第13話 心の中の地雷(5826.am9:40)
「誘うところまではよかったんですが、そこから先を全く考えていなかったんです。私も……し、下心はありますし付き合いたいって気持ちもあります」
京子は赤かった頬をさらに赤く染めてカミングアウトをする。
つまり、私をデートを誘えたはいいもののその先どうすればいいのか悩んでいるということか。
いままで純粋な恋バナをしたことがない。
彩花には彼女の恋心がとても儚くて尊いもののように感じる。
お待たせしました、と店員さんが頼んだ商品を持ってきてくれた。
昔ながらの喫茶店らしくきっちりとしたワイシャツ姿の女性店員は手際よくコーヒーとデザートをテーブルの上に並べて戻っていった。
さっそく2人はカップを手にいただきます、とコーヒーに口を付ける。
「私も男性経験があるわけではないので参考になるかどうか」
「彩花さんにお声がけしたのはお付き合いに限ったものではないんです。私ってほら、内気って言われるので……自信を持ちたいんです」
つまり私のヤケクソの蛮行を見て憧れてしまったというわけか。
例えるなら不良の先輩に付いて行ったら不良になった、のと一緒だ。
「……それなら一緒にガラス割りに行きます?」
「や、や!?なんてこと言うんですか!?」
両手を突き出し拒絶する京子。
意外とスカッとするのに。もったいない。
だが彼女の問題点はなんとか理解した気がした。
それに私を参考にしようとしたところも思いの外間違いではない気がする。
要するに彼女は奥手すぎるのだ。
「京子さんって頭に浮かんだことをすぐ口に出さないタイプでしょ」
「よ、よく分かりましたね」
「自信が持てないタイプってそういう人多いので」
何か失敗するんじゃないか?
何か失礼なことを言ったりしないか?
そういった不安が脳内にフィルターを貼って監視をする。
現代人にとって重要なスキルであるのは間違いない。
だがそれも適切に行えばの話だ。
過度に自分を押さえてしまえば逆効果にしかならないだろう。
自分でやったことさえ正解かどうか分からないのなら防ぎようがない。
そもそもこの世に正解というものがないのだから分かるはずがないのだが。
かくいう彩花もその1人であるのだが。
でもだからこそ自分も変わらないといけないのは分かっている。
「昔お気に入りのシールを親に買ってもらったんです」
京子は小学生の頃の話です、と付け加える。
「当時人気でおもちゃ家とか百貨店言っても手に入らなかったんですよ。だからすごくお願いしてて」
テーブルの隅を見ながらゆっくりと語る。
思い出しながらというより苦い記憶に被せた蓋を覗くという感じに。
「両親もすごくいい人達で毎日仕事帰りに色んなところ探しに行ってくれて。お陰で手に入れることができたんです」
京子は満面の笑みを浮かべる。
まるでその頃に喜びが伝わってくるような純粋な笑顔。
だが徐々に表情に影が見え始める。
「人間関係……ですか」
「はい……」
彼女は静かに頷く。
「小さい頃は細かいことは考えていませんでした。親が探してくれて手に入った、そんな話を脚色なく学校で自慢してました」
コーヒーに口を付ける。
「ですが友達の1人に片親の方がいてその子にも自慢してしまったんです。両親が探してくれたお陰だーって」
それが地雷となってしまったのだろう。
後にその子に一方的に因縁を付けられて疎遠になったと語る。
トラウマになってもおかしくはない。
それにこの手の話は難しいものだ。
相手が何を考えているかなど完全には把握できない。
そんなつもりはなかったと理不尽に因縁を付けられたと感じるだろう。
だが不思議なことに相手の視点に立っても共感できる。
この子にとって京子さんの自慢は自分のハンデを馬鹿にされたと解釈もできるのだ。
「それ以来言動には気を使うようにしてます」
自嘲気味にフッと笑う。
それは実現した子供時代の自分に向けてなのか。
いつまでも引き摺っている現在の自分に向けてなのか。
彩花にはそれは解らなかった。




