第6話 楽しいなー
朝になり、野営を終えた僕たちは里に向かって歩いていた。今日も風が気持ちいい。掌サイズの風の精霊が楽しそうに辺りを舞っているのが僕の視界に映る。ただ、セージさんの周囲には皆、近寄らなかった。どうしてだろう? 不思議だなぁ。
僕は今、セージさんの隣を歩きながら彼のしていることを観察している。昨日、野営中に作っていた良くわからない武器の練習をしているみたいで。僕たちエルフのロングボウを拾ってたんだよね。それを分解して何をしているのかと思ったら、武器を作ってたみたい。ジェファーキンさんが知ったら激怒しそうだから黙っておこう!
「おい雪風! スリングショット難しくないか!? ちゃんとガイドしろ!」
「いいですか誠二。いつまでも私に頼っていてはいけません」
「くそっ! 銃があれば……」
「そもそも、私が銃のままでも弾薬はどうするんですか?」
銃? 弾薬? 何だろう? セージさんがあれだけ残念そうってことは凄い魔法の武器なんだろうな! 見て見たい!
「セージさん! 銃ってなんですか? みたいです!」
僕が声をかけるとセージさん――赤いコートを着たやや茶色の髪のヒューマンの男性。ただし、その瞳は猫みたいでヒューマンとは違う――が哀し気な声をあげた。
そしてしゃがみ込むと地面に棒で絵を描き始めたんだ。
「俺だって銃をみたいよ……こんな感じでな? ここを引くとここから銃弾……まぁ小さい矢みたいなものが飛び出すんだが……矢の数倍の威力があってだな……あぁ、そういえば弾丸は残っていたな……これだ」
そういうと小さな鉄の塊をコートの内側から取り出してみせてくれた。
うわぁ珍しいなぁ!
「えっ! こんなサイズなのにロングボウより威力が!?」
なんてことだろう! 僕も撃ってみたいなぁ!
「あぁ、しかも連射できるんだぞ!」
「誠二、ロングボウをあなたはなめています。実際イングランドの長弓兵は――」
「あーうるさいよ雪風。まずい、やはり木材を適当に折り曲げただけじゃあ強度も精度も足りん。ルファスさん、君の住んでる里とやらに鍛冶屋はいるのか?」
「いるよ~!」
僕は手を挙げて元気よく答えた。
「よし、そこでもう少しまともな形に作ってもらおう。ついでに鉄球も作ってもらおう」
「それがいいでしょうね。しかし誠二。弓の練習を素直にしないのですか?」
「どんだけの練習がいると思ってるんだ。弓の技術なんぞを修得する前に俺は帰るつもりだ。それに近接戦闘時に使えんだろう」
帰っちゃうの?
寂しいからずっといてほしいなー。
セージさんのしゃべる短剣はなんで喋れるのかな?
なんでセージさんよりも偉そうなのかな?
実は人間でいうところの貴族的な何かなのかな?
あっ、空を鳥が飛んでる!
よーし、撃ち落としてセージさんに食べさせてあげよう。
僕は矢筒から矢を抜き、弓につがえた。
「どうしたんだルファスさん?」
「セージさん! 昨日お腹空いたと言っていたのであの鳥を射ますね」
「ルファスさん……俺にそんなに優しくしてくれるなんて君くらいだよ……」
何やらセージさんが泣きそうな顔をしている。どうしたんだろー?
さて!
「我が一射は的を外さず」
僕は風の精霊にお願いする。風の精霊は頷くと矢の上に座った。それを確認した僕は矢を放つ。風の精霊が矢を加速、上空の鳥を撃ち落とした。
セージさんが驚きの声をあげた。
「おい! ちょっと待て! 今のは何だ? 業か?」
「業って何ですか?」
知らない言葉だ!
「業は俺が元居た世界の魔法体系の一つなんだが……」
「僕が使ったのは技です」
「教えてくれ。とりあえず知っておきたい」
「特定の動作に加護を乗せる技術です! 今のは風の精霊に手伝ってもらったんです」
「俺にも扱えたりするのか?」
「人によって素質があるんですけど、だいたいの人は一つ二つ、使えますよ。精霊に頼ったり、魔力を燃やしたり、色々ありますけど」
「まじかよ! 俺もついに無能力者とかいって馬鹿にされなくなるのかー!?」
セージさんは凄く嬉しそうにしている。
「とりあえず、精霊とかマナの流れが見えます? 精神を集中してですねー」
「よしきた……!」
誠二さんは難しい顔をして目を細めた。
しばらくの沈黙。
「……風の精霊? 出ておいで? マナ? 見えないよー?」
セージさんは周囲を見回した。
「あー……セージさん、何か精霊に嫌われてるみたいですし……それで見えないのかもしれないですね」
嫌われているというより……セージさんの周囲のマナの流れが停滞しているのかな?
よくわからない!
「なんだよ。俺が格好良すぎて照れてるのか?」
「そうかもー!」
確かにそれもあるかもしれない。違う世界の人だし、精霊が照れているのかもしれない。
セージさんの腰から声がした。
「ルファスさん。誠二を甘やかしたら調子にのるので甘やかしてはいけません」
「おい雪風」
「誠二……結局無能力者は無能力者ってことですね?」
「お前ふざけんなよ! まだわからねーだろうが!」
セージさんが雪風さんと口喧嘩を始めた。
僕は撃ち落とした鳥を拾った。
「はいどーぞ!」
「ありがとうルファスさん」
セージさんは鳥を受け取ると、オズさんを呼んだ。
「オズ! はいこれ、任せたぞ」
そういうとセージさんはオズさんの肩を叩いた。
「え? なんですかセージの旦那」
「いや、お前がこれを食べられるようにするんだよ」
「え? 自分でやらないので?」
「いいか? 俺は文明人なんだ。料理は得意だが、俺に美味しい料理を作ってほしければタッパーに入った肉の状態で持ってこい」
「??????」
タッパー? 魔法の箱かな?
オズさんは首を傾げながら鳥の毛を毟り始めた。
面白いなーこの人達。
「おぉ! 焼き鳥か? 焼き鳥なのか誠二!?」
リーナスさんが尻尾を振り回しながら喜んでる。
なんで猫なのに喋れるんだろう?
「リーナス。醤油も砂糖も無い。ただの塩焼きにしかならん。いや、塩すらない」
「誠二よ。我は気付いたのだが。ここは地獄では?」
「随分と気づくのが遅いな。てか、昨日も言ってた気がする。だが、それだとおかしい。何故俺がいる? お前が地獄に落ちるのは当たり前の話だが、俺は天国に行くはずだ」
「ふ……よくもまぁほざいたものよ。貴様のこれまでの所業、地獄にいくだけでは飽き足らぬわ」
地獄? 天国? なんだろう?
「ねーねー、地獄って何ですか?」
「え……生きてる間に悪い事したら死んだあとそこに行って地獄の鬼にボコられるんだよ」
セージさんが教えてくれた。
「そうなんですか!? 死んだら生命の樹の流れに戻ってまた産まれてくるって聞きましたけど!」
僕は思わずエルフの伝承を口走った。
「は~セージの旦那もエルフのガキもわかっちゃいねぇ。死んだら永遠の戦場に行って、戦い続けるんですよ。で、夜になったら皆生き返って次の日また戦う」
オズさんが鳥の羽を毟りながらオークが死んだ後の話をしてくれた。
そうなんだ!
「ヴァルハラかよ」
セージさんがまた知らない言葉を!
「実に興味深いですね。エルフは輪廻転生を信奉しているようです。これは自然とともに生きていると思われる彼等の価値観から生まれたものなのでしょうね。一方、戦うことを至高とするオークは北欧神話的な――」
雪風さんがまた難しい話を始めた!
「ルファス!」
ジェファーキンさんが二十メートルくらい先から僕を呼んでる。
「はい!」
僕は走ってジェファーキンさんのところへと駆け寄った。
「あまりオークとなれ合うな」
「でも、面白いんですよ? オークは死んだら――」
「あいつらに何人殺されたと思ってる。セレンもリールもアトキンも殺されたんだぞ」
「うん……」
アリシア様が口を開いた。
「それよりも、オークに襲撃を依頼したのは結局ヒューマンなのでしょうか?」
「でしょうね」
ジェファーキンさんが頷いた。
「真相を究明しないことには、同盟の締結も白紙に戻す必要があるかもしれません」
「それが無難でしょう」
二人で頷いている。そうかなぁ、そんなにヒューマンは信用ならないのかなぁ。
「セージさんに相談してみようよ!」
「あんなヒューマンに?」
ジェファーキンさんは顔をしかめた。
「セージ様は信用できますね」
アリシア様はそう言って頷いた。
「でもアリシア様、氏族名すら名乗りませんでしたよね」
僕は疑問をぶつけた。
「ルファス……あなたも年頃になったのですから、軽々しくエルフ以外に役職名まで名乗るものではありませんよ」
「えーっ! でも僕、あの人達とずっと一緒にいたいんだ。だって面白いんだよ? 知らない事ばかりで! 母姓まで名乗ろうかな!」
「ルファス!」
ジェファーキンさんが大声で怒った。怖いなぁ。
「冗談ですよ」
「冗談でも言って良いことと悪いことがある」
僕は助けを求めてアリシア様に目を向ける。
「ルファス。これはジェファーキンが正しいですよ」
「はーい」
つまらないなぁ……
「とりあえずセージ様に相談はしましょう」
「アリシア様!」
「ジェファーキン。私はこればっかりは曲げませんよ」
「はい……」
ジェファーキンさんがうなだれた。ちょっといい気味かもしれない!
「じゃあ僕が相談してくるね!」
二人の返事を待たずに、僕はセージさんたちのところに小走りで戻っていった。




