第4話 俺は非常識らしい
俺はエルフの里にむかいつつ捕虜にしたオークメイジに尋問を開始した。尚、アリシア様とやらは露出度が高すぎてよくないので死んだエルフの男の服を無理やり着せた。血がついてるから嫌だとわがままを言うからオークメイジのローブをアリシアに着せようとしたら、今度はオークのローブなんて絶対に嫌だとわがままを言ったのだ。これだからエルフは……
「で、お前の名前は?」
俺は捕虜にしたオーク――どことなく豚っぽい顔つき。耳は豚のそれ。目は栗色。そして服は魔法使いが来てそうな黒いローブをぼろっぼろにした臭い小汚いローブを着ている。身長百七十センチ程か。
「オズだ」
オークメイジ改めオズが答えた。
「お師匠様は魔物か? それか詐欺師か?」
「?」
「いや、忘れてくれ。で……君、かわいいねー? 名前は? どこ住み?」
「誠二……ナンパですか? 名前はもう聞きましたよ?」
「コミュニケーションだよ雪風」
「セージ様、そんな! オークを、しかも同じ男をかわいいだなんて!?」
アリシアが何やら言い出した。
「ジョークだ!!」
俺は叫んだ。いちいちうるさいよこいつら!
体勢を立て直した(?)アリシアは血で汚れた服でいまいち恰好ついてないが、優雅に金色のポニーテールにした髪を指で払った。露出していた部分が隠れて、落ち着いた雰囲気をまとっている。
「セージ……様。あなたは本当に珍しいお方ですわね」
彼女は微笑んでいたが、目は笑っていなかった。
「オーク如きを捕虜として扱い、わざわざ尋問までなさる。まるで……下賤な豚に価値を見出そうとする変わった趣味をお持ちのようで。ふふっ、ヒューマンにしては面白いことをお考えになるのですね。豚をペットにする趣味でもおありなのですか?」
「いいかアリシア。こいつらは全滅したが、後続部隊がいるかどうか、目的、なぜ現れたのか知ることは優先順位が高い。後、オークを豚と言って侮辱するな」
「明らかにこいつは小者でしてよ。豚は豚、我らとは違いま――」
俺の視線に気づいたのかアリシアは途中で黙った。
「旦那……?」
オズが戸惑いの声を上げる。おい、こいつ差別されすぎてて対等に扱われることに戸惑っているぞ。想像以上にやばい。
「下賤なオークなぞ……さっさと殺せばいいのだ」
ずっと俺を睨みつけてくるジェファーキンがぶつくさ言っている。
俺はため息をついた。
「あんたらエルフは賢いから情報の大切さは知っているだろう?」
「無論だ」
ジェファーキンが頷いた。
「ならオズ君から話を聞こうじゃないか」
「そもそもアリシア様を襲ったやつなんぞ今すぐ――」
レイピアに手をかける。
「ひぃ! 助けてくれよ旦那!」
オズが俺の背中に隠れる。
「そうだった……そもそもお前は部下の婦女暴行を見逃すような糞野郎だったな。やはり殺しておくか」
俺は雪風を抜いた。
「ま、待ってくれ!」
「誠二、やはりここで豚肉パーティーか?」
リーナスが尻尾を振り振りオズを見つめた。
「その悪魔の猫をこちらに近寄せないでくれ!」
「我は悪魔ではない。神である」
「俺はな。殺人事件と同じくらい、いや、それ以上に性的暴行は嫌いだ。殺人は例えば身を守るために仕方ない側面もあるかもしれない。酷い目にあわされ続けて復讐でしたのかもしれない。だが、性的暴行は? 単に自分の欲望を発散するためだけに行われるもっとも醜悪で下種な行為だ」
そう言いつつ俺の雪風を握る手が震え始める。
「誠二。ジュネーブ協定はどこに?」
「雪風……婦女暴行するクズはな。俺の中では、ジュネーブ協定は適応されない」
「あれは部下が勝手にやったんだ! そもそも女は殺すなと、見逃せと言われていたんだ。だいたい俺はエルフ女なんか気持ち悪くて――」
「無礼な!!」
アリシアとジェファーキンがキレ始める。おい、襲われたいのか襲われたくないのか、どっちなんだ。もう一人のエルフの男……いや、少年は遠巻きにこちらのやり取りを観察しているようだ。
「わかった。お前は今のところは生かしておこう。だが、今度同じようなことが起きた時、絶対に止めろよ。二度目はない」
「わ、わかりました旦那!」
俺はとりあえずオズの言うことを信じることにする。
「なぜそこまでそのぶ……オークに情けをかけるのですかセージ様。そもそもジュネーブ協定とは何なのですか?」
アリシアがしつこく話しかけてくる。あー! 今それどころじゃないんだが!?
「簡単に言えば、戦争をこれ以上悲惨にさせないための取り決めだ」
「?」
首を傾げてくる。
「戦争ってのはきりがない。親が殺された子供が親を殺した相手を殺す。その相手にも家族が、子供がいる。そうなるとどうなる? どちらかが滅ぶまで殺し合うことになる」
「それが普通では?」
そういうアリシアに対し、オズも頷いている。
「おい、じゃあ戦争になるたびに相手を全滅させるのか? でも停戦とかしてるよな」
「まぁそれは……」
不承不承アリシアが頷いた。
「だから捕虜を丁重に扱って捕虜同士交換したりしたら、無駄な死が減るだろう?」
「敵を返すのですか?」
「じゃあお前が捕まったら?」
「……」
先ほど強姦されそうになってたことを思い出したのだろう。アリシアの顔色が悪くなる。
「その時、ルールがある方が良いってことだ」
「オークがそんなもの守る訳が……」
アリシアが吐き捨てるように言った。
「何でそんなことがわかるんだよ、なぁオズ」
「えぇ。俺達の部族は戦士として交わした約束は守りますよ」
オズが珍しく素直に同意した。その調子だ。いいぞ。
いいえ。とか言われたらどうしようかと思ってドキドキしてたぞ。
「ほらな」
しかしオズは余計な事を付け加えた。
「旦那……生きて帰ってきたそいつらもまた、どうせ戦場に戻りますぜ」
だが、これは正論だ。
「確かにそのとおりなんだ。でも、一度死にかけて、丁重に扱われて戻ってきた人間は以前ほど憎しみで戦争に向かえない。それが大切なんことなんだと俺は思ってる」
「はぁ……オークもエルフのことも理解してないヒューマンが偉そうに説教を……」
おいアリシア、お前が聞いて来たんだぞ。後、聞こえてるからな。
「戦争で一番被害にあうのは民間人だ。そして負傷したり降伏した兵士。これを殺し、お互い最後の一人になるまで殺し合いたいならそれでいいかもしれん。だが、そうじゃない道もあることを知った上で選ぶのか、それともコレしかないから選ぶのか。その差は果てしなく大きい」
「セージの旦那……」
オズが声を震わせた。
「わかったかオズ」
理解してもらえたか。俺は少し嬉しかった。
というか、エルフよりオークの方が話が通じるとは――
「何もわからねぇのがわかりやした」
俺はこけた。
「えぇ。良くわかりません。所詮はヒューマン……」
もういい。俺はとりあえず諦めた。
「で、結局……お前の襲撃はなんだったんだ?」
「あぁ……族長にあそこで待ち伏せするように命じられてたんですよセージの旦那」
「ふむ」
俺は顎に手を当ててうなった。
「で、通りがかるエルフを皆殺しにしろと」
オズがそう言った。
「下賤な豚が!」
それを聞いたアリシアが怒りだした。
「あーはいはい怒らない怒らない。結局オズ以外は死んだだろう?」
「あなたが来なければ死んでたのは私達でした!」
「ほら、だからジュネーブ協定」
「何を言っているのですか? 流石にしつこいですよセージ……様」
「ジュネーブ協定があれば。降参したらあんたらは殺されない」
「?」
なんでそこは馬鹿になるんだよ!
「お互いに降参した相手を殺さない。無力化して連れて帰って丁重に扱う。で、オークが同じく捕虜になる。そうしたら人質交換できる。そうしたらどうなる?」
「耳の長い悪魔みたいな面した奴を殺し損ねる」
「豚を殺し損ねます」
オズとアリシアが同時に答えた。
なんでこんな時だけ息ぴったりなの君達?
「あのな……違うだろ? 死ななくてよかった人達が帰ってくる。それともお前らはアレか? 大切な親とか兄弟とか家族が死んでも敵が死んだ方がいいのか?」
「そんなことはありません」
アリシアが答える。
「オークは捕虜になるくらいなら死んで英雄になることを選ぶ」
オズが答えた。
「オズ、でもお前……今は死にたくないだろ?」
「…………」
オズは恥ずかしそうにうなずいた。
「別に恥ずかしいことじゃない。戦いで死にたいならそれでいいが、嫌なら嫌でいいじゃないか。俺だってくだらない争いごとで死にたくない。で、捕虜を大切に扱えば、家族が生きて帰る可能性が高まる。憎しみの連鎖が減る。どのみち相手を一人残らず殺しつくすなんて非論理的だぞ。戦争は手段であって目的じゃないんだ」
「誠二……あなたがこんな論理的な話をできるなんて……私は感動しています」
雪風が褒めてる体裁をとりつつ馬鹿にしてくる。
「はっはっはっ、雪風。今は黙っていてくれないか?」
そして俺はアリシアに話を向けた。
「話してくれないが。君は今向かっているエルフの里で重要な地位……どうせ族長の娘とか何かなんだろう?」
「何故それを!?」
アリシアの顔が驚きに硬直する。
オズがそうなの? って顔をする。
「お前――! どこでそれを!」
ジェファーキンがレイピアに手をかける。
「おおいっ! 初歩的な推理だろうが! 落ち着け!」
「確かに……冷静になって考えれば自明の理。よく気付きました、ヒューマン」
おいアリシア。お前、さっきから全く地が隠せてないぞ。
「そうなると問題ですね」
ジェファーキンが言い出した。
「そうなりますね。ジェファーキン」
「我々は人間と同盟を結びに向かっていた……そしてその帰りに襲われた」
「そのとおりですアリシア様。つまり下賤な人類は既に魔族の配下に下っていたということですね」
「同盟を白紙にするべきなのでしょうか?」
途中から俺の台詞を奪われてしまった。まぁ、問題無かったので黙って聞いていたが……途中から明らかに論理的飛躍が酷くなり始めている。軌道修正しなくてはならん。
「待て! お前達人間不信すぎるだろうが! 内通者が数人いる可能性の方が高い」
俺は明後日の方向に跳びつつある迷推理にストップをかけた。
「人間不信だと? 当たり前だろうヒューマン! 短命で醜く、我の強いヒューマンなんぞ私は元から信じておらん!」
「なんで同盟しようとしたんだ……」
「背に腹は代えられん」
そう言ってジェファーキン君は腕組みをする。
むしろ俺はお前たちの我の強さにそろそろ怒りがマキシマムドライブだが?
「旦那。うちの部族に来ませんか? 旦那はお強いからきっと歓迎されますぜ。オークの女は強い男が好きですよ?」
オズが悪魔のささやきを俺にしてくる。そうしようかな――俺はそんなことをぼんやり思い始めていた。いや、オークの女に興味はないが……
「まぁ! セージ様は我が部族が勇者として歓待します! 豚は黙ってなさい! 処刑しますよ!」
駄目だこいつら。そりゃ永遠に殺し合ってるわ。
俺は民族紛争がなぜ終わらないのかを肌で体感し始めていた。さっさと元いた地球に帰らないと民族紛争の専門家になっちまいそうだ。




