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迫りくるダンジョンの『恐怖』

「この道は何処まで通じているのでしょうか。グランドレイク王国の地下水脈まで通じているのでしょうか?」


あれからどれぐらい進んだか分からないが地下をかなり奥まで進んでおり、このままいずれ自分の故郷に辿り着くのだろうかと呟きながらキオナは何処か期待に満ちた顔をして小躍りしながら歩いていた。


「何だか生き生きしているねキオナ」


「ダンジョンの話は国の英雄や勇者達から常々聞いていたんですの。だからいつかダンジョンは冒険してみたいって思ってたんですの」


姫と言う立場上おいそれと冒険が出来ないために冒険譚を何度も耳にしていたためにダンジョンへの憧れは強く、今の状況は良いとは言えないがキオナはエルフの子供達にも負けないほどに今の状況を楽しんでいる様子だった。


「何もこれが初めてじゃないでしょ。ほら、ホラアナライオンの時も」


「あら、そう言えばそうでしたわね。思えばあの時と状況が似てますね」


しかし実際のところ洞窟探索はこれが初めてではない。この異世界に来たばかりの時に洞窟に閉じ込められてキャロラインと出会って共に脱出したことがあった。


「けど、この水は本当に何処に行くのかしら。他にも水の通り道があったし、この辺一帯の水源になってるのかしら」


ここへ来る途中に通ったプラネタリウムのような空間内には地底湖の水が流れる通り道が他にもあった。鵜呑みにする訳ではないが、水の流れを見る限り本当にこの辺一帯の水を(まかな)っているのかもしれない。


「きゃあっ!?」


「ぷっ、大丈夫?」


すると前を進んでいたキオナが(つまづ)いて尻餅をついたことにエインは思わず吹き出してしまいながらキオナに手を伸ばす。


「いたたっ…何かに躓いたみたいで…ひっ!?」


「うわっ!?ほ…骨!?」


石か何かで躓いたのかと思い拾い上げるも、まさかの骨だったことにキオナは慌てて投げ捨ててエインの側に寄る。


「何よこれ、骨がたくさん落ちてるわよ。何かの巣穴なのかしら」


通路の先には獣や恐竜、更には魚や鳥や人間の骨などが散らばっており、水の中にも骨が幾つか沈んでいて肉食性のモンスターが住んでいたような痕跡があった。


「あんたらが探してる人間もこの中にいたりしないわよね?」


ナミアがかなり不穏なことを呟くため辺りを詳しく調べると、足跡は骨の合間を抜けて奥へ奥へと続いていたためその心配はなかった。それと同時に聞き覚えのある話し声が聞こえてきた。


「無事のようですね」


「あれ、この足跡は…」


マルス達が生きていた確かな証拠であり、ホッとするものの残された彼らの足跡を追うように人とは思えない足跡も複数残されていた。


▷▷▷


「今何か聞こえなかったか?」


「そうね…子供の声かしら」


「私、何も言ってないですよ?」


エイン達が進んでいる通路の先にはやはりマルス達がいた。彼らは今テテーナとは異なる子供の声を聞いて辺りを見回していた。


「にしてもさっきの骨は何だったんだ?」


「本当びっくりした…ううっ、洞窟の中で骨を見るなんてキャラバンの護衛任務に当たってた時に散々な目にあったのに…」


同じ場所を通って散らばっている骨を見たキャロラインはこの異世界に来てからすぐにグランドレイク王国付近で仲間とハグレて地下道に落ちてエイン達と出会ったのだが、それよりもホラアナライオンやティタノボアに襲われたことがフラッシュバックし気が滅入っていた。


「まさかとは思うけどここも何かの住処じゃないよな」


「さっきの骨を見たら否定は出来ないわ。とにかくここから早く出ましょう」


生き物が洞窟に迷い込んで野垂れ死にしたのならまだ安心出来るが、同じ場所に種の異なる骨が散らばっていたのなら肉食性のモンスターがあそこで食餌をして残ったとするのならここもいつまで安心か分からない。


「っ!今の水音は何?」


かなり近い距離でバシャッと水音がしたために全員が固唾を呑んでそちらに視線を送るも、ヒカリゴケや松明(たいまつ)の光量でも洞窟全体を照らすには足らないらしくよく分からなかった。


「先を急ぎましょうよ〜!?」


「そうだな…」


不安になったキャロラインの様子を見てドランは前に向き直り、自分達が進むべき道を照らそうと松明を突き出す。


『ギシャアアアア!』


「ぎゃあ!?」


だが、照らした先に鋭く尖った歯が並んだ口が吠えてきたためにドランは喉から心臓が飛び出そうになった。


「ひゃっ!?どうし…きゃあああ!?」


「ひゃあ!?こっちにもいます!?」


「気を付けろ!水の中にもいるぞ!?」


突然の悲鳴と唸り声にギョッとなるも、すぐさま自分達は同じ口をした捕食者達に囲まれてしまう。


『ギシャアアアア!』


「こいつらディプ何とかみたいな首長ドラゴンにも見えるけど、好きになれねぇ雰囲気だな」


「さっきの骨はこいつらの食べ残しね」


初めは暗くて全体は分からなかったが目の前に現れたモンスター達はディプロドクスのように首と尻尾が長くて身体の大きさはアシカと同じぐらい…と、ここまでならばディプロドクスの子供のように接しやすいかもしれない。


だが、その口には肉を貫くように尖った歯が口に収まりきらずに口外から突き出るように生えていて近寄りがたい雰囲気があった。


見た目だけで言えば確かに穏やかな竜脚類に見えるが、この種は竜脚類とは似て非なる種である水生爬虫類の一種であり、名前は『ノトサウルス』である。


『ギシャア!』


「きゃあああ!?いやあああ!?」


周囲は警戒していたが暗闇で、しかも全容の分からない水中からノトサウルスが飛び出して、テテーナのスカートを噛んで水中に引きずり込んでしまう。


「テテーナ!今行くぞ!」


助けるためにマルスが水の中に飛び込み、ダメ出しするように他のノトサウルス達も水しぶきを上げて潜水していく。


『『『ギシャア!』』』


残ったノトサウルスはアレッサ達も水に引きずり込もうと何度も首を前後に動かして噛み付いてくる。


「水に引きずり込まれたら危険よ!」


『ギャア!?』


思惑を見抜いたアレッサは手の甲に嵌めたクローで伸びてくるノトサウルスの首や顔を斬りつけては退くのヒットアンドアウェイでやり過ごしながらドランに警告する。


「分かってるよ!くそ、離せ!」


『ギギギッ…!』


警告を受けたドランは剣で応戦していたが、刃には既にノトサウルスが食らい付いていて今にも水の中に引きずり込まれそうになっていた。


「いやっ!?いやっ!?来ないで!?」


元魔法使いであるため、この異世界では戦う力がないキャロラインはノトサウルスが近付かないように杖を振り回していたが相手は離れるどころか徐々に距離を詰めてくる。


「あいたっ!?」


『ギギギ…!』


「キャロライン!?来るわよ!?」


恐怖の余り足がもつれて尻餅を着いたキャロラインにノトサウルスが歯をカチカチ鳴らしながら近寄り今にも飛び掛りそうだった。


『ギシャア!?』


ところがノトサウルス達を威嚇するように前を青白い電光を纏った尖った石が擦れ違って地面に刺さる。


「キャロラインさんから離れて!」


「エインくん!姫様も!」


それはエインが投げた過電圧の生体電流(パルス)を纏わせた黒曜石ナイフだった。奇しくも出会った時を再現するかのようにエインとキオナが現れたことにキャロラインは表情が明るくなる。


「あなた達、どうしてここに」


「そ、そうよね。探してたのにまさかここで出会うなんて」


アレッサ達からすれば探していたはずのエイン達から逆に見つけられるなんて皮肉でしかなかった。


「俺達も大変だったんだぞわああっ!?」


「ドラン!?」


気が逸れて力が緩んだ瞬間にノトサウルスがドランを水中に一気に引きずり込んだのだ。


「ドランさん!」


「ダメですよ!あなたは私と同じで泳げないでしょ!?」


助けようとエインが前に出るも、ウィルマで共に湖に落ちて溺れそうになったキオナから止められてしまう。


(く…苦しい…!?)


(テテーナ…!ヤラせはせんぞ!)


水中では苦しそうにするテテーナを助けようとマルスは彼女のスカートを咥えているノトサウルスの首に掴みかかり鋭い爪を食い込ませては頭部を殴りつけていた。


(クソ!いい加減にしやがれ!)


ドランもヤラれてたまるかと刃に噛み付いているノトサウルスの頭を蹴りたくる。どちらも早く対処しなくては水中を縦横無尽に泳ぎ回れるノトサウルスの思う壺だった。


「僕らのことは放って置いてよ!」


エインの黒曜石の双剣には彼の生体電流が流れており、ノトサウルスも噛み付こうにも電気が流れていてはそう上手くは行かなかった。


「トランさん!泳げるならドランさんを…」


「今はリリーちゃんを守ってるから無理よ!」


トランはやや離れた位置でリリー達を守るために矢を放ってノトサウルスを威嚇していて手一杯だった。


『ギシャア…ッ!?』


『ギエエエ!?』


『ギギギ!?』


すると陸でも水中でも優勢だったはずのノトサウルス達は辺りの匂いを嗅ぎ回った瞬間に慌てふためき始めたのだ。


「ぷはっ!大丈夫かテテーナ」


「けほっけほっ…あ…ありがとう…ございます…」


「何だよ一体…あいつら急に逃げてったぞ」


水面にテテーナを救助したマルスとドランが浮上し、水中にいたノトサウルス達も急に逃げ出したことに唖然としていた。


「…!何か来る」


「何かって……何ですかあれは!?」


エインが察知しなくても通路を埋め尽くすほどの巨大な何かが暗がりの水面を裂くようにこちらに向かって来るのが見えたのだ。


『『『ギシャアアアア!?』』』


逃げ遅れたノトサウルス達は圧倒的体格の捕食者から逃れようとイルカのように水面を跳ねながら泳いでいた。


「皆!急いで向こうに!?」


「な…何なのあれ!?」


「怖いよ!?」


離れた位置にいたのが災いして、自分達も狙われるかもしれないと考えトランは怯えた様子のローズとギウの背中を押しながら退避しエイン達と合流しようとする。


『ギシャア…!?』


そしてノトサウルスの中で最後尾を泳いでいた個体が追いかけて来た捕食者の長く太い顎に追いつかれてしまった。


『グウウウ…グルルルアアア!』


()()…ブラッディダイル!?』


水面からノトサウルスを喰らいながら現れたのは一度見たら忘れらないほどに身体が不気味に白くなったワニ型モンスターのブラッディダイル――


「な…何なのよ!?このあり得ない大きさは!?」


いや、そのサイズはワニの中でも最大種であるイリエワニをも軽く凌駕(りょうが)し恐竜をも平気で襲うほどのサイズだった。


「『デイノスクス』だ!」


それはかつて恐竜の生きていた時代に置いて、身体の大きな恐竜をも襲うように巨大に進化したワニである『デイノスクス』だったのだ。


『グルルル…!』


「わわっ!?何だ!?」


「…何で水の中で回転…!?」


デイノスクスは突然水の中でその巨体を回転させ水しぶきを巻き上げさせ、エイン達と合流しようとしていたホトノザ達をずぶ濡れにさせる。


『ギシャアアア…!?』


顎の力と鋭い牙に捕まったノトサウルスの身体はデイノスクスの巨体から繰り出される遠心力によってバラバラにされて水面を赤く染める。これこそワニが獲物をバラバラにする必殺技であるデスロールだ。


「あれで腹いっぱいになってくれたのか?」


「いや、多分…」


バラバラにしたノトサウルスを何度か顎を開閉して喉の奥へと呑み込んでいくデイノスクス。その間にドラン達はデイノスクスが満腹になっていることを祈りながら水から揚がる。


『グアアアアアアア!』


「まだ食べ足りないらしいな!?」


「冗談じゃねぇぞ!おかわりになってたまるか!?」


しかし祈りも虚しく、デイノスクスはマルス達を次の獲物として見定めて泳いで来るために一同は慌ててぐったりしたテテーナを背負って駆け出す。


「身体が大きいくせに泳ぐのが速いわね!?」


ワニの泳ぐ速度は通常だと二、三キロ程だが最大だと三十キロほどにもなるのだ。泳ぎだったら人間はまず敵わないだろうが、例え陸上を走ったとしてもデイノスクスは泳いで来るのなら振り切れるかどうかも怪しいだろう。


「しかもここは道が一本しかないからな!」


その上で今は洞窟と言う閉鎖的な場所で道も一方通行となれば速度も一定で道を反れる心配もない。以上のことからこの巨大な食欲モンスターが背後から迫って来るとなれば『恐怖のワニ(デイノスクス)』の名の通りとも言えるだろう。


『グアアアア!』


「も、もうすぐそこに来てるよ、お兄ちゃん!?」


「追いつかれ…きゃっ!?」


恐怖心から叫ぶリリーの声にデイノスクスの方を振り返ったキャロラインは転びそうになり、松明を灰銀色の岩の上に落としてしまう。


「「「ひゃあっ!?」」」


「「うわっ!?」」


「ま…眩しい…!?」


表面が焼け焦げたかと思えば小さな破裂音と共に岩から目も開けられないほどの閃光が走り、洞窟全体を一時的に照らすも眩し過ぎて思わず立ち止まってしまう。


「おい、キャロライン!何をしたんだよ!?」


「分からない〜!?松明の火が石に当たったと思ったら光が溢れて…!?」


「それよりもあの白いブラッディダイルは…!?」


今はデイノスクスから少しでも距離を取って逃げなければいけないのに目が(くら)んでしまっては走るどころか歩くことも出来なかった。


『グウウウ…!?』


「…あのモンスターさんも目がチカチカしてるみたい」


しかし幸いなことに先程の閃光はデイノスクスの目も眩ましたようだ。


「今のうちに逃げましょう。エイン、何をしてるんですか」


「ちょっと試したいことがあるんだ」


これ幸いにとデイノスクスの目が眩んでいる内に逃げようとキオナが呼びかけているとエインは灰銀色の石を幾つか拾っていたのだ。


『グウウウ…!』


「また追いかけてくるわよ!」


視力が回復したデイノスクスは再び追いかけようと恐ろしい眼光をトラン達に向けてくる。


「キャロラインさん、その松明を借りますよ!」


唐突に頼まれ訳も分からずキャロラインはエインに松明を託す。


「皆、目を閉じて!」


「え…何を言って」


ただでさえ暗くてよく見えないのに目を閉じろだなんて言われて戸惑う一同を他所に、エインは先程拾い集めていた灰銀色の小石を松明の火の中に放り込む。


「「「わあっ!?」」」


『グア!?』


すると先程と同じく洞窟全体を一時的に照らす閃光が走り一同とデイノスクスの目を再び眩ませる。


「ちょっと…何よ今の?」


「この石、多分火を点けるとさっきみたいな光を放つんだよ」


エインが拾い集めて火に()べたこの石の正体は燃焼することで高熱と閃光を発する『マグネシウム』だった。


『グウウウ…!?』


「やっぱり、この光が嫌いみたいだね」


下水道の白いワニのようにこのデイノスクスも日の射さない地下にずっと住んでいたために身体が白くなってしまい、そのためマグネシウムの強い光を苦手とするのか後退りを始めていた。


「ここは僕が!皆は先に言って!」


「バカを言うんじゃないわよ!こう言うのはあたしに任せて、あんたはタイミングを見て石を投げなさい!」


一人で殿(しんがり)を引き受けようとするエインの発言が気に食わないと言わんばかりにトランは松明をひったくって矢の先端に着火する。


『グウウウ…!』


「行くよ!」


「それ!」


再び視力が回復したデイノスクスが泳いで来るのが目に入り、エインがマグネシウムを投げるのと同時にトランは火矢を放った。


『グアアアア!?グオオオオ!?』


再び閃光に目が眩んだことにいい加減に嫌気が差したのかデイノスクスは水面で長い口を振り回して暴れ回る。


「何してるのよ!今の内に早く!?」


コンビネーション抜群のやり取りに思わず目を奪われてしまったが今はトランの言う通り急いで出口へ向かうべきだった。


「ここだ!ここから外の空気の匂いがするぞ!」


奥へ進めば進むほどに通路や天井は反比例して狭く低くなっていき、その先は通路と言うよりも大人一人なら通れる穴でしかなかったがテテーナを背負ったマルスはそこしかないと告げる。


「ほら、テテーナ、もう少しだけ頑張って」


「頼むぞ」


先にアレッサを行かせ、マルスが背負っていたテテーナやリリー達を抱えて彼女に渡していく。


「エイン!トランさん!後はあなた達だけですよ!」


「分かった!トランちゃん、もう一回!」


全員が避難したのを確認したエインはマグネシウムを投げ、トランはそれに向かって火矢を放って閃光を再び発生させてデイノスクスの目を眩ませる。


「エイン!早く!」


『シュウウウッ…!』


トランが穴を潜り抜けるとデイノスクスは既に視力を回復し、これまでの仕返しと言わんばかりに残ったエインは逃さないと荒い息遣いでバシャバシャと水を勢いよく掻きながら迫って来る。


『グアアアアアア!!』


「うわわわっ!?」


一呑みにしようと鋭い牙が並んだ大きな口をこれでもかと開け、この洞窟のような真っ暗な喉の奥が迫って来ることにエインは先程食べられたノトサウルスがどうなったか思い出しゾッとしながら慌てて穴の中を潜り抜けようとする。


『グウウウ…!?』


「はあ…はあ…危なかった…」


デイノスクスは逃すまいと食べようとしたがタッチの差で叶わずドシイイイィィィン!と壁に激突して目を回してしまい、エインは命からがら逃げ延びたことに心臓が早鐘のように鳴り響いていた。


「おい、どうなってるんだ。出口は何処だ」


「おかしいな、確かにここで間違いないはずなんだが…」


「出口どころか道もないからこれ以上進めないわよ!?」


助かったのも束の間、辿り着いた場所は地底湖があるだけの袋小路らしく進みたくても進めないと言った感じだった。


「お兄ちゃん、変な音がするよ」


リリーに言われ耳を立てるとガリガリと土を削るような音が響いてくる。


『グウウウ…グルルル!』


「デイノスクスが土を掘ってるんだ!」


鼻先を器用に使いデイノスクスが穴を広げようと掘り進めていたのだ。


「この!こっちへ来るな!」


「俺達がこいつを食い止める!出口を探せ!」


穴から見えている鼻先に矢を放ったり、剣を突き刺して後退りさせるがデイノスクスは尚も食い下がるように掘り進めてくる。ドランの言う通り、早く出口を見つけないと突破されて皆仲良く餌食になってしまうだろう。


「でも、見た所それらしいのはないし…どうしたら…!?」


しかしこの空間内には出口はおろか僅かな光が射し込むような小さな穴すら見当たらなかった。


「万事休す…なのでしょうか…!?」


完全に袋のネズミ状態にキオナもらしくもない絶望的な台詞を呟いてしまう。すると地底湖から水しぶきを上げて何かが飛び出し、デイノスクスとは異なる捕食者が現れたのかと思いギョッとしながら身構えるもその必要はすぐになくなった。


『クルル?』


出てきたのは羽が短い代わりに脚と首が長いペンギンのようなモンスターだったからだ。


「岩場にいた鳥さん?」


「『ヘスペロルニス』だ…何でここに?」


記憶が間違ってなければヘスペロルニスは楽園の湖の岩場を住処にしていたはずだ。それなのにこんな地下の湖にまで来ていることに首を傾げる。


「ちょっと何してるの!急いでよ!」


『グアアアア!』


ボンヤリしてる場合ではないとトランが叫ぶとデイノスクスが遂に壁を破って頭を突っ込んで来たのだ。


『クアア〜!?』


驚いたヘスペロルニスは慌てて地底湖に飛び込んで泳ぎ去ってしまった。


「もしかしてここって…あの湖に繋がってるのかも」


「そうか、だから外の匂いがするのか」


ヘスペロルニスがこの地底湖と楽園の湖を行き来しているからこそ外の匂いが残っているのではと考える。


「だったら早く行け!もう後戻りは出来ないんだぞ!」


「今片足を出してるとこよ!もうじき入って…きゃっ!?」


デイノスクスに突破されそうなのもだが、無理やり穴を広げたために崩落が始まり天井から大小様々な岩が落ちてくる。


「でも僕は泳げない…」


「私も水泳はそこまでは…」


しかし問題があった。ここから脱出するにはどうしてもこの地底湖から泳いで脱出するしかないのにエインとキオナは泳げないのだ。


「幾ら俺達でもホトノザ達をそれぞれ抱えて泳ぐのが精一杯だぞ」


「あたしもそこまでじゃ…」


「ちょっと!あたしらの体格は宛にならないわよ!?」


力の強い獣人でも森を自在に動き回れるエルフでも、そして手のひらサイズの妖精でも身体の小さな子供達を運ぶのでいっぱいいっぱいで泳げないエインとキオナまでは運べそうにもなかった。


「僕は良いから皆は先に…!」


やはりエインはここに残ってデイノスクスを足止めする気なのか黒曜石の双剣を抜いて戦おうとする。


「あなただけ残せませんわ!?」


「どっちにしても置いていくつもりはないわよ!」


そんなのは許さないとキオナやトランが止めに入るも実際どうやって脱出したら良いか分からなかった。


「あれ〜、皆ここで何してるの〜?」


生きるか死ぬかの瀬戸際だと言うのに何やら呑気そうな声が聞こえてきたことに全員がもう一度地底湖を見てみると見慣れた少女が不思議そうにこちらを見ていた。


「ナクアさん!?あなたここで何を…!?」


「あたし?綺麗な湖だから泳いでたらね、泳ぐ鳥さんがここから飛び出したと思ったら姫様の声が聞こえたから…」


意外なことにそこにいたのはキプロニアス王国からここまで自分達と同行していたナクアで信じられないことにここまで泳いで来たと言うのだ。


「それよりもここで何して…」


「いや、そんなのどうでも良いわよ!あんたってキオナ姫とエインを抱えて泳げるの!?」


「え…出来るけど」


逆にナクアはキオナ達こそここで何をしているのかと疑問符を浮かべていたが今はそれどころではないとトランは質問を質問で遮ったが彼女は問題ないと答えた。


「ではここから脱出します!誰一人欠けることなくです!」


「お前ら!俺に掴まれ!」


「息を思い切り吸い込んで!」


人数の問題が解消されたことでそれぞれが泳げる者にしがみつきデイノスクスがもう片方の脚を這い出した瞬間に全員が息を吸い込んで地底湖に潜る。


『グアアアア!』


遅れて壁を突き破ったデイノスクスはエイン達を追って岩が地底湖へと潜る。


(あそこ、あそこ。あそこから出られるよ!)


(急いで!追いかけて来たわよ!)


水中に岩が落ちてくるのを警戒しながらジェスチャーで外へと続く穴へと泳いで行き、その背後をデイノスクスが恐ろしい口を開けて迫って来る。


そしてマルス、トラン、アレッサ、ドラン、キャロラインと通り抜けていき、最後にナクアが通り抜けようとしたがもうデイノスクスは正しく目と鼻の先まで来ており崩落も比例して激しさを増していく。


(あと少し…!)


(お願い…間に合って…!?)


(…!)


掴まるエインとキオナは通り抜けられるように祈る中でナクアはまるでデイノスクスと鬼ごっこでも楽しむかのように笑顔で穴へと泳いで行くが、その結末は尖った牙が並んだ大きな口がガチンと勢いよく閉じられたことで決まった。


『グアアアア!?』


ナクア達は口が閉じる前に穴を通り抜けたことで難を逃れ、噛みつきが空振りに終わったデイノスクスは壁にぶつかってしまう。


目の前の壁は先程のようには掘り進められないほどに分厚く、それ以前に自分がいる所は既に崩落が限界を迎えており逃げないと生き埋めは間違い無しだった。


「ぷはっ!?あ〜、楽しかった〜!」


「はあ…はあ…キオナ、大丈夫?」


「ええ…何とか…」


穴から外の湖へと脱出したナクア達は水面に上がって目いっぱい息を吸い込んで無事を確認する。


「あんた達…何処から出てきてんのよ」


「目を覚ましたら誰もいないから探したんだよ」


気が付くと既に朝になっていて、巣からいなくなったエイン達をマイアサウラと共にずっと探していたエリーシャ達が水面に彼らがいるのを見て安心すると同時に愚痴を零してくる。


「何から説明したら…」


思えば妖精のナミア達が卵を盗み出し、その結果地下通路を進むことになるも獰猛なノトサウルスに襲われているドラン達と合流し、そこから悪魔のようなデイノスクスから命からがら逃げ延びたことを全て説明するとなると紙芝居ぐらい長くなりそうだった。


「お兄ちゃん!大変!卵が…!?」


「ええっ!卵がどうかしたの!?」


しかしそれ以上の異常事態が起きた。リリー達は卵、卵と連呼しながら叫んでいて、まさか割れたのかとエイン達は慌てて駆け寄る。


「卵が…()()よ!?」


割れたことには割れていた。しかし衝撃を受けて割れているのではなく、卵から新たなる生命が芽吹こうと殻を破っていたのだ。それもマイアサウラの卵はもちろん獣人族から預かった卵とドリプトサウルスの四つの卵が一斉に孵ろうとしていた。


新たなる誕生の瞬間に誰もが思わず目を奪われていると勢いよく卵の底が蹴破られて下半身が露出した。その内の二つは小さなマイアサウラとドリプトサウルスの脚だが、獣人族から預かった卵からは逞しい鳥の脚がバタバタと暴れていた。


『キュウ…』


『『クルル…』』


『『グウウ…』』


「んん…」


蹴破った瞬間に生まれ出たこの世界の空気を吸い込んでは吐くの繰り返す。呼吸音が聞こえてくると同時に愛らしい鳴き声が聞こえ、頭部を覆っている最後の殻が落ちて全容がハッキリと見えた。


『キュウ…キュウ…!』


「か…孵った…!孵ったよ!」


『キュルルル…』


赤ちゃんマイアサウラは目の前のリリーと母親マイアサウラに戸惑うも可愛らしい鳴き声を出しており、リリーは嬉しくなって跳ね回り母親マイアサウラは赤ちゃんの顔を舐め始める。


『『ギャアギャア…』』


『『ギギギ…』』


『クゥン…』


「ちょっと…こいつらも孵ったけど…良いの?」


成体と比べると愛らしさはあるものの捕食者としての凶暴な外見を持つ四頭の赤ちゃんドリプトサウルスは目の前にいたロボを不思議そうに見つめていた。


「ねぇ、エリーシャちゃん…それもだけどこっちは…」


ドリプトサウルスは赤ちゃんと言えども警戒すべきだろうがルシアンは別のことに注意が向いていた。


「んん…んう…?」


「え…この子は一体…?」


最後の獣人族から預かった卵からはどう言う訳か人間の子供が孵ったのだ。


「何故人間が卵から…あら、その子供の身体は」


「これって鳥の翼?それに脚も鳥と同じのだ」


卵から孵った時点で特別な子供だろうと思っていたが、その子供は頭と胴体は人間の形をしているが腕には猛禽類のような翼を持ち下半身も猛禽類のような逞しい形をしていたのだ。


「マルスさん、アレッサさん。これはまさか…『ハーピー』ですか?」


「そうよ。これでエインはこの子のママになったのよ」


「え…僕が…ママ?」


獣人族から預かった卵から孵ったのは鳥のような翼を持つ女の子のハーピーであり、しかもアレッサからハーピーの子供の親になったと告げられエインは唖然となるのだった。

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