤の他人になるのは分かっている。

それでも本当のことを語ることは逆に失礼だと思った。


 必ず連絡する、これは自分の本心だし次の世界でも彼女のことを忘れることは絶対にないと思ったからだ。


 やがて書き終えると財布から1000円札を数枚を取り出して共に手渡してきた。


 さすがに貰いすぎだと突き返そうとしたが、ついに最後まで引き下がらなかった。


「私が一方的に相談に乗ってもらったんです。奢るのは当たり前です」


 彩花が入り口に振り返るまでも彼女の顔には自信が宿っていた。

不安に潰されそうな少女はもうそこにはいなかった。


 店を出る時に同じくらいの歳の男性とすれ違う。

紺色のトレンチコートとチノパンといった格好をしており見た目より落ち着いて見えた。


「あの、中で待ち合わせてるんですが」


 微かに聞こえた話し声を耳にしながら私は外の世界へと踏み出した。

凍えるような風が暖房で温まっていた指先の熱を奪う。


 それでも不思議と寒いと感じなかった。

そんなことどうでもよかった。


 私は駆け出す。

白い息を吐きながら年末の大通りを駆け抜ける。


 いまは良き友人の幸せを願うばかりだった。

涙は喜びと寂しさにともに溢れ出して。

慣性に従い、後ろへと流れて行った。

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