表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に転移したが、勇者じゃなくて私立探偵なので喋る剣と喋る黒猫と探偵事務所開きます  作者: FUKAMIEIJI
オークの集落編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/18

第18話 風呂こそ文化

「風呂だ」

 翌朝、アレコレ議論をしつつ飯を食べた俺は風呂を要請した。もう我慢ならん。

 日本人だぞ俺は? 日本といえば温泉、温泉と言えば日本。

 つまり風呂だ。


「族長。今度は何だ?」

 気のせいだろうか。ゲオルグリスがうんざりした顔をしている気がする。

「俺は風呂に入りたいんだ」

「公衆浴場がある」

「はやくいえ! まったく。俺は権力を濫用して風呂を用意させるところだったぞ」

「そうか……よくわからんが、入りたいならいってきたらいい」

 ゲオルグリスはキョトンとした顔をしているが、その顔に見送られ俺はウキウキで風呂に向かった。




 浴場を目にした地面に俺は崩れ落ちた。

 入り口がまず一つ。

「あきらかに混浴じゃん……」

 絶望の声を上げる俺。

「誠二……」

 雪風がうんざりした声を出した。

「何だ?」

「妥協は大切です」

「いやだ! いーやーだー!!」

 誰しも譲れないものがある。

 そう、俺にだってある。


「何故ですか? 理解できません。混浴なら混浴でいいではありませんか。お互い同意のうえです。」

「お前は何もわかっちゃいない。同意のうえとか言うな。いいか? 裸の同性がいるのすら嫌なんだぞ。異性が裸で同じ空間だと? ふざけるなよ」

「誠二――あなたは女性を意識しすぎです。これは世間一般的にキモ――」

「おおいっ!? 暴言はやめろぉ!!」

「暴言? いえ、これはあなたの凝り固まった固定観念へのカウンターとして――」

「わかった。そうだな。俺はきっと女性を意識しすぎの変態エロ男かもしれん。もうそれでいい。でもな? 風呂の目的はなんだ?」

 俺はこの糞生意気な人工知能を黙らせるために罠を張る。


「血行の促進、新陳代謝の活性化、身体を綺麗にすることによる防疫、ストレスの緩和――」

 淡々と雪風が効能を読み上げていく。

「それだ!」

「はい?」

「ストレスの緩和! これ大切だよな? メンタルヘルスってやつだよ」

「そうですね。メンタルヘルスの確保は大切です」

「なら、俺が変態だろうがなんだろうが――リラックスできる環境を確保する必要がある。そうだな?」

「…………。同意します」

 気のせいか雪風の声に憎しみと怒りが滲んでいる気がしたが、気のせいだろう。

 そう、気のせい。とりあえず勝ったことが大切。

 ふはははは! 人類の勝利だ!


 ご機嫌になった俺は歩いているオークを捕まえて、オズを呼びつけた。

「何ですか兄貴!」

 走ってやってきたオズが元気よく挨拶をしてくる。素晴らしい。

「あぁ……俺、今から風呂に入るから……中にいる女性、追い出して」

「ええっ!?」

「族長は俺だぞ?」

 ジロリと睨んだ。せっかく族長になったのだ。

 申し訳ないがここは折角の権力を活用させてもらう。

 俺は混浴を避けるためならばどんな暴君にでもなるつもりだった。


「あ、はい……」

 よくわからない人だなとかぶつくさ言いながら――聞こえているぞオズ――木で囲まれただけの粗末な入口から浴場に入っていく。

 すぐにオズは出てきた。

「兄貴。今、女性はいませんよ」

「よし。じゃあ俺が出るまで女性は通すなよ」

「あ、はい」


 こうして俺は湯船にゆっくりとつかれたのである。

 幸い他に入っているのは男オークが二人ほどだ。やれやれ。

 オーク二人もヒューマンの俺がいるのが何か気まずかったのだろう。

 早々にあがっていった。


 風呂から出てきた俺はオズに声をかけた。

「じゃ、次は男を通さないようにな」

 そう言ってオズの肩をポムっとする。

「えっ!? なんでですかい? まさか兄貴、今度は女性の中に一人で入――」

「なわけねーだろ! ルファスのためだよ!」

「あ、はい……」

 また釈然としない顔でオズが浴場の前で見張りを続ける。


「族長になって一番よかったのは風呂に入れたことかもしれん」

 俺はしみじみとつぶやくとルファスに声をかけに族長の屋敷を目指す。


「しかし……温泉だったよなアレ」

「私の成分分析ではそうです。尚、塩分が含まれているため、私をきちんと真水で洗った後に水分を丁寧にふき取り、油を塗布してください」

 うへぇ、面倒くさいな……斬れれば何だっていいじゃん!

 と言ったら雪風が怒りそうなので婉曲に断ろう。


「錆びるのか?」

 俺は素朴な疑問をぶつけた。

「私にも分かりません」

「錆びたら何か悪影響が?」

「私にも分かりません」

 分からないのかよ! そりゃそうだな。

「じゃあ錆びたら研ぎなおすとか火入れをし直すとか――」


「私はあなたのパートナーですよね」

 雪風の声にいらだちが混じった。

 いかん、まずいかもしれん。 

「そうだ」

「まさかとは思いますが……あなたはパートナーが錆びてもいい、と。そう言いたいのでしょうか?」

「……あ、はい。お手入れさせて頂きます」

「最初からそう言うべきですね」


 ……。話を逸らしてうやむやにしよう。

「この山は火山なのか?」

「可能性はあります」

「もしもの時の避難ルートについても決めておくべきだな」

「それがいいと思います。その前に私の手入れをお忘れなく」

「はいはい、喜んでさせて頂きますよ!」

「わかればいいのです」

 俺は屋敷の扉を荒々しく開いた。


 居間ではリーナスとルファスが魔術書を囲んでいる。

「なんたる宝の山……」

 尻尾をぶんぶんしながらリーナスが言っている。

「リーナス師匠、もう使えるの? 僕難しいんだけど~」

 胡坐をかいて絨毯に座っているルファスが小難しい顔をして腕組みをしてい……ん? リーナス師匠? 聞き間違いだろう。


 俺はルファスに声をかけた。

「ルファスさん。折角だから風呂に入ってきた方が良い」

「風呂?」

「流石に風呂くらい知っているだろ!」

「いやぁ、エルフはシャワーが多くてあまり馴染みが……」

 そう言いながらルファスは頭をかく。

「シャワー?」

「家についてるシャワーだよ。水タンクに濾過装置をつけて雨水や自分で運んできた水を貯めておいて……」


 シャワーくらい知ってるんだよ!

「つまり、個室だよな?」

 俺が聞きたいことはこれだ。

「うん」

 ルファスは耳をひょいと下げた。器用すぎる。

 何かいいな。俺もエルフになりたい。

 耳を下げて頷く代わりにするとかお洒落じゃないか。

 羨まし――いや、エルフはダメだ。

 俺は新西京でかかわったろくでもないエルフ美女たちを思い出してその忌まわしい考えを脳内から殲滅した。


「そうだよな。まったく混浴とか常識無いのかよって話なんだよ!」

「混浴?」

 普通に首を傾げられてしまった。おかしい。俺がおかしいのか?

「男も女も一緒に風呂……シャワーを浴びるんだ」

「うわぁ! はしたない!」

 ルファスの顔が赤くなる。


 ふむ。

 普段は少年……いや、むしろ子犬みたいだが、照れると女の子らしくてちょっと可愛いな。

 ……誠二、この子はエルフだし、異世界の人間なんだ。正気に戻れ。

 俺は気を取り直した。

「そうだろうそうだろう。ま、さっさと行ってきたらいい。今なら女性のみの貸し切りにしておいた」

「はーい、ありがと〜」

 ルファスは屋敷を飛び出して行った。


 自分も風呂に放り込まれるのを警戒していたのだろう、リーナスが半眼でこちらをじっと観察していることに俺は気付いた。こいつの風呂嫌いも困ったものだ。まぁいい。とりあえず放っておこう。


「で、リーナス。何かいいものがあったか?」

「うむ。探知系の呪文をいくつか覚えたぞ。また、魔術書を持ち運ぶ呪文があった! これで我が魔術書コレクションが!」

 リーナスは頷くとふんぞり返った。


「探知系だと!? おい、ファイアアローより余程いいだろ! なんでオズや他のオークは覚えていないんだ?」

「情報とはな誠二。使い方を知らなければ何の役にも立たぬのよ。銃とて撃ち方を知らねばただの鈍器と変わらぬ。それと同じ事にすぎぬのだ」

「言われるまでもなくそりゃそうなんだがな。もったいないなと思ったんだよ」

「人類の歴史においても、情報を使いこなした軍と使わなかった軍の落差は筆舌にし難いものがあったであろうが」

「まぁ、確かに情報を使いこなすには訓練がいるからな……」


 しかし、その訓練をここのオーク達に施す時間はない。

 というか、現時点では多分きつい。受け入れられないだろう。

 何しろこいつら、戦いが手段ではなく、半分目的と化しているからなぁ……

 まぁいい。明日にはここを立たないといかん。

「明日にはここを立つからなリーナス。そのつもりで準備しといてくれ」

「おぉ、わかったぞ」

 魔術書の前で横に寝転がりつつも、尻尾で器用に魔術書のページをめくりながらリーナスは答えた。


 俺は鍛冶屋に向かい……スリングショットについてアレコレ注文をつける。鉄球、そして予備の短剣も用意してもらった。これで明日にはY字の小型の鉄製のスリングショットが二つ完成するはずだ。

 よしよし、いい感じだ。


「雪風。根本的な問題がこのオークの集落にはある」

「はい。何でしょう。試しに言ってみて下さい。聞いてあげても構いませんよ」


 俺はずっと考えていたことを雪風に告げる。

「あぁ……神話の再解釈が必要だ」

「……正気ですか? 一番センシティブな部分ですよ?」

「わかってる。だが、こいつらの世界観だと、戦士以外は死んだら終わりだぞ。戦士は楽園で毎日戦って生き返るという北欧神話の世界線で生きてる。だから戦いで死ぬのが目的になってる」

「えぇ。色々な要素はありますが、キリスト教の浸透で北欧神話は廃れていったわけですが……」

「まぁ、俺個人の見解では死ねば終わりでいいんだが。しかし、それをこいつらに提示してもどうにもならん。で、だ。ホロリンク(携帯端末)のホログラム機能で、こいつらに死後の世界の紙芝居ならぬホログラム芝居を見せるというのはどうだろうか?」

「成程。あなた風の言い方をさせて頂くとすると――ホログラムを知らない未開人に真に迫った立体映像を見せることで死後の世界観を上書きする、と」

「そうだ。俺はそこまで悪意ある言い方はしないが、まぁ性格のよろしい雪風ちゃんだからな。しかたない。じゃ、そんなわけで頑張って作ってくれ」

「作ってもらう立場でその態度はどういうことでしょうか」

「お願いします! 雪風様!」

「仕方ありませんね。では既存のものを大きく変えないが、戦士以外の職能にも価値があるような神話の変更をホログラムでプレゼンテーションできるようにしてみましょう」


 よし、最後の問題は……エルフの依頼だが……あれだけの情報ではどうにもならないことだ……ふふふ……はぁ、ヤレヤレ。

 仕方ない……正直者で通ってない俺は、策略を練り始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ