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第14話 自信(5826.am9:58)

 小学生時代のトラウマで素直になれない京子。

そんな彼女に同情しながら彩花は自分と重ねていた。


 3年前の事故にあってから自分の人生は1人のものではないと感じるようになった。


 美由紀さんという恩人の人生を背負うと共に十字架も背負うようになった。


 生き残ったことに意味があると考えなければ自分を保てなかったのだろう。

だが日頃からそう考えていると頭に刷り込まれる。


 考え方は簡単に変えることはできない。

それでも自分のことは棚に上げてでも京子のトラウマは取り除いてあげたかった。


 相手の同級生には悪いがこんなことで彼女が縛られるのは理にあっていない。

もう呪縛から解放してもいいはずだ。


「京子さん、私に何か自慢して見てください」


「え、え?」


 私の提案に理解が追い付いていない様子で彼女は驚いた。


 私はそんな彼女を差し置いてまだ手を付けていなかったプリンにスプーンを向ける。


 模様を描かれたデザート皿に盛り付けられたプリン。


 喫茶店の代名詞でもある固茹で。

如何にも苦くて甘そうなサラサラのカラメル。


 すくうと硬さが指から伝わる。

そのまま口まで運んで咀嚼すると卵が口の中で広がった。


「安直な考えですけど自慢したことがトラウマになっているなら自慢しまくって慣れればいいんじゃないですか?」


 プリンを飲み込んだ私は足りなかった説明を付け加える。


 つまりはショック療法と成功体験の組み合わせだ。

刷り込まれた脳みそにこのやり方は安全なんだぞ、と再認識させるのだ。


「で、でも一体どんなものを話せば」


「何でもいいんですよ、どんなことでも私が怒ることは絶対ないんで」


 京子は腕の前で腕を組みながら悩み始める。

第一印象は地味ではあったが毎回リアクションや仕草が豊富で見ていて飽きない。


 本来は明るい性格の持ち主なのだろう。

そう思うと心が痛んだ。


「と、整いました。言わせていただきます」


「お願いします、京子先生」


 息を軽く吸い込む。


「き、今日片思いの男性とデートします」


「ブフッ!?」


 初っ端からとんでもない話題をぶっ込んできた。

思わず吹き出しちゃったじゃない。


「は、張り切って手土産のクッキー作っちゃって」


「クッキー!?」


「き、今日もおめかし頑張っちゃって」


「ぐはっ!」


 彼氏なし、菓子作り未経験、実質数年間風呂なし。

言葉一つ一つが彩花の寂しい胸を突き刺していった。


 しかし我慢だ、我慢。

これは彼女の自信を取り戻すためのものだ。


 俯きながら握った拳をテーブルに押し付ける。

喉まで出かかった反論を必死に抑え込む。


「フッ、フフフフ!」


 頭上から笑い声が聞こえて顔を上げると京子が口を押さえて笑っている。

なんとも楽しそうに。


「もしかして京子さん、楽しんでます?」


「すみません、からかっちゃいました」


 そんな姿を見ていると思わずこちらも笑みが溢れてしまう。


 それからしばらく2人で笑い合った。

出会うのがもっと早ければもっと仲良くなっていただろうに。


 この店内で恐らくこの瞬間だけは。

このアンジャッシュの客席の中では。

ここが1番賑やかなテーブルだっただろう。

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