イタズラ者とダンジョン攻略
「……ん」
ふとエインは目を覚ます。辺りはすっかり夜更けとなっていて目を開けても目の前は真っ暗闇だった。
「…あれ、リリーちゃん?」
少し寝る体勢を変えようと起き上がると、側に寝ていたはずのリリーがいないことに気が付いた。
「カイくん?カナちゃん?」
リリーだけではなかった。共に固まって寝ていたはずのカイとカナ、エルフの子供達もいなくなっていたのだ。しかもよく見ると彼女らが抱いていたはずの卵も全て失くなっていた。
「何処に行ったんだろう…ロボ、お願いがあるんだけど」
『クゥン…?』
心配になったエインはマイアサウラの巣から出て、ロボと共に彼女らの足取りを追い始める。
『キャンキャン』
「あ、いたいた。リリーちゃん、そこで何を…」
匂いを辿ったロボは茂みの中にいるリリーを見つけ、安心したエインは声を掛けるもすぐさま言葉を失う。
「お…お兄ちゃん…ひっく、どうしよう…」
「どうしたの?」
なんとリリーは大きな瞳から涙を零して途方に暮れていたことにエインはケガでもしたのかと思わずオドオドしてしまう。
「あのね…起きたら…マイアサウラさんとお兄ちゃんの…卵…失くなっちゃった」
「ええっ!?」
なんと卵の姿も見えないと思ったら失くなってしまったと言うのだ。
「それでね…皆と探してたら…リリーだけになっちゃった…ごめんね…ごめんね…!?」
必死に探したものの今度はカイ達ともハグレてしまい、卵を失くしてしまった責任感と友達を巻き込んだ罪悪感と一人ぼっちの孤独さが一気に押し寄せたためにリリーは押し潰されそうになっていた。
「…リリーちゃん、皆で卵を探そうとしてくれたんだね。よく頑張ったね」
啜り泣くリリーに目線を合わせたエインは彼女の頭を撫でながら優しく問い掛けて励ます。
「うえっ…うっく…でも…リリーのせいで…」
「大丈夫、僕も一緒に皆を探すよ」
励ましてもリリーは泣き続けておりエインは少し戸惑うも、ハグレてしまったカイ達と卵を一緒に探すと励ますのだった。
「あんた一人じゃ不安よ。あたしも探すわよ」
「そうですよ、エイン」
不意に声を掛けられ振り返ると不敵な笑みを浮かべたトランと優しく微笑むキオナが背後に立っていたのだ。
「トランちゃん、キオナ、起きてたの」
「この耳は伊達に長い訳じゃないのよ」
あの時はエイン一人だけが目を覚ましたものだと思っていたが、さすがはエルフ族だけあってトランの聴力はずば抜けていたようだ。
「私は…その…最近はよく眠れなくてですね」
キオナの場合は洞窟で雨宿りした時に見た、あの巨大な影が忘れることが出来ずに多少不眠気味になっていた。
「それよりも今はあの子達を探さないといけませんわ。捜索ならば人手が多い方が宜しいのでは?」
「そうだね。ロボ、皆の匂いは分かる?」
森に住まうエルフであるトランとロボの力を借りて、離れ離れになった子供達と卵の捜索をキオナと共に始めるのだった。
『バウバウ!』
「何か見つけたの」
暫く進んだところでロボは森の暗闇に向かって吠え始める。何か見つけたのかと前へ出ようとしたエインだがトランに肩を掴まれる。
「待ちなさい。危ないわよ」
彼女は石を拾ってロボが吠えていた先に向かって放り投げると網が持ち上がって宙吊りになってしまう。
「これは…罠?」
「誰が仕掛けたかは分からないけど、ここにはあたし達以外にも何かいるわよ」
楽園で夢のような一時を過ごしていたが、その間に敵意ある者達が接近して罠を仕掛けていたようだ。
「一体誰がこんなことを」
「お兄ちゃん!トランちゃん!あそこ!」
少なくともモンスターの仕業ではないことは確かだが何者の仕業かと考えていると、リリーが頭上に向けて指を差しており、視線を移すと木の上にモゾモゾと動く宙吊りの網が目に入った。
「ぷはっ!?あ、リリーちゃん」
「お兄ちゃんも!」
トランが降ろした網の中から顔を出したのはカナとカイの双子獣人だった。
「カナちゃん、カイくん、ケガはない?」
「う…ううっ…あああ〜ん!?」
「怖かったよぉ〜!?」
ケガはなかったようだが暗闇の中でいきなり罠に掛かって宙吊りになったことがよほど怖かったらしく、エインに泣きながら抱き着いてくるのだった。
「ごめんね…リリーのせいで」
「リリーちゃん…ううん…気にしないで…」
「だから…泣かないで…」
そんなカイとカナを見て再び泣き出したリリーを今度は二人が泣きながら励ますのだった。
「他の子達は何処に行ったか知らないかしら」
「それならあっちの岩場だと思うの」
カナの話によると残るエルフの子供達は妙な物を見て岩場の方に向かったらしく、双子も追いかけようとしたら罠に嵌ったのだと言う。
『クゥン…キャンキャン…』
「何ですの…この卵が腐った匂いは?」
「本当だ…スゴい臭い…」
言ってみるとロボは辛そうに鼻先を前脚で抑え始め、エイン達も岩場に漂う卵が腐ったような悪臭に顔をしかめる。
「この匂い…前にバリオンの近くで入ったお湯と同じ匂いがする」
「本当ね。あれと同じ匂いね」
正しく鼻に付く匂いだったがエインとトランは以前入った事のある温泉と同じ匂いだと気が付いた。そう、悪臭の正体は硫黄だったのだ。
「私は知りませんよ。そんなこと」
バリオンでエインとトランを始め多くの異性と混浴したことは知っているキオナは話に入れずに多少不貞腐れるのだった。
「ここじゃロボだって匂いが分からないよ」
「僕もここ、ダメ〜」
「くしゃい〜」
ニホンオオカミであるロボも双子の犬獣人であるカイとカナも嗅覚が鋭い分、硫黄のような強烈な匂いは人の何倍にもなって鼻に伝わるためかなり辛いはずだ。
「あれ、これは何だろう」
ふとドングリに似た樹の実を加工して作られたアクセサリーを拾うエイン。
「それドングラのアクセサリーよ。エルフ族の子供が身に着けているから、あの子達の物ね」
「と言うことはこの近くにあの子達が?」
どうやらこれはエルフの子供達の落とし物らしく、ここを通ったことは間違いなかった。
「でもこの先は何も…うわあっ!?」
「きゃあ!?」
「ちょ…何なのよこれ〜!?」
「「「ひゃあああ〜!?」」」
しかしこの先は子供の体格ではよじ登るのが大変な岩山になっているのに何処に行ったのかと思っていると足元の地面が崩れてエイン達を地中へと引きずり込むのだった。
「いたたっ…何が起きたの?」
「この辺の地盤が緩いせいで天然の落とし穴になってたのね」
突然のことで何が起きたかは分からないが、痛む身体を起こすと辺りには上から落ちてきたであろう土の山が出来ており、この辺一帯は何度か地面が陥没してしまうようだ。
「それよりも問題はここからどうやって出るかよ」
「それなら何とか登って…うわっ!?」
落ちてきた地面の高さは五メートル程あり、トランが見上げる中でエインは壁を掴んでよじ登ろうとするがアリジゴクのようにすぐに崩れて底に滑り落ちてしまう。
「この辺は崩れ落ちやすいって言ったでしょ。登る方が早いけど、ここからでは無理そうね」
地盤が緩いのならば穴の周囲を取り囲む壁も同様に緩いためよじ登るのは難しそうだった。
「今は皆さんも巣の方で寝てますし、助けを呼ぶことも不可能ですね」
誰にも知らせずに来てしまったため他の仲間達はマイアサウラの巣で寝ているため救援は呼べなかった。こうなるのならばせめて誰か起こしてから来るべきだったとキオナは天を仰ぎながら後悔していた。
「ねぇ…お兄ちゃん…何か…いるよ…!?」
リリーの怯えた声に穴を見上げていた三人はハッとなって何処かに通じているであろう通路に目をやるとこちらの様子を伺う眼光が幾つか見受けられた。
「何なのあれ…モンスター?」
「いや、そんな感じじゃないような気がする」
矢を引くトランはエインに何なのか聞くも彼は最初こそは警戒するも敵意がないと分かりすぐさま解除し、それを見たトランも目を凝らしてみると目の前の相手が敵ではないとすぐに分かった。
「…!ホトノザ!ギウ!リュセ!ローズ!コルペ!ナズカとナズサも!」
「「「トランお姉ちゃん〜!?エインお兄ちゃん〜!?」」」
暗闇から出てきたのは行方不明になっていたエルフの子供達であり名前を呼ばれた直後にトランやエインに駆け寄り抱き着くのだった。
「ホトノザくん、ギウくん、リュセくん。ケガはない?」
「ちょっと擦り剝いたけど俺は平気!」
エインに名前を呼ばれ真っ先に答えのはボサボサ髪にやんちゃな性格が特徴的なエルフの男の子のホトノザで、身体に擦り傷があるものの子供特有の強がりを見せるのだった。
「でも怖かったよぉ〜」
「こんなに暗いんじゃ見えないよぉ」
少し長い髪であるために中性的に見える気弱そうな性格のギウと前髪で目が隠れてマイペースそうな性格のリュセが口々に恐ろしい目にあったと口々に呟いていたが無傷のようだ。
「ローズ!コルペ!ナズカとナズサ!心配したのよ!何してたの!」
「ごめんなさい…でもでも!スゴいよここ!ダンジョンだよダンジョン!」
トランから怒られるも名前の通りバラのような赤いピッグテールをした元気いっぱいのエルフの女の子ローズは最初は悪びれるもこの状況を楽しんでいた。
「…ローズちゃん。今はそれどころじゃないと思うけど」
ローズとは対照的に何処か理知的な雰囲気が漂うショートヘアのエルフの女の子コルペはそう彼女を諭してくる。
「「でも夜遊びは初めてでワクワクしたね〜」」
最後に答えたのは右と左とでサイドテールを分けている双子のエルフの女の子であるナズカとナズサが口を揃えて呟くのだった。
「皆…ごめんね、リリーが皆を危険な目に…」
皆が無事だったことにホッとするも途端に罪悪感から再び泣き出しそうになりながらリリーがエルフの子供達に謝る。
「…気にすんなよ!結構楽しかったぞ!」
「…だからもう泣かないで」
ホトノザは元気いっぱいに答え、コルペは微笑みながらリリーを励ますのだった。
「良かったですねリリーちゃん。けどここで何をしていたんですか」
キオナも無事だったことにホッとしつつも、取り敢えず自分のことを一旦棚に上げてこの穴の中で何をしているのか訊ねる。
「あたし達はギウが盗まれた卵を誰かが持って行くのを見たって聞いて、追いかけてみたらここに落ちたのよ」
「うん、誰かが卵をここら辺に運んで行くのを見たんだよ」
カイとカナの話にあったようにローズはギウの目撃情報を頼りに岩場まで来たが、先程のトラン達のように地盤の緩い部分に乗ってしまったことでこの穴の中に落ちたと言うのだ。
「つまり助けに来たはずのあたし達も同じように穴に落ちたって訳?バッカみたい…」
『ミイラ取りがミイラになる』なんて言葉は元の世界にはなかったため彼女達は知らなかったが、助けに来たはずの自分達までローズ達と同じ方法で同じ困難に直面するなんて一周回って滑稽とも言えるだろう。
「でもさ、この先にはどっかに通じてる道があるみたいだぜ」
ホトノザはこの穴は何処かに通じていると言うが、皆まで聞かなくとも彼は出口へ行くことにかこつけて洞窟を探検しようと考えているのが丸分かりだった。
「そんなことしなくても朝になればきっと誰かがあの穴から」
先程落ちてきた穴を指差すもトランが言い終わる前に再び崩落が起き、しかも今度は大小様々な岩が落ちてきて完全に埋まってしまう。
「…最悪ね。このまま進むしかないってことね」
上から崩落してしまっては掘り起こして登ることはもちろん、残った仲間達に見つけて貰うことも難しいだろう。
「でも、中は意外とほんのり明るいね」
「これは…ヒカリゴケですね。その名の通り暗闇だと発光するコケですわ」
松明や光魔法なんて無いから辺りを照らすことは出来ないのに対し、洞窟の周囲は蛍のような淡い光を放つコケが生えていることで不幸中の幸いと言うべきかその心配はなかった。
「皆、僕らから離れないでね」
「「「は〜い」」」
今度は離れ離れにならないようにエインとロボが先頭に立ち、殿はトランが務め、そして子供達を纏め上げ司令塔して動くためにキオナが真ん中と言う立ち位置で洞窟を進み始める。
「気を付けてくださいね。洞窟にはモンスターはもちろんですが毒を持つ虫やコウモリなどが生息していますからね」
元の世界でも洞窟に入った冒険者が毒虫や人間に感染するウイルスを持ったコウモリに噛まれて死亡した事例もあるぐらいだ。
「あ、キオナ姫様。それ何処で見つけたんですか」
「え……きゃああああ!?」
忠告を聞いていたギウが自身のスカートを指差していたのだが、何やらワシャワシャと蠢く感触がしてくることに恐る恐る目線を落とした瞬間に悲鳴を挙げた。
「な…何ですか!この大きな虫は!?」
キオナのスカートにくっついていた虫は黒光りして脚に無数のトゲが生えているのだが、一番の特徴は大の大男でも飛び上がるほどに大きく何処か本能に訴えるほどの嫌悪感――そう、やたら大きい黒いGだったのだ。
「『プロトファスマ』だね」
それもそのはず。プロトファスマは黒いGの遠い祖先にあたり、見た瞬間に生理的に嫌悪感を覚えるのも納得だった。
「名前なんてどうでもいいわよ!?」
「は…早く何処かにこれを取ってください!?」
いつの時代も嫌われ者のGにキオナは顔が青ざめ怯えており、エルフの女の子達も気の強いトランですら恐れ慄いて近寄ることすら出来なかった。
「ほら、ジッとして…取れたよ」
大の大男でも怖がるほどのサイズだがエインは何の恐怖も抱かずにキオナのスカートから取り除くのだった。
「…分かったから、早く逃がして…!?」
「逆にお兄ちゃんは怖くないの…!?」
さすがの理知的なコルペも目を逸らし、元気いっぱいなローズもそれだけは勘弁して欲しいのにエインがなんともないことに疑問を抱いていた。
「そりゃあ元の世界でもたまに食べ物の中に入ってたり、或いは無理やり食べさせられたこともあるけど…そんなにダメなの?」
「ちょっと!あんたどう言う生活してたのよ!」
元の世界で『無能』とバカにされ、劣等感の捌け口としてイジメられたエインに取ってGはさして恐怖の対象ではなかった。
と言うのも街から離れたあばら屋で生活していた頃から見慣れていたし、悪い時はいじめっ子から無理やり食べさせられたこともあるぐらいだった。酷い扱いを日常的に行われ価値観が人と異なるエインに取っては逆にキオナ達がGを怖がる理由が分からなかった。
「エイン…あなたの境遇を知る者として深く心を傷めますわ」
もうそんなことがないとは言え、エインの凄惨な過去を知ってキオナは胸が痛くなるのだった。
「それにしても誰が卵を盗んだんだろう」
「そうよねぇ…盗んだためにこんなことになるなんて…とっちめてやる!」
そもそもこんなことになったのは卵を盗んだ不届き者がいたからで、いきなり心臓に悪い場面に出くわしたトランはその不届き者は許さないと宣言するのだった。
『ウウウッ…!』
「止まって」
するとロボは唸り声を挙げて身体を低く身構えるため、どうやら曲がり角の先に何かいるらしく全員が立ち止まって同じく体勢を低くして身構える。
「ちょっと、どうすんのよ?イタズラするだけだったのに何でこんなことになってんのよ」
「だって姿を見られたから慌てちゃって」
「それよりもここからどうやって出るかよ」
耳を立ててみると相手は子供のような幼い雰囲気が特徴的な愛らしい声をしており、何かしらのトラブルで自分達と同じくここから出られないようだ。
『ウウウッ…ガルアアア!』
「「「って、ぎゃああああぁぁぁ!?」」」
先手必勝と言うべきか相手の姿を確認する前にロボは飛び出して襲い掛かり悲鳴を挙げさせる。
「ちょっと…ロボ?」
突然のことで唖然となるも悲鳴を聞いて何が起きているのか知るのが恐ろしくなり中々踏み出せなかった。すると全てが終わったのか静かになり、同時にロボが曲がり角から戻って来ると何か咥えており戦利品を見せびらかすようにエイン達の目の前に落とす。
「うげぇ…何よこれぇ…」
ロボの唾液でヌルヌルになっていたのはなんと小さな人間だったことに誰もが驚愕する。小さいと言ってもリリー達よりもずっと小さく――いや、どんな人間よりもずっと小さくて人形サイズで背中に蝶の翅を持っていた。
「嘘でしょ…妖精族!?」
全員が言葉を失う中でトランだけが目の前の人形サイズの人間の正体が妖精族であると言い当てる。
「妖精って…本とかに出てくる異種族のこと?」
「私も絵本などでしか知り得ませんし、単なる都市伝説なのかと」
王族であるキオナですら妖精のことは噂の一人歩き程度しか知らず、この目で実物を見れたことに驚くと同時に感激の様子を見せていた。
「ううっ…こんな犬に捕まるなんて…うわっ!?」
リーダー格と思わしきツインテールの妖精は髪と花弁のような服にベッタリ着いたロボの唾液に顔をしかめていると、むんずと言わんばかりに小さな体が鷲掴みにされる。
「可愛い!これが妖精さん?」
「「お人形さんみたい〜」」
先程はプロトファスマに怯えていた女の子達だが人形のような愛らしい見た目をした妖精を前に、打って変わってそれぞれ一体ずつ捕まえて正しく人形のように愛で始める。
『クゥン』
「あ、失くなった卵。何でここにあるの」
するとロボは曲がり角の先を前脚で差しており、向かってみると巣から失くなったはずの卵があったことに疑問に思う。
「そう言えば妖精族は身体が小さくてイタズラが好きだって聞いたけど…まさかあんた達が持ち出したの?」
「いや…その…えっと…」
リリーに愛でられているリーダー格のツインテール妖精はトランの追及にしどろもどろになっており図星で犯人であることは間違いなかった。
「あんたらが卵を盗んだからあたしらはこんな目に遭ってんのよ!」
「何よ!あたしらだって卵を少し遠くへ持ち出してイタズラしようとしただけよ!悪い!?」
先程とっちめてやると宣言した通りトランは糾弾を始めるもツインテール妖精はイタズラするのは妖精の性だと開き直るのだった。
「…エイン、さっきの虫をもう一度連れて来て。それでこいつとキスさせて」
「待って!?あたしらが悪かったからそれは止めてぇ!?」
言われた通りエインがプロトファスマを持って来たのを目にしたツインテール妖精は青ざめながら謝罪する。
「あの…こうなってしまっては争っても仕方ないですし、今は共にここから脱出出来るよう協力しましょう」
「キオナの言う通りだよ。君達もあの穴から落ちてきたんでしょ?だったら閉じ込められた仲間同士ここから一緒に出ようよ」
経緯と妖精達の話から察するに自分達と同じ場所から落ちてきて、今や共に閉じ込められているために争っている場合ではないとキオナとエインは口々に呟いたことでトランとツインテール妖精は互いに目を合わせた。
「ところで君はなんて名前なの」
「あたしはナミアルセルク。ナミアって呼んでよ」
リーダー格のツインテール妖精はエインに名前を聞かれ、ようやく乾いた翅で宙を飛び交いながら自慢げに自己紹介をした。
「元の世界では妖精は伝説の存在と周知してしましたが、この異世界でお目にかかれるとは皮肉な話ですね」
卵を無事に回収して妖精達と共に出口を探す道中でキオナが妖精と出会えた感動を言葉で表していた。言ってみれば『ネス湖のネッシーをこの異世界なら見放題』と同じであった。
「あたしもソルラス村長や他のエルフの族長達が妖精と何らかの関わりがあるとかないとかは聞いたことあったけど」
この中では妖精の存在を真っ先に言い当てられたトランだがこの目で見るまでは実在していたかどうか確証をなく、実在を知っていたのは年長者や族長ぐらいだと言う。
「そうね、エルフとは昔からの付き合いよ。それでも会う頻度は祝い事とかだけでそう多くはなかったけど」
「どうして?仲良さそうに聞こえるけど」
しかしその族長が相手でも滅多に会うことはなかったらしく、仲が良いのならどうしてそんなに会う機会がなかったのかとエインは疑問に思う。
「あたしらは身体が小さい割には体内の魔力とかが豊富なのよ。だからうっかり姿を現したら捕まって魔力を死ぬまで搾り取られるのよ」
妖精族は異種族の中でも魔力量が魔族に次いで断トツで技能も優れているために、時と場合によっては魔術先進国家であるウィルマの魔術をいとも容易く扱うことが出来るとされている。
その圧倒的な魔力と技能に目をつけた欲深い人間達は妖精族を乱獲し絶滅にまで追いやった歴史があった。そのため妖精族は人前に滅多に現れなくなり何処かでひっそりと暮らしていたのだ。
「けど、あの流れ星が落ちてきてからはここはとても住みやすいわ」
「え、どうしてよ」
隕石が飛来してこの異世界に転移した人々は魔法やスキルが使えなくなり、元の世界と比べると特出した能力がない恐竜達に敢え無く敗れてエサになったことで、最強の存在として君臨した尊厳が徹底的に破壊されたのだから『住みやすい』なんて言葉はかなり斬新に聞こえた。
「魔力が失くなったことであたしらは狙われなくなったし、それにあたしらを狙うような連中も少なくなったからね」
圧倒的な魔力量であるがために狙われていたが、この異世界ではその魔力が存在していないため狙われる心配が失くなった上に天敵である人間が逆に狩られて頭数が少なくなったことは妖精族にはありがたい話であった。
「それにここには温和なモンスターがたくさんいてあたしらには住みやすかったのよ。そこへあんた達が来たからイタズラしてやろうと思ったんだけどね」
しかも彼女達は転移した果てにこの楽園に辿り着き、今までエイン達が来るまで平和に過ごしていたようだ。
「じゃあ、ここのことは詳しいの?」
「あのねぇ、幾ら住んでるからと言って必ずしも知っているとは限らないでしょ」
地元でもよく散策してみると意外にも知らない所がたくさんあるのと同じで、エインの質問にナミア達もここのことはよく知らないと返すのだった。
「ねぇ、水の音が聞こえない?」
「うん、ピチャピチャって音がするの」
話しながら進んでいるとカイとカナが水音を聞きつけると同時に目の前の空間が放射状に広がっていくのが確認出来た。
「はあ…綺麗ですね」
「まるで星空みたいだね」
目の前の空間にもヒカリゴケが群生し、その光を点在する大小様々な地底湖の水面に反射して本当の星空やプラネタリウムを上回る美しい光景に目を奪われた。
「…!?今のは…!?」
全員が美しい光景に目が釘付けになる中でエインは水の通り道がある通路に目をやった途端に何か大きく白い物体が動いたのを間の当たりにし目を擦りながら確認しようと近寄る。
「あれ、ここを誰か通ったみたい」
そこには大きな物体は何もなかったが、代わりに地面に複数人の足跡があるのを発見したエイン。
「この足跡…アレッサお姉ちゃんとマルスお兄ちゃんの匂いがする」
するとカイがその足跡から同じ獣人の仲間であるアレッサとマルスの匂いをキャッチし彼らもここを通ったことが判明するのだった。
「まさか私達を探してここまで来たのでしょうか」
「いずれにしてもここを通ったってことはこの先が出口なのかも。行きましょう」
何故ここにマルス達がいるかは分からないが先に出口を見つけている可能性があるため自分達も倣うことにする。
『………!』
しかしその直後にエインが見た白く巨大な物体が水面に浮上し後を追いかけるように流れに逆らって行く。




