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異世界に転移したが、勇者じゃなくて私立探偵なので喋る剣と喋る黒猫と探偵事務所開きます  作者: FUKAMIEIJI
オークの集落編

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第17話 楽しくない異文化交流

 ルファスの話を聞いて考えごとをしていると、ひときわデカい石造りの屋敷に連れていかれた。どうやらここが族長のお屋敷らしい。一階にデカい居間。個室が二つ。外にお手洗い。もちろん水洗ではない。泣きそうだ。厨房がない……二階は個室が五つほど。家具と呼べるものは敷かれた絨毯……地獄か?

 個室を除くとぼろいベッドがあった。

 やったー! 布団で寝られるぞー!

 帰りたい……。


 殺風景な石造りの広い居間の中。

 ルファスはワーイとか言いながら二階の個室に走っていった。

 オズは俺の隣できょろきょろしている。

 リーナスは腹いっぱいになったのか部屋の隅で丸くなって寝ていた。

「ゲオルグリス!」

 俺を連れてきたゲオルグリスに俺は声をかける。

「なんだ?」

「厨房がない。どうやって飯を食えと?」


「お前、じゃない族長は……何を言っているのだ?」

 ゲオルグリスが首を傾げた。

「えっ……俺、もしかしてまた何かやっちゃいましたか?」

「自分で食事の用意をする族長がどこにいる?」

 ゲオルグリスは話は終わりとばかりに屋敷を出て行こうとする。

 ただ、俺が非常識なだけだったらしい。


「待て」

 俺は慌てて引き留めた。

「なんだ?」

「お前にこれから俺がこの部族の掟を一通り改訂していく相談係になってほしい」

「……お前……いや、族長は何を言っているんだ?」

「だって俺、三日でいなくなるじゃん?」

 それに当事者の意見を聞くのは大切なことだ。

「ずっと居ればいい」

「そんなわけにはいかないんだ」

 俺はエルフの依頼の話をする。


「何だ。その依頼を果たせばいいのか族長」

 ゲオルグリスは右の眉をあげて面白そうな声を出した。

「ん? 何かいい案が?」

 何だ? やはり異世界人の俺には思いもよらないやり方が――

「あぁ。エルフ全員を捕まえて、一人ずつ尋問にかけて自白させればいい」


 ――駄目だ。


「それをやったら戦争だろうが!」

「族長。お前はあまりにも迂遠すぎる。考えるまでもなくこれが一番確実かつ最短経路だ」

「もういいよゲオルグリス……ありがとう」

 俺は虚無に浸った満面の笑みをゲオルグリスに送った。


「ふむ。まぁいい。どうせお前は言っても聞かない男だ」

「ははは、よくわかってるじゃないか」

「で、何をどうするって?」

 ゲオルグリスは溜息まじりに聞いてきた。


「あー、その前に。魔術書ってあるのか?」

「あぁ。使えない魔術書でいいならあるぞ。オズ、持ってきてやれ」

「わかりやした!」

 オズは足早に出て行った。


 その後、居間で飯を待ちつつゲオルグリスと話をする。

「まず、オークの職業は?」

「職業? 全員戦士だが?」

「……。えっと……志願制にしないか?」

「馬鹿な! 貴様、我らを惰弱なヒューマンと同列にするつもりか?」


 もう面倒になってきたが俺は頑張ることにする。

「まぁ待てよ。族長は最強のオークがなる。そこはそれでいい」

「ふむ」

 まったく納得していない顔でゲオルグリス君が頷く。


「いいか、戦いってのは総合力だ。当然兵士も大切だが、兵站も大切だ」

「何を言っている? 兵士がいなければそもそも戦いにすら――」

「そう思うだろうがな。例えば兵糧。みたところ、この山、まともに開墾も何もしていないが、農作業はできないのか?」

「知らん。やったこともない」

 ですよねー。


「兵糧はどうしてるんだ」

「現地調達や狩りだ」

 何を馬鹿なという顔をしたゲオルグリス。

「それじゃあいつまでたっても雇われ傭兵部隊のままだぞ。どうだ? ここは一発、こんなしょぼい部族じゃなくて、王国作れるくらいにならないか?」

「そんなことが可能なのか?」

 流石にこの悪魔の囁きには心を動かされたらしい。

 ゲオルグリスが身を乗り出した。


(誠二)

 雪風が俺だけに伝わるチャットをしてきた。

 俺の視界に雪風の発言がオーバーレイ(重なる)する。

(何だよ)

(あなたがしているのは各種族のパワーバランスを壊す行為です。我々は一過性の客人にすぎません。過度の干渉は控えるべきでは?)

(頭固いね~雪風ちゃん!)

(いえ、あなたが考え無しなのです)

(考えたさ。でも、俺はオズやゲオルグリスが好きだ。だからエコひいきしちゃうもんね)

(はぁ……)

(お前は好きじゃないのか? あったこともないヒューマンとやらの方がいいか?)

(……。いえ、そんなことはありません)

(だろう? それに悪いのは俺をこんなところに飛ばした馬鹿ドラゴンであってだな――)

(わかりました。私も協力します)


「可能だ。現地調達は確かに孫子の兵法に置いては基本だ。なぜか。兵站の管理は大変だ。行軍速度が落ちる、断たれたら敗北につながる。だから現地で敵の民から略奪すればいい」

「ソン? まぁそれはよくわからんが、その通りだ」


 ゲオルグリスは満足げに頷いた。

「だが、それじゃあ駄目だ。奪われた民は? 奪ったやつを憎む。下策だ。もちろんだからこそ孫子は直接的に戦うのがそもそも下策と言っているんだが」

「……」

 ゲオルグリスは不満げに黙り込んだ。


「もし、奪わないで治安を保証してくれたら? 民は慕ってくれるだろう。そうすれば支配地域は勝手に拡大していく。これが略奪に頼ってみろ。永遠に民衆は従わない。逆に、盗賊などから守ってくれるなら喜んで兵糧を供出してくれるだろう」

「……ぬ、ぬぬ」


「だが、これを行うにはそもそも、自分達である程度自分たちの面倒をみれないといけない。だからこその役割分担だ。可能なら農業・鍛冶・その他職人・魔法使い・そして戦士、あたりを分けるべきだ。少しずつでいい。とりあえずは希望者のみでいいと思うぞ。もちろんどれかに偏ったら試験などで選別しないといけないだろうが。あくまでも主力は戦士団だからな」

 最後の一言でゲオルグリスは納得したようだ。


「ふむ。成程。一考の余地はある」

「まぁ勿論。俺が去った後はお前がまた族長に戻るから好きにしたらいい。一応、俺ならこうするという話はしておきたいだけだ」

「決意は固いようだな」

「お前の石頭並みに固いよ」

「おいおい、技を使ってないときはそうでもないぞ」

「本当かよ」


 雪風が声をあげた。

「そもそも文字はどうなっているのです?」

「数人が読み書きできる」

 ゲオルグリスはどうでも良さそうに言った。

「大切なんだよ!!」

 俺は大声を出した。

「何がだ?」

 ゲオルグリスはまたもや不思議そうな顔をする。

 いかん、野蛮人過ぎる……!

「いいか? 情報は力だ!」


 そのうち食事が運ばれてくる。

 ううっ、干し肉ばかりだ。野菜が食いたい。

 一事が万事、この調子で俺は話し込んでいた。



 数時間に及ぶ激論の後――

 疲れ果てた俺は二階の個室のベッドに倒れこんだ。


 ノックの軽やかな音がベッドに倒れた俺の耳に小走りでやってきた。

「誰もいませんよ~」

 俺はそう投げやりに答える。

 再度控えめなノックの軽やかな音がした。

「誰もいませんよ~」

 俺は再びそう答えた。


 扉の開く音がし、オークの女性が三人ほど――おい、下着姿なんだが? 入ってくる。

「……いないって言っただろうが! 帰れ!」

 俺は厳しい声を投げつけた。そして枕の下に隠しておいた雪風を手に取る。

 何だ? ヒューマン反対派の送り込んだ刺客か?

 なめた真似をしてくれる――三日経ったら出て行くって言ってるだろうに。


「あの、新族長様のお子様を授かりに――」

 何やら一番手前に立っているオークの美人さんが何か言い出した。





 …………は?


「意味わからん。帰れ」

「いえ、これはしきたりで――」

 オークの女性が断固たる口調で何か言い出したのを俺はさらに強い口調で反論する。

「良いか。俺の強さはズル(身体改造)であって、俺の遺伝子を残したところで天才的頭脳と広い心を兼ね備えた運動神経抜群のいけめんが生まれるだけだ」


「この話から分かる通り、この男はかなりの馬鹿ですよ」

 雪風が枕の下からそんなことを言い出した。おい、失礼過ぎる。

「えっ!? どこから声が……」

 きょろきょろオークの女性たちがあたりを見回す。


「後、俺はそもそも子供を作れない体質だ。さ、帰れ」

 俺はショックを受けたオークの女性たちの背中を押し、部屋から追い出した。

「ったく。なんなんだ?」

「なんなんだもくそも、彼女達の発言の通りでしょう」

 俺の愚痴に雪風が真面目に返事をした。


「強いやつの子供だから強くなるとは限らん」

「それはそうですね」

「あと――お互いに風土病のリスクもある。過度の接触はアウトだ。インカやアステカがスペイン人にやられたのは天然痘の影響が大きいし、エイズ的な何かをもらうかもしれん、与えるかもしれん」

「素晴らしいリスクヘッジです。流石は誠二です」

「お前、さっき俺のこと馬鹿って――」

「早く寝てください」


 このやろおおおおおおおおおお!

 怒りの余り口を開いたが――いや、寝よう。

 無駄な体力を使っている場合じゃない。こうして俺は眠りについた。

 明日は風呂に入ろう、入りたいな、入れたらいいな……そんなことを考えながら。

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