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『略奪者』の悪夢

「やっぱり死体が跡形もないな。モンスターの仕業か」


テテーナを無事に保護して仲間達の元へ帰る前に他の要救助者がいないか確認のために辺りを散策していたが、開けている分捜索範囲はそう多くはなかったが何故か死体が一つも見つからないのは腑に落ちなかった。


「おまけに何だこの土地は?ヤケに荒れ果ててるな」


「よほど大勢の人間が通ったのかな。もしそうならかなりの大軍勢だね」


村のほとんどの家屋が半壊し、土地も土が掘り返されては踏み固められたりと荒れ具合からして、軍隊が侵攻して来たようにも思えるが規模からして一国の軍隊並みで貴族が使役したとは考えにくかった。


「もうここには彼女以外は人はいないようですね。引き揚げましょう」


幸か不幸かここには人がいないと分かり、しかも肉食恐竜の足跡があるのなら縄張りである可能性があるため長居は不要だった。


「……?」


「エイン?どうしたのですか?」


帰り支度をする中でエインだけは明後日の方向を見て怪訝な顔をしていた。


「嫌な感じがする。強い怒りと悲しみが伝わってくる…」


「…人間同士の争いとは怒りや悲しみしか生みません。ここではそう言う悲しいことがあったのです」


恐らく生体電流(パルス)でこの地に残る人間の憎悪を感じ取ったのかエインは悲しそうにしており、キオナも励ますように語り掛ける。


「いや、人間じゃ…っ!誰かいる」


「え、まさか他にも人が…いえ、違うようですね」


言い返そうとするエインだが何か気配を感じたらしく、キオナは他にも人がいるのかと訊ねるも彼が警戒して身構えているのを見て少なくとも友好的な相手ではないと分かった。


「リリーちゃん、危ない!」


「ひゃあ!?」


エインはリリーを抱えてその場を飛び退くと彼女が立っていた場所を何かが駆け抜けて行った。


『ガルルル…!』


「嘘でしょ…何でこいつが檻の外に出てんのよ!」


エリーシャだけでなく全員が見間違いだと信じたかったが、目の前にいるのはキプロニアス王国を恐怖に陥れたドリプトサウルスだった。


「まさか檻を破って…」


「ううん、何だか檻に入ってたのとサイズが違うような気がする」


脱走を疑うも製造を(たずさ)わるドワーフだからか、目の前のドリプトサウルスのサイズが捕獲した個体とは何処か違うことに違和感を覚えていた。


『ガルルル!グルルル…!』


「な…何?」


「卵が狙いみたい」


ドリプトサウルスの視線がリリーに向いており、エインは彼女のリュックの中に卵が入っていることを知っているため狙いがすぐに分かった。


「ですが親は捕まえたはずですよ」


「どうやら他にも仲間がいたようですな。恐らくあの個体も卵の親なのでしょう」


同種が卵を狙っているとなると間違いなく親なのだろうが、まさか他にもいたとは思いも寄らなかった。


「けど、ここからキプロニアス王国からかなりの距離があるはずなのにどうやって…」


もう一つ思いも寄らなかったのはキプロニアス王国からかなり離れているはずなのに我が子を取り戻すためとは言えここまで追跡して来たことだ。


「で、どうします姫様」


「脅威ですが相手は一頭です。このまま放置していても良くはないですし出来れば捕獲しましょう」


いずれにしても相手は自分達を見逃すつもりはないだろうし、数ではこちらが有利なため捕獲するのも手の内だとキオナは考える。


「あのモンスターは木に登って狩りを行います。周囲を取り囲んで森に逃げられないようにしてください!」


エインとシスカは剣を抜き、ルシアンとレーヌはハンマーと棍棒を手に、トランとラーナは弓や槍を構えてドリプトサウルスを取り囲むべく横一列に広がる。


『ガルルル…』


「少し卑怯ですがこのまま取り囲んで拘束します」


狙い通りドリプトサウルスは誰を狙おうか迷っており、その間に包囲の輪を作って取り囲もうとする。


「どうやらそう…上手くは行かんようだ!」


シスカは左側にある茂みに向かってナイフを投げつけると、途端に何かが飛び出して唸り声を上げる。


『ゴガアアア!』


『ガルルル…!』


「何の悪い冗談だ…モンスターは()()()()()()()()だったのか…!?」


なんと更に別のドリプトサウルスまでもが現れ計四頭がリオーネ達の前に現れたことで我が目を疑う。


「それよりもマズいぞ、逆に俺達が囲まれた!」


「挟み撃ちか…子供達を中央に!」


取り囲んで捕獲するはずが自分達の方が包囲され捕食される寸前になってしまい、一同は横一列から王女であるキオナやリリーのような子供達を中心に集めて他の者達が取り囲むような防御態勢を取る。


「狙いは卵だ…返した方が良いかも」


「でも返した途端に襲い掛かるんじゃないの?」


思えば自分達は目の前のドリプトサウルスから雄と我が子である卵を盗んだため憎まれても不思議ではなかった。エインは返すべきではと提案するも許してくれるかどうか分からないとエリーシャだけでなく大勢が同じことを考えていた。


「でも、元々は僕達が奪ったような物だし」


「エイン、気持ちは理解出来ますが逆に言えば卵がある内は私達を襲わないはずです」


それでも卵は親に返すべきだとエインは主張するも、キオナはエインの主張は理解しつつも卵があるメリットを提示し所持すべきだと主張した。


「このまま防御態勢を取りつつも兄様達の所に戻りましょう。馬面モンスターをここで逃がし、暗殺者は直接連行すれば檻に空きは出来るはずです」


「けど、下手に動いたら今すぐに殺されそうかも…」


言うのは簡単だが今はジリジリとお互いの目を睨みながら動いているため緊張感に溢れ正しく一触即発の状態だった。


『『……?』』


普通なら人間が静寂を破るところだが、先に破ったのはドリプトサウルス達だった。視線をエイン達ではなく明後日の方向に向けて匂いを嗅いで怪訝な顔を浮かべていた。


「おい、何か揺れてないか」


「ん〜?これって地震かな?」


「いえ、まさかこれは…」


遅れて人間の方は足元が揺れていることで異変に気付いた。キプロニアス王国の人間達は地震が起きたのかと思うも、キオナ達からすればこれが地震ではなく()()()()()()()による物だと周知していた。


そしてドリプトサウルス同様に茂みを掻き分けて地響きの正体が()()()()()()現れたのだ。


『グオオオオ』


「『セントロサウルス』だ」


少なくともグランドレイク王国に浅からぬ因縁を持つ()()()()()()ではなかった。


現れたのは鼻先にランスのような角と頭の丸いフリルの天辺から生えた二本の角飾りが特徴的な角の騎士こと角竜のセントロサウルスだった。


「角の騎士だ!」


エインのパートナーであるフォークと同種であるトリケラトプスに出会い、以降同じグループである角竜を角の騎士と敬称しているラピスは目を輝かせていた。


『『ブオオオ』』


『『ギィギィ』』


「スゴい数だな…三十頭はいるんじゃないのか」


それも一頭ではない、最初の一頭に続いて後方の群れも林を抜けて現れたのだ。体長は六メートル、体重は二トンはあるためバッファローをも上回るサイズであるため、三十頭でも歩くだけで近くの林の地形が変わるほどの頭数に圧倒される。


『ギシャア!』


『グルルル…!』


それに対してドリプトサウルスは今は取り込み中だと威嚇し始める。本来は捕食者である彼女らだがこれだけの数を相手には出来ないし、何よりも自分達の卵が危険に晒されるかもしれないため追い払おうとしていた。


『…グオオオオ!!』


気に障ったかは不明だがセントロサウルスは野太い雄叫びを上げながら後ろ脚で一時的に立ち上がる。


「っ!ううううっ…!?」


「お兄ちゃん、どうしたの」


「エイン?」


その途端にエインは頭を抱えて苦しそうにしており、リリーとキオナは心配になって寄り添う。


「怒ってる…セントロサウルス達が怒ってる…」


「ここは奴らの縄張りなのか。だから捕食者であるあのモンスターや招かれざる客である私達を追い出そうとしているのか」


もしそうならこちらも目的は果たしているため早々に立ち去るつもりだった。


「違う…セントロサウルスは僕らに怒ってるんだよ!?」


「はい?それはどう言う…」


『グオオオオ!』


仮にここがセントロサウルスの縄張りならば怒るのは分かるが、違うとはどう言うことのなのかと聞こうとしたら土煙と地響きを立てて一頭がこっちに突進してくるではないか。


「ぎゃああ!?危ねえ!?」


「ちょ…いきなり何すんのよ!」


誰にも当たらなかったがサイを上回る巨体が突進してきたら、車が自分目掛けて走ってくる以上に恐ろしいだろう。


ドッカアアアン!


「…死んだか?」


突進してきたセントロサウルスは半壊状態の建物に派手な音と共に突っ込み、前半分が瓦礫の下に埋もれて動かなくなったため自滅したのかとドランが確認しようと恐る恐る近寄る。


『グオオオオ!』


「だあああ!?生きてた!?」


死んだふりなのか気絶していたか分からないがセントロサウルスはまだ生きており、顔に傷を作りながらも瓦礫を押し退けて雄叫びを挙げる。


『『『ブオオオオオオ!』』』


「撤退です!撤退してください!」


他のセントロサウルス達も地面を蹴って威嚇――と言うよりも群れからは凄まじい殺気と殺意が込められていて突進する気満々の様子を見てキオナはその場を脱するように指示を飛ばす。


「私達は彼らを怒らせるようなことをしたか!?」


「変な因縁付けないでよね!」


縄張りから離れようとしているし、自分達はセントロサウルスが好むような餌ではないのに何故か執拗に追いかけてくることにラピスやエリーシャは愚痴を零す。


『『『グオオオオ!』』』


「話してる暇があったら走れ!追いつかれたら生きたままハンバーグにされるぞ!」


カルロスは今は口よりも足を動かさないと命がないことだけは確かだと言い放ち誰もが返事をする前に全速力で荒地になった村を走り抜けていく。


「他の人達にもこのことを伝えねば…ロイルさん!」


「分かってますわ。ハヤテ、あなたは先に行ってこのことを伝えなさい」


「承知」


この中では素早く動けるハヤテに伝令を任せ彼女を先に行かせるのだった。


「皆の者!今すぐに出発を…!?」


合流地点まで急ぎ足で駆け付けたハヤテだが目の前の光景に凍りつく。


『グルアアアア!』


「ぎゃあああ!?」


『ギエエエエ』


「いでえええっ!?」


なんと合流地点には肉食恐竜(ドラゴン)が既にいて、兵士の身体や腕に噛み付いて捕食し大混戦になっていた。


「ロイル、この騒ぎは…なっ!?」


「あれは『シンラプトル』だ!」


『ラプトル』と名前には付くものの体格はアロサウルスにそっくりだが、首筋の鱗が刺々しく両目の突起がないと言った差異が見られた。


「ううっ…いった…」


「先輩、大丈夫ですか!」


荷車もめちゃくちゃに破壊されており、モルマはその下敷きになっていてラーナは仲違いのことも忘れて彼女に駆け寄る。


『グルルル』


「何よ!あんたなんかリザードマンよりもバカっぽいくせに先輩を食べようだなんて!」


モルマを狙ってか一頭のシンラプトルが近寄って来たのを見たラーナは槍を構えて追い払おうとする。


『ギシャア!』


「この!この!あっちいけ!」


噛み付こうと口を開けるもリーチの長い槍の切っ先が当たりそうになり思うようにはいかなかった。


「メリアスさん、大丈夫ですか!」


「ああ、それよりも大変だ。我々が捕らえたモンスターの性別が…」


トランがライフル銃を持つメリアスに駆け寄ると彼女は重大な事実を話そうとしていた。しかし目の前に檻の中にいるのとは別個体のドリプトサウルスを見て言うのを止める。


「…どうやら我々の捕らえた個体が二頭とも雄だったと言う必要はないようだな」


「やっぱりあいつらも卵の親なんですか」


取り敢えず伝えるよりも先に雌のドリプトサウルスと出会っていたことで心配事はなくなったが、見ての通りドリプトサウルスやシンラプトルと別の心配が浮上するのだった。


「ヤバい!あいつらも追いついて来たぞ!」


「追いついたって、何がああああ!?」


「嘘だろ!?逃げろおおお!?」


ドランが後ろを見て叫ぶため何事かとリュカとマーキーも振り返って一目散に走り出す。


『『『グオオオオ!』』』


後ろからセントロサウルスの群れが木々を倒し、茂みを掻き分けながら突進してくるのを目の当たりにすれば誰だって同じ反応をしただろう。


例え兵士を捕食していたシンラプトルだろうと、卵を取り返そうとしていたドリプトサウルスだろうと暴走するセントロサウルスを止めることは不可能だった。


気が付けば辺りは地形が変わるほどにめちゃくちゃになっていき、セントロサウルス以外の生き物や人工物は群れに呑み込まれて影も形もなくなり、まるで生きた洪水のように目に付く物が瞬く間に呑み込まれてしまうのだった。


「はあ…はあ…ここまで来れば大丈夫かな」


「もう…リリー…走れない…」


あれからどれくらいの時間が経過し、そして逃げ惑ったかは分からないが、気が付くと先程の出来事が嘘のように静まり返っていた。


「お兄ちゃん…皆は?ここは何処?」


「…僕も知らない場所だけど、大丈夫。きっと何とかなるよ!さあ、行こう」


もう二つ気付いたのは自分とリリー以外は誰もいない上に知らない場所だった。不安がるリリーを励ますようにエインは努めて笑顔で彼女と手を繋ぐのだった。


『『ガルルル…!』』


『『グルルル…!』』


「ひっ…!?」


「ドリプトサウルス…!?」


しかし背後からドリプトサウルスの唸り声、しかもセントロサウルスのゴタゴタで檻が壊れたのか今や四頭分の声が聞こえたエインとリリーは共に青ざめる。


「走って!リリーちゃん!?」


『ギシャアアア!』


「ひいっ…!?ひいっ…!?」


二人の存在に気が付いたのかドリプトサウルスはこちらに向かって走ってくる足音と唸り声が林の奥から聞こえリリーは恐怖から泣き出し始める。


「うわっ!?」


「ひうっ!?」


しかし岩陰から手が伸びて来てエインとリリーを引っ張り口を塞いでくる。


『…?…シャアアア!』


ようやく我が子を取り返せるかと思ったら見失ったためにドリプトサウルスは苛立ちを覚えながら走り去る。


「行ったみたいですね」


「ありがとう、キオナ」


岩陰にはキオナを始め、レイ、アルロ、ラピス、トラン、レーヌ、ラーナ、モルマ、カルロス、ロイル、ハヤテ、ナクア、カイとカナとエルフの子供達が隠れていたのだ。


「ううっ…怖かったよぉ」


「もう大丈夫だからね」


怖い思いから命からがら逃げてきたためリリーはすすり泣いており、エインを始めエルフの子供達やレーヌが励ます。


「大丈夫ではないわ。あのモンスターは恐らく私達の国からこの子が持っている卵を追ってここまで来たのよ」


「なるほど、卵がある限り奴らは我々を執拗に追い続けると言うことでござるな」


実際、卵を追って正確にここまで追ってきたのだからいずれ見つかるのも時間の問題だった。


「だがやっぱり解せないな。ここからキプロニアスまでかなり距離があったはずのに何で俺達の位置が分かったんだ」


城壁に隔離された国内とかならまだ分かるが、大自然の広がる外の世界で確実に卵の在り処を見つけるなんて犯人追跡の技術としては見習いたいくらいだ。それもこれも我が子を取り戻すからこそ成せると言うのだろうか。


「とにかく卵が狙いなら私が残って返すわ。どの道この足じゃ逃げられないし…」


先程荷車の下敷きになったモルマは足首が紫色に腫れていて、走るどころか歩くのも辛いらしく卵と共に残って犠牲になろうとしていた。


「ダメですよ!先輩を…先輩を置いていけません!」


「あなたを騙したのに?」


「そんなの関係ありませんよ!確かにあたしは騙されたこと…思う所はあるけど」


逃げられないと分かってるためか弱気になっていたモルマは自嘲気味に返すも彼女を手当てするラーナは強く否定した。


「先輩はたくさんの人を助けるために嘘をついたのに…エインくんが側にいるのが悔しくて認めたくなかったからあんな意地を張って……ごめんなさい…!?」


手当てしながらラーナはようやく本心を明かし大粒の涙を流しながらモルマに謝罪してくる。


「先輩は何と言われようがいつだってあたしや多くの人を助けてくれました…だからあたしも先輩が何と言おうと絶対に犠牲なんかにさせません!」


「ラーナ…でも、この足じゃ…あら、何この匂い?」


本心と自分が言ったことをラーナが口にしたのを聞いてモルマは思わず心が動かされるも、意思は変わらないと言おうとしたら妙な匂いを嗅ぎ取る。


「そう言えばラーナちゃんから卵みたいな匂いがするよね」


匂いに気が付いたのはモルマだけだはない。ナクアはラーナから卵のような匂いがすると告げてくる。


「卵の匂い?」


「それならリリーちゃんとエインお兄ちゃんの身体からもするよね」


更にナクアの一言でカイとカナも同じ匂いをエインとリリーから嗅ぎ取っていたと口にした。


「この匂い…リリーが連れてかれた場所と同じ匂いがする」


「これはドリプトサウルスの巣の匂い?もしかしてこの匂いを嗅ぎ取ってここまで来たのかな」


思えば巣に連れ去られたリリーを助けるためにラーナが入り込み、更にエインもリリーとよく密着していたため巣の匂いが染み付いたのだろう。その匂いを辿ってドリプトサウルスは的確な追跡が出来たのではとエインは考えた。


「だとするとその匂いを落とすことが出来れば奴らの追跡は振り切れるはずだ」


「と言っても水なんてどうやって…」


匂いを洗い流せば恐ろしいドリプトサウルスに追跡される悪夢も終わるのではと考えるも、間が悪いことに近くに川はもないし水筒の水では三人の全身にこびりついた匂いを落とすには足りないだろう。


「やっぱり卵を返そう!」


「ダメです!返した瞬間に卵に危害を及ぼす私達を許しはしないはずです!」


卵を返すべきだと言うエインの主張は正しいが、やはり子供に危害を及ぼすモンスターや誘拐犯を人間は許せるかと言えば到底それは出来ないだろう。きっとドリプトサウルスは卵を取り返したら二度とこんなことがないように自分達を殺すだろう。


「卵は彼らとの取り引き材料であり、命綱でもあるんです!だから今はお兄様達と合流し私達の安全を確認するまでは所持しておきましょう」


返すタイミングとしてはドリプトサウルスが手出し出来ないだけの仲間が大勢いて、自分達の安全を保証出来る時だろう。


「じゃあ、今は私達の身体の匂いを落とさないと」


「でもどうやってだ。風呂なんてここにはないだろ」


「お風呂かぁ、その辺に温泉とか湧いてないかな?」


「あのねぇ、財布とかじゃないんだから」


取り敢えず巣と卵の匂いを落とすためにやはり水を得る必要があり、レーヌはバリオンの時のように温泉がないかと呟くも無い物ねだりだった。


『『キュルルー!?』』


『『キュイイー!?』』


「あ、君達無事だったんだね!」


どうしようかと考えているとディプロドクスの子供達が慌てた様子で茂みから飛び出し、無事に再会出来たことにエインは喜ぶ。


『『『ギエエエエ!』』』


「逃げ切れたと思ってましたのに何故に先程のドラゴンも連れて来ましたの!?」


喜ぶのも束の間、彼らを追いかけてシンラプトル達とも再会してしまった。


『ガルアアア!』


「ぐっ…僕達を襲わないで…!?」


双剣を交差させてシンラプトルの顎を防ぐも動けなくなるエイン。


「お兄ちゃん!?」


『ガルルル…!』


「危ないからこっちにいなさい!」


リリーはエインに駆け寄ろうとするが彼女を狙おうとする別のシンラプトルから守るべく弓を引きながらトランが前に出て守ろうとする。


『グガアアア!』


「先輩には指一本触らせないんだから!」


足が負傷して動けないモルマを守るべくラーナは槍を構えてシンラプトルを近付けないようにした。


『グルル…!』


「うわっ!?」


そろそろ終わりにしようと言わんばかりにシンラプトルは長い前脚でエインの足を掴んで宙吊りにする。しかも双剣は顎に咥えられたままでエインが手放した瞬間に遠くへと放り投げる。


「くっ…止めて!?」


『ガル!?グルアアア!』


エインは生体電流(パルス)を放って威嚇するもシンラプトルは力を緩めずそのまま丸齧(まるかじ)りにしようとする。


『……!』


「えっ…!?」


しかしエインは樹上で虎視眈々(こしたんたん)とこちらを下に見る視線と目が合う。


『ガルアアア!』


『ギャアアア!?』


「わわっ!?ドリプトサウルス!?」


なんと木の上に登っていたドリプトサウルスがシンラプトルに飛び付き奇襲を仕掛けたのだ。


『シャアアア!』


『ガルアア!?』


『『ギャア!ギャア!』』


『グアアア!?』


しかも一頭ではない。残る三頭も樹上や茂みから飛び出してはシンラプトルに噛み付いたり、押し倒したりと襲い掛かり始めたのだ。


「ドラゴン同士が殺し合いをしてる…」


元の世界でもドラゴン同士が殺し合いをする光景なんて滅多に見れなかったが、転移したこの異世界で見られるとは夢にも思わなかったとレイが呟いていた。


「きっと卵を守るためにあのドラゴンを攻撃してるんだと思うわ」


肉食恐竜(ドラゴン)同士が戦う理由としては獲物や縄張りの奪い合いが多いだろうが、今回の場合はシンラプトル達がエイン達を襲おうとしたために――()いてはリリーが持っている卵も襲おうとしたために敵であるシンラプトルを排除しようと奇襲を仕掛けたのだとアルロが結論づける。


「悪いけど今の内に逃げようぜ」


「でも匂いはどうしたら…あれ?」


逃げようとした矢先、ポツポツとエインの頬に水滴が当たり何事かと思い空を見上げる。


「雨だ、雨が降ってきたんだ」


「ちょうどいいです、この雨の中を潜って脱出すれば匂いを落とせます!さあ、彼らが戦いに夢中になっている間に避難です!」


悪天候で自分達の帰還に不利になるかと思われたが、今の彼らに取っては匂いを落としてドリプトサウルスの追跡を振り切る有効手段となるため、キオナは二重の恐竜が争っている間に雨の中を率先して駆け抜け仲間達もそれに続く。


『ガルルル?……グガアアア!』


争いに夢中になっていたドリプトサウルスは追っていた匂いがいつの間にか消えていたことに気が付き悔し紛れの咆哮を挙げるも、その恐ろしい咆哮を聞いて震え上がる人間は何処にもいなかった。

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