トラブルには『素早く』対応すべし
『プオオオオン!』
朝日が差し込むとまず耳にするのはニワトリの甲高い鳴き声と相場が決まっているが、まだ空に日が昇っていないどころかワライフクロウが騒がしく鳴いている時間帯に甲高い鳴き声が響き渡る。
「ん…今のは?」
「何なの?うるさいなぁ…」
国全体に響く余りの騒がしさにエインもメロルも何事かと眠い目を擦りながら起き上がる。
「おい、何を騒いでおわああっ!?」
「耳が痛いきゃあああ!?」
「な…何だよ!?」
甲高い鳴き声に混じり、クレームを入れようとした国民の悲鳴も聞こえてくるためにただ事ではなかった。
「何があったんだろう」
「パラサウロロフス達が…苦しんでるみたい」
先程の甲高い鳴き声はエイン曰くパラサウロロフスが発していると告げてくる。しかしながら放牧場にいるはずのパラサウロロフスが街中で、それも苦しんでいるとはどう言うことなのかとメロルは首を傾げる。
『プオオオオン!?』
『オオオオン〜!?』
『プオオオー!プオオオオン〜!?』
宿屋の外に出てみるとエインの言う通りパラサウロロフス達が甲高い鳴き声を発していたのだが、狂ったように鳴き声を発し続けては街中を所狭しと暴れていた。
『プオオオオン!プオオオオン〜!?』
「皆、止め…うわあっ!?」
生体電流を纏ってパラサウロロフスと意思疎通をしようとするエインだが、聞く耳を持たないと言わんばかりに暴れ続け、危うく尻尾が当たりそうになり伏せて回避する。
「大丈夫?言う事を聞いてくれないの?」
「何だか辛そうにしてて、僕の声が聞こえないみたい」
ケガはしなかったが、生体電流による意思疎通が叶わないことにエインは動揺していた。
『プオオオオン!?』
「どわあっ!?ウチの商品が!?」
『プオオオ〜!?』
「きゃあ!?入って来た!?」
鳴き声がうるさいこともだが、パラサウロロフスは牛よりもずっと身体が大きく一度暴走すると出店の品物を吹っ飛ばしたり、家の窓や扉を壊したりと暴れ牛よりも質が悪かった。
「う〜…?」
そんなパラサウロロフス達を間近に見たいと思ったのかトウガはトコトコと近寄ってしまう。
『プオオオ〜!?』
「トウガ!危ない!?」
暴走したパラサウロロフスがトウガに向かって行くのを見たエインはジャンプしてトウガをキャッチし回避する。
「私も少し見たけど、こんなに暴れるモンスターじゃなかったでしょ」
「僕にも何が起きたのかさっぱりで…」
トウガを抱きかかえながらエインはメロルと共に暴走するパラサウロロフスを遠巻きに見て途方に暮れる。
「はははは!随分と元気だな!そーれ!!」
『プオオオ〜!?』
すると暴れていた一体のパラサウロロフスの側面にエグルマが高らかに笑いながらタックルして横倒しにする。
「エグルマ様だ!」
「スゴい!倒したぞ!」
「でも、どうして」
「城まで聞こえたからな!そしたらこの騒ぎだ!」
第一王位継承者と言うだけあってカリスマ性はもちろんだが、エインでもどうにもならなかったパラサウロロフスをあっという間に無力化させた実力に誰もが安堵していた。
「エインよ、何があったか分かるか」
遠征でモンスターと意思疎通が出来ることは何度も見てきたこともあり、エグルマはエインにパラサウロロフスの暴走が何なのかと訊ねる。
「それが僕にもサッパリで…ただ、何か苦しそうにしてて」
「ふむ…どう苦しんでいるんだ?」
「どうって…何だか口の中が痛いって」
話を聞いたエグルマは詳しく質問してみると、エインは思い出すように重要なことを口にした。
「それを早く言わんか。彼らが意味なく暴れる訳がなかろう」
責め立てる台詞が聞こえたかと思えば、いつの間にか来ていたレイスニーが横倒しにしたパラサウロロフスをロープで街灯に括り付けていたのだ。
「そう言うでない。とにかく口に何か異変があって暴れているようだ。見せて貰おう」
『プオオオ〜!?』
早速調べようとエグルマは近づくもパラサウロロフスは括り付けられながらも騒がしく吠えながら暴れていて調べるどころではなかった。
「こいつ…兄上に噛み付くつもりなら口も固定して」
「待ってください!今度こそ僕が…」
ロープで口も固定しようとしたレイスニーを止めたエインは生体電流を纏いながら少しずつ近付いていく。
「大丈夫だよ。ごめんね、苦しいのに…でも、僕達は君達を助けたいんだ。何で苦しいのか教えて…」
『……プオオオ』
語り掛けながら近付くエインに荒ぶっていたパラサウロロフスは次第に大人しくなると、カモのような平べったい嘴のような口を空けて口内を見せてくれる。
「口の中が真っ赤に腫れてる…それに鼻と目が痛くなってくる。これじゃあ痛くて苦しいはずだよ」
口内は焼け爛れたように腫れており、よく見ると刺激物特有の目と鼻を刺すようツンとする強い匂いを放つ食べカスが残っていた。果肉のようだが手に取ってみると、果汁が肌に触れるだけでヒリヒリしてくるのが伝わって来る。
「これ、もしかしてトウガンの実かな…僕も間違って食べた時に同じようなことになったし」
一部分だけだが見た目と残された刺激から、エインは幼い頃に誤って食して酷い目にあった果実ではないかと推測する。
「トウガンか…俺は好きだがモンスターの忌避剤にも使われるからな。そんなのを食べたら暴れたくなるのも当然だな!」
「いずれにしてもそう言うことなら対処は早いな。エイン、メロルも手伝え」
話を聞いたエグルマとレイスニーは何をすべきか互いに頷いて理解し合い、エインとメロルにも協力を仰がせるのだった。
「皆ー!水だよ水!これを飲めば大丈夫だよ〜!」
街の中には噴水があり、エインは生体電流でパラサウロロフス達に呼び掛けてそこへ集まるよう呼び掛ける。
『プオオオ…』
『プオオオン…』
『オオオオン…』
集まったパラサウロロフス達は噴水の水を飲むと次第に辛さと表情が和らいでいく。
「メロルさん。お願い」
「うん、こっちにおいで」
大人しくなったパラサウロロフス達はメロルに連れられて放牧場へと向かうのだった。
「よし、次の所に行かないと。ロボ、案内して」
『ウォン!』
『任せておけ』と言わんばかりに吠えたロボを先頭にエインはトウガを背負って次の場所へと向かうのだった。
▷▷▷
『『ギイイイ〜』』
「あ、コラ!ウチの商品を勝手に食べるなぁ!」
別の商業地区では同じく脱走したプロトケラトプス達が売られている果物や野菜を丸かじりしていたのだ。
「この!あっちに行け!」
『ギイイイ!』
店主の中年男性が箒を手に追い払おうとするが、プロトケラトプスも嘴で噛みついて箒を咥え込む。
「父さん、俺も手伝うよ!あっちに行け!」
十三歳ほどの息子も父親に加勢するようにオレンジのような果実を貪る子供のプロトケラトプスにモップを突き出して追い払う。
『ギエエエー!』
「おわあっ!?」
ところが無闇に子供に手を出そうとしたことで親のプロトケラトプスから膝カックンするように突進されてしまう。
「あわわわ…!?父さん!?」
「セーガレ!?…ん!?」
押し倒されたセーガレにプロトケラトプスが硬い野菜を丸かじり出来る嘴をカチカチさせながら近寄る。父親は息子の危機に焦っていると意外な助けが入った。
『グオオオオ!』
プロトケラトプスと同じ形態をしているが両目の上と鼻先に立派な角を持ち、体格も何十倍もあるトリケラトプスが威嚇するように吠え立てる。
『ギイ…!?ギイイイ…!?』
『『『ギイ!?ギイ!?』』』
それに驚いたプロトケラトプスは威嚇も食餌も止めてスゴスゴと立ち去って行く。
「大丈夫ですか」
「あ、ああ…エインか。助かったよ」
「それよりも…これは君のモンスターか?」
背後からエインが出てきて心配されるも、トリケラトプスの迫力に店主は圧倒されて生返事をし、敵意がないかどうかをセーガレが訊ねる。
「フォーク、ありがとう。君は放牧場のトウガンの実を食べなかったんだね」
「放牧場にトウガンだって?まさか誰かがそんな刺激物を家畜に与えたってのか?」
相棒のトリケラトプス、フォークの顔を撫でながら呟くエインの台詞に店主は放牧場でのあれやこれを知っているのか首を傾げていた。
「フォークはこのままプロトケラトプス達を放牧場まで誘導して。僕は他の所に行ってみるよ」
『グオオオオ』
生体電流で自身の意思を伝えるとフォークは逃げたプロトケラトプス達を追い掛けて別行動を取るのだった。
▷▷▷
『クエエエ』
『クエエエ…』
『プオオオ』
『プオオオン〜』
広場には水を飲んで落ち着いたのか寝そべったり、出店の野菜などを食べているオヴィラプトルとコリトサウルスが集結していた。
「後はオヴィラプトルとコリトサウルスだけど…結構いるなぁ」
放牧場から脱走した恐竜は恐らく目の前にいるので勢揃いなのだろうが、エインとトウガとロボだけでは荷が重いだろう。
「あ、エイン。お前ならあいつらを何とか放牧場に追い返せないか?」
「お願いだよ、何とかしておくれよ。これじゃあウチの商品が全部食われちまうよ」
元の世界では人々からゴミのように見られ、姿を見せれば虫けら退治の如く暴力を振るわれていたが、今やこう言ったトラブルを解決してくれる専門家としてエインを頼ってくる。
「やってみます。皆、元の場所に戻って」
生体電流を纏って放牧場へと追い返そうとするが、コリトサウルス達は居心地が良いのか、或いは野菜が気に入ったのか動こうとしなかった。
『バウ!バウ!バウバウ!』
『オオオオン…』
ロボが吠えると多少なり脚を上げるものの、動くには至らず焼け石に水のような状態だった。
「どうしたんだ…早く何とかしてくれ」
「お願いよ、私達じゃどうにもならないのよ」
頼ってくれるのは嬉しいがエインからすれば、誰かに期待されることも少なかったためプレッシャーを感じたことがない。そのために何も出来ないことに焦りを覚えていく。
「えっと…その…あう…ラシュルクさんの言う通りだ。僕一人じゃ何も出来ない…」
焦りはにエインはラシュルクの言葉を思い出して自信喪失になってしまう。そこへコリトサウルスがのし歩いて来るが一本の矢が威嚇するように付近の地面に刺さった。
「ちょっと、何ボーッとしてんのよエイン!」
屋根の上から放たれており、トランが弓を構えて新しい矢を当てがりながらエインを叱咤していた。
「トランちゃん…僕は一人じゃ何も出来なくて…」
「は?何を言ってんのよ!」
様子がおかしいことに雨樋を伝って下に降りたトランはエインに近寄っていく。
「だって僕はこんな能力を持っているのに、一人じゃ何も出来ないなんて…」
個人差はあるがまだ九歳の少年からすれば自分のやれる事・やれない事を他人の出来る事と見比べて落ち込んだり思い悩んでしまう時もあるだろう。
「何言ってるの。あんたはこれまでにも色々やってきたじゃないの。山賊の砦でキオナ姫達を助けたり、アクロカントサウルスからカリンさんと赤ちゃんを助けたり…寧ろそんなことを言うなんて思いもしなかったわよ」
これまでの経緯から無縁なものかと思っていたが、年相応な一面もあるのだとトランは意外な表情をしながら励ます。
「でも…さっきもトランちゃんが来てくれなかったら僕は…」
「あたしね、一人で何でもやろうとしたのよ。認めて貰おうとボウガン使ったね。最初、侵入者だと思ってリリーやエインを拘束したことあったでしょ。あれもなのよ」
落ち込むエインに自嘲気味になりながらトランも承認欲求を明かすのだった。
「あんたが来てくれなきゃ…きっとあたしは今のあたしじゃなかったし、カリンさんと赤ちゃんだって…」
これまでずっと異世界でのサバイバルの中心にいて、遠回しに自分達の支柱になっていたエインの脆い部分に共感を得たトランは抱き寄せて額を合わせる。
「一人で頑張らなくて良いの。あたし達は一人じゃとっても弱いから助け合ってるの。今この異世界に来たあたし達に必要なのはきっと『助け合う心』なんだよ…」
「助け合う心…」
「あんたが今こうやって思い悩んでいる時はいつだって聞いてあげる。だから一人になろうとしないで」
額を離して見つめ合うとトランはエインを抱き寄せる。自分よりずっと華奢で痩せた小さな身体でずっと一人で戦って来たと感じたことでより抱き締める力を強くする。
「あんた一人だけじゃ大変なら…あたしを頼りなさい。何と言われようが力を貸してあげるわ」
「どうしてそこまで…」
自己肯定感が低いエインからすればトランがそこまでしてくれる理由が分からず聞き返すのだった。
「あんたのこと、大好きだからよ。他に理由なんていらない!」
生まれてから『大好き』と嘘でも言われたことがないエイン。そんな彼がトランの屈託のない純粋な笑顔をされながら『大好き』と言われた瞬間、心臓が不思議とドキンとなり、顔が真夏の日差しに照らされたように熱くなるのだった。
「…ほら、早くやるわよ!」
勢いで言ったことに恥ずかしくなったのか、顔を赤くして呆然とするエインを前にトランも恥ずかしくなると同時に気まずくなったのか誤魔化すようにコリトサウルスの群れに向かう。
「……ん?」
『シュシュシュ…』
顔が熱くなっている中で視界の片隅に路地裏が目に映るのだが、そこにはこちらをジッと見つめるヴェロキラプトルの姿があった。
『シュルル』
「ハムの切れ端…そうか、君は昨日の」
『『『シュシュシュ…』』』
口からハムの切れ端を落として昨日のヴェロキラプトルだとアピールしてくると思えば、その背後から六、七頭と別個体のヴェロキラプトルも一斉に姿を現す。
「……?」
『『『…!シュルル…』』』
殺気がないため別に襲って来る訳でもないのにこちらをジッと見てくることに首を傾げるエイン。それを見たヴェロキラプトル達は合わせるように首を傾げる。
「あ…!」
『『『…!シュシュ…』』』
もしかしてと思い、今度は両腕を水平に持ち上げるとヴェロキラプトル達も合わせるように羽毛で覆われた前脚を水平に持ち上げる。
「ふふふっ…」
『『『…!シュシュ…』』』
面白くなり今度は黒曜石のナイフで壁を軽く叩いて音を出すと、ヴェロキラプトル達は後ろ脚のカーブした爪で石畳を叩いて音を出す。
「ねぇ、もしかして君達って…」
反応を試したエインは視線を合わせつつ、生体電流を発しながらヴェロキラプトル達に話し掛ける。
(ああもう!何で勢いで告白しちゃったかな〜!?恥ずかしくて、あいつの顔を見れないじゃないのよ〜!?)
トランは勢いで告白した恥ずかしさで頭がいっぱいになり、肉食恐竜が路地裏にいるのにも気付けなかった。
「ほら!あんたらは早く放牧場に帰りなさい!」
恥ずかしさを紛らわすようにに呼び掛けるも、コリトサウルスは微動だにしない上に日曜日のお父さんのように寝そべって動かなくなってしまう。
『『シャアー!』』
するとトランの側を二頭のヴェロキラプトルが通り抜けて行き、一斉にコリトサウルスを威嚇し始める。
『プオ!?プオオオ〜!?』
天敵である肉食恐竜の姿を目にした途端、考えるよりも先に本能的にコリトサウルス達は一斉に騒ぎ立てて居住区になだれ込むように逃げてくる。
「おい!?こっちに来るぞ!」
「ちょ…家に来ないで!?」
まだ避難が完了していない国民は津波のように迫りくるコリトサウルスの群れに圧倒され凍りついてしまう。
『『『シャアー!』』』
『『プオオオ!?』』
しかし別のヴェロキラプトルが三頭、国民の前に立ち塞がって吠え立てる。それに驚いたコリトサウルスは進路を居住区から別の場所へと変えて突き進む。
『『『プオオオ〜!?』』』
『『『ギャア!ギャア!』』』
その後もヴェロキラプトル達はコリトサウルスの群れを何処かへ追いやるように群れの後方から三頭、更に別方向へ進まないよう四頭が左右から囲んで、顎と歯を仕切りにガチガチと鳴らして誘導していく。
「そう、そのまま放牧場に誘導して。あ、そっちに行ったらダメだよ」
『ギシャア!』
その中心には別のコリトサウルスの背中に乗ったエインが生体電流でヴェロキラプトル達に指示を出すように動かしていたのだ。
「スゴいな…あのリザードマン。あんなに小さいのにデカいモンスターを追い込んでるぞ」
「それにチームプレーもスゴいぞ。まるで狼みたいだ」
身体は小さいがヴェロキラプトルはこの異世界で最初に出会った肉食恐竜、デイノニクスと同じドロマエオサウルス科に属するため、姿形はもちろん人間顔負けの頭脳とチームプレーで獲物を追い込むことは朝飯前なのだ。
「それだけじゃないぞ。その小さいリザードマンをあのエインが上手くコントロールしてるぞ」
「その内、この異世界のタイラントドラゴンまで操るんじゃないのか」
家畜として扱っていたモンスターは人間を襲うような性質は持ち合わせていなかったため、自分達でも道具や武器があればそれなりに扱えた。
しかし今回エインが相手しているのは肉食恐竜のヴェロキラプトルであり、例え道具や武器があったとしても自分達では彼ほど上手く扱うことは出来なかっただろう。
おまけにそのヴェロキラプトル達を巧みに操って、間接的にコリトサウルスの群れまで追い込む技量はもはや自分達の力量を上回っており、ひょっとするとそれ以上のことをやってのけるのではと密かに思ってしまうほどに見事だった。
「さあ、皆をお家に帰してあげよう」
『『『ギャア!』』』
まるで牛を追い掛けるカウボーイのように、エインはヴェロキラプトル達と共にコリトサウルスの群れを街から朝日が差し込む放牧場へと追い込んでいくのだった。
▷▷▷
『『『プオオオ…』』』
『『『ギイイイ』』』
「これで全部だね」
放牧場には逃げ出したパラサウロロフス、コリトサウルス、オヴィラプトル、プロトケラトプスと飼われていた全種の恐竜達が帰された。最初は追い込まれてパニックになっていた恐竜達も『我が家が一番』と言わんばかりに寛いでいた。
「結局、逃げ出したのはトウガンの実を食べてパニックになって、その勢いで柵を壊したってこと?」
一足先に放牧場に恐竜を追い込んでいたメロルは柵が壊れていたのを確認し、今回の事件の発端によってもたらされたのかと考えていた。
「柵の修理も終わったよ。これで前より頑丈になったはずだよ」
壊れたと思わしき場所はドワーフであるレーヌが金属製の柵に修繕しており、これなら突進してきてもおいそれと壊れたりはしないはずだ。
「レーヌちゃん、ありがとう。君達もご褒美だよ」
一段落したのを確認したエインはレーヌにお礼を言い、そして今回の活躍に貢献してくれたヴェロキラプトル達にプロトケラトプスのハムを与える。
『『『ギャア!ギャア!』』』
一心不乱にハムに集まり、ガツガツと食べ始めるヴェロキラプトル。その際に後ろ脚の鉤爪で細かく引き裂いて食べているため、もしも食べられているのが人間だと思うと少しゾッとしてしまう。
「よくこんな奴らを飼い慣らせたわね」
「僕のマネをしてくれたから…あ」
「何よ……うっ、ちょっとあんま見ないで…」
何気なく会話したつもりのトランとエインだが、互いに思い出して顔が赤くなり目を逸らしてしまう。
「あれあれ〜?いつの間に仲良くなったの〜?」
「…何か面白くない」
メロルはニヤニヤしながら見ていたが、レーヌはムスッと顔を膨らませていた。
「お兄ちゃん〜」
「あ、リリーちゃん。どうしたの」
助け舟と言うべきかリリーがアンキロサウルスのゴンの背中に乗って呼び掛けてくる。
「リリーね、暗くなる前にここに来ていたんだけどね。知らないお姉ちゃん達がこんなのを餌箱の中に入れてたんだよ」
「それ…トウガンの実じゃないか」
リリーの手には放牧場の騒ぎの発端であるトウガンの実が握られていたのだ。
「やっぱり今回のことは人為的な仕業だったようね。どんな奴だったか覚えてる」
モンスターを暴走させるほどに辛いトウガンの実が飼料に入っているなんて不自然だし、明らかに何者かの仕業なのだろう。
「そんなこと言っても…本当に知らないお姉ちゃんだったから」
唯一の目撃者であるリリーも相手には身に覚えがなかったため証言は得られそうになかった。しかしふと何か思い出したように顔を上げる。
「そう言えばあそこで何か探してたけど」
「僕の家?」
リリーが指差した先には壊れたエインの家こと納屋があるのだが、今更あんなとこに何があるのかとエインには理解出来なかった。
「盗まれた物とかある?」
「と言っても盗まれるような物なんてなかったと思うけど」
そもそも人里離れて生活しているため、金目の物もなければ盗まれる物もない。だから物取りの線はないとエインは呟く。
『ギイイイ〜!』
匂いを嗅いでいたゴンはとある場所を前脚で掘るように地面を搔いて瓦礫を退けていた。
「ゴンちゃん、そこに何かあるの?」
「ここは…地下の収納スペースじゃないか」
そこはティラノサウルスから姿を隠す時にキオナと共に隠れた地下の収納スペースだった。よく見ると再びこじ開けて、中身の埃まで全て掻き出したような跡があった。
「もしかしてこの中に何かあったんじゃない?」
「あれ、何これ」
レーヌの発言が気になり、中を覗いてみると奥行くがおかしくなっており、妙な石の欠片が数個ほど落ちていたのだ。
「何か書いて…ううん、彫ってある。文字かな」
「それってバリオンにあった壁画と同じ文字だね。何でそんなのがここに?」
見つけた石の欠片にはバリオンで見た壁画と同じ文字が刻まれているとレーヌが呟くが、今までこんなのが自分の納屋の収納スペースにあったなんてエイン自身も知らなかった。
「ねぇ、あたしの予測かもしれないけど。もしかしてそれを盗むためにこんな騒ぎを起こしたんじゃない?」
口では自信が無さそうに呟いてはいるが、そうとしか言い切れないとトランが告げるとメロルも共感したように頷いていた。
「そうかも。放牧場のモンスターが逃げたら捕まえるのに奔走するし、それまでは放牧場は見向きもされないかも」
家畜の脱走となれば飼育場や放牧場のトラブル…脱走の場合であれば檻や囲いの破損などを解決するよりも、先に人的被害や損害などの二次被害が出ないよう家畜の捕獲に専念するだろう。
今回の騒ぎも納屋の地下にあった何かを盗むために近くの放牧場で騒ぎを引き起こし、その心理を利用して人の目が向かないようにしていたのなら証拠や確証がある訳ではないが辻褄が合う。
「だからリリーちゃんの言う知らないお姉ちゃん達はコリトサウルス達の餌にトウガンの実を?」
「騒ぎが起きれば放牧場にも、この納屋にも人の目は集まらない。犯人の目的はこの石の欠片…正確には元となった何かを盗むためだったのかもね」
バラバラだった点が繋がって一つの線になり、事件の全容が明らかになっていく。少なくとも今回の一件は事故ではなく、計画的且つ人為的な仕業であることは間違いなかった。
「本当にここに何があったか知らないの?」
「僕も知らな…いや、待って。そう言えばオノーダおじさんが何かをここに仕舞っていたような?そのことを誰にも話すなっても言われたような…?」
こんな騒ぎを引き起こしてまで盗み出す物とはなんなのかとトランに言われて思い返してみると、人に話すなと言われたためにずっと忘れていた記憶を思い出す。
「じゃあ、これは何なの?」
「さあ…キオナなら何か知ってるかな」
「そうね。それにこんな騒ぎを引き起こしてまで盗んだんだから、姫様の耳にも入れた方が良いかもね」
これだけでは何が盗まれたかは分からないが、国を混乱させた以上はキオナ達にも周知させる必要があるのメロルからアドバイスされ、エイン達は城へと向かうことにした。




