第7話 異世界初の依頼です
ええい! 弾を上手く飛ばせん!
これは俺の腕の問題ではなく、スリングショットの問題だ。そうに違いない。俺は自らの自尊心を保つためにスリングショットが悪いせいにし始めていた。だいたいなんだ? 何が技だよ。どうせ俺には使えないんだよへっ。と、正月の元旦に新品のパンツを履くのに似た、気持ちのいい大自然の中を歩きつつも、心は正反対に闇に沈んでいく。いや、俺はコンクリートジャングルの方がいい。
と、色々考えつつもスリングショットの練習を続ける。小石を拾っては飛ばす。小石を拾っては飛ばす。
「セージさん!!」
と、ルファスが飛びついてきた。
「うおい!」
「えへへー、セージさん、実はお願いがあって~」
「ソフトレザーアーマーが痛い。離れるんだ」
「あっ、それはごめんね」
離れるルファスの右手の甲に、何やら刺青っぽい紋様があるのに俺は気が付いた。
「ルファスさん、それは? エルフは刺青がお洒落だったりするのか?」
「あっ――これは……その……」
いつも明るいルファスの表情が曇る。ふむ。
「あー……すまん。話したくないことならいいんだ」
「えっ、うん。ごめんね」
こころなしか耳が少し下がる。
「いや、エルフの社会の常識とかわかってないからな。すまなかった。失礼があったら遠慮なく言ってくれ。で、お願いってのは?」
「あぁ、えっと。実は僕たちの隊列が襲撃を受けたのってオークに依頼した人がいたからでしょ?」
俺はオズの話を思い出す。
「そうだな。オズの話が本当ならそうだろう」
「だから、依頼したのが誰かを突き止めて欲しいなって。昨日、タンテイは謎を解くのが仕事って僕に教えてくれたから」
「ふむ」
成程。確かに凄腕の名探偵である俺に依頼するというのは、当然の流れだな。
「状況を詳しく聞きたいんだが」
で、ルファスの脱線しまくる話をまとめるとこういうことだった。
ルファスの話
南から魔族を筆頭とした反人類連合軍が攻めあがってきていて大変である。
エルフの森が最前線。
人類の王国も二番目に近い。
よって同盟して戦いたいという使者をエルフの側から送ってあげた。
一応承諾を得た。
帰りのルートは誰にも知らせてなかったが、オークに襲撃された。
オズの話
族長から襲撃しろという依頼があったから命じられて行った。
詳細は知らない。
オズの部族は傭兵的な立ち位置で依頼があれば武力を提供しているとのこと。
「なるほど」
いつの間にやら俺の周囲に全員集合していた。
「で、依頼人は誰になるんだ?」
俺はルファス、アリシアを交互に見る。最後の一人のジェファーキンが依頼人だったら俺は断ろう。そうしよう。
「待ってくださいセージ様」
アリシアが何やら言い出した。
「何でしょう?」
「依頼人は我らエルフの一族ということでは――」
「構いませんが、可能なら個人に決めて欲しい」
「それはなぜですか?」
「真相がわかったとき、エルフ全体に共有するべきじゃない話の場合もありえます。だが、エルフの一族、ということとなると俺はエルフ全体に大声で発表しなくてはならない。これは俺の探偵としてのルールだ。それでもいいんですか?」
「そのようなこと――」
アリシアがそう言った時だった。
「そうか。ならば私が依頼人になってやろう」
ジェファーキンがそんなことを言い出した。
「えーっ」
俺は声を上げた。
「嬉しそうだな。光栄に思えよ」
ジェファーキンは人の心を理解できんらしい。エルフだしな。
「いや、お前が依頼人なら俺はこの依頼、受けないよ」
「なんだと……こちらが下手にでてやれば……」
「どこに下手に出た要素があったんだ? 俺に解説してくれ。なってやろう、あたりか?」
俺とジェファーキンはお互いに殺気立った視線をぶつけ合った。
「はーい! 僕が――」
手を挙げたルファスを制してアリシアが名乗り出た。
「私が依頼人となります」
「アリシア様、しかし――」
「お下がりなさいジェファーキン。アリシア・シルヴァ・サードが、セージ様に依頼を出します」
「アリシア様!」
ジェファーキンが悲鳴をあげる。なんなんだ?
「なぁルファスさん」
「なーにー?」
俺はルファスに小声で話しかけた。
「何でジェファーキンはあんなに怒ってるんだ?」
「えっとー、エルフは名前を名乗れば名乗るほど、相手に対しての敬意の表明になるんだよ」
「ほう」
俺は頷きながら考える。ということは、ジェファーキン君は俺に対して何も敬意を払ってないってことか。フーン。
「対等の相手は氏族名。友人相手には役職名まで名乗るんだー」
「ふむ。つまり俺は今、やっと友人相手くらいにみてもらえるようになったと?」
「あははー、そうだねー!」
ルファスは笑顔で頷くが俺は複雑な心境だ。
別に恩に着せるつもりはないが、命を救われておいて尚、これか。エルフの人間不信は相当なもののようだ。とはいうものの……俺の知っている人類とこの世界の人類が同じような行動原理ならまぁ……信用できるかどうかなんて雨の日の革靴みたいなもんだ。まったく信じられなくても当然かもしれん。
「わかりました。ではアリシアさんが依頼主ということで」
「えぇ、お願いしますセージ様。あと、オズですが……そろそろ解放してください」
「えっ! なんで!? セージの旦那! 俺を見捨てないで下さいよ!」
オズが哀れな声をあげる。
「何ででしょう?」
俺はオズの代わりに聞くことにする。
「我らの里の位置がオークに知られるのはまずいのです」
確かに一理ある。情報は命だ。特にこの文明レベルなら正確な地図も無いだろうしな。俺がもしこの世界で軍隊の指揮をとることになったらまず地形の把握・地図の作成から始めるだろう。
「わかりました。では、私達はオズの部族の集落に向かいますね」
瞬間。集団の空気が凍り付いた。
はて? 何か変な事を言ったか俺?
「そんな――異界の勇者を招聘して魔族に戦ってもらう私の計画が――」
おいアリシア。色々と洩れているぞ。というか、俺は勇者じゃない。
「わーい! 僕もオークの集落いきたーい!」
ルファス、ついてくるつもりなのか? いや、ついてきてくれないと確かに困る。オークの集落に行った後、迷子になる。
「貴様! やる気あるのか!」
ジェファーキンがキレてるが、やる気があるからこそなんだが?
「旦那……俺の為に……」
オズが何か勘違いしているが、まぁ勘違いさせておこう。
だが、一番大声で怒りの声をあげたのは俺の足元の馬鹿だった。
「なっ……?! 馬鹿な……! 誠二貴様……正気か? エルフの里で美人エルフ三姉妹が危険な目にあっているのを助けて、べた惚れされてハーレム展開フラグをへし折るのか?! 我にあれらは真実なのか確かめさせよ! 我は秘かに楽しみにしておったのだぞ!」
……何を言っているんだこの馬鹿猫は?
「おい、アニメと現実の区別がついてない猫がいるぞ。そもそも俺はハーレム展開とやらに興味はない。女性に対して不誠実だと思わんか? それともエルフは一夫多妻制なのか?」
俺がリーナスへ話しかける言葉を聞いたアリシアとルファスが首を左右に振る。だろうが。
「しかたありません。リーナスはもう……アニメ禁断症状が……」
雪風が俺の腰から哀し気な声を出した。
「というわけで、オークの集落に行くぞ。オズ、案内よろしく」
「へい、わかりやした」
オズが頷いて踵を返す。
「いやだ―! 我はいやだー! きっとおっとりした巨乳の長女エルフ、元気な次女エルフ、引っ込み思案な三女エルフが――」
リーナスが地面に転がって駄々をこねるのを無視。俺はリーナスの尻尾を掴んで引きずっていく。
「ワーイ! オークの部族楽しみだなー!」
ルファスが何も言ってないのについてくる。有難いことだ。
「元気でかわいい次女エルフならここにいるだろ」
俺はルファスを指さした。
「えー! かわいいなんてー!」
ルファスが耳をぴょこぴょこしながら喜んでる。
「そやつは次女ではない! ……次女なのか?」
「僕は一人っ子だよー!」
ルファスは笑顔で顔を振って否定する。
ひきずられながらリーナスはしゅんとした。
「駄目ではないか! もはやアニメの見れない我は、リアルで見るしかないのだ。わかるな、誠二?」
「何もわからねーよ」
いかん、頭痛が痛い。もうこのアホは無視しよう。
「リーナス師匠!」
オズが何か言いだした。
「なんだ弟子よ」
リーナスは引きずられながらオズに返事をしている。
おかしい。なんで教えてもらってる側が師匠と呼ばれているのか?
「オークは一夫多妻制ですぜ! 多夫一妻制でもありますが」
「おぉ! なんということだ! つまりオークの美女三姉妹に――」
「お前が可愛がられろよ」
「馬鹿か貴様。アニメは鑑賞するものであって自分が登場するものではないのだ」
何なんだこいつ。
「誠ニ様?! 本当に行ってしまわれるのですか?」
さっさと立ち去る俺の背中にアリシアが悲鳴をあげた。
「いや、依頼されましたから。なら、依頼を達成するのに必要な行動を優先します。じゃ、また後で会いましょう。ルファスさんは借りていきますね」
「借りられまーす!」
ルファスが元気良く手をあげた。
「……。わかった。ではこれをもっておくがいい」
ジェファーキンが何やら木彫りのお守りみたいなものを俺に渡してきた。
「何だこれ?」
「お守りのようなものだ。気休めだがな」
「そりゃありがたい」
俺は手をあげて挨拶をすると、アリシアとジェファーキンを後に、その場を立ち去った。




