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第10話 そしてヤケになる(5826.am9:08)

 誰かを手助けするには相手の立場になって考えなければならない。

後押し屋の真意を語る雨竜さんはどこか懐かしんでいるように感じる。


「我々がやらなければいけないことを見極めないといけない」


「それってその人が間違っていたとしてもですか?」


「口に出していいのは手段だけだ。目的を決めるのはそいつの権利だ」


 きっぱりと断言され彩花は口をつぐむ。

未だに彼の伝えんとすることが理解できていない。

だがこれまでの言葉から今に至るまでの情報をまとめてみることにした。


「つまり後押し屋はあくまでも依頼人の好きなことを好きなようにやらせるってことですか」


 なんか嫌な言葉回しになってしまった。

だが意外にも雨竜は納得がいっているといった小場をしている。

分かってるじゃないか、と口端を上げる。


 楽しそうなこの師匠を見ていると微かだがイライラを覚え始める。

こっちは真剣に悩んでいるのに何なのだ。


「もういいです!私は私なりに行動させていただきます」


 これ以上いてもストレスが溜まるばかりだと思い椅子から立ち上がる。


「一つだけ約束してくれ」


「何でしょう」


 雨竜は私の態度を見ても姿勢を崩さない。

余裕綽々な雰囲気だ。

私は目を合わせないで返事をする。


「お前が職務を放棄するのは構わない。それを決めるのは担当に選ばれたお前の権利だ」


 忠告でもされると思った。

コートを羽織っていた手を止めて彼の顔を注視してしまった。


「だがあの男は代行屋を頼り。お前はそれに答えて駆けつけた。この事実だけは頭に入れておけ」


 まぁ頑張れよ、見送る彼の言葉は彩花は店を出ても脳内に残った。


 ◇


 彩花はしばらく歩くことにした。

日差しすら届かないほど冬の風が地肌に刺さる。

駅前の通りは人通りが多く、カップルや友達同士など老仲男女様々な人とすれ違う。


 本来ならこの周回には用がない。

目的である葉山が死んでしまっている。

すぐにタイムリープして彼の指定した場所に向かってもよかった。


 しかしこの憂鬱な気分はいますぐ払拭したい。

いま会っても気分が下がるだけのような気がした。


 それに理由はもうひとつある。

タイムリープしてしまえば葉山の告白も、師匠との喫茶店もなかったことになる。

この出来事だけは何としてでも噛み締めておきたかった。


 そういえばこの展開はループを始めたから初ではないか?

もしかしたらこのまま続ければなにか糸口でも掴めるのではないか。


 そう思ったら心から少し軽くなった。

まるで先の見えない旅筋に一筋の光明が刺した感覚。


 ふとすれ違うアパレル店のショーケースのガラスに自分が写り込んでいるのに気付く。


 一張羅のコートにボブカットの自分。

もうこのタイムループは実感として何年も経っているが実際は1日も経っていない。

ずっとこのファッションだ。


 だが何も変わらないはずのその少女の顔には疲れが滲んでいた。

長い長い時間で積み重ねた挫折が目元や姿勢に浮き出しているようだった。


 年頃の少女とは思えないオーラ。

いつから私はこんな顔をしているんだ。

自傷気味に少し笑う。


 このガラスを割ってしまえばもう見なくて済むだろうか。

こう思った瞬間、彩花のリミッターは外れた。


 ちょうど歩道の隅にギリギリ手に収まるほどの石ころを見つける。

おそらく街路樹の土から蹴られたりしてここに至るのだろう。


 これを投げたらなにか変わるだろうか?

今時、店のショーケースのガラスは強い素材を使っているだろうから割れはしないだろう。


 それにタイムリープを使ってしまえば誰の記憶にも残らない。

通報されても警察が来る前に逃げて仕舞えばいい。


 そう思って全力で投球した。

ガラスに映る自分へ。そして好みじゃないモコモココートのマネキンへと。


 自己最高のフォームで投げられた無名の小石は狙った場所からかけ離れたガラスの角の方へと飛んでいった。


 ピシッ。

当たった瞬間に嫌な音が響く。

穴は空いていないが小さなヒビが確認できる。


 やがてその小さな綻びは段々と広がっていき。

一面を覆う大きな蜘蛛の巣となった。


 私は恐る恐る近づいた。

まだなんとかなるだろう、希望を探すように目の前までくる。


 先程まで透明だったそれは大小様々なヒビ割れによって白くなっている。

冷や汗が流れてくる。


 寒気を覚えながら震える手をそっと前に出す。

触って大丈夫ならそのまま知らんぷりしよう。


 よからぬ考えを抱いていたのは事実だ。

だが現実はそんなに甘くはなく、あっさりとガラスは割れた。

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