闇夜の死闘〜前編〜
「ふう…お腹いっぱいなのだ!次は奴らの巣を探すのだ!」
時間は昼。昼食にオヴィラプトルのフライドチキンを食べたルティカ達は国の問題となっている翼竜達の対処に向かおうと外へと通じる門に向かう。
「何で外に行くんだよ」
「ヴェロキラプトル達から聞いたんですけど、ディモルフォドンやプテラノドンは国の中に巣を作っていなかったんですよ」
「国の中に…作ってない…もしかして、あのワイバーンはエサを取る時は国の外から入って来てるの」
「ヴェロキラプトル達も最初は国の中は居心地が悪かったみたいなんですよ」
動物の巣とは人間で言う家と同じ物だ。寝床でもあるし、子供を育てる場所でもあるため、安心して落ち着ける場所が最低条件となる。そのため野生動物は基本的に人間の生活圏から離れた自然の中で巣を構える。
相手は空を飛ぶため、必ずしも国内に巣を設けているとは限らない。ましてやエサが手に入りやすいとは言え、基本的には非力な生き物だが厄介な人間が大勢いるため、巣を構えるのは危険と理解している可能性が高かった。
おまけにエインは生体電流でヴェロキラプトル達に巣を探させたが、それらしい物を国内で見つけることは叶わなかった。
「だからきっと巣は国の外にあるんですよ」
「なるほどな。外に探しに行くのも納得だな」
既に探したのならば、あるとしたら国の外しかない。寧ろ国の中か外かの問題であるため、消去法で考えれば後は外しか選択肢はないのだ。
「よーし、出発なのだー!」
「本当に元気なお姫様だね」
子供が探検ごっこのようなテンションでルティカを先頭に、一行は国の外へと通じる門を潜るのだった。
「ほら、ロボ。この匂いを覚えて」
『クゥン』
門の外に出たエインはいつの間にか持って来ていた革製の鞄から、午前の騒動で手に入れたディモルフォドンの排泄物を詰めた袋の中の匂いをロボに覚えさせる。
『キャンキャン!』
覚えてひとしきり辺りの匂いを嗅いだロボは先導するように匂いを辿りながら街道を歩き出す。
「おお、あっちなのか」
「行ってみようよ」
これなら見つけるのは簡単だとルティカとエインは意気揚々とロボの後を追いかける。そして一同は街道を暫く歩いたかと思えば、道を外れて森の中へと入って行くのだが…。
「…こいつは何だ?」
「何って…臭っ」
先導していたロボが止まったと思えば、目の前には翼竜の巣の代わりに悪臭を放つ物体が山として積まれていた。
「これって…うん」
「ちょ、姫様!はしたないですよ!」
「糞だよね」
思っていたことをルティカが真っ先に答えそうになり、ラーナが止めるもののエインが代わりに言ってしまったことに肩を落とす。
「これってあいつらの糞か?」
辿り着いた先に山として積まれた糞があると言うことは、ディモルフォドンの落とし物なのかと訊ねるもエインは首を横に振っていた。
「ううん、ロボはこれの匂いでディモルフォドンの匂いが分からなくなったみたい」
『クゥン…』
『申し訳ない』と言わんばかりにロボは耳をペタンと畳んでエインを見上げていた。
「こんなの良いから、ワイバーンの巣を探さないと」
「あ、待ってください。近くに川があるみたいですよ」
「喉でも渇いたのか」
「ディモルフォドンとプテラノドンは魚が好きだから何か分かるかもしれないですよ」
探してるのはこれじゃないし、本当の目的を果たすためにも今は動くべきだ。だからこそエインは魚を捕るためにやってくるであろう翼竜達を川で待ち伏せすることを提案した。
「ここら辺はよく開けているな。あいつらが飛んでやって来そうだ」
「お、亀もいるのだ!」
その川は木々が開けて青空が見えており、流れも穏やかで魚が時折跳ねていたり、お腹側だけに甲羅を持つ原始的な亀『オドントケリス』が日光浴しており、翼竜が餌場にするには持ってこいの場所だった。
「本当にここに来るの?」
「分からないけど、翼竜は魚が好きだから必ずここへ来るはずです」
半信半疑だが、手掛かりが無い以上はエインの言う通り待ってみるしかなかった。
「あいたっ、何なの」
すると上からバラバラとドングリのような樹の実や小枝が自分達に向かって落ちてくる。自然に熟したり枯れたりして落ちてきたにしてはピンポイント過ぎるためにラーナは上を見上げる。
『キャッ!キャッ!キャッ!』
『『ウキキ!』』
「猿?」
「『ダーウィニウス』ですよ」
木の上には大きな丸い目をした尻尾の長い猿の『ダーウィニウス』が面白半分に騒ぎ立てながら、枝を揺らして物をラーナ達の頭上に落としてくる。
『『『キャッ!キャッ!ウキキ!』』』
「あいたっ!何するのだ!」
「うわっ!これ腐ってるぞ!」
それからダーウィニウス達は木の上から枝や樹の実やらを狙って投げつけてくる。
『クオオオ…』
振り注ぐ木の枝と樹の実にてんてこ舞いになっている間に肝心のプテラノドンが対岸に着地して、水の中にいる魚に狙いを定めていることに誰も気付かない。
『……』
しかし狙いを定めているのは何もプテラノドンだけではなかった。その水中からプテラノドンの存在に気が付き、音も立てずに狙いを定めて近寄っていく。
「ちょっと止めて!」
『キャッキャッ……っ!?』
エインの呼び声にも応じずイタズラを続けるダーウィニウスだったが、不意に波を打ったかのように静まり返る。
『『『キャアアアア!?キャアアアア!?』』』
「急に何なのよ」
さっきまで面白半分でからかっていたのに、突如として怯えた様子で吠え立て、枝を揺らして威嚇をしてくることに何様のつもりだとラーナは怪訝な顔を浮かべていると、ザバアアン!と言う派手な水音が聞こえてきた。
『グエエエ!?ギャアアアア!?』
見てみると探していたプテラノドンが水面で藻掻き苦しみながら羽ばたいていたのだ。
「あいつに吠えていたのか?」
「ううん…違うよ。ダーウィニウスが怖がっていたのは…あれだよ!」
エインが指差した瞬間に水面からプテラノドンの脚に絡みつく長く太い巨体が水しぶきを上げながら姿を見せてきた。
『ギシャアアアア!』
水面からアナコンダを遥かに上回る大蛇が水面から飛び出し、プテラノドンの身体に自慢の体躯を巻き付けて水面に沈めようとしていた。
「バジリスク!?」
「あれは『ティタノボア』だよ。前にも会ったことがあるんだ」
その大蛇の正体はグランドレイク王国付近でも出会ったことのある『ティタノボア』だった。
『グゲェ…!?』
「絞め殺しやがった…毒も魔法も使わず、自分の身体の力だけでワイバーンを…」
ティタノボアの身体は筋肉の塊も同然であり、長い身体が巻き付いた時点でプテラノドンの運命は絞め殺されると決まっていた。単純な力だけで翼竜を仕留める狩りの一部始終にカルロスは戦慄していた。
『グゥ…シュシュ…!』
「あ…頭から呑み込んでいるのだ…!?」
口を大きく開いたかと思えば、プテラノドンの頭部を咥え込み、そのままズルズルと喉の奥へと押し込むように呑み込んでいくことにルティカは恐怖していた。
「問題は解決したんじゃないのか。ワイバーンは食われたことだし」
「そう…なのかな」
プテラノドンの姿がティタノボアの胃袋の中に完全に消え失せた。身体がその分だけ膨張したことでティタノボアは消化のために寝そべり始めたのを見て、カルロスは問題解決したと呟くもラーナは疑問に思っていた。
「とにかくここは危険だから離れよう。ティタノボアはお腹いっぱいだから暫くは餌を食べないはずだよ」
触らぬ神に祟りなし。満腹になったティタノボアは暫く動かないため、エイン達は刺激しないようこっそりと離れることにした。
「よっ、はっ、それで次は何処を探す」
剣で周りの邪魔な草木を切り祓いながらカルロスは前進するが、行く宛もないのにこのままで良いのかとエインに訊ねる。すると彼の側にいるロボがしょぼんとした表情を見せていた。
「さっきダーウィニウスから投げられた樹の実の匂いのせいで、ロボはまだ匂いを見つけられないみたい。僕が木の上から探してみるよ」
先程のダーウィニウス達からのイタズラが思わぬ置土産となってしまい、エインは木の上から探すためによじ登り始める。
「よいしょ、よいしょ」
木に登っていくエインは次第に枝や葉に隠れて姿が見えなくなっていく。
「木に登ったぐらいで分かるのかな」
「さあな。まあ、ここから国境の壁まではそう遠くないからきっと」
「わああああ!?」
先程から中々上手く事が運ばないことに心配していると、予想的中と言わんばかりのエインの悲鳴が木の上から聞こえてくる。
「いたたたっ!?」
「ちょ、どうしたの!?」
枝に身体をぶつけながらエインが上から転がり落ちてくる。だが、落ちてきたのは彼一人だけではなかった。
『『『ピイ!ピピピッ!』』』
「痛い痛い!止めてって!?」
エインと共に木から落ちて彼の身体を嘴で突いているのは、先程のプテラノドンではあったが明らかに身体が小さい幼体だった。
「あう!うあっ!」
そこへトウガが両腕の翼を大きく広げ、口の中に見える鋭く尖った歯を見せながら叫び出す。
『『『…!?』』』
それを見たプテラノドンの幼体達は、翼の形は違うが前脚に同じく翼を持つ者に威嚇されたために面食らう。
「その小型ワイバーンはどうしたんだ」
「うっかりプテラノドンの巣の中に入っちゃったみたいで…あっ!危ない!?」
事情を説明する間もなく、エインはカルロスを押し倒したかと思えば、さっきまで立っていた場所の頭上を何かが猛スピードで通り過ぎたのだ。
『クエエエ!クエエエ!』
「あれはもしかして…いや、もしかしなくとも…」
「この子達の親が来ちゃった!?」
ラーナの悪い的中通りだとエインは親のプテラノドンが来たことを慌てながら伝える。
「ここであったが三年目なのだ!さっきはバジリスクに横取りされたけど、今度こそやっつけてやるのだー!」
飛んで火に入る夏の虫と言わんばかりにルティカは子供用の剣を抜いて空にいるプテラノドンに啖呵を切っていた。
「それを言うなら百年目ですよ!って言うか危ないですよ!」
「離すのだ!二度と民達を困らせないもうに懲らしめてやるのだ!」
『クエエエ!』
ラーナからツッコミを入れられながらルティカを引っ張っているとプテラノドンが目の前を空を切るようにスレスレを滑空した。
「お…おおっ…!?や…やるのか!?掛かってこいなのだ!?」
「やっぱり怖いんだな」
サッとラーナの背後に隠れながら叫ぶものの完全に強がりだった。歳の割には民のことを考えている辺りは姫として立派だとは思っていたが、こう言うところは年相応だなとカルロスは親近感を覚える。
『ケエエエエ!』
「わっと!」
そんなルティカ達には目もくれず、プテラノドンはエインの側を滑空して幼体達を後ろ脚で掴んで空へと去っていく。
「こ、コラー!戻って来るのだ腰抜けー!」
『ケエエエエ!』
「ひゃあああ!?」
逃げたと思い負け犬の遠吠えみたいな捨て台詞を吐くルティカだが、それをプテラノドンが理解して腹を立てたか分からないが、Uターンして滑空してきたために彼女はその場に伏せて縮こまる。
「完全にバカにされてるな」
「姫様、大丈夫ですか」
「くうっ…情けないのだ…」
今度こそ飛び去ったことにホッとするも、民の前で情けない姿を晒したとルティカは啜り泣いていた。
「あれ、あれ…!?」
「どうした」
気を取り直して再び巣を探そうと思っていたが、エインは先程よりも慌てた様子を見せていた。
「トウガがいない!?」
「え、何処に行ったの」
さっきのプテラノドンの滑空に気を取られて、トウガの姿が見えなくなっていたのだ。
『ピイ、ピイ!』
「あれ、プテラノドンの子供がどうしてまだここに…」
するとエインの肩にはプテラノドンの親が取り戻したと思っていたプテラノドンの子供の内の一匹がしがみついていたのだ。
「おい、まさかあのワイバーン…間違えて、あのハーピーを連れ去ったんじゃ」
「そんな…トウガ!?」
まさかの事態にエインは上空を見てみるも、既にプテラノドンの姿は何処にもなかった。
▷▷▷
『クエエエ』
そのプテラノドンは川沿いの木の上に着陸し、我が子達が無事かどうか確認していた。
『『ピイピイ』』
「あう、うう〜…」
その内の二匹は無事そうであったが、一匹だけ見た目が大きく異なる姿ことに親は首を傾げる。
『ピイ!ギャア!』
『ギャア!ピイ!』
明らかに兄弟ではないどころか、異種であるトウガに対してプテラノドンの子供達は翼をバタつかせて威嚇してくる。
「うがああああ!」
小柄な身体からは想像出来ない「やかましい!」と言わんばかりの大声に子供はもちろん、親のプテラノドンも面食らう。
『…ケエエエエ』
間違いであると気付いた親プテラノドンはどうしたものかと考え込んだ果てに、置いてきてしまったもう一羽の我が子を探しに再び空へと飛び立つ。しかし木の根元に広がる水中には虎視眈々と樹上に狙い定める眼光が灯っていた。
『バウ、バウ』
「あっちだね」
その頃エイン達はロボの嗅覚を頼りにトウガの足取りを追っていた。
「今度は大丈夫か」
「プテラノドンは空を飛んでる時に糞を落としていってるから、今度は大丈夫ですよ」
先程のこともあってカルロスは不安視していたが、空を飛んでいる時に落としたであろうプテラノドンの糞尿を頼りに追っているためエインは自信満々に答える。
『ウォン、ウォン!』
「もうすぐトウガの所に辿り着くみたい」
「ん、何か変な音がするのだ」
目的地に近付くに連れてルティカは木の幹がメリメリと潰されるような異音を耳にした。
「止まって!」
何かに気が付いたエインは立ち止まるように警告する。草木の隙間から目的地と思わしき1本の木が目に入るが、その幹には宿り木とは異なる長く太い物体が巻き付いており、しかも現在進行系で上へ上へと這い上がっていたのだ。
「何あれ…動いてる?」
宿り木のように他の木に巻き付いてツタを絡みつかせるのは珍しいことではない。問題は滅多に見れないはずの植物の成長過程を目の当たりにしていたことだ。
「そう言えばここはさっきの川じゃないか?まさかあれは…」
更に思い出したのがここはさっきまでいた川の辺りで、木の幹を這い上がっている物体にも見覚えがあった。
『シュシュシュシュ…』
「やっぱりティタノボアだ……あ!」
その正体は川の辺りで別個体のプテラノドンを捕食していたティタノボアだった。あれだけでは物足りなかったのか、木の上にいる獲物を狙っているのだろうかと見上げた瞬間にエインは言葉を失う。
「うう?あう…」
「トウガ!」
なんと狙っているのはよりにもよってトウガとプテラノドンの子供だった。
「大変なのだ!早く助けないといけないのだ!」
「でも、あんな高い位置にいるのにどうやって…」
気持ちは分かるが既にティタノボアの頭は木の天辺近くまで這い上がっており、このままだとトウガとプテラノドンの子供はあっという間に丸呑みにされてしまう。
「そうだ!これなら…」
エインは鞄から3枚の羽を持つプロペラのような物を手に取る。
『シャアアアア…!』
ティタノボアは二匹と一人に気付かれないよう息を殺しながら背後へ忍び寄り、静かに顎をこれでもかと大きく開ける。その喉の奥はブラックホールのように呑み込まれたら二度と生きて帰ってこれないほどに真っ暗だった。
「トウガ!」
エインは生体電流を手にしたプロペラのような物に纏わせ、ティタノボアの頭部に向けてブウンと空を切るように投げる。すると回転音と火花を散らしながら羽はティタノボアの左目を掠めた。
『ギシャアアアア!?』
「あう!?」
真後ろで悲鳴が挙がったことと、いつの間にか近寄っていた外敵にトウガ達はギョッとなる。
『シュシュ…ギシャア!?』
不意を受けたティタノボアは諦めてたまるかと執拗にトウガ達を捕食しようと鎌首を上げる。しかし空を切る音と火花の音はまだ鳴り止んでおらず、今度は右の鼻先をプロペラのような物が掠めていった。
「戻って来た。あれってもしかしてブーメラン?」
「トウガ!こっちにおいで!」
ラーナの質問に答える余裕もなく、エインは戻って来たブーメランをキャッチして腕を広げ、トウガに自分の胸に飛び込んで欲しいとジェスチャーをする。
「うっ!あうあ!」
『『ピィ!?』』
意図を察したトウガは脚でプテラノドンの子供を掴み、意を決してエインの胸に向かってジャンプした。
『シャアアアア!』
「トウガ!後ろだよ!危ない!?」
まだ諦めていないらしく、ティタノボアは口を大きく開けて木の上から飛び込むようにトウガ達を食べようとする。
「…!あうあ!」
『シャア!?』
背後のティタノボアに気付いたトウガは本能的に両腕の翼を広げる。それにより空気抵抗が生じてトウガの身体が滑空を始め、ティタノボアの顎からスルリと逃れるのだった。
「あう…!うあ…!」
「トウガ…!スゴいよ!こっち、こっち…捕まえた!」
拙いながら空を飛ぶトウガにエインは喜び、着地する場所を予測して回り込みトウガ達を受け止める。
「スゴいよ!空を飛んだね!」
「あう〜!」
「おい、今はここから離れるぞ!あいつキレやがったぞ!」
成長に喜ぶのも束の間、このままぐずぐずしていたら噛みつきが空振りになった上に、木から落ちてしまったことに激怒したティタノボアに丸呑みにされて人生終了になってしまうだろう。
『シャアアアア!』
「意外に素早い…!?」
ここは森の中だがティタノボアは長い身体をくねらせ、障害物を避けるように追い掛けてくるため思ったよりも確実に距離を詰めてくる。
「あう!?」
「ルティカちゃん!?」
しかし木の根に足が引っ掛かりルティカは転んでしまう。その間にティタノボアは距離を詰めてくる。
「くそ、もう追いつかれるぞ」
「どうしたら…ん?その木の根は…」
ティタノボアが這い寄ってくる音が次第に死神の足音のようにも聞こえカルロス達が覚悟を決める中でエインはルティカが転んだ木の根の先端にスパイクが備わっていることに気が付く。
『シャアアア…ギシャア!?』
「木の根が動いた!?」
獲物の姿を捉えたティタノボアは鎌首を上げるも、地に伏せていたはずの木の根が突如として持ち上がって鎌首をアッパーするかのように押し上げた。その木の根の先には幹があるはずなのだが、そこには五角形の板が縦に2列に並んだ小山があったのだ。
『ブオオオ!』
「『ステゴサウルス』!」
その小山の正体は背中に特徴的な板のような突起物を持つ草食恐竜ステゴサウルスだった。ルティカが躓いた木の根の正体はステゴサウルスの尻尾だったのだ。
『シャアアアア!』
『ブオオオ!グオオオオ!』
互いに天敵と邪魔者と言う間柄であり、ステゴサウルスとティタノボアは共に睨み合う。
「今の内だ!こっちだ!」
争っている間にルティカを立たせてその場から逃走する。
「きゃあっ!?」
「うわっ!?滑る!?」
ところが暫く行くと地面がぬかるんでいるのか、足を取られてツルツルと泥沼のような場所に滑り落ちてしまう。
「うへぇ…ドロドロで気持ち悪い…」
泥パックなんて目じゃないほどに全身に泥を浴び、泥人形になってしまったことに気持ち悪がるラーナ。
「逃げ切ったのかな」
「うっ!うう〜!?」
まだ危険は去ってないと伝えるかのようにトウガが叫ぶものの、その危険であるティタノボアは泥沼の近くまで這い寄ってきていた。逃げようにも思ったよりも泥沼に深く足が埋まってしまい、逃げることも叶わなかった。
「「「……!」」」
目の前に恐ろしい巨大蛇の顔とチロチロと先端が分かれた舌が突きつけられる。荒い息遣いと爬虫類特有の生臭さが伝わって来て、エイン達もプテラノドンの子供達も間近に迫る生命の危機に思わず息をするのを忘れてしまう。
『……?』
ところが狙うべき獲物は文字通り目と鼻の先にいるのに、ティタノボアは目的を見失ったように辺りをキョロキョロと辺りを見回していた。
「「「…?」」」
「どうしたんだ?」と言わんばかりに互いに顔を見合わせていると背後からドスドスと重い足音が聞こえてきたことで、ティタノボアはズルズルと身体を引きずって何処かへ逃げていき、入れ替わりで足音の主が泥沼までやってくる。
『ブオオオ…』
足音の正体は先程のステゴサウルスだった。こちらはティタノボアが去ったのを確認するとこちらをジッと見つめてくるために一同は再び息を呑む。
「…大丈夫、ステゴサウルスは草食で大人しいモンスターだよ」
「そ…そうなの?」
「それとこのステゴサウルス、ひょっとしたら僕知ってるかも」
エインはステゴサウルスは基本的に無害で、しかも目の前にいる個体は顔見知りかもしれないと告げてくる。
「もしかして君は…やっぱり!」
その証拠を確かめるためにエインはそのステゴサウルスの脚に何かが巻き付いたであろう傷跡があるのを見て確信を持つのだった。
「君はあの時の子だ!大きくなったね!」
『ブオオオ〜…!』
何を言っているのかラーナ達には分からないが、エインとステゴサウルスは久しぶりにあった友人のように触れ合っていた。
「そいつは何なんだ。そいうもお前のペットなのか」
「このステゴサウルスはまだ子供だった時に、脚に茨が巻き付いているのを僕が見つけて助けたんだよ」
と言うのもこのステゴサウルスはエイン達がこの異世界に転移して間もない頃に、国の外で助けを求めるキャラバンの元へ行く道中で茨が巻き付いて困っているのを助けた個体だった。
「すっかり大きくなったね!」
『ブオオオ〜…!』
助けた時はエインの背丈と変わらない大きさであったが、今では大人の仲間入りを果たしてアフリカゾウと同サイズにまで大きくなっていた。
「なんと言うか…スゴいな。外にまでこんな知り合いがいるのか」
前々から何処か特異的な部分に驚かされていたが、例えロボやフォークのように常に従わせることもなく、モンスターと繋がりを持てているエインにカルロスは語彙力を失うもののスゴいとしか言えなかった。
「それにしてもさっきのバジリスクはどうしてあたし達のことを見逃したのかな」
「見逃したと言うよりも、見失ってたようにも見えたのだ」
話は戻ってティタノボアが目の前にいた自分達を見失ったことに疑問が浮かぶ。すると不意に辺りの光量が少なくなり、ほの暗くなっていくことに一同はハッとなる。
「マズい、日が暮れてきたのか」
「ここから王国までは遠いのだぞ」
紆余曲折あって奥へ奥へと来てしまい、気が付くと戻りたくともすぐには帰れない場所に来ていたことに肩を落とす。
「こうなったら野宿するしかないですね…」
日が沈むまで辿り着くのは不可能だ。無闇に動けば夜行性のモンスターと出くわす危険性がある上に、自分達は逃げたり登ったりでヘトヘトになっていた。そう考えたラーナ達は野宿の準備を始める。




