楽園での一時
「これをこう着て、この紐を結ぶと…ほら、メロルさん、出来ましたよ」
「ありがとう、ロイルさん。水着なんて初めてで紐で結ぶとかよく分からなくて」
「へぇ〜、結構可愛いのがあるのね。でもルシアンのは…何かエロいわね」
「ちょっと、エリーシャちゃん〜」
ナミア達から貰った水着を手に女子達は男子の視線から離れた岩陰、それもレーヌが即席で作ったカーテンで仕切ってくれたお陰で安心して服の下着を脱いで水着に着替えれた。
「それにしても…下着とは違って何だか肌にピタッと吸い付く感触ですね」
「おまけに水にも強そうってのも本当かもね」
「でもオイラは落ち着かないかな」
キオナは白のビキニ、トランは黄緑色のチューブトップの水着を着用して着心地や性能を賞賛し、レーヌはハーフパンツ型の水着を着用するも少し窮屈そうにしていた。
「最初はこんな格好で人前に出るかと思ってたけど、そんな悪くはないかもね」
「私は…その…恥ずかしいかも」
「私も…上から着るものありませんか?」
最初は躊躇っていたエリーシャもオレンジ色のビキニをバッチリ着こなしていたが、フレアビキニを着用したルシアンとアルロは隠し切れない魅惑的な部分が強調されているためとても恥ずかしそうにしていた。
「水泳の訓練なんて久しぶりね」
「モルマ先輩、スタイル良いですね〜!」
水玉フリルの水着を着たモルマはビーチバレーボール選手のようなスポーティーな水着を着こなすモルマに夢中になっていた。
「メロルちゃん、やっぱりスゴいねぇ〜」
「そう?あんまり大き過ぎて邪魔なんだけどなぁ〜…」
ナクアは緑色のビキニを着ながら、男性の目を釘付けにしそうなセクシーな黒ビキニのメロルを賞賛するも、メロル本人はその大きな胸を邪魔そうに撫でながら呟いていた。
「邪魔…ですか。そう…邪魔なんですね…」
「見てなさいよ…あたしだっていつかアレシア姉さんみたいに…!」
「いらないならオイラにも分けて欲しい…」
キオナは遠い目をしながら灰色になっており、トランは顔を真っ赤にしながら歯を食いしばり、レーヌは目を猛獣のように光らせながら指をワキワキさせていた。
「お兄ちゃん〜!着替え終わった〜!」
幼いリリー達はフリルのあるワンピースの水着を着用すると真っ先にエインに見せに行く。
「わあ、可愛いよ。リリーちゃん」
「えへへ〜」
エインも薄いパーカーにトランクスタイプとオーソドックスな水着を着用し他の男子達と待っていたが、水着に着替えたリリー達を見て微笑む。
「待たせたわね」
程良く引き締まったボディラインの上にスポーティーなビキニを身に纏ったアレッサを先頭に女子達が岩陰から出てくる。
「あの…やっぱり恥ずかしいですね」
「おおっ…マジかよこれ…」
同じキャラバンの仲間であるキャロラインがこれまた大胆なビキニを着て現れたことにドランは前屈みになって顔を赤くしていた。
「エイン…あの…似合うでしょうか?」
「あ、キオ…ナ……」
恥ずかしそうな声で呼び掛けられたことにエインは視線を移すと、清楚な見た目ながら白いビキニをと言う大胆な格好のギャップ差にエインは思わず言葉を失いかける。
「……キオナ…何だかドキドキするよ」
「はう…そんな風に言われると…恥ずかしいです!?」
分かってはいたがエインが率直に感想を述べたために恥ずかしさが再燃したキオナは背を向けて屈んでしまう。
「へぇ〜…キオナ姫でも良いんだぁ」
「じゃあじゃあ、オイラは」
「はいはい!今は泳ぎの訓練をするんでしょ!」
やり取りを見ていて希望を持ったトランとレーヌが更にエインにアピールしようとするがモルマから阻止されてしまう。
「じゃあ、まずは準備運動からよ。いきなり水に入ると身体に悪いからね。私の動きに合わせてね」
湖の辺りにエイン達は一定の間隔を空けて集まり、彼らの前にモルマが立ってお手本を見せるかのように準備運動を始める。
「これをするとどうなるんですか」
「身体を動かすことに慣れさせるためだ。水泳に限らず、慣れてない状態でいきなり運動や肉体労働を行うと身体に負担を掛けてケガをしてしまう場合がある」
「だからその前に軽く身体を動かして、動くことに慣れさせればその心配は低くなるってこと。寝てる時にいきなり水をかけられたらビックリするのと同じだよ」
同じ軍候補生だけあって準備運動の大切さを知るカルロスとモルマがその意味をエイン達に教える。
「次は水に慣れることね。軽く身体に水を掛けてみて」
『キュウ〜!キュウ!』
「わひゃっ!冷たい〜!」
モルマの言葉を理解したかは不明だが、一足先にマイが水の中に飛び込んでリリー達に水を浴びせる。
「これも準備運動の一つなの?」
「そうだね、水は体温より低いことが多いし、さっきも言ったけどいきなり水を浴びたらビックリするのと同じだから、こうやって水を少し浴びて水温に慣れるためかな」
お湯に入る入浴や軽い水浴びならまだしも、体温より低い水の中で動くとなれば準備運動はもちろん水に慣れていないと身体や心臓に大きく負担を掛けてしまうしため、余裕があれば入念に準備をするのも当然だろう。
「結構水が冷たくて気持ち良いね…」
「ラピスさん…あんた、本当に女なのよね?思わずドキッとしちゃったけど」
身体にはもちろん顔に水を浴びていたラピスは男と間違いほどの整った凛々しい顔立ちをしているため、女子から見れば思わずトキメイてしまいそうだった。
「ねぇねぇ、もう良いかな…!?」
「「入りた〜い」」
やることはやったとローズはソワソワと落ち着かない様子を見せており、ナズカとナズサも互いに手を繋ぎながら期待に満ちた視線をモルマに送っていた。
「良いわよ。でも私達の目の届く浅いとこで遊んでね」
「「「わぁ〜い!」」」
子供達は一斉に水飛沫を立てて飛び込んで行き、バシャバシャと水面に波紋を立てながら走ったり浅瀬で転げ回ったりする。
「それじゃあ、あたしらは泳ぎの練習ね」
「うん、よろしくね」
「あ…エイン…」
子供達が楽しそうに水浴びする光景を微笑ましく思っていたら、ここは早い者勝ちだとトランがエインの手を引いて水泳の練習を始めたため、同じく泳げないキオナはそれを指を咥えて見ているしかなかった。
「う〜っ…オイラも泳げれば…」
「あら、レーヌさんは泳げないのですか」
しかしそれを見ていたのはキオナ一人だけではなかった。ドワーフで鍛冶仕事をしている上に、ハンマーを武器にするほどの力持ちなはずのレーヌも泳げなかったようだ。
「オイラ達は基本的に山の中で暮らしてるんですよ。川には入っても泳ぎは得意じゃないんですよ」
確かに山の中や鉱山の中で働いているドワーフからすれば、泳ぐ必要がある場所とは無縁であるため泳ぎが得意とは思えなかった。
「まずは水に慣れることから始めるわよ。例えば水の中で目を開けたり、水に浮いたりとかね」
「やってみるよ」
エインとトランは腰辺りまで水に浸かる場所へ移動し、そこで基本的なことから始めることにした。
「じゃあ、息を大きく吸って…潜る!」
「はあ〜…っ!」
トランはモルマのようにお手本を見せるように大きく息を吸ってから水中に潜り、エインも息を吸って後に続くように潜る。
「……!」
恐る恐る目を開けたエインは水の中の光景に薄っすら開けていた目を見開く。と言うのも水の中には様々な大きさをした魚が重力に逆らうかのように縦横無尽に泳いでおり、水底には海藻や藻が生い茂って水中の草原が広がり水流や魚の動きによってユラユラと揺れて陸上とは異なる光景が広がっていた。
『クウルル〜!』
『『『キュウキュウ!』』』
その魚をフタバサウルスのタバサとニホンカワウソ達が水の中を縦横無尽に泳いで追い掛けており、時には海藻の間を潜り抜けたり、魚を追い掛けて水面に飛び出ては再び水中に飛び込んできたりと何処か幻想的な光景を醸し出していた。
「……がぼっ!?」
思わず見惚れていたエインはふと息苦しくなり、口からたくさんの気泡を吐き出す。
「ぶはっ!?く…苦しい…」
「ちょっと、息継ぎしないと溺れるわよ?」
見惚れていたとは言え、息継ぎを忘れてしまい苦しい思いをしながら浮上するエインに呆れるトラン。
「でも…綺麗だった!」
「はえ…そ…そうね」
だが、すぐに先程見た水中の光景に率直な感想を述べるエイン。そんな彼の年相応の純粋さに溢れた目で見られたトランは不思議と顔が赤くなりそっぽ向くのだった。
「上手ですよ姫様」
「ぷはっ…はあ…ありがとう…ございます…」
キャロラインに手を引かれる形でキオナは足を懸命に動かして水面をパシャパシャさせながら泳いでいた。
「いや〜…まさかここに来てバカンスみたいなこと出来るなんて思いもしなかったわ〜…」
「そうだよね。いつもはモンスターに追い掛けられたり、食べられそうになってたしね」
「あたしの避暑地や別荘に相応しい場所ね」
泳ぎの練習を傍らで見ていたエリーシャとエルケは水面に浮かんだりして心地良さそうにしていた。安心して寛げる場所は国の外にはないだろうし、ましてやこんな穏やかな場所があって長期休暇のバカンスを楽しめるだなんて思いもしなかった。
「見て、あの鳥。綺麗な羽根と赤い顔をしてるよ」
「ネイルの魚を横取りしたのとちょっと違うわね」
『『『カ〜ウ、カ〜ウ』』』
近くの岩場に腰掛けていたルシアンとメロルは遠くで赤い顔に白い羽根が際立つ美しい水鳥、『トキ』の群れが一斉に飛び立ち空を鮮やかに染める光景に目を奪われてしまう。
『クアアア〜!』
「あ、コラ!これは食べ物じゃないんだよ!」
岩場で読書していたレイだが、ヘスペロルニスが置いていた本を啄いているのに気が付いて慌てて取り上げる。
「おほ〜、眼福、眼福…ぶはっ!?」
女子達の水着を鼻の下を伸ばしながら見ていたドランの顔面に活きのいい魚がぶつかってくる。
『クオオオ』
「いって〜な…魚を捕るなら、もっと遠くでやれ!」
その魚を悪びれる様子もなくデイノケイルスのネイルが咥えて丸呑みにする。どうやら捕食しようと弾き飛ばした魚がドランの顔に当たったようだ。
『『プオオオ!プオオオ!プオオオ!』』
「あら、見慣れないモンスターがいるわ」
湖にはマイアサウラやプロコプトドンにヒプシロフォドンなどこの楽園に住まうモンスターが水を飲みに来ているのだが、アルロはその中にはこれまでに見ない種も混じって水を飲んでいるのに気が付いた。
そのモンスターは背格好と見た目からしてマイアサウラと同じ種類であるカモノハシ竜だろうが反り返った頭部とトサカを持っており、一番の特徴は目の上の皮膚は薄い皮膜なのか鳴き声に合わせて風船のように膨らんでいた。
『『プオオオ!プオオオ!プオオオ!』』
その内の二頭は共に空を見上げながら競い合うように鳴き続け、頭部の膨らみも連動するように膨張と収縮を繰り返していた。
「エインくん、あのモンスターは何なの」
「あれは『サウロロフス』ですよ。鳴き声を出す時は頭の部分が膨らむんですよ」
「へぇ〜、何で膨らませてるの?」
モンスターの正体はサウロロフスであり、リリーは好奇心から膨らませている理由をエインに訊ねる。
「あれでお話したり、どっちが強いかって競い合ったり、後はお嫁さんに好きになって貰うためなんだって」
その説明を証明するように右側のサウロロフスは肺活量で押し負けたのかゼェゼェと息切れした後にスゴスゴとその場を去り、左側のサウロロフスには雌と思わしきサウロロフスが擦り寄ってくる。
「へぇ〜!お兄ちゃんスゴいね。何でも知ってるんだね!」
目の前で説明したことが全部起こったためにリリーは興奮していた。
「あ〜…う〜…」
「エイン、トウガはお腹空いたって言ってるわよ」
エインが泳ぎの練習に専念している間にアレッサがトウガを見ていたが空腹になったことを知らせてくる。
「リリーもお腹空いた…」
意外に食いしん坊なリリーも空腹を訴え始めていたが、日は高く昇ってそろそろ昼食時であった。
「魚ならたくさん獲ってきたよ〜」
「これだけあれば足りますか?」
『『『キュウ、キュウ』』』
グッドタイミングと言うべきかナクアとマーセルがニホンカワウソ達と共に魚を獲って水から揚がって来る。
「獲ってきたのは良いんだけど、マーセルさんは魚は良かったの?」
「あー…人魚族だからね」
ふと、レイはおずおずと聞いてくるがその質問にアルロもその真意に気付いて苦笑いを浮かべる。なにせ半身は魚であるため共食いになるのではと思ったのだろう。
「魚の中には別の魚を食べる種だっているのよ。だからそんなに気になる問題じゃないと思うけど」
「そうでした…すみません」
しかしそれは『見た目が似ている』からと言う人間側の考え方であり、食う・食われるは別問題だとさも当然に話すマーセルに悪く言えば偏見であったとレイは謝罪する。
「待って〜、もう少しでこっちも何か釣れそうだよ」
サンボは岩場で釣り糸を垂らしており、既に何か掛かったのか竿が水面に向かって弧を描いていた。
「ん〜…!それ!大物だよ!」
獲物は既に疲れ切っていたらしく、サンボは一気に獲物を釣り上げる。水面から出てきたシルエットはかなり大きかったが魚とは思えない見た目をしていた。
「それは…エビなの?それともロブスター?」
「…さあ?見たことないエビだね」
釣り上げた獲物は確かに大物でエビやロブスターのような甲殻類にも見えた。しかし目は顔の側面から飛び出していて、身体の輪郭に合わせて羽のようなヒレがズラリと並び、ハサミの代わりにヤギの角のような大きくカーブした触腕が一対生えていると言う奇妙な見た目をしていた。
「それは『アノマロカリス』だね」
「アノ…?それよりもまさかそれを食べる気じゃないでしょうね?」
聞き慣れない名前に首を傾げるも、アノマロカリスを釣り上げるのを見ていたエルケはサンボにそれも食材にする気なのかと心配していた。
「…何にでも挑戦だよ」
「食に関してはサンボの上を行く者はいないわ」
「本気なのね…」
心配を余所にサンボはアノマロカリスを調理する気らしく、モルマからの諦めに近い台詞にエルケは本当に食べるのかと頭を抱える。
「皆〜、お昼よ〜」
「「「は〜い」」」
釣り上げた魚の調理を手伝っていたメロルは料理が出来上がったことを知らせると、リリーを先頭に待ち侘びたと仲間達が集まってくる。
「魚の方は定番の焼き魚とお刺し身だよ」
出来たのは程良くこんがり焼けた魚と綺麗に切り分けられた刺身であった。
「ところであれはどうしたんですの?」
「もう、そろそろのはず…あ、出来た出来た」
あれとはアノマロカリスのことだが、サンボの後ろでは鍋の中でパチパチと煮えた油が音を立てていたのだ。
「じゃ〜ん!アノマロカリスの天ぷら〜!」
「……なんつーか、スゴい見た目のエビフライだな」
どう調理するかと思えばアノマロカリスを丸ごと天ぷらにしてエビフライのように仕上げたのだ。かなり独特な見た目だっただけに食卓に出たら暫く忘れられないほどのインパクトがあったとドランは後ほど呟いていた。
「でも美味しいよ〜!ねぇ、お兄ちゃん!」
「うん、美味しい〜!」
「あ、オイラにもちょうだい!」
「僕にも!」
「あたしにも!」
「…全部お食べになってもよろしいですわよ。私達はお刺し身だけで充分なので」
エイン、リリー、レーヌ、カイとカナは美味しそうに頬張っていたがキオナ達はさすがに食べれないと遠慮するのだった。
「あ〜…う〜…」
「そうだった。君にもあげないとね。ほら、食べてみる?」
「待って」
声を聞いて思い出したようにトウガにアノマロカリスのフライを食べさせようとするがアレッサから止められてしまう。
「さすがに味が濃ゆいから刺身とかから食べさせて。それなら一口大だから食べやすいはずよ」
「なるほど。じゃあ、こっちを食べてみる?」
「う〜…?」
刺身を一切れ手に取ってトウガに近づけるも、彼女は口を付けずに首をフクロウのように傾げながら見ているだけだった。
「あれ?」
「どうしたら良いのか分からないのよ。生まれたばかりだから食べるって行動をまだ知らないし、食べられる物かどうかも分からないのよ」
孵化したトウガからすれば見えているもの全てが目新しく、それをどうしたら良いか分からないため親であるエインに同意や意見を求めているのだとアレッサは説明する。
「だからあなたがどうしたら良いかやって見せて。そうすれば彼女もマネをするはずよ」
「…良い?これは食べる物だよ」
つまり食事のお手本を示せと言うことらしく、エインは手に取った刺身をトウガの前で口に入れて咀嚼し呑み込んでみせる。
「僕のマネをしてみて」
もう一度お手本を見せようと一切れ手に取ったエインはトウガが食べやすいようにと小さな刺身を差し出す。
「…あう!」
最初は不思議がっていたトウガもアレッサの言う通り、親であるエインのマネをして刺身を口に含んでくれた。
「…!う〜…!」
「ほら、美味しいでしょ?」
エインが咀嚼をするとトウガも後を追うように咀嚼をする。口の中に広がる魚の味の美味しさにトウガはニヘェと笑顔を見せたことにエインも吊られて微笑んでしまう。
「よし、上手いぞ」
「この調子で色々教えていくわよ」
エインがハーピーをパートナーにするステップを順調に進んでいることにマルスもアレッサも満足そうにしていた。
「う〜…!」
「もっと欲しいんだね」
味を占めたのかトウガは刺身をもっと催促してくるため、エインは微笑ましく思いまた刺身をあげようとする。
「む〜…!お兄ちゃん!リリーも欲しい!」
「…!う〜…!」
ヤキモチからかリリーは割って入って刺身を食べさせて欲しいと催促し始め、トウガは食べ物を横取りされてたまるかと彼女を押し退けて催促を続ける。
「ふふっ、何だか鳥の雛みたいですね」
「確かに先を争うように餌を催促してくる雛みたいね」
喧嘩は良くないが小さな女の子がエインを取り合って食べ物を食べさせて欲しいだなんて鳥の雛のように何処か微笑ましかった。
「二人共、喧嘩しないでね」
『アオオオオン〜!』
何とか二人を宥めようとするエインだが、唐突にロボが遠吠えをして何か警告していた。
「どうしたの……あれ、何か地面が揺れてない?」
何を警告しているかと思えばズシン…ズシン…と地面の振動が足やお尻から伝わって来るのだ。
「何だ?地震か?」
「ちょ…これってまさかあのタイラントドラゴンが来たの…!?」
「タイラントドラゴンって…まさかこの異世界にもいるの!?」
「見た感じは前脚が小さくて翼もないし、ブレスも吹かないけど…あたしらには充分な脅威よ!?」
何も知らないカルロスやラーナは地震かと思うも、レイやエリーシャからすればこの揺れには嫌と言うほど覚えがあり地震とは別の意味で警戒していた。
『プオオオン〜?!』
揺れと音が大きくなるとサウロロフスも警告を促す鳴き声を発し、蜂の巣を突いたかのように慌ただしくその場から離れる。
「音と揺れがドンドン大きくなっていきますよ…!?」
「変だよ…ティラノサウルスにしてはヤケに大きいような…!?」
もうかなり近付いているのか揺れと音はこれまでにないほどに大きくなるのだが、ティラノサウルスにしては余りにも大きいことにエインは首を傾げる。
『『『ブオオオオオ…』』』
「バカデケェ…!?山が歩いているみてぇだ…!?」
誰が言ったかは分からないが、少なくともその場にいた全員が同じことを思っただろう。揺れと音の正体はやはり足音と地面を踏み締める振動だったのだが、それを起こしていたのはティラノサウルスや元の世界にいたドラゴンやサイクロプスやトロールすら軽く上回る巨大な竜脚類の群れだったのだ。
「『プエルタサウルス』だ…!」
「前に海で出会った首長ドラゴンを上回ってるわ…!?」
以前にもドレッドノータスやブラキオサウルスなどにも出会ったことはあるが、プエルタサウルスは背丈や胴回りはその二種を上回っており人間なんか正しく足元にも及ばないほどの巨体を誇っていたのだ。
「危ない!避けるんだ!」
「踏まれないように離れろ!」
山が歩いているような光景に圧倒されるも、あんな大木のような脚で踏まれたら一巻の終わりだ。ラピスとマルスの避難勧告に全員が慌ててサウロロフスに倣うようにその場から避難する。
『ブオオオオオ…』
『グオオオオ…』
『オオオオオ…』
プエルタサウルスは長い首を手が届く程まで降ろすと湖の水面に口を着けて水を飲み始める。
『ブオオオオオ〜…!』
『ブウウウウ〜…!』
すると彼らは口に含んだ水を勢いよく噴き出し、仲間の身体に向かって水の掛け合いを始めたのだ。
「ひゃあ!冷たい〜!」
「スゴいスゴい〜!」
「見てください!虹が出てますよ!」
巨体による水浴びにより一時的な雨が振り出し、更には虹が発生していて何処か幻想的であるためにメロルもリリーもキオナも全員が興奮していた。
『ブオオオオオ…』
水浴びを終えるとプエルタサウルス達は背の高い樹木の葉をバリバリと食べ始める。
「草しか食べないのによくあんなに大きくなれるよねぇ〜」
「野菜は身体に良いって言われてるけど、そのお陰かな」
元の世界での大きなモンスターは肉を中心に多く食べていたが、あれだけ大きな生き物は草だけ食べて山のように大きくなれることにナクアもサンボも不思議そうに見上げていた。
『オオオオ…グオオオオ…』
食餌を終えると巨体をうつ伏せにして食後の昼寝を始めるプエルタサウルス。
「……」
「お兄ちゃん…危ないよ…」
そのプエルタサウルスを見上げながら近付くエインと、巨大なモンスターを前にして怯えたのか離れた位置からエインを心配するリリー。
「スゴい…感じる…」
エインは寝そべっているプエルタサウルスの胴体に身体と全体重を預け、目を閉じながら何かをその身で体感していた。
「何をですか?」
キオナ達からすればドレッドノータスやプエルタサウルスの巨体を手で触れられるほどに間近で見て、改めてその圧倒的な身体のサイズにおっかなびっくりしながらエインに訊ねるも彼はその巨体をよじ登っていく。
「ちょっと、何処に行くのよ」
「待ってよ、オイラも登るよ」
何がしたいかの分からないが暫く顔を見合わせたトランとレーヌは後を追うようにプエルタサウルスの身体をよじ登る。
「待ってください、私も…!」
躊躇うもののキオナも二人に負けじとプエルタサウルスの身体を不慣れな様子ながらもよじ登っていく。
「んっ…!くっ…!肌は滑らかな見た目ですが少しゴツゴツしてますね…それに意外に温かいのですね…」
水着を着ているために肌が露出しているためによじ登る際にプエルタサウルスの肌の感触や体温が直に伝わってくるのを感じるキオナ。
「ふう、木登り…?は初めてでしたが何とか登れましたわ。あら?エイン…何をしてるんですか?」
背中までよじ登るとトランとレーヌが立っていたのだが、エインはプエルタサウルスの背中にうつ伏せになって寝そべっていたのだ。
「……こうしてるとね、プエルタサウルスが生きているってのが感じられるんだ」
全身をプエルタサウルスの背中に預けることで躍動や鼓動や呼吸と言った生命活動をその身で感じ取っていたのだ。
「…本当だ。ドクンドクンって音が聞こえてくる。心臓の音かな?」
レーヌも同じようにうつ伏せになってみると、この巨体を維持するために大きな心臓が躍動して身体が上下するのをその身で感じ取れた。
「大きな呼吸音…スゴいわね、やっぱり生き物なのね」
トランも同じようにうつ伏せになってみるとプエルタサウルスが肺に酸素を取り込んで二酸化炭素を吐き出す度に身体が上下するのをその身で感じ取れた。
「……なるほど、確かに生きているのを感じますね」
「何だろう…とても安心する…」
「それは恐らく『心地良い』…と言う気持ちですよ…」
最後にキオナもプエルタサウルスの生命活動をその身で感じ取り、エインがどんな気持ちでいるかを言い当てながら共にウトウトしてしまうのだった。




