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楽園は異種のるつぼ

時間は遡ってマイアサウラの営巣地――


『『『キュウキュウ』』』


「可愛いですわね」


「『ヒプシロフォドン』だよ」


「大人しくて人懐っこいわね」


「…樹の実とかは食べるのでしょうか」


「お嬢様、噛まれないようお気を付けください」


リオーネ達が漁村に辿り着いた頃、捜索されていたキオナ達はそんなことも知らずに小型のカモノハシ竜であるヒプシロフォドンの群れと遭遇し、触れ合い動物園かのように草や樹の実をあげて和気藹々(わきあいあい)としていた。


「それにしても、やはりここは他よりも比較的に穏やかな気性を持つモンスターが多いようですね」


これまでこの異世界での自然界の弱肉強食を嫌と言うほど見てきたキオナ達だが、改めて見てみるとこの平原にはマイアサウラを始め基本的には大人しく人懐っこい性格をした多種多様なモンスターが存在しているお陰で土地のことも含めてとても穏やかな雰囲気だった。


「いつもはあたしらを食おうと牙やら爪やらを立ててくるのが多いですからねぇ」


その言葉にトランも大いに同意していた。彼女の故郷でもアクロカントサウルスやアンドリューサルクスの侵攻があったからこそ、こんな穏やかな場所があるとはとても信じられなかった。


「先輩、可愛いですね。この子達」


「そうね。けど、本当に不思議ね。エインくんはどうしてこの異世界のモンスターのことそこまで知ってるのかしら」


「僕にも分かりません。ただ不思議と頭の中に色々なことが入って来るんですよ」


「今思うとモルマさんの言う通りですね。どうなってるのでしょうか」


ヒプシロフォドンもだが、これまでにも多くの恐竜と出会い危険な目に遭うも何とか切り抜けられたのもエインのお陰であったが何故自分達の知らないことをここまで知っているのか興味が湧いてしまう。


「そ、そろそろリリーちゃんが寂しがってるかな?帰ろうよ!」


自己肯定感の低さから称賛され、しかもキオナ達から好奇の目で見られてタジタジになったエインは調査を切り上げようとその場から逃げ出す。


「まだ調査を始めたばかりですわよ」


「照れているでござるな」


仕方ないと思いつつもヒプシロフォドンと別れを告げてリリー達が待つマイアサウラの巣へと戻ってみる。


「ただいま、リリーちゃん…あれ?何してるの」


巣に戻ってみると留守番をしていたレイ達はクレーターの淵に腰掛けたり、フォークやゴンはディプロドクスの子供達と樹の実を食べたりしていたが、リリーは巣の真ん中でうつ伏せになっていたのだ。


「カナちゃん達と交代でね、卵を温めてるの」


「私達が大事にしてた卵もね」


お腹の下にはマイアサウラの卵と獣人達が後生大事にしていた卵が置かれていて、それをリリーやカイやカナ達が交代で温めていたのだ。


「何だか鳥みたいだね」


「けど、周りのモンスターはそんなことしてないけど。あれで孵るの」


子供らしい行動にルシアンやアルロは微笑ましく思うも、それなのに他のマイアサウラ達はそのような素振りをしてないことにエリーシャは疑問に思っていた。


「マイアサウラは巣の中に敷き詰めた草の発酵の熱を利用して卵を温めてるんだよ」


「だから妙にこの巣の中は温かいんだね」


エインの説明に巣材の草に触ってみると確かに中は毛布のように温かった。


「それとね、これも温めようと思ってね」


そう言うとリリーは立ち上がると服の上からでも分かる程に不自然な膨らみが見受けられた。何を入れて共に温めているのか彼女は服の下から出してみる。


「おい、それ…あのドラゴンの卵か!?」


「ちょっ…そんなの温めちゃダメだよ!」


なんとリリーが服の下から出したのは成り行きで持って来てしまったドリプトサウルスの卵だった。もしそんなのが孵化したら絶対に大変なことになるのは間違いないだろう。


「偉いよ、リリーちゃん。皆も」


「えへへ…」


「ちょっ…何んで褒めんのよ!ドラゴンの卵を温めて孵したらあたしらを襲うかもしれないのよ!」


ところがエインは他と違ってリリー達を褒めたため、エリーシャはドリプトサウルスの卵を孵化させる危険性を指摘しながら反論する。


「…そうだけど、このまま放置してたら卵が死んじゃう」


エインはオノーダから家畜の世話をする時に卵からヒヨコが生まれることを教わると同時に、卵を温めないと結果的に卵は死んでしまうとも教えられていた。


「もし死んだら…かわいそうだよ。それにドリプトサウルスだって」


元々殺処分される予定であったがエインやリリー達の懇願により国外追放と言う名の下に国の外へと逃される予定だった。それなのにここで卵を死なせては懇願した意味がなくなってしまうし、エインとしても無駄に命を散らせたくないと思ってのことだろう。


「僕が何とかするから!だからリリーちゃん達を責めないで!」


「…やはりあなたは優しいですわね」


ゴンの時と同じようにエイン自身が責任を取ると訴えてくるためにキオナ達は何処か呆れたような笑みを浮かべていた。


「ところでここには危険なモンスターとかはいたの?」


「いいえ、基本的には穏やかな性質のモンスターが大半ですわ」


一同の微笑みが了承だと認識し、再び卵を温めるのに専念するリリー達を微笑ましく見ていたメロルが話題を変えようと話を切り出すも、ロイルからの報告を聞いてよりニッコリした顔をするのだった。


「本当、ここは穏やかだね。ずっと暮らしたいぐらいだね〜」


「確かに…キプロニアス王国も良いが、悪くない場所だな」


「まあ、あたしとしては別荘には良い所ね」


涼しいそよ風にメロルは目を閉じて心地良さそうにし、カルロスは巣の中で寝転び、エルケも樹の実を摘みながら口々に呟いていた。


『クルル…』


「あ、ネイル。何処に行くの」


デイノケイルスのネイルも樹の実を食べていたが、物足りないと言わんばかりに何処かへ歩き出す。


『クルル』


「大きな湖…ますます別荘にしたいぐらいだわ」


ネイルを追いかけてみると巣からでも見えた大きな湖の側で立ち止まっており、改めて見てみてもやはり綺麗で大きな湖にエルケでなくとも思わず見惚れてしまいそうだった。


『クルル…ルルル…』


「あれは何してるの?」


「あれはね…」


ネイルは湖に入り込み水の中をジッと見つめて動かなくなり、レーヌの質問にメロルは見ててご覧と言わんばかりだった。


『クオオオ』


「ほう、ああやって魚を捕るのか」


目を見開いたかと思えば鋭い爪を備えた前脚を水の中に叩き込む。すると魚が宙を舞って陸地に叩きつけられ跳ね回っており、一部始終を見ていたカルロスも思わず感嘆の声を漏らす。


「うん、いつも公園で魚を捕る時はあんな風だよ」


「たまに寮で見た魚の骨はあのモンスターの落とし物だったんだね」


サンボ達が暮らす軍候補生の寮にも時折魚の骨が落ちていたが、今思えばネイルが公園で獲って食べて落とした食べカスだったのだ。


『クオオオ…クオン!?』


「え、何今の」


獲った魚を食べようと水鳥のような(くちばし)を開けるネイルだが、口に入る前に何かが滑空して魚を横取りしてしまった。


『ケケケケ…!』


「あれは『ズンガリプテルス』だね」


横取りした魚をこれ見よがしにし笑い声のような鳴き声を発していたのは上に反り返った嘴と中にある櫛状(くしじょう)の歯、そして顔面にモヒカンのように生えた突起物が特徴的な翼竜の『ズンガリプテルス』だった。


『ケケケケ』


「あ、魚を食べちゃった」


手出し出来ない空中でズンガリプテルスは魚を頭から丸呑みにしてしまう。


『クケケケ』


『ケケケケ』


「ライバルはたくさんいるみたいだね」


よく見ると空だけでなく近くの岩場にもズンガリプテルスがいて魚の横取りを狙っている個体もいた。それでなくとも水面スレスレを飛びながら下顎を着けて魚を掠め取ったり、岩場や砂場などで貝やカニなどを捕食したりしていた。


『クアアアア〜!クアアアア〜!』


『クアアアア〜!クアアアア〜!』


岩場の方にはズンガリプテルスとは異なる生物種もいた。見た感じは翼が極端に短い代わりに首がやたら長くなったペンギンのような生物だった。


『キャンキャン!』


「ロボ、どうしたの?……何だろう、あれ」


すると今度はロボが仕切りに吠えながら何かを指しており、見てみるとズンガリプテルスが何かに群がっているのが目に入った。何に群がっているかは不明だがかなりのズンガリプテルスが集まっており、輪郭から見てサイズ的に人間と変わらない何かだった。


「ん…!?手…人が倒れてるよ!」


「何ですって?」


ところが人間の手が見えたことで、本当に人間がズンガリプテルスに囲まれていると知りエイン達は慌てて駆け寄る。


「ううん…」


ズンガリプテルスは近寄って来たエイン達を見て空へと飛び去っていき、その場には意識のない褐色肌の短髪の少女が倒れていたのだ。


「大丈夫かな?この人…」


「気を失ってるようね。とにかくここに放って置く訳にはいかないわね」


何者かは知らないがまだ生きているのなら見捨てることは出来ずにマイアサウラの巣へと連れて行く。しかし褐色肌の少女をカルロスとエインが抱え上げた時、彼女の身体から半透明な物体が転がり落ちたことに誰も気付かなかった。


「ううん…」


「…お兄ちゃん、この人は誰なの?」


「さあ…湖の側で倒れていたから」


取り敢えず卵を抱くリリー達が待つ巣へと戻るも褐色肌の少女はまだ目を覚まさなかった。


「何があったかは分かりませんけど、この憔悴(しょうすい)した状態を見るにここに来るまで相当大変な思いをしたのでしょうね」


アルロの看病で外傷は擦り傷や打撲が多く、目を覚まさないのも精神的なダメージを受けたところが大きいのではと判断していた。


「アルロさん、この子は助かるんですか」


「大丈夫よ。命に別状は無さそうだから直に目を覚ますわ」


エインを始め全員が褐色肌の少女が心配になるも、アルロは微笑みながら命の問題はないと告げたためホッと胸を撫で下ろす。


「それにしてもこの子は何処から来たんだろう。オイラ達ドワーフとは違うし…」


「エルフでないのも確かね」


目を覚まさない褐色肌の少女はドワーフのように癖のある赤毛ではないし、エルフのような長い耳もなかった。見たところは外見と異なり何処か大人しいどころか自分の意見を中々言えなさそうな控え目な雰囲気に、それに見合った華奢(きゃしゃ)な身体付きをしていた。


「しかし彼女の服装は西方の部族の衣装のようですね。彼らは他国との関わりを持たないはずですが初めて見ましたわ」


「初めて見たのに何で分かるんですか」


「これでも父との外交で色々学びましたのよ」


エインは初見で他国との関わりを持たない部族の服装を言い当てられたことに疑問に思うも、ロイルは令嬢ならではの知識の豊富さと顔の広さを持っていたからだった。


『キュウウ』


「あ、今日のご飯だ」


「そう言えばもう日没ですね。今日の活動はここまでですね」


マイアサウラが樹の実を咥えて戻って来る。思えばもう日没近くになっており夜ご飯の時間だった。


「この実は美味しいけど、いつもこればっかりじゃ飽きちゃうかも」


「贅沢を言ってる場合かサンボ」


食べさせて貰っているのに食いしん坊なサンボはラズーべの実に飽きたような発言をしたためにカルロスから諌められる。


「そうだけど、ここ緑豊かな場所なんだよ。その気になれば食べられる物から他にも見つかるはずだよ」


「そうだよね。さっきネイルも魚を獲ってたし、樹の実だけじゃ栄養が偏っちゃうもんね」


カルロスの言うことにも一理あるが、それはあくまでも食べられるのがラズーべの実しかない場合での話だ。


ラズーべの実でも栄養は摂れるがそれだけだとどうしても偏りが生じてしまうし、仮に実が採取出来なくなった場合は他にも食べられる食糧が必要になるだろう。


幸いにもここは人種だけでなく、あらゆる生物種が根付いている楽園だ。食べることが可能なモンスターを狩猟したり、メロルの言う通りネイルのように魚を獲ることが出来れば食糧に付いては盤石(ばんじゃく)になるだろう。


「これはもう一度、この周辺を調査しつつも食糧を見つける必要がありそうですね。とにかく今日はもう寝ましょう」


話を聞いていたキオナも同意し、明日また調査をしてみることにして就寝するのだった。


「ししし…!今夜決行するとしようか〜!」


しかしその傍らでキオナ達が寝静まるのを待ち望んでいる者達がいた。彼女らはケラトガウルスの巣穴から様子を見ており、全員が寝落ちしたのを確認してから巣穴から()()()()のだった。


▷▷▷


場所は変わってここは何処かの地底湖。地底湖とは洞窟の中に存在する湖のことであり、ここでは日の光も射さないために水面は光ることはないし、風が吹いて水面を撫でて波を生じさせることもない。


何か起きると言えば時折洞窟の天井から水滴が落ちたり、そこに住まう魚が跳ねて波紋が生じるぐらいしかないが、その地底湖からブクブクと気泡が生じたかと思えば水面を打ち破って何かが飛び出してきた。


「ぷはっ…!?ようやく水面に着いたわ…」


「はあ…はあ…やっぱり洞窟に通じてたか」


その正体は崩れ落ちそうになった井戸から命からがら水の中を潜って脱出したアレッサ達だった。彼女らは前持って脱出経路が洞窟に通じていることは知っていたが表情はこの洞窟のように暗い影を落としていた。


「はうう…全身ずぶ濡れですぅ」


「いてっ、辺りも薄暗いな」


メガネに着いた水滴を拭き取り服の裾を絞りながらキャロラインは疲れた様子を見せており、前に進もうにもドランは岩壁に頭や身体の随所随所(ずいしょずいしょ)をぶつけてしまう。


現状から言えば助かったは良かったものの、一寸先は闇とも言える洞窟で文字通り右も左も分からない場所に放り出されて逆境であることに変わりなかった。


「あの…これからどうしたら」 


この中では最年少であるテテーナはまだ暗闇を怖がる年代であるためか震えるような声で質問してくる。


「お前ら獣人って鼻が利くんだろ?どうなんだ?」


その声を聞いたドランは(わら)にも(すが)る思いで獣人であるマルスとアレッサに訊ねる。


「そうだな…この辺は死臭がたくさんしてるが、草花の匂いも混じってるな」


「それに何処からか風の音もするわ」


狼の獣人であるマルスは嫌な匂いとは別に草花の匂いを嗅ぎ取り、更にアレッサが風の音をキャッチしていた。日光が射さない場所には植物はまず育たないし、風の音がするなら通り道となる出入り口があることは間違いないだろう。


「私は夜目が利くから大丈夫だけど、あなた達はここで待ってる?」


猫の獣人であるアレッサは灯りのない夜道や暗闇でも昼間と変わらない様子で辺りを見れるため、先に出入り口を見つけて来ようかと提案するも何処からかガラガラと崩れる音が聞こえ全員が身構える。


「バラバラになるのは危険だ。それに目印もないのに一人で進むと戻れなくなるぞ」


思えば死臭がしている時点で生き物が死ぬようなことが起きているためにこの洞窟には捕食者が住んでいることはもちろん、どのような構造になっているかは分からないため単独行動は危険極まりない。


「けど、幾ら私でも全方位を警戒出来るわけではないわ」


確かに夜目は利くアレッサだが、目が見えない一人一人の行動を把握しつつも辺りを警戒するとなると負担がかなり掛かってしまう。


「俺も鼻が利くとは言え、これじゃあやりにくいな」


同じ獣人でも分類が異なるため、幾らマルスでもこの暗闇の中では満足に動けないようだ。


「匂いで分かるんじゃないの?」


「あのなぁ、穴が空いてたとしてその匂いが分かるのか?」


嗅覚が鋭くても周りの岩や土の匂いの一つ一つを分けられるなんてことは獣人でなくとも難しい内容だ。ましてやもしも地面に穴が空いていたら気付かずに落ちてしまうだろうとキャロラインの質問に例え話で説明する。


「あれ、これ何ですか」


ふとテテーナは足で何かを蹴ったことに気が付いて拾い上げてみると、それは棒に布か何かを巻いた物体だった。


「それは…松明じゃない。誰がこんな所に?」


「誰かが使っていたのか?だが、ちょうど良いな」


それは洞窟を探索するのによく使われている松明だった。明らかに人工物で誰かがここを訪れて落としていったかは不明だが、ドランは渡りに船と言わんばかりにここは有り難く使わせて貰うことにした。


「へぇ、他にも地底湖があるんだな」


火打石で着火して辺りを照らしてみると洞窟の天井まで六メートルの高さで五十人は入れるほどの面積があって割と広く、ドラン達が出てきた地底湖とは別に他の地底湖も見受けられた。


「あの…出口はどっちですか」


「匂いはあっちからだな」


取り敢えずキャロライン達が目指す方向には地底湖へ流れる水の通り道が側にあって、その流れに逆らうように進めば外に出られるようだ。


「どうしたんですか、アレッサさん」


「……何でもないわ」


ふとテテーナは別の地底湖を睨みつけるアレッサが目に入りどうしたのかと訊ねるも、彼女は気の所為かと判断して目もくれなくなりマルスが見つけた道を歩き出す。


しかし水面下から鋭い眼光が複数睨みつけており、彼女らの後を追うように流れに逆らうように泳ぎ始める。

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