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雨『足』は止まぬ

『ゲコゲコ、ゲコゲコ』


水面に波紋を幾つも生じさせる雨が降り続ける中で、池の辺りで『イブクロコモリガエル』が口の中のオタマジャクシ達に水浴びさせるように鳴き声を挙げていた。そんな雨音とカエルの鳴き声に混じってバシャバシャと水と泥を掻き分ける足音が響き渡る。


「雨で匂いが落ちたのは良かったけど、いつまで降るの?」


「この様子だと暫くは止みそうにありませんね」


ドリプトサウルスとシンラプトルから逃げ切ったラーナ達は雨で巣の匂いを落とせたことは運が良かったが、思ったよりも降り続けることに嫌気が差していた。


「おい、そう言えばここは何処だ?」


ふとカルロスが立ち止まって、不穏な一言を口にしたため他の面々も言葉を失いながら辺りを見回す。


「逃げるのに必死で最初の場所からかなり離れてしまったようでござるな」


「雨とジャングルのせいで方向が分かりませんわ」


降りしきる雨を拭いながら辺りを何度も確認するも見えるのは鬱蒼(うっそう)としたジャングルしか見えず、しかも日が傾きかけているのか次第に目の前が暗くなってくる。


「くちゅん!?お兄ちゃん…寒いよぉ…」


この辺りは温暖な気候ではあるが暗くなって気温が下がり、頭の天辺から爪先まで全身余すことなくずぶ濡れになったことで一気に体温も下がってリリーを始めとする身体の小さな最年少の者達は寒さに震え始める。


「何処かで雨宿りをしないと」


「でもテントは…」


このまま雨に打たれるのは望ましくないとエインは雨宿りを提案する。しかしラーナは野宿用のテントは用意していたものの荷車に積んだままのため今すぐは無理だと言いづらそうにする。


「レーヌ、ドワーフであるあんたならテントとかパパっと作れないの?」


「幾ら何でも今すぐには…」


こう言う時こそ技術者であるドワーフとして手腕を振るう時だとトランは指摘するが、幾ら何でも雨が降っている中で即席の家を工作しろだなんて無茶振りも良いとこだった。


「ねぇ、これ何の音だろ。風が響く音がする」


「カナもそんな音がする」


「僕も!」


「風の音がどうしたのさ。今はその雨風を防ぐ所を見つけないと…」


ナクアを皮切りにカナとカイは不思議な風の音を耳にしたことを口にするも、それがどうしたのかとレイが反論する。


「この風の音、()()の中で響く音みたいだけど」


「それを早く言ってよ!」


追加情報でこの辺に洞窟があると分かり、ナクア達の耳を頼りにその場所へと急ぐのだった。


「本当に洞窟がありましたね」


案内されたキオナ達の前には大きな洞窟の入り口が広がっており、何処まで続いてるかは分からないが全員入れそうだった。


「はあ、全身ずぶ濡れですわ」


「雨が止み、夜が明けるまではここで待ちましょう」


ロイルは髪が傷まないように余分な水分を取り除き、ハヤテもポニーテールを解いて同じことをしながら今後のことを呟いていた。


「くちゅん!?まだ寒いよぉ…」


「服もずぶ濡れだもんね」


これ以上雨に打たれることはないが、それでもずぶ濡れで体温が奪われるのは変わらなかった。


「服脱いで乾かすしかねぇな」


「それしかないよね」


これ以上体温が下がらないように余分な水分を絞り出すために服を脱ぎ始めるカルロスとレイに女子達は慌てて目隠しをする。


「ちょっと!嫁入り前の女の子の前で服を脱がないでよ!」


「ええ、でも脱いで乾かさないと風邪引くよ」


気が強いトランでもこう言う所は初々しい反応を見せていたが、口を尖らせるレイの言う通りこのままだと身体が冷えて良くないことは確かだった。


「こっち見たら承知しないわよ」


「オイラは別に男の子と一緒に着替えても良いけどなぁ」


「鎧と剣、錆びないと良いけど」


「モルマ先輩〜!一緒に着替えましょう〜!」


女子達は離れた位置で目を光らせながら服を脱いで下着姿になり、剣や鎧の手入れやケガ人の手伝いをしていた。


「ほら、バンザイしてね」


「バンザイ〜」


エインはエルフの男の子達の濡れた服を脱がす手伝いをしており、服を絞って自分のと一緒に干して乾かしていた。


「お兄ちゃん、リリーのも」


「ほら、バンザイして」


もちろんリリーの服も脱がせて絞り、干して乾かすのだった。


「割と面倒見が良いのね、あの子。学校の時は目を輝かせてたのに」


「本当は女の子じゃないの?」


潜入調査のためとは言え初めて行く学校に年相応な反応を見せていた時と違って、年下の子供の面倒をしっかり見ているエインにモルマは目を丸くし、ラーナも騙されたこともあって本当に女子ではないのかと半分からかうのだった。


「僕は男だけど…あれ?」


「ちょ、こっち見ないで…って、何処見てるのよ」


隠れているとは言え目線を向けないで欲しいと文句を言おうとしたが、エインの視線は洞窟の奥へと向けられていた。


「奥に何かあるの?」


「あんた…この暗さで何があるのかって分かるの?」


ただでさえドンヨリとした天気で日暮れも間近、しかも灯りも何もない真っ暗な洞窟の中でエインは女子達が着替えている場所よりも奥に何かあると見抜いていた。


「まさかモンスターかい?」


「ううん、動いていないから違うと思う。けど、何かある」


少なくとも腹を空かせたモンスターがいると言う訳ではないようだが、ひょっとすると人間がここにいて防衛のために仕掛けた罠があるかもしれない。ラピスは手入れしたばかりの剣を片手に慎重に奥へと進む。


「…何かと思えば葉っぱが一箇所に集められているだけじゃないか」


ところがすぐに警戒する必要はなくなった。意外にも洞窟はそこまで深くはなくすぐに行き止まりに辿り着き、そしてエインが見つけた物の正体はたくさんの葉っぱがそこに敷かれていただけだった。


「しかし奥行きがそこまでではないとは言え、木の葉がどうしてこんな奥にまで?」


「風で飛ばされたとかじゃないんですか」


洞窟の外はジャングルであるため葉が風に飛ばされて奥に集まったのではないか、そう話し込んでいると木の葉の中に不自然な形をした物体がキオナに目に入った。


「これは本…いえ、日誌でしょうか」


木の葉に埋もれていたのは誰かが落とした、或いは残していったであろう使い古された日誌だった。


「日誌があるってことはここは誰かが住んでたの?」


「それにしては生活感がないけど」


この洞窟は雨宿りするだけでなく、場合によっては生活出来るほどの面積はあるため誰かが住んでいたとしても不思議ではなかった。しかし先住民がミニマリストだったにしても、もう少し生活必需品があってもおかしくないはずだ。


『○月×日 ◯◯◯(読めない)を探して、私は遥々(はるばる)ここまで来ることに成功した。それはとてもとても長い旅路だった』


「前半は何と書いてあるか読めませんが、後半のあらすじから察するに誰かと会おうとしていたようですね」


字の形が崩れているために半分ぐらいは読めなかったが、もう半分の文面からするに持ち主は誰かに会うために旅をしていたようだ。


『○月×日 空模様が怪しいと思ったら急な嵐に見舞われ、進むべき進路が分からず立ち往生してしまった。しかしこの洞窟を見つけれたのは本当に運が良かった、暫くここで休ませて貰うことにしよう』


「まるでこの人の再現をしてるみたいね」


悪天候のために進めず、しかも道に迷ってしまうもこの洞窟を見つけれたと言う境遇は今の自分達とまるっきり同じであったことにこんな偶然もあるもんだなと感慨深くなっていた。


『○月×日 嵐は思ったよりも長引いており、勢いがまるで落ちる気配がなかった。それとは別にずっとこんな辛気臭い所に缶詰め状態だからか誰かに見られているような気配がするのも気のせいだろうか…』


「…何だか内容が不穏じゃないか」


嵐で足止めされた旅人はこの洞窟に暫く留まったようだが、何者かに監視されていると言う違和感を書き記しておりラピスでなくとも固唾を飲む。


『○月×日 一体どう言うことだ…持って来た食糧が食い荒らされていた。しかも荷物の側には人のようでそうではないような足跡があった。見た目は人のそれではあるが、明らかに人とは思えない規格外の大きさでクマをも上回っていた』


「…これって正体はクマとかモンスターとかだったってオチじゃないの?」


「足跡は相手のことを一番知りやすい痕跡よ。クマはもちろん、別のモンスターであろうと人とは足跡が違い過ぎるわ」


徐々に旅人に怪しい影が迫る内容にレーヌは恐る恐る正体が獣やモンスターではないかと口を出すも、日誌の内容には足跡が人間に近しいと記載されているため見間違いではないだろうとトランは返す。


『○月×日 私は見てしまった…その日は熱っぽくて寝たきりになっていたのだが、監視の気配と誰かに身体を触られる感触にふと目を覚ました…そこには三メートルはあろう毛むくじゃらの何かがいた…』


遂に得体の知れない何かを目撃するどころか直接出会ってしまった旅人の手記に誰もが言葉を失い、食い入りながらその続きを読み解いていく。


『その何かは私を大きな手で触ったり突っついたりしてくる。私が死んでいるのか生きているのか、そもそも何なのか分からないと言った様子で調べているようだった。私は恐怖と緊張に耐え切れずそのまま意識を失ってしまった…』


得体の知れない相手だが興味からか或いは確認のためか旅人をその巨体に見合った巨大な手を使って調べており、その結末はどうなったかと言うと――


『○月×日 目を覚ますとあんなに激しく荒れていた天気が嘘のように静まり返り、あの巨大な影も姿を消していた。代わりに身に覚えのない果物が置かれていた…熱も引いたし、長居は無用だと思いこの洞窟を立ち去ることにした。そしてこの洞窟を訪れた者のためにうろ覚えではあるが私が見たものとこの日誌を記録として残しておく…』


怪しい影は何もしなかったのか旅人は無事だったらしく、ちょうど天気も落ち着いていたこともあり日誌を置いてそのまま旅立ったようだ。


「どうやらご無事だったようですね。最後のページには何か…うっ!?」


文章はここまでであり、日誌の最後の方には何か書き記されていたがそれを目にしたキオナは凍りつく。


「何ですかこれは…」


「うわ、落書きっぽいところが余計不気味ですね」


ページの最後には恐らく旅人が意識を失う直前までに見たであろう得体の知れない何かのイラストが描かれていた。毛むくじゃらでページいっぱいになるほどに描かれているが、落書きのような描画とギョロ目であるために不気味さが強調されていた。


「「わあ、何これ」」


「大っきいねぇ」


「あの…どうしたのですか?」


日誌に絶句しているキオナ達を尻目にカイとカナがエイン達と共に洞窟の側で何かを見ており、キオナはあられもない姿が見えないよう岩陰から話し掛ける。


「これ…人の足跡かな?」


「にしてはデカいな…熊よりもあるぞ」


「それ本当ですか?」


レイとカルロスの台詞は日誌に書き記されていた痕跡とドンピシャであったことに耳を疑うキオナ。


「この足跡は何ですか、確かに人のように見えますが余りにも…大き過ぎます」


一体何を見たのかキオナは自分の目で確認するも、やはり到底信じられなかった。その足跡は人間のように五本指で形も人間とほぼ変わらなかったが、人が寝そべられるほどの大きさで、サイズだけでもギネスブックに載りそうなほどだった。


「こんなに足の大きな人がいるの?」


「いいえ、あり得ません。足だけでこの大きさとなると…持ち主はそれ相応の身体を持つことになります」


「ドワーフ…でもこんなに大きな足を持ってる人はいないわよね」


「さすがの父ちゃんでもこんなに大きくないよ」


幾ら重装備の大男でもここまで足は大きくないし、獣人やドワーフのような異種族であってもまず見られない。そもそも形は人間でも同じ人間であるかどうかも怪しかった。


「ところでさっきは何を見つけ…て……」


「はい?……あ」


エインが徐々に言葉を失っていくことにキオナ達は何事かと心配するも、自分達が下着姿のまま彼らの元に来てしまったことに気が付いたのだった。 


「あ…あ…ああ……きゃああああああ!?」


「見るなぁバカあああああぁぁぁ!!」


平手打ちと正拳突きの両方がエインに命中し、鼻血を出す形でノックアウトさせる。


「大丈夫?」


「……何だか顔と身体がポカポカしてポーッとなってます」


レイとカルロスに介抱されるエインの顔に拳と平手の痕はもちろん、今まで味わったことのない感覚に顔が赤くなっていた。


「今のはトランちゃんと姫様が悪いと思うけど」


「そうですが…くしゅん!」


「ううっ…やっぱりこれじゃ寒い」


距離を取ってようやく落ち着いた二人は濡れた身体が冷え始め震え始める。


「僕らも寒いよぉ…」


「お兄ちゃん…」


「皆…こう言う時は…それ!」


震えるリリー達を見たエインはふと考えた末に彼女達に抱き着き始める。


「リリーちゃん、皆も、こうやって固まれば温かいでしょ」


「本当だ、温かい〜」


抱き着かれたことに驚くも人肌で少し温かくなったことにリリー達も互いに抱き合いながら暖を取る。


「…どうしますか姫様。こう寒いんじゃ皆凍えちゃいますし」


「まさかトランさん、嫁入り前だと言うのにほぼ半裸の状態で抱き合いながら寝る気ですの?」


エインと子供達のやり取りを微笑ましく思っていたロイルだがトランの提案に懐疑的になっていた。


「大丈夫です。エインはもちろん、レイさんやカルロスさんもおかしなことはしないでしょうし」


「さっきはエインくんを思いっきり叩いたのに?」


今は緊急時だし暖を取るために男女混合で固まるべきだとキオナも推奨するも、レーヌから痛い所を指摘されガクッと肩を落とす。


「最初は恥ずかしかったですけど、このままだと凍えてしまいます。ですからエイン…私と…」


下着姿と言うこともあるが今のキオナは暖を取るためにエインと抱き合うことに胸がドキドキし、体温も不思議と上がって今にも顔から火が出そうだった。


「姫お姉ちゃんも一緒に温まろ!」


「…ふぅ、そうですね」


しかしエインの返事を待つ前にリリーや子供達が誘って来たためにキオナの一世一代の告白は徒労に終わってしまったことで興冷めし溜め息混じりに寄っていく。


「姫様と子供達は中央にいてください」


「真ん中が温かいからねぇ〜」


「しかし私は…」


トランとレーヌは子供達と姫であるキオナを一番温度の高い中央へと誘導するが、王女として守るべき民に守られてばかりは嫌だと反論しようとする。


「こう言う時は温室育ちの姫様は無理をなさらないでください〜」


「何かあったら大変だもんねぇ〜」


「っ!あなた達まさかそのつもりで…」


口では守るような口振りだが王女としての立場を逆手に取ったトランとレーヌがエインの側にさり気なく近寄りながらニヤニヤしているのを見てキオナは二人の思惑に気が付き始める。


「ふ…ふふふ…た…民を守るのが王女の役目ですからねぇ、あなた達は無理をなさらなくて良いんですよ?」


「いやいや無理しないでくださいよ」


「オイラ達が温めますから…!」


やってくれるなと言わんばかりに背景にブリザードが似合いそうな冷たく引きつった笑みを浮かべるキオナに、トランとレーヌも不敵な笑みを浮かべながら王女であるキオナに睨みを利かせていた。


「俺らは何を見せられてんだ」


「君も罪な男だね」


「え?三人がにらめっこしているのが何で僕に関係しているの?」


女の戦いは男から見ると迫力満点だが、争いの中心人物であるエインからすれば三人が争う理由はおろか自分のことで争っているとも思ってもいなかった。


「そう言えばさっきは何を見つけたの?」


「あ、この洞窟を訪れた人が残した日誌なのですが」


これはチャンスだとキオナは先程見つけた日誌を見せたいがためにエインを中央へと誘い込み、してやられたとトランとレーヌは面白くなさそうに睨む。


『……』


そんな女の戦いが繰り広げられる洞窟を巨大な影が子供がすっぽり入るような足音を残し、雨に打たれながら見据えていることに誰も気が付かなかった。

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