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疑問は尽きぬ、残る謎は答えぬ

「間近で見ると本当にデカいな」


「あの時は見上げていただけだったが、確かにな」


ディプロドクスは生きていても、死んでいても身体の大きさに変わりはなく、リュカとマーキーは片付けに追われる中で自分達が小人になったかのようなサイズ感に圧倒されていた。


「ごめんなさいね、まさかこんなことになるなんて」


「しょうがないですよ。こんなことになるなんて誰も思いもしませんよ」


世の中何が起きるか分からないとは言うが、巨大なディプロドクスが城壁を突破してくるなんて想像の範疇(はんちゅう)を越えていた。


「姫様、モンスターの血液や身体を調べてみましたが病気に感染した訳ではなさそうです」


ディプロドクスの死体を検査をしていたラスコはゴム手袋を外しながら報告をしてくる。取り敢えず病原菌や伝染病の心配はなさそうだった。


「食糧が大量に手に入ったのはありがたいけど、壁が壊されたのは痛手ね」


前向きに考えれば巨大な肉の塊が国に届けられたと思えばありがたいが、その代金は守りの要である城壁と引き換えだった。このままだとディプロドクスの血の匂いを嗅ぎつけて肉食恐竜が引き寄せられ、逆に自分達が食糧にされてしまうだろう。


「うわっ!何だこいつは!」


「どうしたの!」


キプロニアス王国の衛兵の一人が壁の外に向かって叫んでおり、もうモンスターが襲来したのかと思い緊張が走る。


『キュウ…』


『キュルル…』


壁の外には四頭のディプロドクスいたのだ。しかし大きさはポニーやロバと同じぐらいであり、どう見ても子供の個体達だった。


「もしかしてこのドラゴンの子供?」


「ううん、どうやら友達だったみたい」


大人の個体に子供の個体となれば親子と思うかもしれないが、エインだけは異を唱えるように答える。


『キュウ…』


「この子達は元々多くの仲間がいたらしいけど、何か怖い目にあって離れ離れになったみたい」


生体電流(パルス)でディプロドクスの子供達の生体電流を読み取ったエインは彼らの悲痛な記憶に顔をしかめていた。


「怖い目とは?」


「そもそも何でこのドラゴンは壁を壊して侵入するなり、ここで死んじゃったのよ?」


これほど大きなモンスターが何を恐れているのか、そして大人のディプロドクスは何があって死んだのか分からないことだらけだった。


「ん?何か美味しそうな匂いがしないか」


「これはお肉が焼ける匂い?」


ふと片付けをしていたドランとキャロラインは空腹だからか肉の焼ける良い匂いを嗅ぎ取った。


「ねぇ、ここからジュージューって音がするけど」


そんなバカなことがあるのかと思っていたトランだが不可解な音をキャッチした。それはまるで鉄板で肉が焼けて油が弾けるような音で信じられないと何度も聞き耳を立てていた。


「この中…ドラゴンのお腹から聞こえるわよ」


「切開をして調べてみましょう」


信じられないが音と匂いはディプロドクスのお腹からしていた。何が起きているか分からないが腹を切り開いてどう言うことかハッキリさせる必要があった。


ラスコはキプロニアス王国の医者達と共にディプロドクスの司法解剖を開始し、腹肉にメスを入れて切り開く。 


筋肉の下には巨体に見合った大きな内臓が詰まっているのだが、見慣れない者達やこう言うのに免疫がないレイやアルロは吐き気を覚えたり、目を逸らしたりしていた。


そんな彼らを尻目にラスコ達はきり開き続けていると確かに肉が焼ける香ばしい匂いが体内に充満していた。


「これは…胃袋ですかね?焼け(ただ)れていますね」


匂いと音の根源は焼けて表面がキツネ色になった内臓からしていた。位置と大きさからして胃袋だと考えたラスコはメスで切り口を入れるとゴロゴロと丸い石が転がり落ちてくる。


「石?なんでこんなのが?」


「まさかこれを誤飲して死んだのかしら」


解剖を見ていたラーナとモルマは転がってきた丸い石が原因でディプロドクスは死んだのではと考えた。


「いいえ、彼らは石を飲み込んで植物をすり潰す生態を持っているわ。誤飲が死因ではないわ」


バリオンに向かう途中でも多くのディプロドクスが死んでいるのを目撃しており、内容物の植物をすり潰すために使われていたであろう胃石がぶちまけられているのを見たことがあるシーナ達にはこの石が死因とは思えなかった。


「あれ、この石はなんか変じゃ…あっちぃ!?」


「うわっちゃあ!?何すんだよ!?この石あっつ!?」


転がっている石の一つを拾ったリュカはあまりの熱さにマーキーに向かって放り投げてしまい、思わずキャッチした彼も持っていられず遠くへと放り投げる。


「熱っ…これは焼け石じゃないですか。何でこんな物が胃袋から?」


一体どうしたのかとリュカとマーキーが投げ合った石を指で突いてみると触れないぐらいに熱かったのだ。


「焼け石…バリオンに向かっていた時と同じだ」


「こんなことがあるのでしょうか」


バリオンの道中で見つけたディプロドクスの死体の側にも熱々の焼け石があったが、今回もこうやって見つかるなんてこんな偶然があるのかと疑問に思う。


「…憶測ではありますが、この焼け石が死因ではないでしょうか」


焼け石が二度に渡ってディプロドクスから見つかったのは謎だが、少なくとも死因と直接関係しているとラスコが告げてくる。


「このドラゴン達は石を飲んで食物をすり潰す生態を持っています。私の見解だとその生態のために焼け石を誤って飲み込んでしまい、胃が焼け爛れてしまったのが死因ではないかと考えています」


経緯は不明だがディプロドクスは胃の中の食物をすり潰すために石を欲したが、焼け石が混じっているとは知らずに飲み込んでしまい、その結果胃が焼けてしまって死んだのではないかとラスコは考えていた。


「かわいそうに…こんなのを飲み込んだら、相当苦しかっただろうに」


エインはディプロドクスが焼け石を飲み込んで胃が焼かれる苦しみを味わったと知り、心底悲しそうにディプロドクスの動かなくなった身体を優しく撫でていた。


「けど、それだと変だわ。焼け石なんて自然界には存在しないし、バリオンの首長ドラゴンの身体には人の手で攻撃された形跡があったわ」


仮に焼け石の誤飲が死因だとするのなら、その焼け石は何処から来たのかと言うことになる。自然界に存在する石は独りでに手で触れられないほどに熱々にはならないからだ。


それを差し引いてもバリオンで見かけたディプロドクスの中には人間の手によって傷つけられた個体もいたのだ。ここから考えられるのは――


「全部()()()に行われたとするのなら辻褄(つじつま)が合うけど、それはつまり人間がこの首長ドラゴンを狩猟したと言うことになるわ」


石を火で熱することで焼け石は出来上がるし、刀傷や武器の傷跡は人間が武器を使わなければ不可能だ。つまり一連のディプロドクスの死因は病気ではなく、人間の狩猟によって殺されたと言うことになるのだ。


「まさかこんな大きなモンスターを狩猟する奴がいるの?」


この異世界に置いてディプロドクスはとても大きく強大な存在だろう。そんなのを魔法もスキルも無しに狩猟出来るのかとエリーシャは疑問に思っていた。


「珍しいことではない。元の世界でもドラゴンは誰も狩猟することが出来ない存在として強さの象徴のされてきた。しかし魔法やスキルの発展強化により、そう難しい話ではなくなった」


「我々と同じくこの異世界に転移して生き残り、適応した者達の中にも、このドラゴンに挑む者が現れたのだろう。レイスニーの言う通り珍しいことでもない」


元の世界でも最初は誰もがドラゴンに挑もうとした訳ではなかった。そのため人々はドラゴンを絶大的な力強さの存在としてシンボルマークにしたり、畏怖の存在として崇めたりしていた。


流れ行く時の中で人々は鍛錬や修行を積んで力を身に着け、武器や装備などの技術を発展させ、魔法やスキルに磨きをかけることで遂にドラゴンを討伐出来るまでになったのだ。


そのお陰で自分達は最強を自負して今日まで生きていたが、この異世界に転移してからはそれまでの規格が崩れてしまい多くの犠牲者が出てしまったことは記憶に新しいだろう。


その中にはドラゴンを討伐出来るようになるまで強くなったからこそ、そんな修羅場を潜り抜けて生き残る者もいる。


そう、エイン達がそうだったように他にもこの異世界で生き残った者がいて、遂にはディプロドクスを狩猟するまでになったのだろうとエグルマとレイスニーは結論づける。


「ですが兄様、バリオンの道中で見つけたドラゴン達は肉を採取した形跡がありませんでした。そしてこのドラゴンにも」


仮に狩猟目的で攻撃していたのなら肉を採取した形跡があっても良いはずなのに、バリオンで見つけたディプロドクスにはそれらしい形跡がなく、他の肉食モンスターの餌になっていた。


「もしかすると狩猟の目的は肉以外だったのでしょうか」


肉を採らなかったのはその必要がなく、尚且つ別の目的があったからではとキオナは考えるも最もらしい答えを導き出せなかった。


「食べたり、守ったりする以外で生き物を殺す必要があるの?」


そもそも元の世界でもモンスターを倒すのは食材か素材の採取、或いは生活圏を守るぐらいだがそれ以外に目的があるだなんてエインには信じられなかった。


「大切に育ててきた動物を食べるために殺す…それは僕らが生きるために必要だからって教わったけど。それ以外で殺しをする意味があるの?」


元の世界では家畜の世話をさせられていたものの愛情を持って接してきた存在を生きるために何度か殺されるのを目にしてきたエイン。だからこそ食べたり、守ったりする以外で生き物を殺すことが信じられなかった。


「私達は無駄にしないわ」


「私達もです。病原菌の心配がないのなら食糧として肉を頂きましょう」


理由はどうあれ肉が大量に手に入ったため、キプロニアス王国は食糧に困らないどころか暫くは焼肉パーティーが出来るし、これからグランドレイクに帰る面々からしても旅立つ前に肉が手に入ったのは願ったり叶ったりだった。


▷▷▷


「本当によろしいのですか?復興するまで居ても問題はないのですが」


「これ以上あなた達に迷惑を掛けられないわ。それに国民からの信頼を取り戻すには私が頑張らないといけないしね」


復興と肉の採取にある程度目処(めど)が立ち、シーナから後は大丈夫だと告げられたことで今度こそグランドレイクへ帰還する準備をしていたが、キオナは本当に大丈夫なのかと訊ねるも、失ってしまった城壁と国民への信頼を取り戻すためにも自分達だけでやる必要があると返される。


「あなた達は暗殺者の護送を引き続きお願いね」


「もちろんです。護送が終わり次第、私達も復興のために戻って来ます」


当初の段取り通りモルマ達だけは暗殺者をグランドレイクへ護送する任務を引き続き継続することとなった。


『クルルル…』


「あなたはここにはいれないの。だから一緒に行こう」


その中にはメロルとデイノケイルスのネイルも混じっていた。最初はネイルが事件の容疑者としてオーサイスに始末されないよう野生に逃がすつもりだったが、解決しても事件を思い起こさせるし、モンスターの飼育も許可されてないためなし崩しでついでに野生に逃がされることとなったのだ。


「麻酔を追加して暫くは眠り続けます」


一番危険なドリプトサウルスには麻酔を追加して昏睡状態にさせたと言う報告を聞いたキオナは頷き力強い面持ちで口を開く。


「では満を持したと見なして今度こそ――グランドレイクへ帰還します!」


今度こそキプロニアス王国を出て、自分達の故郷であるグランドレイクへ帰還するための旅路を歩み始める。その後ろからはシーナや衛兵四兄弟、そして国民からの別れや感謝の言葉が飛び交っていた。 


「まさか私の故郷の窮地(きゅうち)を救うだけだったのに、こんなことになるとは」


「だけだったってレベルじゃないですよ。アクロカントサウルスが里を乗っ取ったんですから」


全ての発端(ほったん)はルミナスの里の危機を救うためだったが、思ったよりも長居してしまったことにメリアスは責任を感じるも、トランでなくとも誰も責めることはなかった。


「そう言えば結局のところ何でルミナスの里の木々が折られていたのかしら」


しかしながらルミナスの里を引き払う遠因となった木々の異変は何だったのかは分からないままだった。


「お兄ちゃん、見て見て。あの子、二本足で立ってるよ」


そんな時、幼児ならではの好奇心いっぱいの声でエインに話しかけるリリーが何かを指差していた。


『キュルル』


『キュウ』


指差す先には子供ディプロドクス達が二本足で低木に寄り掛かり木の葉を食べていたのだ。すると彼らの重さに耐えきれなくなった低木はボキリと折れて近くの岩にもたれ掛かる。


「む…?何じゃ今の違和感は?」


それを見ていたソルラスは何か引っかかるところがあったのか折られた低木をジッと見つめていた。


「……何か妙だな」


同じくカルロスも違和感を抱いていた。何処かで見覚えや既視感があるような気がしてどうも目が離せなかった。


「さあ、皆もう少しだけ頑張って。そしたら交代で見張りを立ててちょうだい。復興は時間を掛けてナンボだからね」


「承知しました」


「よーし、あと一息だぞー」


キオナ達が地平線の彼方へ消えたのを確認したシーナは見送りはこのくらいにして引き続き復興作業を行うべく国民や衛兵達に呼び掛ける。


「ふぅ…ん?」


取り敢えず事件も終息してようやく一息つけたシーナだが、その側を何かが駆け抜けて行ったような気がする。


「……気のせいかしら」


これまで気を張り詰めることが多かったため疲労感からなる勘違いだろうと片付けるシーナ。しかし彼女の側には三本指の足跡が残されており、それはグランドレイク王国へ続く旅路にしかと刻まれていた。

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