悪夢は『二』度忍び寄る
「レーヌちゃんとトランちゃん達はこのまま僕らと一緒に行くの?」
出発してから暫く歩いたところでエインは思い出したようにドワーフであるレーヌやトランを始めとするエルフ達にこのままグランドレイク王国まで来るのかと話しかける。
「何よ?ダメって言いたいの?」
「オイラはエインくんと一緒に行きたいからね!」
種族間のことで争うことは少なくなったが、レーヌはにこやかに答えるのに対しトランは怪訝な顔をするなど対照的であった。
「ワシらはルミナスを引き払ってしまった。キプロニアス王国で他の同胞達を探す手立てもない上にあの騒ぎでは余所者のワシらがいても迷惑だろう」
元々の故郷はアクロカントサウルスに奪われ、先に逃げたエルフ達は人攫いに何処かへと攫われ、キプロニアス王国はバンシアナ国王が大臣の暗殺未遂事件に見舞われてゴタゴタしていたためエルフ族を引き取ってくれる雰囲気ではなかった。
「暫くはグランドレイク王国を中心に仲間達の捜索をしようと考えている。それに道中に新天地が見つかるかもしれないからのう」
着いてきたのは仲間の情報を入手し、ついでに新しい住処となる場所が見つかるかもしれないと考えての同行だった。
『キュルル』
『キュウ』
「それに何故かワシらの後を付いてくるあのモンスター達の仲間も見つかるかもしれないしのう」
「他のモンスターと共にタイミングを見て逃がしましょう」
意思疎通をしたためか、或いは仲間を失った悲しさを紛らわすためかディプロドクスの子供達は異種族であるはずのエイン達の後を追いかけていた。基本的に無害であるため同行は問題ないがキオナはタイミングを見て野生に帰すつもりだった。
「けど、まさか兄様と一緒にこの道を帰るとは思いもしませんでしたよ」
「こんなことになって居ても立ってもいられなかったんでな」
この異世界に転移する前はグランドレイク王国から遠征に出ていたエグルマ達と意外な形で再会し自国へ帰るとは思わなかったキオナだが、無事だったことはもちろん久方ぶりに兄達の顔を見ることが出来て嬉しそうだった。
「それにしてもまさかキオナの側近が無能「エインです」…エインが務めているとは思わなかったな」
兄達も妹達が無事だったことにホッとしていたが、その側近を務めて今日まで守っていたのが元の世界で無能呼ばわりしていた少年だったことにただただ驚いていた。
「しかも男だと思っていたがでまさか女だとは思わなかったな」
「え?僕は男ですけど」
何を言い出すのかと思えばレイスニーはエインが実は女だったのかと的外れなことを言うためキョトンとしてしまう。
「まだ女装してるからだよ。着替えたら?」
「あ、そう言えば」
その見た目に見事に騙されたラーナからの指摘でエインもハッとなり近くの茂みで着替える。
「本当に最初は分からなかったよ。先輩のミドルネームまで使ってたからまんまと騙されましたよ」
「…ごめんなさいね」
まだラーナは敬愛しているモルマに騙されたことを引きずっているのか、そんな皮肉じみた台詞を言い放つためにモルマはバツが悪そうにしながら謝罪する。
「あれ、エインくんの名前ってあれはモルマさんのミドルネームだったの?」
「そう言えば親戚ってことにしててお前のミドルネームを使ったんだよな」
自己紹介で聞いた名前は偽名だったが一文字変えただけだし、ミドルネームも親戚だと思い込ませるためにモルマの使っていた。
「でもわざわざ親戚ってしなくとも単なる留学生ってことで扱えばそんなラーナと拗れることはなかったんじゃないのか」
親戚と言う間柄にしなくとも一人の軍候補生として編入させればラーナと仲違いすることもなかったのではとカルロスは疑問に思っていた。
「確かに親戚だって思い込ませるためだったけど、そもそもエインくんは自分のミドルネームは覚えてなかったのよ」
ところがエインはそもそも自分のフルネームを覚えていなかったからこそ、モルマは自分のミドルネームを与えていたのだ。
「え、そんなことあるんですか」
「…僕もハッキリとは覚えてないんだ」
話を傍らで聞いていたラーナは本当かどうか疑わしく思うも、着替え終えたエインは本当にフルネームは知らないと言わんばかりだった。
「そう言えば四年ほど前に父上が捨て名の儀式を行ったと話していたな」
捨て名とは家族や血縁を切る際にどちらかの名前やミドルネームを魔法で忘れさせ完全に縁切りさせる風習のことだ。
「滅多にない儀式だから父上がよくそんな話をしていた。主に悪い意味や例え、或いは教訓としてだがな」
元の世界ではエインは無能の象徴として扱われ、鬱憤の捌け口だけでなく『魔法やスキルの才能がなければああなる』と言う戒めにも使われていた。
「確かにウチらの学校でもエインはそんな風に扱われてた…あたしらって本当に魔法とかスキルとか、強い能力ばっかしか見てなかったんだね」
エグルマの言葉にエリーシャは思い出したように呟くも自分達のしてきたことを後悔しているらしく、同郷のクラスメイト達もバツが悪そうな顔をする。
「あの…魔法がなくなったのなら名前は思い出せるのでは?」
「魔法は一年が経過すると自然に解除される。と言うのもそれだけ経過すれば旧名を忘れ、捨て名として与えられた名前、もしくは略称しか思い出せなくなるからだ」
ルシアンの質問にレイスニーは残念ながらもはや思い出すことは不可能だと遠回しに答える。
「そんな風習があったとは知りませんでした」
「今よりも能力の高さが重要視されていたからな。能力が低い者や劣る者と絶縁する者は多かったからな」
獅子が我が子を千尋の谷に落とすように、グランドレイクから多くの英雄が出始めた頃に人々は自分達の安泰のために多くの人間を篩に掛けた。
死地に向かわせて生き残った者だけが英雄となるか、或いはそもそも能力が低ければ血縁関係すら認めない有様で、キオナやレイスニーの先祖の頃から捨て名が横行し血縁関係からの追放や間引きが後を絶たなかった。
「今でこそほぼ誰もが魔法やスキルを扱え、基本能力値が高まったことであまり見かけられなくなったのだ」
しかしそれもエグルマの曾祖父、ドレイク王の祖父が誕生した頃にはグランドレイクはいつしか英雄の国となり、多くの人々が高い能力値を持ちつつ強力な魔法やスキルを扱えるように誕生し始めたため、今では捨て名の風習はエインが捨てられるまで音沙汰が無かった程だ。
「兄上、そう言えば捨て名はもう一人いたはずだ。確か何処かを旅していた際に人が変わって随分と偏屈になった者だ。確か…オノ…オー…?」
「斧?」
しかしここ最近で捨て名になったのはエインだけではなかったらしい。その人物のなまえを思い出そうとするがレイスニーは中々言い当てられない。
「もしかしてオノーダおじさんのことですか」
「お主、知っているのか」
その名前をハッキリと言い当てられたのはエインただ一人だけでレイスニーも目を丸くして聞き返す。
「僕が捨てられた時…一年の間だけど僕に色々教えてくれた人なんです」
「そう言えばそんな話をしていたわね」
学校に潜入した際にエインは捨て子でありながら文字の読み書きなどは支障なく出来ていたが、彼を暫くの間世話してくれた人物こそが話にあったオノーダだと言う。
「とにかくそのオノーダは昔、有名な近衛部隊の隊長だったらしいが、北の大地に行った後で性格が変わり、隊員達との衝突が激しくなり挙句には王に反感したそうだ」
「おお、思い出したぞ。それが切っ掛けで絶縁されて追放処分で捨て名を受け、我が国の農村部に追いやられたとかな」
当時は名が知れた人物だったらしいが問題行動を起こして農村部――今で言うなら窓際族に左遷させられたのだ。
「そこで同じように捨てられたエインと出会い、育てたのですね。同じ境遇を持つ同士…」
確かに捨て名は不名誉なことだが同じ境遇の仲間が来たことが嬉しかったのだろうか、オノーダはエインにある程度の知識を教えていたようだ。
「しかし妙なのが奴は帰ってきてから何かに取り憑かれたように何かを書き記したり、或いは彫刻をしたりしていたからな。そのことでより近衛兵達と摩擦が起きてしまってな」
「そう言えばおじさんも夜な夜な何かをしてたような気も…」
オノーダと近衛兵の間で衝突が起きた理由には彼の性格が変容しただけでなく、言動そのものにも異変が生じたからだった。
「…レーヌさん、前にあなたのお父上が寝る前に話していた内容のことは覚えてますか?」
「そう言えば変わり者ハンノフと経緯が似てる…」
何処かで聞いたことのある話だと思っていたが、ドワーフの国のバリオンでボルグがレーヌを寝かしつける時に話していた登場人物と同じ経緯をオノーダは辿っていたのだ。
「こんな偶然があるのでしょうか」
「何の話だ」
「おい、何かここ変だぞ」
話に盛り上がっていると先頭に出て見張りをしていたマルスが異変を伝えてきて全員がハッとなって警戒を強める。
「ここってこんなに見晴らしが良かったか?」
「いや、もっと木が生えてたはずだぞ」
周りを見てみるとこの辺りはルミナスに向かう際に通った湿地帯だった。木々が川の水に浸かっているのが印象的であったが、川の水平線や岸辺がハッキリと分かるほどに辺りが開けていたのだ。
「おかしいですね…ここはもっと木々があったはずなのにほとんど失くなってますね」
「それだけじゃありません姫様。ここには木々どころか草がほとんど生えていません」
全てと言う訳ではないが木々は疎らに残っっていて、その多くが枝から木の葉が失くなっており、更には辺りの地面に生えているはずの草も一本もなく正しくペンペン草も生えていない有様だった。
「ここってこんな荒れてたっけ?」
「私達ってそんなに長い間キプロニアス王国にいたっけ?」
「前はこうじゃなかったの?」
確かにルミナス、バリオン、キプロニアスと多くの国を周って長い間滞在していたが、通った場所の木々や草原が消え去り環境が変わるほど経過はしていないはずだと
「俺達もここは通ったがこんなに荒れていなかったぞ」
「お兄様達も通られたのですか」
「しかし環境がこんなにも変わるなんておかしな話だな」
エグルマもレイスニーもここを通ったらしいが、湿地帯の異変は何か得体の知れない力が働いている可能性があると考えるも規模が余りにも大き過ぎると口々に呟く。
「ロイルお嬢様、西の方角に狼煙を確認したでござる」
周囲を警戒していると樹上から見張りをしていたハヤテが仕えているロイルに枝の上から報告をしてくる。
「気になりますわね。キオナ姫様、どうなされますか」
「確認しましょう。少数精鋭で調査に行ってください」
何者かは知らないが狼煙は合図に使われることが多い。特に要救助の場合は位置を知らせたりするのに使うため誰かが助けを求めている可能性がある。見捨てておけないと考えたキオナは数人で構成された救助隊を編成させる。
「雲行きが怪しいので迅速にお願いします」
見上げると空には暗雲が立ち込めていて、一雨来そうな様子であるため救助と調査は時間との勝負になりそうだった。
「ラスコさん、ちょっちお話があるんですけども」
「はい?」
メンバーを編成する中でマルトは何か考え込んでおり、ラスコに相談を持ちかける。
「よし、雨が降る前に片付けるぞ」
「それにしてもこんなところで一体誰が何をしているのかしら」
救助に向かうのはエイン、エリーシャ、ルシアン、トラン、レーヌ、シスカ、ドラン、ラピス、サンボ、ナクア、ラーナ、ハヤテ、ロイル、そして王族として民を救うべくキオナと付き添いのリオーネが狼煙の調査に向かう。
開けて見通しが良いとは言え、暫く進まないと狼煙のある場所は見えなかったが次第にハッキリしてきた。
「ここは…村でしたの?」
「こんなとこに村があったなんて、ちっとも知らなかったよ」
狼煙の元には簡素で木造建築が点在する小さな村があった。最初通った時には湿地帯の先に村があるとはエイン達も予想しなかった。
「けど、何でどの家も建物もこんなに壊されているんだ」
村なのは間違いないが目に付く家や馬小屋は破壊されており、辛うじて形を残しているだけで不穏さを案じさせていた。
「おーい、誰かいるのかー!」
ドランの大声が響き渡り村中に木霊する。しかし静まり返っていて返事の『へ』の字もなかった。
「狼煙の火元はどうなっている?」
「…暫くの間は誰かがいたらしいな」
肝心の狼煙の火元はメリアスが調べた結果、誰かが起こしたであろう焚き火から立ち昇っていたことが分かった。
「ロボ、匂いは分かる?」
『バウ!バウ!』
ここはロボの嗅覚が頼りなのだが何故か水溜りに向かって吠えていた。
「喉が渇いているんですの?」
「ちょっと待って、この水溜りは…ドラゴンの足跡よ!」
近付いてみると水が溜まっていたのは三本指の足跡の中にだった。これはつまり肉食恐竜がここを通ったことを意味していた。
「まさか近くにいるのか?」
「それはないだろう。だったら水が溜まることもなかろう」
最初は周囲を警戒するも、足跡に水が溜まる必要があるため着けられたとしてかなり時間が経過しているはずだ。
「しかし、そうなると既にここはこの異世界のドラゴンに襲撃されたのか」
「こう言う小さな街の守りでは空を飛ばないとは言え、ドラゴンの襲撃は防げなかったようですね」
足跡の側には粉々に踏み砕かれた柵の破片があった。キプロニアス王国は城壁があるから防御面は問題ないが、小さな村の場合はゴブリンやスライムや狼などを防ぐだけで良いため簡素な木の柵ぐらいしかないため恐竜には無いも同然だった。
「だが、狼煙を上げたと言うことは生き残りか、或いはここへ新しく来た者の仕業かもしれん」
しかし悲観することはない。少なくともこの異世界で火を起こすことが出来るのは人間だけだし、やはり誰かが合図として上げたのだろう。
『ウォン!ウォン!』
「匂いがあの家からするの?」
焚き火の周りを嗅いでいたロボはとある家を前脚で指すようなジェスチャーをする。どうやら狼煙を上げた相手はあの中にいるようだ。
「確かに周りの土を踏み締めたような跡があるな」
「鍵が掛かってる…やっぱり誰かいるんだ」
探り当てた家には使用感があり、しかもモンスターの襲撃を受けて置いて村を引き払ったにしては鍵を掛けるのは不自然だった。
「どうする?壊すか」
「ダメよ、中の人を怖がらせようとしてどうするの」
鍵なんてないし破壊すると言うのも一つの手だが、鍵を掛けた相手がモンスターを恐れて掛けているのなら無理にこじ開けるのは恐怖心を煽ってしまうだろう。
「…ねぇ、誰かいるの?」
エインは少し考え込み、中にいる相手に扉越しに呼び掛けてみるが静まり返っていた。
「いないのかな…」
「いや、僅かに気配はする。やはり誰かいるな」
子供であるエインが呼び掛けたことで中にいる人物の心が多少なり揺らいだことでシスカはその気配を感じ取れたようだ。
「誰かいるの?安心して、私達は狼煙を見て助けに来たのよ」
今度はモルマがノックしながら自分達が何者か説明するように呼び掛ける。しかし先程と変わらず沈黙が続いていた。
「どうしたものかしら…ん?」
『キュルルル?』
鍵を開けてくれないことに困り果てていると、家の軒下から口の両端から小さな牙を生やした小型犬サイズのモンスターの大きな目と目が合うモルマ。
「『ディイクトドン』だね」
『キュルル』
そのモンスター『ディイクトドン』はプレーリードッグのように家の軒下に開けられた穴の中に消え去る。すると掘り起こされた土くれとは別に木片も一緒に出てくる。
「この穴…家の中に繋がっているのかしら」
木片が出ると言うことは家の一部を削っている可能性があり家の中へ通じている可能性があった。
「ここからなら中に入って鍵を開けられるんじゃないのか」
「けど、この穴は私達には小さいな」
意外にも穴は大きそうだがカルロスやラピスでは通ることは不可能だ。
「リリーなら行けるんじゃない?」
「リリーちゃん!着いてきたの?」
留守番させていたはずのリリーがいきなり声を掛けてきたことでエインは驚いて飛び退く。
「来ちゃった!」
「お兄ちゃんだけズルいよー!」
「「「そうだそうだー!」」」
リリーだけではなかった。双子の犬獣人のカナとカイ、更にはエルフの子供達もここへ来てしまっていたのだ。
「とにかくリリーに任せて!」
文句も止めるのも聞かずにリリーはディイクトドンが開けた穴の中にモグラのように潜り込む。
「…大丈夫かしら」
「リリーちゃん…」
勇敢なのか無謀なのかは分からないがリリーの身を案じるも、問題ないと言わんばかりにガチャリと言う音が扉の内側から聞こえて開け放たれる。
「開いたよ!」
「わあっ…!ありがとう、偉いよリリーちゃん!」
「えへへ…」と照れくさく笑うリリーに微笑ましく思いながら家の中を覗き込む。
「埃っぽいがやはり使用感があるな」
「誰かいるの?」
入ってみるとテーブルや棚に埃が積もっているものの長い間放置されていたようには思えず、寧ろリリーとは別の足跡がくっきりと残っていたため、やはり誰かいるのは間違いなかった。
「あの〜…誰かいるん」
「きゃああああ!?」
誰かいるのかと隣の部屋を覗き込むと悲鳴と共に鉄製の物がエインの頭に振り下ろされてゴオオオンと言う鈍い音が響く。
「はうあっ…!?き…君は…」
「あ…あれ…あなたは?」
頭を抱えながら尻もちを着いたエインは目の前でフライパンを手に呆然とする十歳の村娘の存在に気が付く。
「私はこの村にあった酒場で働いていたテテーナと言います」
エプロンドレスにバンダナと典型的な村娘の格好をした少女テテーナは元々この村にあった酒場で看板娘をしていたようだ。
「酒場…そう言えば壊れた建物があったな。あれがそうか」
「両親はどうした?お前一人か」
「その…ぐすっ…ううっ…」
よほど辛いことがあったのかテテーナは耐えられなくなって先端を縛った後ろ髪を見せる形で座り込み泣き出してしまう。
「パパとママ…貴族様はどうしてこんな…」
何を言っているのか支離滅裂だが、テテーナの断片的な話を統合するとこうだ。
テテーナを始めとするこの村の住人達はこの異世界に転移してから恐竜達の襲撃に困り果てるも、領主である貴族が率先して防衛に力を入れてくれたために事なきを得ていた。
そのお陰でこの異世界でも何とかやっていけたらしいのだが…
「どう言う訳か…別の貴族様が兵士を連れて押し寄せて来て…パパとママが私を隠してくれたんですけど、その後で嵐みたいな轟音がして…気が付いたら皆も貴族様もいなくなってて村もめちゃくちゃに…うううっ…!?」
耐えきれなくなったテテーナは泣き喚き始め、ルシアンが背中を優しく撫でて励ますのだった。
「そう言えば貴族って何なの?守ったり襲ったりって…」
「貴族とは土地を所有して管理し住民を住まわせる役割を持ち領主とも呼ばれています。ただ貴族の中には自身の土地を広げたり、私腹を肥やすために他の領地を襲う場合があります」
キプロニアス王国でもオーサイスやナルスも貴族ではあるとは聞いていたが、詳しい内容を知らなかったエインにキオナが説明するもテテーナはその貴族同士の争いに巻き込まれたのではと考える。
「私…これからどうしたら」
「私達の国へ来ませんか?歓迎しますよ」
やはり来て良かったとキオナは目線を合わせて優しく微笑みかけるとテテーナの顔は一気に明るくなる。
「お姫様だったんですね…慎んでお受けします」
それと同時に目の前にいる少女が気品溢れる振る舞いをするためにすぐに国の姫君であるとテテーナは理解しスカートの裾を持ち上げて会釈する。
▷▷▷
「はっ…!ほっ…!俺の上腕二頭筋が唸るぜ!」
「ねぇねぇ、そこのお兄さん達ぃ〜、あたし達を外に出してくれない〜?」
「僕らが出すと思ってるの?」
ピンク髪の暗殺者は檻の外で腕立て伏せをするルマッスと読書するレイにハニートラップを仕掛けるも眼中になかった。
「ねぇねぇ、やっぱこれってさぁ…」
「ううん…」
「あの…さっきから何を調べてるんですか?」
マルトと彼女に呼び止められたラスコは二頭のドリプトサウルスの間を行き来して何か調べては難しい顔をしており、何があったのかとアルロも心配になっていた。
「実はね、ウチも事件の遺体を調べてたんだけど…このモンスターと歯型と遺体に残されていた歯型が一致しないことが気になってたんだよね」
マルトは引き裂きジャック事件の遺体に気になるところがあり、それを司法解剖に立ち会ったラスコとドリプトサウルスの歯型を調べたところあり得ない結果が判明したのだ。
「え…一致しないって、このモンスターが犯人じゃないんですか」
まさかここに来て真犯人ではなかったのかとアルロと聞いていた周りの仲間達は唖然とするも、マルトとラスコは首を横に振って否定する。
「遺体に残されてた歯型はこのモンスターの物で間違いないし犯人では間違いないはずなんよ。ただ問題はそれとは別に一回り大きな歯型が着いていたことなんよ」
「つまり二種類の歯型が遺体に着けられていた…と言いたいのですが、そもそもすぐに気付けなかったのは歯型そのものは同じでサイズが違っていただけなんです」
司法解剖で二種類の歯型があるのならすぐに分かりそうな物なのに、ラスコやマルトが断言出来なかったのはサイズが異なっていただけなためにすぐには気付けなかったからだ。
「歯型が同じでサイズは違う?それってさあ」
「単なる偶然じゃなかったのか?」
歯型の着き方なんて決まった法則なんて存在しないが、形が同じならそこまで心配することはないのではとリュカとマーキーが口々に呟く。
「でも…何か引っ掛かるんだよね。何か見落としてるような気がする」
「そんな…まさかこれは…!?」
疑問を払拭出来ないマルトを他所に引き続きドリプトサウルスを――特に下半身を調べていたラスコは表情が凍りついていた。
「どうしたのよラスコ?顔が真っ青よ」
「何か分かるのではと考え、この二頭のモンスターの性別を調べていました…」
アレッサの心配にラスコは恐る恐る自分が突き止めたことを話し始める。
「性別って、そんなの当…ぜ…ん……!?」
「ま…まさか…!?」
ドリプトサウルスは二頭いて、卵を産んでいたことから捕獲した個体の性別は言うまでもない――と言うところでラスコが何に対して青ざめているのかレイやアルロは気付き始め同じように表情が青ざめる。
「ハッキリ言います。このモンスターの性別は…二頭とも雄なんですよ…!?」
だが、何度も調べ直しても目の前の現実は変わらなかった。だからこそ学者として調査結果をありのまま伝えるラスコの言葉に誰もが凍りつき息を呑んだ。
「この二頭が…雄だって!?」
「ちょっと待て!おかしいじゃないか!」
同じ性別同士で愛し合うことは可能だが、子供を作るとなると話は変わってくる。生物学的に身体の構造が異なる雄と雌がいなければ子孫は残せないからだ。
無精卵と言えばまだ希望は持てたかもしれないが、天地がひっくり返っても雄は卵を産むことは出来ない。ラスコは「それなのに卵があると言うことは…」と誰もが思っていることを口にする。
「このモンスターの卵は今誰が持っている!?」
「……リリーちゃんだ。あの子、エインくんの所に行くって…」
リリーは獣人族が大事にしていた卵を事件解決後もエインが止めるのも聞かずに所持し、ついでにドリプトサウルスの卵もリュックに入れて保管しているとレイが震えながら口にする。
考えたくもないがこのままだと最悪の場合が起きてしまうのではと誰もが確信していた。




