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王位継承戦、開幕!

城に辿り着くとキオナ達、王族五人兄弟が王座の間でリオーネからパラサウロロフスの脱走事件が解決した報告を聞いており、エインも自分が見たこと全てを説明した。


「なるほど…今回の騒動であの地下の収納スペースから何かが盗まれたのですね」


詳細を聞いたキオナはあんな所にこんな騒動を起こしてまで欲しがる物があるとは思いもよらなかった。


「しかし何が盗まれ、誰が盗んだかはお前も知らんと言うことか」


「はい…その通りです」


次に口を開いたレイスニーは肝心の情報である盗品と盗人の詳細を聞くもエインは答えられなかった。


「けど、リリーちゃんが言うには女性だったそうで…」


「グランドレイクには女性が山程いるんだぞ。虱潰しに探せと言うのか」


他に手掛かりと言えばエインよりも幼いリリーのザックリとした目撃情報ぐらいだ。それでは国全体から犯人を特定するのは砂金を探すより難しいだろう。


「しかしエインには悪いが、それは我らに取っては却って好都合だ!」


とどのつまり、これ以上はどうしょうもないかと思われたが、兄弟の中央にいたエグルマだけは何故かこの状況を笑って良しとしていることにエインは首を傾げる。


「予(かね)てから準備していた王位継承の儀式…名付けて『王位継承戦』の用意が整ったのだ!」


「は…はあ…?」


「リアクションが薄いのだ」


前々からそんな話は聞いていたが、それと今回の騒動のことがどう繋がるのか分からず更に首を傾げるエインにルティカは苦笑いを浮かべる。


「兄上、ルティカ。それでは支離滅裂で訳が分からないだろう」


「おおう、そう言うことか。つまり我々、五人兄弟の中で正統な次期国王を選出するための方法が決まったのだ。ズバリ、それは…『この異世界で如何に国と民を豊かにするか』だ!」


レイスニーからの補足により、エグルマは順を追って説明するように選出方法のテーマを述べた。


「身分も立場も老若男女も関係なく、私達はこの異世界に来たことで魔法もスキルも使えなくなったでしょ?」


「ですから次期国王として相応しいのは、この異世界で魔法とスキルも無しに民の安定した生活を提供しつつも、国を発展させることが出来ると言うことに決定したのです」


「つまり民が喜ぶことをしたり、国が良くなっていくことをした人が次の王様なのだ!」


この異世界での前提を話すシフォンに続いて、キオナが次期国王には何が必要かと説いて、ルティカがより分かりやすく結論づける。


「…ってことは、僕の盗まれた物を取り返すことも含まれてるの?」


「「「「「その通り」」」」」


兄弟五人が口を揃えて肯定してくる。つまりエグルマは兄弟の中で誰かがエインの盗まれた物を取り返すことが出来れば、次期国王としての一歩を進められると言いたかったのだ。


「エグルマ兄様の言う通り、エインには悪いですが今回のことは王位継承戦に利用出来そうですね」


「まあまあ、とにかく今は国の人達に今回の王位継承戦の詳しいルールを説明する必要があるわよ」


「焦らない焦らない」とシフォンがキオナ達を引き止め、まずやるべきことをすべきだと諭すのだった。


「よし…皆の者おおおおーー!!城に集まれえええぇぇぇー!!!」


豪快な性格に違わず、エグルマは王座の間から国境の壁の端まで届くほどの大声を張り上げる。その大声はパラサウロロフスの鳴き声をも掻き消し、鳴く子も思わず黙ってしまう。


▷▷▷


「国民の皆、集まってくれたな」


無駄に大きいエグルマの声のお陰で国中の人々が城に集まったことをレイスニーが確認する。しかしながら国民全員が責めるような目付きをしていた。


「耳が痛いのは兄上が済まないことをした。しかしながら大事な話があるので早急にな」


なにせ次期国王を決める選出方法が決まったのだから一刻も早く国民に知らせたいのはレイスニーも同じであった。


しかしシフォンから「皆の耳が良くなるまでもう少し待ってあげましょうよ。でなきゃ聞こえないわよ」と再び諭されたために発表は集合に反して遅れることとなった。


「では発表は国王代理であったこの私、キオナ・ロイテルスから発表させて貰います」


聴力が回復したのを見計らい、それまで国王代理を務めたキオナから説明をする。


「今回集まって貰ったのは兼ねてからの次期国王を選出する方法が決定し、国民の皆さんにも周知して貰おうと集まって貰いました」


「次期国王はキオナ様じゃないのか?」「一番年上のエグルマ様だろ」「でも次期国王を選出するって」…など、様々な憶測や疑問が飛び交い、それまで耳鳴りが治まるまで静かにしていた国民がザワつき始める。


「今までならば第一王位継承者のエグルマ兄様か第二王位継承者のレイスニー兄様を選出したでしょう。しかしそれは元の世界での話です」


キオナは敢えて話の核を言わなかったが、その台詞には今の自分達や国民の境遇についてを物語っていた。


「知っての通り魔法とスキルが使えなくなり、それまで通りの暮らしを送れなくなり、この異世界へ来てから大勢の犠牲者を出してしまいました」


しかし犠牲者や苦難を忘れないために改めて現状を悲しげに説明し、国民もキオナの表情を見て犠牲者を悼むように悲しげな顔を浮かべ、まるで黙祷(もくとう)でもするかのように項垂(うなだ)れる。


「だからこそ私達には新しいやり方で次期国王を選ぶ必要があるのです!その方法は…私達五人の中で国民をより笑顔にし、国をより豊かにした者こそが次期国王となるのです!」


それまで魔法やスキルなどの能力の高さや、それに伴う実力を考慮して次期国王を選出していたが、この異世界では新たな方法で選ぶ必要があるのだとハッキリ告げると国民は更にザワつくのだった。


「その方法で本当に国王を選べるのですか」


誰が質問したかは分からないが、褐色肌の挙手と共にその選出方法に対して疑問に思う女性の声が代表するかのように聞こえてくる。


「確かに疑問には思われるでしょう。しかし国王は民と国を良くしていくのが務めです。この異世界に置いてもそれは変わらないですし、寧ろ今こそその志(こころざし)が必要とされています」


何人かがその質問に同調するように再びザワついていたが、キオナの毅然とした説明と他の兄弟達も揺るがないと言う王族特有の確固たる面持ちで答えた。


「とにかく選出方法についての説明は以上だ!皆はこれまで通りの生活を送ってくれ!後は俺達に任せてくれ!」


エグルマの大声で集められたが、最後にもう一度その大声によって締め括られて集会は終わるのだった。


▷▷▷


「んで…何であたしらは集められたの?」


集会が終わった後でエリーシャ達は何故かリオーネから残るよう言われ、現在は王座の間へと案内されていた。


「分からない…けれど意図的にキオナ姫様達と交流のある人達が集められているのは確かだね」


「キオナ、僕達に残って欲しいってどうしたの」


ラピスの言う通り、王座の間に集まっているのはシフォン以外の王族五人兄弟と面識がある面々達ばかりで何かしらの思惑があるようにも思えた。


「今回の選出方法は知っての通り私達の五人が国や民を良くしていくことですが、そのサポートとして付き添いの人間を三人まで同伴することにしたのです」


「これは相手の不正がないよう同伴者を監視者として連れ添わせ、その上で成果を纏めて貰う役割があるのだ!」


「ただし、付き添わせる人間はあまり面識がない者同士でだ。そうしないと公平にならない可能性があるからな」


不正や依怙贔屓(えこひいき)が無いよう、これから王族五人兄弟の行動の一部始終を見張るための人間をそれぞれ三人ずつ選出することに決めたようだ。


「では私はエインを」


「姫様、それでは不公平ですよ?」


早速と言うべきかキオナは壇上から降りてエインの腕を引くも肩をやたらニコニコしたリオーネに掴まれて引き戻されてしまう。


「あら、選ぶ権利はありましてよ?リオーネ」


「依怙贔屓になるからダメですよ?姫様」


「ちょ…痛いんだけど…」


キオナは手繰り寄せるようにエインの右腕を引き、反対の左腕をリオーネが引き離すように引っ張る。


「ふふふっ…離しなさいリオーネ…!」


「ははは…ダメですよ姫様…こいつだけは…!」


「いたたたたっ!?痛いよ!?」


完全に大岡裁きの子争いのように互いに譲らない様子で痛がるエインの両腕を引く二人。


「あらあらダメよぉ、エインちゃんが痛がってるじゃない」


目に止まらぬ早さで腕を動かし、リオーネとキオナをエインから引き剥がすシフォン。


「痛かったわよねぇ〜。ダメじゃないのリオーネ、こんな酷いことしたら。キオナもこの子とは付き合いが長いから選ぶのは分かるけど、レイスニー兄さんやリオーネの言う通り依怙贔屓になってしまうわよ」


「はい…申し訳ありません」


「ううっ…ですが、こう言うのは早い者勝ちじゃないですか」


痛がるエインを宥めるシフォンからの言葉にリオーネは頭を下げるが、キオナは不服らしくエインのことを諦めるつもりはなかった。


「むう…エインちゃん、君はいつからおねしょはしなくなった」


キオナの不服に更に不服そうに頬を膨らませたシフォンは何を思ったのか、子供ならではの恥ずかしい記憶をエインに訊ねる。


「え?五歳ぐらいですけど…」


対するエインは痛みが残る腕をシフォンに優しく撫でられながら何ら恥ずかしがる様子もなく正直に答える。


「あらそうなの〜、でもね、キオナは十二歳までおねしょを」


「きゃああああー!?きゃああああー!?何を言い出すのですか姉様ー!?」


シフォンは微笑ましい思い出話をするかのようにエインに話し掛けるが、キオナに取っては恥ずかし過ぎる黒歴史だったために先程の毅然とした態度も形無しになってしまう。


「キオナ…もしかして寝る前に何かたくさん飲んだりしたの?」


「はっ!?いや…その…それは姉様のでっち上げと言いますか…!?」


自分よりも年上の人間の恥ずかしい秘密にエインは嘲笑うよりも心配するように話し掛けてくるため、キオナは思わず面食らうものの必死に弁明しようとする。


「そうそう、確か寝る前にブドウリアジュースをたくさん飲んじゃってたわよね〜。それで怖い夢を見た時は決まって私のベッドに潜り込んで、おねしょしたのを私のせいにしようとしたりしたわよね〜」


「そう言えば俺の時もそうだったな!あれは微笑ましかったな!」


「はあ…寝る前に「大丈夫、大丈夫、今日は漏らさない」と言いながらガブガブ飲むから、その度に毎夜毎夜シーツを濡らしていたからな」


「そうだったのか?キオナ姉様はルティカよりもおねしょが治らな」


「ひやああああああ!?エインと皆さんの前でなんてこと言うんですかー!?」


完全にキオナの黒歴史を暴露大会になってしまい、もはや半泣き状態で懐かしむように話す兄と姉に猛反発するように地団駄を踏む。


「エインちゃんから手を引く?」


「分かりました!?手を引きますからそれ以上は止めてください〜!?」


降参だとキオナは恥ずかしさの余り、泣きながらその場に蹲(うずくま)るのだった。


「おい、シフォン。ちょっとやり過ぎだぞ」


「そうね、ごめんなさいねキオナ。でもこうでもしないと引き下がらないでしょ」


さすがに気の毒に思ったレイスニーはシフォンを咎め、彼女も泣き出したキオナに謝罪をする。


「しかしそうなるとエインは誰が貰えるのだ?」


「そうね〜、私かしら?」


「あ、ズルいのだシフォン姉様!ルティカも欲しいのだ!」


「でも兄弟の中では私が一番面識がないのだから当然じゃないかしら〜」


キオナには半分脅す形で手を引かせたのに、ちゃっかりエインを自分の付き人にしようとしているシフォンにルティカも猛反発する。しかしシフォンの言い分も筋が通っているため撤回させるのは難しそうだった。


「俺もエインには少々興味がある!それにキオナよりは付き合いが長くないから俺も問題はないだろう!」


それを聞いていたエグルマも負けないばかりに声を張り上げ所有権を誇示する。因みにレイスニーはそこまで関心がないのか「どちらでも良い」と呟きながらそっぽ向いていた。


「あの、僕が一日変わるごとに誰かの付き人になるのはダメですか?」


話を聞いていたエインは一日ごとに五人兄弟の誰かの付き人になれるかと提案する。


「つまりローテーションですか。レイスニー兄様、どう思いますか」


「ルール上では依怙贔屓になるから、思えば実質誰とも組めないことになるからな。案外その方が良いかもしれんな」


エインからの提案を聞いたキオナはレイスニー確認を取ると、ルールを厳守する上ではエインを誰かの付き人になるのではなく、日ごとに変える方が都合が良いと了承するのだった。


「ではエインには日ごとに誰かの付き人になって貰います」


「…あんたもいつの間にか人気者ねぇ」


エリーシャから比喩されるも、渦中にいるエイン本人は「そうなの?」と言った様子で首を傾げていた。


「それではまず、今日は私から」


「いいや、今日はルティカと一緒なのだ!」


「いいえ、私とよ〜」


「俺と行こう!エインよ!」


「…はあ、また始まった」


再び兄弟達がエイン争奪戦を開始したことにレイスニーは頭を抱える。


「人気者でしょ、どう見ても」


今だに首を傾げているエインにエリーシャも苦笑いしながら語りかける。


「兄上、シフォン達もいい加減にしてくれ。言い争っても決められないのなら他の方法で順番を決めろ」


暫く言い争いを静観していたレイスニーはウンザリした様子で仲裁するように提言してきた。


「しかしどうやってそれを決めるの」


目論見通り言い争いは止まったが、シフォンからの指摘にレイスニーは答えられなくなる。その代わりに無邪気な声が聞こえてくる。


「だったらこう言うのはどう?リリーを先に捕まえた人が順番を決められるの!」


「リリーちゃん…いつの間に」


無邪気な声で提案をしたのはリリーだった。この場には幼い子供はいなかったはずなのだが、こっそりとエインの後を付いてきたようだ。


「ここにね、順番を書いた紙があるの。これをリリーが持ってるから捕まえて奪い取ればお兄ちゃんの順番を決められるの」


そう言ってリリーは1から5までの数字が書かれた紙を服の中に仕舞う。これは明らかに順番決めにかこつけて遊ぼうとしているのだろうが、誰も否定はせずに寧ろちょうどいいと頷き合う。


「それで宜しいですわ」


「じゃあ逃げてちょうだい」


「しかし範囲は城の中にしてくれ。さすがに国全体だと広過ぎる」


先程まで殺伐としていたが、幼子と遊びながら順番を決められるとなれば不思議と五人の表情は和らいでいた。


「は〜い!それじゃあ…リリーを捕まえてね!」


早速リリーは王座の間から無邪気に駆け出し、城の何処かへと逃げ出すのだった。


「枚数からして紙は人数分しかない。恐らく引き直しは出来ないだろう」


分析していたレイスニーは例えリリーを捕まえて紙を手に入れても、順番自体は運任せだと補足するのだった。


「ルティカが一番を取るのだ!」


「…俺は大好物は最後に取って置く派だ!だから最後でも文句は言わん!」


「楽しみね〜」


「負けません!」


台詞を最後まで聞いていたかどうかは不明だが、他の兄弟達もリリーを追い掛けて王座の間を後にした。


「今はリリーちゃんが人気者だね」


「…そうだけど、何か違うんじゃない」


残された面々が唖然となる中でエインがそう呟くも、エリーシャはそうではないと否定する。


▷▷▷


「はあ…はあ…リリーちゃん…?」


子供の鬼ごっこだと高を括って探していたキオナだが、フィールドは広範囲な上に相手は体力が無限にあって身体が小さいために隠れる所が多いリリーだ。


「範囲は城の中とは言え、やはり広いですからね。何処を探したら…」


さすがのキオナも息切れを起こしてしまい、一度立ち止まって闇雲に探してもどうにもならないと考えた。


「リリーちゃんを捕まえるには…そう言えばトランさんの時はどうやって捕まえたのでしょうか」


ルミナスに辿り着くなりエインとリリーは侵入者としてトランに捕まったことがあった。その時の方法を利用出来ればリリーを捕まえられるもしれないと、その時何があったか思い出そうとする。


「確か育ててた果実を知らなかったとは言え、勝手に食べてしまって…あ」


何があったか思い出した途端にキオナはリリーが何処へ向かったのか心当たりが浮かぶ。


「あむ…ん〜!美味しい…♪」


「そうかそうか、じゃあこいつを味見してくれるかい、お嬢ちゃん」


厨房ではリリーが甘く美味しそうなケーキを幸せそうに食べており、その笑顔を見ていたコック達も満面の笑みを浮かべながら他のケーキの味見をさせる。


「リリーちゃん!捕まえましたよ!」


「はわっ、捕まっちゃった〜」


厨房を覗き見していたキオナはこっそりと背後から近寄って抱き着くと、リリーは驚いて足をバタつかせる。


「さあ、紙を寄越しなさい」


「きゃははは、くすぐったいよ〜」


キオナはリリーの服の中に手を突っ込んで紙を探す。そしてその内の1枚を手に取って番号を確認した。


「ああ…5番ですか…」


ところが引いた番号はローテーションの最後である5番だったことにキオナは落胆してしまう。


「おじさん達、ケーキ美味しかったよ!じゃあね〜!」


「おう、また味見に来いよ」


落胆するキオナを余所にリリーとコック達はすっかり仲良くなり、別れ際でも笑顔で別れるのだった。


▷▷▷


「お腹いっぱい!これで何処へでも逃げれるよ」


城の中を探検するように走り回るリリー。しかしその後ろを誰かが着いてきていた。


「あ…!あれはお兄ちゃんに抱き着いていたお姉ちゃん!逃げなきゃ!」


背後からにこやかな顔をしながらシフォンが追っていることに気が付き、リリーは一目散に反対方向に逃げ出す。


「えへへ、ここまで来れば…え」


「あらあら、随分と走ったわね〜」


かなりの距離を走って息を切らしたリリーは背後を振り返るとシフォンは見えなくなっていた…かに見えたが、いつの間にか目と鼻の先にシフォンがニコニコしながら立っていたのだ。


「ふう…ここなら…あれ」


「お茶、いるかしら?」


中庭まで逃げれば大丈夫かと思えば、シフォンはガーデンテーブルにティーセットを用意しながらリリーを待ち構えていた。


「ひい…ひい…どうなって…ひゃあ!?」


「うふふ…いらしゃっい〜」


お釈迦様の手の平の上の孫悟空のように、息も絶え絶えになりながら逃げても、その先には必ずシフォンが待ち構えておりリリーは次第に恐怖する。


「も…もう走れない…ここなら…」


体力が尽きたリリーはウォークインクローゼットの中に隠れる。一般的なクローゼットと異なり、王族ならではの衣装の多さも相まって小さな秘密基地にも見えるほどでリリーのような子供が隠れるには最適だった。


「うふふ…何処かしら〜?」


隠れているため姿は見えず、微笑ましい声色だけが聞こえてくるしが、不意に恐怖に駈られたリリーは思わず小さな体をビクッとさせながら縮こまる。


「ここかな?それともここかしら?」


衣装を掻き分ける音とまるでホラー映画の怪物を彷彿とさせる威圧感と恐怖心を与える声色にリリーは聞こえる度に怯える。


「……ここにはいないのかしら〜」


すると諦めてくれたのかシフォンがそんな事を言いながらリリーの隠れている場所から去る音がし、リリーは思わず大きく息を吐き出してしまう。


「捕まえた〜!」


「はうあっ!?」


しかしそれはホラー映画のフラグであり、息を吐いた瞬間にシフォンの腕が安堵したリリーの身体をガッチリと捕らええ引きずり出す。


「さあ〜、番号の紙をちょうだい〜」


「はわわわわ〜!?」


キオナの時とは比べ物にならない早さの手付きで服の中を弄(まさぐ)り、恐怖とくすぐったさにパニックになるリリー。


「あら、3番ね〜」


シフォンは引き当てたのは3番だとニコニコしながら答える。


▷▷▷


「はあ…あんな怖いの初めて…」


鬼ごっこは楽しいものだと認識していたリリーに取って初めての恐怖体験であり、まだ恐怖の余韻が残っているのかトボトボ歩いていた。


「おっ!エグルマ兄様!いたのだ!」


「おっ、そうだな」


先程と打って変わって元気がないためにルティカとエグルマにあっさりと見つかってしまう。


「ん…あ、ルティカちゃんとそのお兄ちゃん。逃げないと…わっ!?捕まった…!?」


遅れてリリーも二人の存在に気付いて逃げようとするが、誰かに両腕を掴まれて持ち上げられる感覚に手遅れだったかと観念する。


「あれ…ちょ…何処まで持ち上げるの」


だが、おかしかった。体格差があるため持ち上げられているのは分かるのだが、地面が徐々に遠くなっていくどころかルティカとエグルマまでもが顔を青ざめさせ、何か叫びながら豆粒のように小さくなっていくことに違和感を覚える。


『ケエエエエ!』


「ひっ!?助けてぇ〜!?」


頭上を見上げた途端に違和感の正体に気が付いた。なんとリリーを捕らえていたのは王族五人兄弟の誰かでも、ましてや人間でもなく、翼竜の『プテラノドン』だったのだ。


「あれはワイバーンじゃないですか兄様!」


「リリーちゃん!?どうしたのあれ!?」


「それがいきなり空から飛んできて、あの子を攫ってしまったんだ!」


騒ぎを聞きつけたエイン達も上空にリリーを鷲掴みにしたプテラノドンが飛んでいることに唖然となる。


「メリアス、狙えるか」


「下手をしたらリリーちゃんに当たる可能性が…それに高さから撃ち落とせば危険です!」


危険性も然ることながらプテラノドンは既に三階建ての建物よりも高く飛んでいるため、幾ら名うてのエルフの狩人の矢でも届くか分からなかった。


「おのれ…魔法さえあれば脅威ではないと言うに」


「何とかしないとリリーちゃんが…」


忌々しいと言わんばかりにプテラノドンを睨みつけるレイスニーに対し、エインは解決策を模索するために周囲を見渡す。


周りには土が入った袋、荷車、横断幕、シャベル、バケツとガーデンニング用品などが大半を占めていた。


「お兄ちゃん〜!?助けて〜!?」


『ギイイイ〜!』


「ゴンちゃん…そうだ!」


リリーの助けを求める声にアンキロサウルスのゴンが駆けつけたのを見たエインは奇策を思い付き、黒曜石のナイフで土の入った袋を裂いていく。


「おい、何をしている。土いじりをしている場合じゃないぞ」


「ゴンちゃん!尻尾を出して!」


レイスニーの言葉に意に介さず、エインは生体電流(パルス)でゴンに指示を出して尻尾の棍棒にバケツを取り付ける。


「…おい、本当に何をしている。あの子を助けないといかんだろう」


「分かってます。だから僕の言う通りにしてください」


無視されたのは百歩譲って許せたが、今は人命救助が優先だと再度呼び掛けるが、エインの必死な表情にレイスニーは思わず面食らう。


「このバケツに土を入れてください!」


「こうか?」


ゴンの棍棒を縁取るようにバケツが合計5つ取り付けられており、その中に袋の中の土を入れていく。


「皆、離れて!ゴンちゃん…僕に合わせて」


入れ終わると他の人間達をゴンから離れるよう退避させ、更に生体電流でゴンの身体に触れたエインはタイミングを合わせるように指示して空中のプテラノドンを睨む。


「…今だ!」


『ギイイイ〜!』


タイミングを見出したエインの生体電流がゴンの身体を駆け抜けていき、尻尾の棍棒がブウンと言う音共に振るわれる。


アンキロサウルスの尻尾のスピードは最低でも五十キロメートル、最大でも百キロメートルになる。そんな勢いで尻尾の棍棒が当たれば例え肉食恐竜でも致命傷は免れない。


そんな勢いで振るわれたバケツの中の土は空中へと舞い、土埃となってプテラノドンを覆い尽くす。


『ケエエエエ!?クエエエ!?』


「けほっけほっ!?」


土埃に目や器官に入りむせ返るプテラノドン。これならばリリーには気の毒だが、そこまでダメージはないはずだ。


「なるほど、即席カタパルトによる目眩ましか。これならあの子はケガをしないな」


エインの思い付いたアイディアとはゴンの尻尾の勢いを利用した即席のカタパルトで、しかもこれならばリリーをあまり傷付けずに助けることにエグルマは関心していた。


「もう一度だよ!」


「分かりました!皆さん、手伝ってください!」


意図を汲んだ一同はもう一度バケツの中に土を入れ、エインのタイミングでゴンが土を投擲していく。


『ケエエエエ…!?』


「あれくらいの高さなら…アレッサさん、マルスさん。横断幕を!」


「あれか?任せろ」


「でも、何に使うの」


高度が下がったのを確認したエインはマルスとアレッサに横断幕を取らせて持ってこさせる。


「これを丸めて…発射!」


『ギイイイ〜!』


横断幕をバケツに詰め込んでゴンに尻尾を振るわせる。すると丸められた横断幕はテープのように広がり高度が下がったプテラノドンに覆い被さった。


『ケエエエエ!?』


「ひゃあ〜!?」


土埃と横断幕にパニックになったプテラノドンはリリーを脚から離してしまい、彼女は重力に伴って落下してしまう。


「リリーちゃんー!!」


「はうあっ!?」


生体電流で身体能力を強化し、一気にゴンの元から駆け出したエインは地面スレスレのところで滑り込んでリリーをキャッチした。


「リリーちゃん!ケガはない!?」


「お兄ちゃん…危ない!?」


『ケエエエエ!』


安否を確認するまもなく、横断幕を振り払ったプテラノドンがエイン目掛けて急降下してくる。


『ギイイイ〜!』


『ギャア!?』


しかし遅れてゴンが突進して来てプテラノドンを跳ね飛ばす。これには堪らずプテラノドンは空へと慌てて飛び去っていく。


「リリーちゃん、大丈夫?ケガしてない?」


「うわあああん〜!?お兄ちゃん〜!?怖かったよぉ〜!?」


シフォンのこともだが、命綱も無しに三階建ての建物よりも高い場所まで持ち上げられ、その上で高度が落ちたとは言えフリーフォールを味わったリリーはエインを見た途端に心の底から安堵して泣きながら抱き着いてくる。


「これは…早急に事態を解決しなくてはな。あんなワイバーンがいては幼子が安心して遊べないだろう」


「問題は思ったよりも根深いようだな」


先程のプテラノドンの奇襲を前にしても自分達は何も出来なかったことにエグルマもレイスニーも不甲斐なさに落ち込んでいた。


それと同時にこれから自分達が向き合っていく問題はあんなのばかりかと考えると、その全てを解決することが出来れば次期国王として申し分ないだろうと覚悟を決める。


「そう言えば順番はどうなったのだ?」


「こうなってはもはや順番などはどうでも良いが、始めたからにはケジメを付けなくてはな。エインよ、済まないがその子から番号の紙を貰ってくれないか」


今回のことは意図せず起きたこととは言えゲームは続行不可能と判断し、番号の紙だけをエインから貰うことにする。


「俺は…4番だな」


「私は…2番のようだな。と言うことは…」


エグルマと成り行きでレイスニーも紙を手にして自身の番号を確認する。それにより消去法で残された番号と人物、そしてエインを付き人にする順番が判明した。


「おおっ!と言うことはルティカが一番最初にエインを付き人に出来るのだな!」


最初の一日目にエインを付き添わせることが出来るのはルティカ。そしてゲームの結果、順番はレイスニー、シフォン、エグルマ、キオナに決定するのだった。


「エイン!明日からよろしくなのだ!」


「あ、うん。分かったよ」


ルティカは笑顔で語り掛けるも、エインは泣き疲れて眠ってしまったリリーのことで頭がいっぱいで生返事するだけだった。


▷▷▷


「『かの英雄の国に……人々……いずれ……は導く……に』…何よこれ、肝心な所ばかり削られてるじゃない。どう言うことよ」


その夜にライミィは石板に刻まれている文字を読み解くも、所々が意図的に削られていて読めないことに目の前にいる人物に不満を抱いていた。


「知らないわよ。私達が持ち出した時にはこうなってたんだから」


相手はライミィと取り巻きの女学生達で、全員土埃を被ったりして薄汚れていた。


「これじゃあ約束の物は渡せないわ。こんなもの」


ライミィが指を弾くと雲がある訳でもないのに落雷が落ちて石板を粉々にした。


「今のは雷魔法のライトニングショット…あんた何者よ本当に?おまけにその石版に刻まれてたのはルーン文字…並大抵の人が読める代物じゃないわよ」


ラシュルクは次第に自分が取引している相手の得体の知れなさに息を呑む。まるで人知を越えた悪魔を前にしているようにも思えた。


「これを見れば…分かるかしら?」


その言葉通りラシュルク達はライミィの腰の辺りから先端がハート型になった黒い鞭のような靭やかな尻尾がピョコピョコ動いているのを見て凍りつく。


「まさかあんた…魔族…!?」


「そっ、言っておくけど今更逃げようなんて思わないことね。親から教わったでしょ?魔族に魅入られると逃げられなくなるから近付くなって」


その戒めは自分達が幼い頃から親や大人達から耳にタコが出来るほど聞かされていた。しかしまさか相手が素性を隠していたとは言え、魔族に手を貸してしまった以上は後悔しても遅いと言う現実をラシュルク達に突きつけるのだった。

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