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異世界に転移したが、勇者じゃなくて私立探偵なので喋る剣と喋る黒猫と探偵事務所開きます  作者: FUKAMIEIJI
開幕

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第5話 野営

 歩いているうちに日がくれてしまった。

 エルフの男二人は焚火の火を起こし、野営の準備を整えた。

 文明人の俺も駆り出され、なぜか無理やり大量の草を伐採させられた。


 分けてもらった乾燥フルーツやすり潰した木の実を固めたクッキーもどきで空腹を……いや、腹にたまらねーんだが!?

 しかたないのでオークの兵士の死体を漁ってくすねておいた何の肉かわからない干し肉を齧る。くさい。なんだ。この臭さは。

「誠二よ……我は……馬を食うべきだったと思うのだが? この干し肉、臭いのだが?」

「俺もドライフルーツは好きだし、別に肉に拘りは無いけどな……とりあえず食事の内容的に栄養とカロリーは大丈夫そうだが腹に溜まらないよなこれ……で、臭いよな? 何だろうなこのアンモニア臭は……燻製にしててこれだろ? 元はどんだけ臭かったんだよ? シュールストレミング(世界一くさい缶詰)か何かか?」

 リーナスと二人でぶつくさ愚痴大会を開く。


 両手両足を縛られて俺の隣に転がされているオズが口を開いた。


「セージの旦那ァ……俺にも何か食わせてくださいよ……」

「あぁ、そうだった。いざというときに食えるように、ちゃんと食わせておかないとな」

「ジュ、ジュネーブなんたら!! ジュネーブなんたらはどこにいったんですか旦那!!」

「ジュネーブ協定のありがたみを理解したかオズ?」


 俺はニヤリと笑った。

「確かに、それがなかったら俺はとっくに殺されてたわけですよね」

「そうだ」

 俺は頷いた。

「でも、俺、部族に帰っても臆病者として……」

 オズは力なく項垂れた。


「わかった。俺がついていってお前は立派に戦ったと証言してやろう」

「えっ――」

 オズが驚いて顔を上げる。

「そして、勇者だったからこそ殺さないでおいた。とでも言ってやろう。どうだ?」

「なんでそこまで……」

「袖すり合うも他生の縁。今のままじゃ帰れないってんなら協力してやろうと思っただけだが?」

「俺には――よくわからない話です。俺を豚と侮辱するなと言ってくれたし……」

「ヒューマンもオークもエルフも全部対等だろ」

「でもエルフは俺達より長生きですよ? 見た目はキモイですが」

 おい! エルフどもに聞かれたらまた面倒なことになるだろう!

 焚火の向かい側に固まってるエルフたちにチラリと目をやるが、どうも聞こえてなかったようだ。よしよし。

「長生きなら偉いのか?」

「その方が強くなるじゃないですか」


 当然でしょ? という顔をしてオズが答える。

「強けりゃ偉いのか?」

「そりゃそうですよ。オークでも一番強いやつが族長です」

「でも強くても馬鹿だったらどうするんだ?」

「強ければ大抵の奴は殴り倒せますよ」

 俺はため息をついた。そうか、根本的にこいつらは脳みそに筋肉が詰まっているんだ。


「強さも頭の良さも、性格の良さも、観察眼の高さも、理解力の高さも、指先の器用さもありとあらゆる要素に――優劣は無い。ただ、お前の生きている社会では、たんに強さが目立つだけの話だ」

「だって強けりゃ指先が器用な奴が作った道具とか奪えばいいだけじゃないですか」

「俺が指先が器用なやつで、奪われたとする。二度ともぅ何も作らないね。どうせ奪われるなら」

「なら暴力で無理やり作らせればいいじゃないですか」

「そしたら手抜きの品しか作らないね」

「手抜きの品を作ったとわかったら殴られますよ」

「わからないよ。だって物造りのスキルないのに。もちろんあからさまに手は抜かないさ。つまり、永遠に暴力では最高級品は手に入らない」


「……」

 オズは黙ってしまった。

「まぁ食っとけ」

 俺はオズの腰につけたポーチから干し肉を取り出すとオズの口に押し込んだ。  


 …………さて。

 俺にはずっと気がかりなことがある。

 仕方ない。聞くしかあるまい。

 俺は立ち上がると焚火の向かい側に固まっているエルフのグループに近寄っていった。


「……。なぁ、エルフの里までどれくらいかかるんだ?」

 俺は日が暮れ始めたあたりから気になっていたができなかった質問を、ついに、勇気を振り絞ってアリシアに繰り出した。

 俺がこうも勇敢でなければ永遠に聞けなかったであろう。


「徒歩で後二日程度ですよセージ様」

 アリシアは野営の焚火の炎にあたりながらそんなことを言い出した。

「待て待て。二日!?」

「えぇ、後今夜も含めて二回夜を越すくらいの時間ですよセージ様」

 遠くね? これはあれか? 時間間隔の違いか?

 どうする? もうこいつらについていくのを止めてオズの部族のほうにいくべきか? だが、恐らくオークの部族は脳筋だろう。エルフの里はエルフが超偉そうだろう。情報を多くもってそうなのはエルフ……くっ、しかたない。我慢するしかないのか……。


 俺が悩んでいると、もう一人のエルフの少年が突然立ち上がる。

 そして俺の前までやってきた。

 髪色はアッシュグリーン、顔にかかるくらいのショートボブ。瞳は琥珀色。身長は百五十センチ。ロングボウを背負い、矢筒とロングソードを腰に提げている。顔立ちは中性的な美形だ。例によってハードレザーアーマーらしき防具を身に着けている。


「あ、あの! ルファス・シルヴァ・アーチャーです! よろしくセージ様!」

「あー……斎藤誠二だ、様はいらないよ」

 その声は声変わりしていない少年の……ん? 待て、俺はまじまじと顔や全身をよく観察した。腰にたいしての足のつきかたで性別はわかる――こいつ――女の子だ。

 遠目に小汚い男……少年だと思ってたが、女の子だったか。どうりで小柄なわけだ。失礼した。


「ルファスお前!」

 何やらジェファーキンがうろたえている。

「ルファス?」

 アリシアも何やら驚いている。


「何でルファスさんは名前がそんなに長いんだ?」

 俺は質問をする。

「えっ……」

 ルファスは凄く驚いた顔をしている。

 いやはや、俺だけ何も理解してないのか?

「僕たちエルフの名前は生まれた時の名前・功績名・氏族名・役職名・父姓・母姓があるんです」

「ほう。君の今の名乗りに功績名はなかったみたいだが……」

 俺は頷いた。長い。馬鹿なのか? 大変だろう。といいたいが飲み込む。

「うん。功績を上げるとつくんです。普通はありません」

「つまり君の名前はルファス、特に功績はあげていない、氏族名はシルヴァ、役職はアーチャー、つまり弓が得意ってわけか。父姓以下は秘密、と」


「そうです!」

 元気よくルファスは頷いた。

 あれ? 言外になんで秘密なの?

 と聞いたつもりだったのだが――この子まさか鈍いのかなー? というかアリシアとジェファーキンはなんで名前しか教えてくれてないんだ? だが、あの二人の反応を見た手前、ちょっと聞き難いな。

「で、セージさんのその服、どんな服なんですか?」

 俺の赤いコート、ネイビーブルーのカッターシャツと、黒いジーンズ、そしてブーツを興味深げに眺めている。


「羽織ってみるか?」

 赤いコートをルファスに着せてやる。

 ルファスは歓声を上げた。

「この汚いマント。やたら温かいですね。やはり魔法の品なのですか?」

 いや、普通に西暦二千百年の最先端技術でコートの内部は可能な限り快適な温度・湿度を保つように……そうじゃない。というか汚いってなんだ? 汚くな……いや、乾いたオークの血がこびりついてるな。汚いわ。ウン。


「これは俺のいた世界でコートと呼ばれるものだ」

「コート! 何の魔獣の革なんですか?」

「これは……錬金術で生み出された特殊な素材を使っていて……」

 どう説明したらいいんだろうか……というかなんだこいつ。好奇心旺盛すぎる。

「錬金術!? ドワーフの職人が錬金術の素材で作られた革から作ったということですか!?」

「アー……まー……そう、なのか……?」

 俺のコート、確かに改造はドワーフの爺さんにやってもらったが……

 いかん、面倒くさい。こちらから質問して矛先を逸らすしかない。


「おっと! ルファス! 君の矢、印がついているのかい?」

「えぇ。そうなんです。誰が獲物をしとめたかわかるように、僕たちエルフは矢に印を入れておくんですよ」

 そう言うとルファスは矢筒から矢を一本取り出して俺に見せてくれる。

「弓を使うエルフは自分の名前を矢に刻むんです」

「成程」

 俺はフンフン頷いて聞いた。

「今回の同盟締結の隊に同行していた皆の名前は~」

 地面に色んな名前が書かれていく。

 何故だろう。なんで俺は読めるんだろう?


(雪風)

(はい)

(言語といい、文字といい、俺達は何でわかるし読めるんだ?)

(わかりません。リーナスに聞いてください)

 天才AI様は早々に諦めてしまった。

(ん? あの禁呪の効果であろう? 恐らく、彼らの言語や文字を、我らの馴染み深い言語や文字に翻訳・認識させているのだろうな。要は認知のハックである)

(……私は人工知能ですよ?)

(……)

 俺達は黙ってしまった。


(いや――所詮俺達生物も人工知能も、思考は電気信号にすぎん。つまり、物事、文字や言語を認識した際に、電気信号を理解できる形に書き換えているだけなら雪風にも作用する。何もおかしくはないだろう)

(成程。一理ありますね)

(だから俺達が話すとき、日本語やら英語やらを話しているつもりでも、奴らの言葉に無意識のうちに変換して話しているんじゃないか?)

(ふむ。つまり無意識化における作用のため、自らは自分の知っておる言語を話しているだけのつもりであるということであるな)

(面白い仮説です。現在の処、反論する余地はありません。支持します)

(逆に魔法が解けたら何も会話できなくなりそうだな)

(困ったことであるな)

(文字は雪風、全部パターンを認識・教育しておいてくれ。そうすれば最悪筆談が可能になる)

(既にデータベースの作成に入っています)


(で、リーナス、お前は何してるの?)

 焚火の向こうで勝手にオズの腕の戒めをほどいたリーナスが何やら話し込んでいる。それが気になった俺は質問をしてみた。

(ふ、オズに我を師事させてやっておるのだ)

(というと?)

 教えてもらっているのになんて態度だ。凄いなこいつ。

(この世界の魔術体系を理解し、我は最高位魔術師(ウォーロック)として返り咲く。わかるか誠二よ?)

(返り咲く前に元の世界(新西京)に帰りたいんだが?)

(我とて返りたいわ! アニメもない! フィギュアもない! この世の地獄である!)

 マジだよ。小説読めないじゃん……辛い。辛すぎる。

(じゃあ早く元の世界に帰れるように頑張ってくれ)

(仕方あるまい。貴様は精々我のために魔術書を手に入れるのだ)

(あ、はい)


「セージさん! 聞いてますか!?」

「えっ!? あぁ、聞いてるよルファスさん」

 とりあえず距離感が近い。俺はさり気なく半歩距離を離す。


 こうしてルファスの質問攻めにあいながら夜はふけていった。

 おかしい、俺が知りたいことが山ほどあるはずなのに……

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