復讐の足跡
「皆!今日は僕のためによく働いてくれた!存分に食って飲んで楽しんでくれ!乾杯!」
「「「乾杯ー!」」」
ラフスの中央には湖畔の別荘のような建物が建っており、アルセトはクラスメイト達とそこで美味しそうなご馳走を前に凱旋パーティよろしく祝杯を挙げていた。
「さすがはアルセト様!こんな豪華なパーティに招待してくれるなんて!」
召使いや侍女が次々とテーブルに並べられていくのはどれも学生の集まりだけでは手に入れることも出来ない高級品ばかりで楽しむことはもちろん自然と箸が進んでしまう。
「なにせ新しい王様からの報酬がスゴくてね、君達にも手伝って貰いたいくらいなんだよ」
元から貴族と言うこともあって裕福ではあるが、今回は邪魔な継承者を排除したこともあって得られた報酬が遊んで暮らせる額だったため、これくらいのパーティの出費は痛くも痒くもなかった。
「もう王様が決まったんですか」
「暫定だけどね」
奴隷との間に生まれたとは言え王族の一人であるマリアを王から直々に始末するよう言われて日が浅いのに、既に王が決まっていたことに男子の何人かが思わず食事の手を止めてしまう。
「当然よ。王位を継承出来るのは今やビスカ姫様だけなんだから」
この国は母権制…つまり女性優位の国であるため王位を継承出来るのは女性だけなのだ。
風の噂ではビスカは特に両親から溺愛されていて、他の姉妹は名もない庶民に無理やり嫁がせたり、食べ物に毒を盛られて謀殺されたとあるが証拠は挙がっていない。しかし現に王位を継承出来る人物はビスカ以外は不自然に姿を消しており、このままいけばビスカが新たな王女になることは確実かと思われていた。
「そうか、だからあのガキが目障りだったのか」
だが、マリアはそれまで爪弾きにされて主に敷地内の外にいたために王族からの魔の手から逃れ、王位継承になってからビスカと両親に取っては目の上のたんこぶになっていたのだ。
「その通り。今は王様達は継承の儀式で忙しいからこの僕に白羽の矢が立ったのさ」
「そしてあたしらはあのクソキモオークと一緒にいるのを見つけて今に至るってことですね〜」
イジメのリーダー格の女子生徒は自慢の胸をアルセトの腕に押しつけ猫撫で声を発しながらその後の経緯を説明した。
「けど、良かったんですかねぇ。あの子供の死体は結局見つかりませんでしたし」
「悪運の強い娘よね。あのまま変な子豚を守って一緒にくたばれば良かったのに、しぶとく川の中に逃げるなんてさ」
「構わないさ。あんなちっぽけなカスみたいな子供はあのまま野垂れ死ぬだろうからね」
始末しろと言われたもののマリアは川に落ちたために死体は確認出来ていない。だが、外は未知のモンスターが徘徊する弱肉強食の異世界であるため、あのケガでは死ぬのも時間の問題だとアルセトはあっけからんとしていた。
「まあ、お陰で僕は王族と繋がりを持つことが許されたんだ。そこは感謝しないとね」
「あ〜ん!アルセト様〜!それならあたしを妃にしてください〜!」
「あ、私も私も〜!何なら後宮でも〜!」
「あたしのテクで毎夜熱く骨抜きにして、あ・げ・る♡」
マリアの始末が済んだことでアルセトは王族から公爵の位を授かることが約束された。それら国家間の中で王族に次いで高い位、貴族の中では最高の名誉と言われるためアルセトの将来はバラ色であり、玉の輿を狙おうと女子達があの手この手で擦り寄ってくるため他の男子達は指を咥えながら見ていた。
『グアアアァァァ!』
ところが輝いていたアルセトの未来は栄華を遺す前に、国の中ではまず聞くはずがない恐ろしい唸り声によって突如として終わりを告げられる。
▷▷▷
「はあ…はあ…助けて…くれ…」
「おい、どうしたんだお前は」
数時間前、門の見張りをしていた衛兵は傷だらけになった小太りの少年が息も絶え絶えになりながら来たことに何事かと介抱すると同時に事情を訊ねる。
「俺はパントル・シプリス…王の命令で討伐任務に赴いていたら危険なモンスターの群れに出くわした…このことを伝えたくて…」
この少年パントルは傷だらけになりながらも、意外にも冷静に状況説明を始めたことに衛兵は賞賛しながら国の危機と言う話を一言一句聞き逃さなかった。
「分かった。後は俺達に任せて君は早く治療を…」
「いいや、どんなモンスターか知ってるんだ…でも上手く伝えられないから教える…」
これだけの傷を負いながら円滑に物事を進めるため、自分のことを後回しにしてどんなモンスターが現れたか説明すると言い出したために衛兵達は感銘してとある場所に案内した。
『ブオオオオオ!』
『ガルルル…』
『『シャアアア…!』』
国の中央広場には大小様々な檻の中に、外で捕獲されたモンスターが所狭しと入れられており、どの個体も囚われの身に対する屈辱からか或いは充分な自由と餌を与えられていないのかかなり気が立っていた。
「ほう、こいつは中々獰猛な面構えだな」
「こいつ角が曲がってるな。槍の素材には向かないな」
「けど、こいつらの毛皮は良さげだな」
「ねぇねぇ、このモンスターの赤ちゃんをペットにしたいんだけど!良いでしょ?」
当然国の人々は興味本位で訪れては檻の中のモンスターを品定めするように観覧しており、サーカスか動物園か或いはオークションを楽しんでいるかのようだった。
「どれなんだ?どいつが君を襲ったんだ」
「ぐっ…確か…」
そんな賑やかな雰囲気を払拭するように衛兵に肩を貸して貰いながらパントルが現れ、傷だらけの身体を見て「どうした」や「何があった」などの台詞が飛び交い不穏が伝播していく。
「すみません…ちょっと休ませて、ください…」
傷口から止めどなく血が流れ出ているため、台詞からもはや歩くことも辛いと考えた衛兵はソッとパントルを檻の近くで下ろす。
「とにかく止血と治療をしないとな。誰か医者と救急箱を」
回復薬か医療用の魔道具があれば門の前ですぐに応急処置が出来たのであろうが、やはり魔力がなくては使い物にならないため衛兵はそれに頼らない道具や医者を近くの人間に所望する。
「…なあ、このままあいつらに負けて、この中で死ぬだなんて悔しいだろ」
衛兵や近くの人間がパントルを助けようと奔走したりザワザワと困惑する中で、当の本人はマリアのように話が通じる訳でもないのに背後の檻の中にいるモンスターに話し掛けていた。
「このままクソキモオークと呼ばれ続け、あの子がいない世界なんて、もう耐えられない…だから…ぶっ壊せよ。こんなクソみたいな世界を……よぉ!」
話し掛けると同時に肩を貸してくれたと同時に、懐から拝借しておいた鍵束の内の一本から南京錠に描かれた同じ番号の鍵を選び出し、「おい!何をしている!?」と叫びながら近寄る衛兵を前にしてもパントルは冷静に鍵を穴に挿して回していた。それは中のモンスターからすれば解放の合図だと本能的に理解出来た。
『グオオオオォォォ!』
盛り上がった鼻先が二度と開かないとされていた格子の扉を押し開き、幾度となく他の命を奪ったであろう口の奥から自由と怒りの雄叫びを挙げる様は頭頂部の一本角のこともあって鬼のようであった。
「「「わあああああ!?ドラゴンが逃げたあああぁぁぁ!?」」」
突然のことで波打ったかのように唖然となっていた国民は雄叫びを耳にした途端にサーカス気分もパントルへの心配も一気に吹き飛び、蜂の巣を突いたようにパニックになり逃げ惑う。
「なんてことをするんだ!ド…ドラゴンを国の中で解放するなんて!?」
「ドラゴン?『ラジャサウルス』って言うんだぞ」
国民を守ろうと剣を抜いて威圧的な態度を取ろうとするも恐怖からか後退りしておりほぼ虚勢にしか過ぎず、それが滑稽に思えたパントルはマリアから教えて貰った名前を自慢げに語る。
『グルルル…』
「く…来るな!来るな!?」
いつもなら武器や装備を万全にし大勢の仲間と共に撃退したりするが、今頼れるのは申し訳程度の剣だけで左右に振って威嚇するも、ラジャサウルスは空腹なのか相手の恐怖を読み取ったのか意に介さず近寄っていく。
「さあ、お前らも外に出ろ!」
今なら誰もがラジャサウルスに気を取られており、パントルは手当たり次第に檻の鍵を全て順次開けていき、中のモンスター達は最初は戸惑うもすぐさま自由を噛み締めるべく檻の外へと飛び出していく。
「おい!止めろ!」
注意が逸れて剣の動きが止まった瞬間に刃からガチリと言う嫌な音がした。
『ガルルル!グルアアア!』
「うわあああぁぁぁ…!?」
止まった刃をラジャサウルスが犬のオモチャのように振り回し、耐え切れなくなった衛兵は空高く放り投げられる。
「ぐぎゃあ!?」
『…ガフ…ゴフ…!』
直後に剣は魚の骨のように吐き捨てられ、空っぽになった口の中に重力に伴って落ちて来た衛兵が入り込むと同時に鋭い歯が閉じられ血の雨を降らせる。
▷▷▷
『グガアアア!ゴアアアアア!』
当然ラジャサウルスは衛兵一人を食べただけでは物足りず、アルセトの屋敷の近くまで足を運んでいたら思わぬ相手…自分を罠に嵌めて動けなくし、散々イジメた後で檻に閉じ込めた女子生徒グループを見つけたことで敷地内に響き渡るほどの荒声を挙げる。
「こいつはあの時のブサキモいドラゴン!?」
「何で外に出てるのよ!?」
「知らないわよ!」
国の外ならまだしも国の中でモンスターと対敵することはまず有り得ない。と言うよりも生活圏でそんなことは絶対にあってはならないため、目の前の現実を認められない上で動揺してしまう。
「案ずることはない!冷静に対処すれば対応出来ない相手ではないはずだ!」
見た目だけは立派な勇者のようではあったが、毅然とした態度で動揺するクラスメイト達を冷静に諭す辺りはそれ相応とも言えるだろう。
「こっちへ来るな!」
「気持ち悪いのよ!」
「早く檻へ戻るんだ!」
幸いと言うべきかこの異世界のドラゴンは火を吹かないため、アルセト達は槍や弓矢と言ったリーチの長い武器の切っ先を突き出しながら距離を詰めていくことで逆にラジャサウルスを後退りさせていく。
「良いぞ、やはり魔法やスキルが使えなくとも武器があればこの異世界のモンスターやドラゴンとも渡り合えるようだ」
「そ、そうですよね!さすがはアルセト様!」
当初は例に漏れず魔法やスキルが使えなくなったことにショックを受けていたが、アルセト達もエイン達と同じく生き抜くための工夫を凝らし、この異世界のモンスターのことをよく知ることで何とか切り抜けてきた。
今回のラジャサウルス脱走は何の因果かは不明だが、いつものように上手く切り抜けられると信じており、再び捕らえるか駆除するかのどちらかだろうと誰もが確信していた。
『…!?』
「…何だ?どうしたんだ?」
槍を持って近付くアルセト達を前にラジャサウルスは後退りしながら吠えているだけであったが、突如として彼らに目もくれずに何がある訳でもなく明後日の方向に視線を移したのだ。
「…何で地面が揺れてんだ?」
「きゃっ!?地震なの?」
地面の揺れが足の裏から伝わり、テーブルの上に置いてあるグラスが落ちて派手な音を立てながら割れたことに優位に立っていたクラスメイト達は徐々に表情が曇っていく。
「…よう、マリアを殺したくせに随分と羽振りの良いことをしてるじゃねぇか」
もう二度と耳にすることがないと思われた聞き覚えのある声がしたかと思えば、始末したと思っていたはずのパントルが傷だらけになりながらも歪んだ笑みを浮かべていたのを目の当たりにしたアルセト達は驚くと同時にみるみる内に表情が険しくなる。
「クソキモオーク!?あんた生きてたの!?」
「まさかこの騒ぎはあんたのせいなの!?」
「あたしらに対してへの当てつけのつもり!?」
「ふざけんな!クソキモいオークのくせして逆恨みしてんじゃねぇよ!」
特に女子達は仕留め損ねたゴキブリを見るような視線をしながら口々に暴言をパントルに浴びせる。
「俺への仕打ちやお前らの言い分はこの際どうでも良いんだよ。今この国の中で一番申し立てをしたいのはなぁ…あいつらなんだよ!」
彼女らの暴言を上回る声量で叫びながら自身の背後を指差すと地面の揺れがより激しくなり、それに伴って巨大な影がアルセト達の頭上を覆い尽くしてしまう。
『ブモオオオオ!』
『ブモオオ…!』
『ブオオオオオ!』
『ブモオオ…ブオオオオオ!』
現れた影の持ち主の見た目とサイズはキリンのように長い首と四肢を持ちながら、象を彷彿とさせる太くゴツゴツとした体表をしたモンスターだった。
「オークくんと共にいた、あのヘンテコな馬…なのか…!?」
「何でこんなにデカくなってんのよ!?」
その姿は何処かで見覚えがあると思ったら、大きさ以外を除けばパントルといたパラケラテリウムと瓜二つだったのだ。問題の大きさはと言うと最初は馬ほどのサイズしかなかったが、アルセト達の目の前に現れた個体はどれも二階建ての家屋と変わらない大きさをしていたのだ。
「お前らは俺からマリアとパラケラテリウムの子供を奪った…それが一体何を招いたか、その身を持って知るが良いさ!」
地球の歴史上の中で陸生哺乳類の中でも史上最大と言われるのがパラケラテリウムの最大の特徴であった。パントルとマリアが出会ったのは彼らの子供であり、アルセト達はそうとは知らずに討伐してしまったのだ。
『『『ブオオオオオ!』』』
子供の匂いをアルセト達から嗅ぎ当てた瞬間、怒りの雄叫びを挙げる。どのパラケラテリウムも大きな目に大粒の涙を零しながら家屋のガラスや石垣が壊れるほどに丸太のような脚を振り上げては地面に勢いよく落とし続ける。
『ブモオオオオ!』
「ちょ…まっ…ぎゃあああ!?」
『ブオオオオオ!』
「ま…待て…うわあああ!?」
ただでさえ大きな身体をしているため、パラケラテリウムが少し走るだけでも人間が小石のように弾き飛ばされてしまう。
「こんな巨大なモンスターがどうして国内に…まさか君が侵入させたのか!」
「聞いてどうする。それよりも早く逃げないとあいつみたいに踏み潰されるぞ」
「ぎゃああああ!?助け」
これまでパントルに暴力を振るっていた男子生徒はパラケラテリウムの脚によって虫けらのように踏み潰されてしまう。
「そんな…矢が通らな…!?」
弓術では負け知らずでパントルを的代わりにしていた女子生徒は矢を連射するも、象の皮膚を持つ巨体には蚊が刺した程度の威力でしかなかった。
『ブオオオオオ!』
「いや!?止めて!?まだ死にたく…!?」
攻撃とはこうするのだと言わんばかりにパラケラテリウムは脚を振り下ろし、腰が抜けながらも命乞いをする女子生徒の命と身体を木っ端微塵に踏み潰すのだった。
「くっ!?子供の元に送ってやる!」
『ブモオオオオ!』
踏みつけを避けたアルセトはパラケラテリウムの脚を子供の命を奪った時と同じようにロングソードで斬りつける。さすがに一筋の切り傷がつけられるも、命を奪うには届かず寧ろ怒らせる結果になってしまった。
「おい!しっかりしろ!?」
「嘘でしょ…これがあの子なの…!?」
「そんな…こんな虫けらみたいに殺されるなんて…」
「グチャグチャに踏み潰されて…うえっ…!?」
人間が怒り狂う巨獣の暴走によって骨も内臓も単なる肉塊に成り果てて、それが馴染み深いクラスメイトとなれば変わり果てた姿に血の気が引いて吐き気を催してしまう。
「アルセト様!?あたしらの武器じゃ、こいつらは倒せませんよ!?」
このままでは自分達も同じようになると判断したリーダー格の女子生徒はこのままだと全滅せんと言わんばかりに進言した。
「くっ…こうなれば城まで撤退するんだ!そこなら大砲もあるから反撃の口火を切れるはずだ!」
引き下がる訳にはプライドが許さないがそれで自分や仲間の命を失うのはマズいと考え進言を受け入れるのだった。
「このクソキモオーク!私の友達をグチャグチャにした借りは絶対に返させて貰うわよ!」
右腕以外はパラケラテリウムに踏み潰されて肉塊になった友人に涙しながらパントルに宣告するよう女子生徒の一人が叫ぶ。
「ほざけ、お前は俺から色々な物を奪ったくせに被害者面するな。そもそもお前はここで終わりだがな」
「ふざけんな!何を言っぎゃあああああ!?」
逆に命の終わりを宣告するような発言をパントルから言われ激昂した瞬間に、彼女は目の前が真っ暗になり内臓を押し潰される圧迫感と肉を切り裂かれる苦痛に悲鳴を挙げる。
「いぎゃあああ!?痛い痛い!?」
『ガルルル…!』
真っ暗になったのはラジャサウルスが上半身に噛み付いたためであり彼女は苦痛で身悶えるように足をバタバタと暴れさせるが、『黙れ』と言わんばかりにラジャサウルスは負けじと顎を振り回しては地面に叩きつけて骨と肉を断つ。
「く…喰われた…喰われた!?うわあああ!?」
「ひ…ひいいいっ!?待ってよ!?」
目の前で顔馴染みの人間が踏み潰されただけでもショックだったのに、生きたまま喰われたのを目の当たりにして何人かの心が砕けてしまい、耐え切れなくなってその場から逃げ出し始める。
『ガアアアアア!』
「うぎゃあ!?」
ところが建物の角からアロサウルスに似ているが、二枚のトサカが目と鼻の間に掛けて生えた肉食恐竜『ヤンチュアノサウルス』が顎を突き出して逃げ出した男子生徒を頭から齧り付く。
「他にも別のドラゴンが…ひぎゃあ!?止めてえええぇぇぇ!?」
『ギシャアアア!』
ヤンチュアノサウルスに驚いた女子生徒には腰に突起物を持った肉食恐竜『コンカヴェナトル』が飛び掛かり、彼女の柔らかい腹肉を牙で切り裂いて中の内臓を血を浴びながら貪り食う。
「嫌だ!嫌だ!?何であたしらが殺されなきゃいけないのよ!?」
「それもクソキモオークの連れてた馬みたいな奴らに踏み潰されるなんて!?」
それまで優位に立ていたはずなのに既に何人ものクラスメイトが犠牲になったことで大半のクラスメイトが半狂乱になって四方八方に逃げ惑う。
「撤退だ!撤退しろおおぉぉ!?」
それを静止させるように叫びながらアルセトは生き延びた者達を誘導するように城へと続く道を走る。もちろんその間にも踏まれたり、頭から喰われたりと頭数が減っていくのだった。
「もう何処にも逃げ道なんてないさ…」
それを端から見ていたパントルはアルセト達に待ち受けている未来を見据えるかのように歩き出す。
▷▷▷
「はあ…はあ…ここまで来れば…え」
「そんな…バカな…!?」
息も絶え絶えで何とか城へと辿り着き、生き延びたと喜ぶもアルセト達の目の前には絶望が広がっていた。
『『『ブオオオオ!グオオオオ!』』』
「こっちへ来たぞ!?」
「来るな!?来るなぁ!?ぐへあっ!?」
鼻先の角が地面を向くようにねじ曲がった角竜『エイニオサウルス』が追いかけていた馬車を自慢の角で空高く突き飛ばし、やがて落ちて来た馬車から人間の死体と荷物が辺りに散乱する。
『『ガルルル…!』』
「いやあああ!?止めてええぇぇ!?」
背中に縞模様を持つ狼のような有袋類『フクロオオカミ』が逃げ惑う侍女の衣服に群れで噛みついて引きずり倒していた。
『『グエエエ!』』
「ぎゃあああ!?」
二頭のフォルスラコスが自慢の逞しい脚を使い、衛兵をサッカーボールのように何度も蹴りつけていた。
正しく最後の砦とも言える城の中は既にモンスターで溢れ返っており、どの種も人間を襲うか捕食するかのどちらかで確実に命を奪っていき死体の山を築くと言う地獄絵図だった。
「もう城の中はめちゃくちゃじゃないか…!?」
「あのクソキモオーク…全部の檻を開けたの!?」
「これじゃあ私達も同じ目に…!?」
「でも、どうして城の中にモンスターが?壁があるはず…なっ!?」
モンスター達はパントルが脱走させたとは言え、防衛力が高いはずの城にどうやって侵入したのか辺りを見回すと城壁に大きな穴が開いているのが目に入った。
「何よ、あの大きな穴は!まさかあれもクソキモオークの仕業だっての!?」
「それにしては規模がデカ過ぎる気がする…」
「いずれにしてもここに長居してもダメなようだな」
モンスターを脱走させたならまだしも、城壁に大きな風穴を開けるなんてパントルに出来るかどうかは不明だが、ここも安全ではないと言うことはすぐに理解出来た。
「止むを得ないな…馬車に乗れ!国を脱出するぞ!」
国内にモンスターが溢れかえり、最後の砦が崩れた以上は国を捨てるしかない。そう考えたアルセト達は停めてあった手近な馬車に乗り込もうとする。
『『『ブオオオオ!』』』
城壁に開けられた風穴がどうやって出来たのか再現するかのように、パラケラテリウム達が突進で壁を突き破ってくる。
「まさかあいつらが壁を…!?」
幾ら巨獣とは言え、まさか侵攻にも耐えられるほどの強度を持つ城壁を突進でぶち破ったことに圧倒されていると馬車の外からガチャリと鍵を掛けられてしまう。
「この国の外壁もお前らがあいつらを怒らせたためにぶち破ったのさ」
「クソキモオーク!?」
「…あっ!何よこれ!?開かないじゃない!?」
忌々しいパントルを目にするも、馬車の扉がうんともすんとも言わなくなり外に出られなくなる。
「ちょっと!出しなさいよ!」
「断る。そこがお前らの棺桶だ」
馬車の内側から必死に叩きながらも叫ぶも、パントルの背後でパラケラテリウム達が大木のような脚を振り下ろしながら近付いてくるのが目に入り一気に血の気が引く。
「ふざけるな!ここから出せオーク!?」
「止めて!?何考えてんのよ!?」
このままだと確実に死が待っており、アルセトもなりふり構わず本性を露わにして女子生徒達と共にパントルをまくし立てる。
「これがお前らへの報復だ。国をこんな風にした以上は俺も後を追ってやる」
「ふざけないでよ!あんたみたいなキモい奴と心中なんて冗談じゃないわよ!」
もはや覚悟は揺るがないとパントルは女子が叫ぶのも聞かずにその場に座り込む。
「アルセト様!助けてください!?」
「邪魔だ退け!僕をここから出せ!何でお前みたいな醜い奴が僕の命を奪おうってんだ!?」
助けを求めるように擦り寄ってきたリーダーの女子をアルセトは乱暴に押し退け、剣の刃を扉に突き立てたり乱暴に引いたりして外に出ようとするがビクともしなかった。
「散々奪ってきたお前らが我が身可愛さに生き延びようってのか。俺もだがお前らもお前らで相当醜いぞ」
『『『ブモオオオオオオオ!!』』』
「「「う…うわあああああぁぁぁぁ!?」」」
遺言とも取れる捨て台詞を吐き捨てるとパラケラテリウム達は子供の命を奪った怨敵を許さないと、馬車と地形を木っ端微塵にする勢いで何度も前脚を振り下ろす。
▷▷▷
「……酷いヤラれようだな」
時間は巻き戻り現在、漁村から出発したシスカ達は今や廃墟となり以前は小国であった場所を訪れていた。家屋や壁と言った目に付く人工物は全て原型が失くなるほどに破壊され、一つの国がただの跡地になってしまった現実を訴えているかのようだった。
「アレッサさんのやってた通りにやってここまで来ましたけど…」
『クキュウ、クキュウ』
アレッサと同じ猫獣人であるモナの側には彼女が食べ物で飼い慣らしたメイが寄り添っていた。
「小さな国が見えたからまさかと思って立ち寄ったが…宛が外れたようだな」
漁村からアレッサとも離れ離れになるもモナがメイをエサで使ってキオナの匂いを再度追わせた結果ここまで来れたが、肝心の姿は何処にもないためにリオーネはガックリと肩を落としてしまう。
「姫様…今何処におられるのでしょうか…」
「何があったかは知らんが…この国はこの異世界によって淘汰されたと言うことだな」
上から重い物で押し潰れた木片の山には乾いた血と肉塊がベッタリ染み付いており、この国では何か凄惨な出来事が起きて国は滅び、そして人々がどんな結末を辿ったか物語っているようだった。それもそのはず、この国はとある一人の虐げられた少年と、子供を奪われた巨獣の余りある憎悪によって滅ぼされたからだ。




