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長男に次男と来て、更にもう一難

「風の噂で父上が亡くなったとは聞いていたが」


「キオナ、久しぶりだな。ルティカから聞いていたが俺達が戻るまでよく代理を務めてくれたな」


バンシアナ国王の暗殺を未然に防いだ二人組、ルティカとキオナの実の兄である二人は久しぶりに合ったキオナが自分達の代わりに王として務めてくれた評判を耳にしていたのか微笑んでくる。


「エグルマ兄さん、レイスニー兄さん。遠征からお帰りになられたのですね」


突然どころか思わぬ形で再会したことにキオナも唖然となるも、暗殺が未然に防がれた上に信頼を置いていた兄達の顔を見てホッとしたように微笑み返す。


「兄さんって…キオナのお兄さん?」


「エイン、頭が高いぞ」


エインも前々からキオナとルティカに兄がいることは聞かされていたためこうして出会うとは思いもよらなかったと目を丸くしていると、(ひざまず)いているリオーネから注意を受けてしまう。


「確かに姫様にも資格はあるが、本来ならばあのお二方が王位を継承されるのだぞ」 


「つまり?」


「本来であれば亡き父上の跡を継ぎ、グランドレイクの王となるのは兄様達になるんですよ」


今まで親しくしてて忘れていたがキオナは代理とは言え国の王を務めており、ドレイク王が亡くなった以上はその王位を真っ先に継承することが出来るのは第一位王位継承者か第二王位継承者であるキオナの兄達と言うことになるのだ。


「ん、そこにいる者は何処かで見たことがあると思えば『無能のエイン』ではないか」


キオナとやたら親しく、距離の近い者がいることに注目していたエグルマはその人物が悪い意味で印象に残っていたエインであることに気が付いた。


「元の世界では無能や役立たずと呼ばれていた貴様が今も生きていられるとは…世の中どうなるか分からないな」


口調からして王座の間でエインに魔法とスキルが身に付かない異端児と宣告された瞬間を見ていたのだろう、レイスニーは冷めた目付きでエインを見ながら皮肉を零す。


「エグルマ兄さん!レイスニー兄さんも!今のは撤回してください!彼のお陰で私達は今日まで生き残れたのですよ!」


しかしそれも元の世界での表面上での悪評ばかりで、大事な部分を何も知らないくせに勝手だと言わんばかりに反論するキオナ。


「レイスニー、キオナの言う通りだ。この世界ではもはや魔法とスキルが使えなくなっており、そうやって自惚(うぬぼ)れた者達から死んでいったんだ」


「確かに我らが言えた口ではなかったな」


妹からの猛反論にエグルマとレイスニーは唖然となるも、彼らもまたこの異世界で様々なことを見たり学んだりしたことですぐさま理解を示したのだった。


「しかし我らは長い間留守にしていたゆえに、お前達のあれやこれやが分からん。キオナが認めるほどとはよほどのことだろう」


「キオナ、そしてエインよ、先程のことは謝罪する。良ければお前達のことを教えてはくれないか」


思えばこの二人は元の世界では遠征のために国を留守にしており、そのままこの異世界へ転移したこともあって、兄妹の積もる話もあり思わず話が弾んでしまう。


「あの!それよりもパパの寝室に暗殺者がいて!それをあなた達が阻止していて!何がどう言うことなのか、先にそっちを説明してください!」


しかしシーナからすれば父親を助けてくれたのがキオナの兄達で、しかも自分達を出し抜いた暗殺者よりも先回りして暗殺を阻止してくれたのだから起承転結を知りたいのも当然だった。


「俺達がここへ来たのはキオナ達を迎えに来たからだ。ルミナスに向かってからと言うものの音沙汰が無かったためルティカが心配していてな」


「うっ…確かにあれからかなり月日が経過していましたね」


元々メリアスの故郷であるエルフの里のルミナスのトラブルを解決するために向かっていたが事態が一転二転と転じて、極めつけはこの国の暗殺未遂にまで発展してしまったのだから、意図せず長いこと国を留守にしていたことにキオナ達はバツが悪そうにしていた。


「しかしルミナスに着いたらもぬけの殻になっていたので、キプロニアス王国へと向かうことにしたのです」


そのルミナスはアクロカントサウルスの襲撃を受けており、既にエルフ達は里を捨てていたため誰も住んでいなかった。そこで中間地点にあるこの国ならば何かあると考え、こうやって訪れる辺りはさすがはキオナの兄達と言うだけはあるようだ。


「ですがこの国は現在、バンシアナ国王が襲われたために厳戒態勢が敷かれていたのによく入国出来ましたね」


着眼点は良かったが、国王が襲撃を受けて以来この国への出入国は制限されているため、どうやって入れたのかが謎であった。


「それは」


「我々から」


「説明」


「しましょう」


すると寝室にいたのはエグルマとレイスニーだけではなかった。この国の守衛筆頭を務めている衛兵四兄弟が勢揃いして事の成り行きを話し始めるのだった。


「実は先日、酒場で羽振りの良い衛兵がいました」


「我々四人にも奢るほどに気前が良かったので」


「話を合わせると同時に聞き出しました」


イワン、ジニー、サンスーが順番に豪勢な様子の衛兵を不審に思ったことを話し始める。


「問い詰めた結果、何者から賄賂(わいろ)と怪しげな荷物を受け取り、その後記録の改竄(かいざん)を行っていたと判明しました」


その衛兵こそが何者かと裏取引をしていた張本人であり、調べれば記録や書類に手を加えたことも判明したとフォーシが述べる。


「これは我らの失態であり、何とか密入国者を炙り出そうとしたのですが…」


「我々だけでは手に余るゆえにどうしたものかと考えていると」


これでは衛兵長として名折れだと不届き者を探そうとしたが、既に手掛かりや痕跡は見受けられなかったとフォーシとサンスーは申しわけなさそうにする。


「エグルマ様とレイスニー様御一行が来訪され、相談を受けたのです」


「そして我々もお二人を密かに入国させ、暗殺者の目を欺いたのです」


キオナ達を迎えに来たエグルマとレイスニーが衛兵を連れて来たことでジニーとイワンは対抗するかのように彼らを密かに国に招き入れたのだ。


「ほう、規律に厳しいお前達がそんなことをするとはな」


自国はもちろん、他の国の法律や規律にも介入するほど厳格であるのに、こうもあっさりと規律を破って密入国を許すと知って長い付き合いのソルラスもからかうように語り掛ける。


「既に我らの中に裏切り者が出た時点で法が意味を成さず、しかも王や姫様の命を脅かす可能性が出てきたことで今のままでは危ういと考えた次第です」


嘘や虚偽を付いた時点で許可や法律は意味を成さくなる。国を守るはずの衛兵の中に裏切り者がいた時点で既に自分達の厳格と言う鉄壁の守りは瓦解したも同然だった。


「我ら四兄弟、如何なる罰も受ける所存です」


「意外に融通が利くじゃないか」


しかし衛兵四兄弟は厳格とも言えるが悪く言えば頭が硬く柔軟な対応が出来ないことになるが、自分の仕える王達が危ういとなれば自分達の忠誠心が勝ったらしく、例え法を破ってでも守ろうとする精神にシスカも称賛する。


「それでこいつらの図らいでバンシアナ王の寝室で張り込んでいたら、こいつらが乗り込んで来た訳だ」


衛兵四兄弟のお陰で暗殺者を捕らえ、最悪の事態を未然に防げた上に、正体が二人組の女だったと白日の元に晒すことが出来たのだった。


「奴らめ、しくじったな」


「ふん、いい加減なことをしてくれたわね」


賄賂を渡した衛兵から全てバレたと知り、拘束された暗殺者二人は悪態をつくと同時に開き直っていた。


「パパが助かったのは良かったけど、結局事件の全容はどう言うことなの?引き裂きジャックはパパのこととはどう関係するのよ」


今回の引き裂きジャック事件の発端(ほったん)はバンシアナがドリプトサウルスに襲われたことから始まったと思われたが、その顛末(てんまつ)は目の前にいる二人の暗殺者が全ての黒幕であり話からするに関連性があるとは思えなかった。


「恐らく彼女達が馬面のモンスターを連れ込んだのでしょう。目的は国王の暗殺を偽装するためだったのかと」


「やはり英雄王国の王女だけはあるな」


暗殺者と言うだけあって王族の情報も周知しているのか、ギザ歯が特徴的な男勝りの女性がご明察と言った様子で返す。


「否定や黙秘はしないのね」


「ふふん、捕まえておいて今更隠し事してもねぇ」


ピンク色のウェービーロングヘアの少女は縛られた状態をアピールするように体をモゾモゾさせ、ジト目で怪訝な顔をするシーナをニヤニヤしながら見ていた。


「だったらお前達の口からどう言うことか話せ。その方が早いだろう」


「良いわよ。元々あの馬面のモンスター…あいつを城に放って襲われたように見せかけるはずだったのよ」


ピンク髪の少女はエグルマに反抗するどころか、お望み通り自分達の暗殺計画の全容を話し始める。


「でもあの馬面のモンスターは公園の倉庫にいたけど?」


「計画を実行に移す前にどっかのバカがこんな派手な事件を起こしたからよ」


派手な事件とは恐らくドリプトサウルスが起こした連続殺人事件のことであり、レーヌの質問に彼女はやれやれと言った様子を見せていた。


「事件が起きたことであのモンスターの出番はなくなったけど、騒ぎに乗じて王様を暗殺しようとしたのよ。けど、事件で警備が厳重になってて中途半端に終わったけどね」


事件により警戒が強まり、せっかく用意したカリコテリウムも計画も総崩れとなってしまうも、どさくさ紛れにバンシアナを暗殺しようとするも失敗に終わってしまったのだ。


「しかしお陰で我らに飛び火しなかったから助かったがな」


「でも、頭のお堅いあんたらがあたしらの上前はねたのは想定外だったかな〜」


モンスターの起こした騒動のために自分達は疑われなかったため、再度暗殺のチャンスが巡ってきたかと思えば衛兵四兄弟の手回しによって御用となってしまったのだ。


「つまり今回の連続殺人事件と王の暗殺はなんの関係もなかったのですね」


「よくもパパを…!」 


結論から言ってドリプトサウルスはバンシアナ国王を襲っておらず、暗殺者である彼女達がそれに便乗して計画を実行したためにあのような悲劇が起きたのだ。


「そうだ。しかし何故王を狙っているのがお前達にもバレたのだ」


自分達の存在は今日まで知られていないと思っていたが、キオナ達にまでバレていたことにギザ歯の少女は心底驚いていた。


「ドリプトサウルスに襲われた人は皆食べられて身体がバラバラだったけど、王様だけは何ともなかったからおかしいと思ったんだよ」


「もし、あのモンスターと出会っていたら同じ末路を辿ったはずです。それなのに五体満足で存命していると言うことはモンスター以外の何者かの力が働いたんだと考えたのです」


「なるほど、肉食のモンスターだったからバレたのね」


バンシアナのケガや傷は重々しかったが、それでも殺されておらず身体も欠損などがなかったために勘付かれたのかとピンク髪の少女は遠い目をする。


「まだ聞きたいことはあるわ!あんた達が暗殺者ならパパを殺すように頼んだのは誰!?」


しかしまだ聞きたいことはあった。彼女らが暗殺者ならばそれを依頼した首謀者がいるはずだ。元を断つと言う意味でも真の黒幕を明らかにする必要があった。


「この国の大臣、シモンズよ」


「は?」


開き直ってあっさり計画を話してくれたと思えば、首謀者が大臣であることまで話してくれたことに唖然となる。


「え、何それ…そこまで話すの?」


「嘘だと思うか?しかしながら我々を雇ったのはシモンズだ」


唖然とする一同を尻目にギザ歯の少女も否定する様子はなく事実だと言ってのける。


「雇われの身とは言え忠誠心の欠片もないな」


「そうですね、鵜呑みにするのは危険かと」


計画のことから雇用主のことまでありとあらゆることを暴露したことに都合が良過ぎると不安に思ってしまう。


「べっつに〜、あいつの手回しが悪いからあたしらが捕まったんだし〜、道連れにしようと思ったんだけどね」


「それよりもどうするのだ。私達が捕縛された時点で奴も逃げる準備をしているはずだ」


暗殺者のくせしてここまで開き直るのかと思っていると、真の黒幕が逃げようとしていると言われて一同はハッとなる。


▷▷▷


「それでシモンズはどうだったのかしら」


「申し訳ありません。既に取り逃がした後で…」


数時間が経過して朝日が昇る頃、王に代わって玉座に腰掛けたシーナがイワンからの報告を聞いていたが手放しでは喜べない内容だった。


「彼女らの言う通り、捕縛された時点で慌てて夜逃げしたようです。部屋がめちゃくちゃになっていました」


仲間の衛兵と共にシモンズの部屋に押しかけたジニーだったが、証拠となる物や彼らの私物は綺麗さっぱりになくなっており、残されていたのは嵐が通り過ぎたような部屋だけだった。


「どうやら何人かの衛兵と親類のナルスと共に馬車を盗み出し国外へ出たようです」


サンスーは明け放たれた正門と馬車が幾つか紛失しているのを発見し、更に数名の衛兵やナルスも忽然(こつぜん)と姿を消していたと報告する。


「結局、シモンズの目的は不明ってことね。あのモンスターはどうなったの?」


真の黒幕は取り逃がしてしまったが、連続殺人を引き起こしたドリプトサウルスは捕らえたため、そちらはどうなったかとフォーシに訊ねる。


「ラスコ様のお陰で大人しくなっています。見に行かれますか」


フォーシは連続殺人を引き起こしたドリプトサウルスが、ラスコが投与したエルフの麻酔によって今や檻の中で横たわって大人しくしていると報告する。


『『グウウウ…』』


「こいつが連続殺人鬼の引き裂きジャックか…」


「ドラゴンみたい」


「リザードマンだろ」


「デッカい爪だなぁ」


そのドリプトサウルスは麻酔で意識がボンヤリしており、檻越しに多くの人々が事件を引き起こしたモンスターを一目見ようと集まっており見世物になっていた。


『グルルル』


「こいつは頭に悪魔みたいな角があるな」


「牛にも見えるな」


『ウオオオ…』


「こいつは馬面だけど身体は猿みたいだな」


「見ろよ、あの腕と爪…ものすごいな」


しかしドリプトサウルスだけではなかった。これまでの捜査で捕獲されたカルノタウルスの子供やカリコテリウムも同じく檻に入れられて見世物になっていた。


因みにもう一頭のカリコテリウムはオーサイスが仕留めたため、檻に入れられたのはエイン達が捕獲した個体だ。


『クルルル』


「下着を奪われた時はあれだったけど…」


「こうやって別れが来ると寂しいわね」


女子寮で下着泥棒をしていたメイは最初は女子達から目の敵にされるも、今では愛着が湧いてしまい別れを惜しむ者もいた。


「他のモンスターといつでも外に運び出せます」


「これほどまでにモンスターが侵入しているとは思わなかったけど、これでようやく人々を安心させられるわね」


堅牢な守りを誇っていたはずのキプロニアス王国には多くの恐竜や動物が侵入しており、その数と種類にシーナも国民も呆気にとられていた。


「それでシーナ姫、暗殺者の身柄は私達が預かることでよろしいのですか」


暗殺者の二人は拘束され、ドリプトサウルスと同じ檻に入れられていた。そして身柄はグランドレイク王国で預かることとなった。


「本来ならば私達の国で預かるところだけど、パパがまだ復帰していない上に国中が疑心暗鬼になっているからね」


この国で起きた事件なのだから暗殺者の身柄を預かるべきなのだが、国と民と規律を守るべきはずの大臣や衛兵が国民の信頼を裏切って王を暗殺しようとして失敗し、しかも夜逃げしたとなれば信頼が失墜するのも当然だろう。


おまけにこの国は他と比べて警備も守りも厳重なはずなのに、ここまで多くのモンスターに侵入された上にドリプトサウルスによって多くの犠牲者が出たことでよりバッシングを受けることとなったのだ。


「こっちが落ち着いたら引き取りに来るわ。その間はカルロス達をあなた達に同行させるわ」


「王女様の命とあらば」


しかし囚人を監督するためにもキオナ達と親しい関係にあるカルロスを始めとする軍候補生も同行させることにした。


「キオナ、そろそろ良いか」


「はい、お兄様。話は全て終わりました。帰りましょうか私達の国へ」


レイスニーから話しかけられたことでハッとなったキオナは仲間達に出発の合図を掛ける。


「ルティカちゃんは元気かな」


「お兄様達の話では元気だと言うことです」


「ふむ、知らない間にキオナと随分と仲良くなったものだな……ん?なんだあれは」


正門の扉が開き始め雑談しながら帰国しようとした矢先、エグルマは妙な異音と共に森が揺れている光景に眉をひそめる。


「警告!警告ー!正門より巨大モンスターの影を確認!警告せよー!!」


国境の壁で見張りをしていたサンスーが警報として甲高い鐘の音を正しく早鐘のように打ち鳴らしながら警告を促す。


「巨大モンスターですって?正門を今すぐに閉じて迎撃態勢を取りなさい!」


それを聞いたシーナはさすがは王族と言うべきか国民や衛兵達にテキパキと指示を出し、警報に動揺していた人々はハッとなりすぐさま迎撃態勢を取り始める。


「正門は閉じました!」


「ご苦労。ごめんなさい、キオナ姫。脅威が過ぎ去るまではここで…きゃあっ!?」


正門の扉が閉じられたのを目にし、フォーシからの報告を耳にしたことでホッとしたシーナはキオナを安心させようと呼び掛けるが、国中に雷のような轟音と地響きが発生し驚いてしまう。


「ちょっと!何なのこのものすごい音と地響きは!」


「何かが壁の外からぶつかってるみたい」


エリーシャは生まれてこの方空気が震えるような音と地響きは体感したことがなかったが、原因は外からだと言うのは間違いなかった。


『ブオオオオオオン!』


「この声は一体…!?」


「苦しんでる…!ものすごく辛そうにしてる…!」


壁の外から轟音や地響きとは別に船の警笛に似た野太い声が聞こえてくる。エインはその声が苦痛に満ちていることにより苦しそうに耳を押さえていた。


「姫様、退避を!壁と正門が…!?」


「そんな…鉄壁を誇るはずの城壁が…!?」


シーナとジニーは目を疑った。決して崩れることがないと自負していた国の壁が、まるで今の国民からの信頼を表すかのように亀裂が入り始め今にも壊れそうだった。


『ブオオオオオオン!』


「ディプロドクス…!?」


案の定、壁は破壊されてしまい外から大木のような太い四本脚を忙しなく動かしながら、長い首と尻尾を振り乱しながら入って来たのは以前あったことのある恐竜ディプロドクスだった。


『ブオオオオオオン!』


「総員、退避!」


何がどう言うことか分からなかったがディプロドクスはまるで前後不覚に陥ったかのように暴走しており、シーナはその場にいる全員に避難を勧告する。


『ブオオオオオオ!』


「ひええっ!?」


「ぎゃあああ!?」


巨体を持つだけに一度暴れ出すと止めようがなく、大木のような脚で馬車や家などをプレス機のように踏み潰し、体長の大半を占める首と尻尾を振り回して馬や建物など目の前にあるものを次々と薙ぎ払っていく。


「たくさんのモンスターに侵入されていたけど、まさか正面堂々から突破してくるとは思わなかったわ!」


壁は突破する物だが、元の世界では壁を破壊して入って来るモンスターはいなかった。と言うよりも元の世界のドラゴンは空を飛んで来るため、壊して入ると言う面倒な選択肢はまず取らない。


それに対してこの異世界のドラゴン(恐竜)達は力任せにあらゆることを突破してくる。グランドレイクでの跳ね橋やキプロニアス王国の城壁と言い、原始的ながらもその力強さには毎度毎度圧巻されてしまいそうだ。


「迎撃態勢を!」


「待ってください!」


とは言え防衛ラインを突破されたのは変わりなく、シーナは今すぐにディプロドクスを仕留めようと号令を出すがエインが引き止めにくる。


『ブオオオオォォ…ゴフッ…』


「きゃあ!?血を吹いた…!?」


何故引き止めるのかと思ったらディプロドクスは口から大量の血を吐き出し、その直後に千鳥足になりフラフラし始める。


「どうやら…避難するだけで良さそうです」


「まさか死にかけているの?」


壁を突破したかと思えば、血を吐いて今にも倒れそうな様子からしてディプロドクスは死に間際のようだった。それはつまりエインの言う避難とは今にも事切れて巨体が倒れてくる危険があると言う意味だった。


『オオオ……ブオオオオオオン…』


フラフラした足取りで広場まで歩いてきたディプロドクスはやがて前脚がもつれ、前のめりになるように倒れる。まず胸から地面に着いたかと思えば続けて長い首が地に伏せ、やがて巨体全体が地面に横たわって最後に長い尻尾が力無く倒れる。


「これは…エイン、あのドラゴンは何がしたかったのでしょうか」


モンスターが国に侵入するのは人間を捕食したり、人間を追いやって縄張りにするためだが、今回は見事に侵入に成功するもその直後に死んでしまうなんて不思議な話だ。


ましてやディプロドクスとは以前あったことのある恐竜だが、基本的に草食で大人しい性質なはずなのにこんな国崩しみたいなことをするなんてキオナには到底そうには思えなかった。


「分からないけど、かなり苦しそうにしてたよ」


「このドラゴンは以前見たことがありますが、あの時のように病気だったのでしょうか」


バリオンに向かっていた時にもディプロドクスが群れ単位で死んでいた。理由はハッキリしていないが伝染性の病気だった可能性は高かった。


「だとしたらすぐに隔離しないと危険だわ」


もしそうなら人間に感染しても不思議ではないため、すぐにでも隔離して消毒する必要があった。


「はあ…パパがまだ復帰していないのに今度は城壁まで陥落するなんて」


しかし病原菌への感染も怖いが、城壁が破壊されたことでただでさえ薄かった防衛への信頼が物理的に失墜したも同然だった。


「僕達も手伝おうよ」


「そうですね。しかしこれは出発が遅れそうですね」


このまま黙って見過ごすことは出来ないし、万が一自分達にも病原菌が感染していた場合はグランドレイクに持ち帰る訳にはいかないため、思わぬ形で足止めされることとなった。

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