第11話 謎の女との出会い(5826.am8:28)
ガラスを割ることばかり考えて割れた後のことを考えていなかった。
最新ファッションに彩られたマネキンは降り注いだガラスの破片まみれになっている。
これはやばい。
彩花は周囲の視線がこちらに向くのを感じる。
捕まりでもしたら面倒だ。
店の人間が来る前に走り出そうとした。
しかし踏み出そうとした足は岩のように重く動かなかった。
心の隅にある良心が罪悪感を訴えたのだ。
「すみませんでした、責任を取らさせてください」
私はその場に残り深々と頭を下げた。
音を聞きつけ駆け付けた警備員2人は出会い頭に頭を下げる私を見て驚いたことだろう。
すでに逃げたと思った犯人が逃げていないなど想定外だっただろう。
しかもすでに反省の意を示している。
口が塞がらないのも頷ける。
鳩が豆鉄砲でも喰らったといった様子だった。
「えーと、だな……とりあえず事情を聞きたいから警備室まで来てもらえる?」
警備員2人の内、恰幅のいい片割れが戸惑いながらも指示をする。
「分かりました……え、ちょ!……え?」
素直に受け入れようとしたが最後まで言葉を出すことができなかった。
異常事態が発生したのだ。
そいつな突如警備員と私の間に割り込むことで遮られた。
「ま、まま!待ってください!こ、この人は私が引き取るますのでお帰りください」
見た感じ20代前後の三つ編みの眼鏡をかけた女性が私たちにそれぞれ両腕を広げた。
地味そうな人だが服装は黒のワンピースにクリーム色の高そうなコート。
女性同士のお出かけには使わなそうな黒い大人っぽいハンドバッグ。
これは明らかにこれから男とデートと行った身なりだ。
だが足も肩幅大に広げているためまるで大関の四股を踏んでいるようにも見えた。
彼氏さんもまさか大勢の前でこんなに彼女が注目されているとは思わないだろう。
「お姉さんは誰ですか?」
私は恐る恐る問いかける。
「川崎京子といいます!あ、あなたのその威勢の良さの秘訣を教えていただきたいのです!」
威勢の良さという言い回しがどこか馬鹿にしているように感じるが彼女は特に悪気があるようではなさそうだ。
グッと堪えた。
彼女の要望も正直よく分からないがこのチャンスは逃してはいけないと感じた。
「警備員さん!修理代は必ず払うのでちょっと行ってきてもいいですか」
「だめだ、残りなさい……っておい!」
言い切るのも待たずに川崎さんの手を引いて走り出した。
走りにくそうな服装だが運動はできる方のようだ。
追いかけてくる警備員だったが2人に追いつくことはなかった。




