第16話 後始末は大変で
ブーブーうるさい豚たちめ!
俺は追い払うことにした。
「あーうるせー! 色々ときめることがある! とりあえず解散! おっと、その前に腹減った。何かごはん食べさせてくれ。それと俺の左手の治療とゲオルグリスの治療を」
オーク達はブーブー言いながら散って行った。
それを腕組みして見届けたゲオルグリスは――
「サイトウ族長。三日といわず、部族のこと、任せたぞ」
そう言うと短剣を拾って鞘を払い――俺は手を掴んで止めた。
「何の真似だ」
ゲオルグリスが俺を睨みつける。
「いやいや、何の真似だじゃないよ。まず決まりその一。自刃は禁止。生きろ。そして敗北を糧にしてより強くなれ」
「ふざけるな、そんな惰弱な――」
「おや? 族長の言いつけが守れないのかな?」
俺はにこやかに言ってやった。
「くっ――――うおおあああああああああああ!」
叫び声をあげるとゲオルグリスは短剣を地面に叩きつけた。
「あ、兄貴ィ……」
オズが俺のもとにやってくる。
「オズ。自刃は無しだ」
「兄貴、俺の、俺のために……! 兄貴―っ!!」
オズが目をウルウルさせて抱き着いてきた。
「ちげーよ。俺の自己満足だ。抱き着いてくるな暑苦しい!」
俺はオズの顔を手で押さえて引きはがす。
「誠二。そんな下手糞な詭弁、流石に通用していませんよ」
雪風が要らないことをいいやがる。
「セージさん凄かったねー! かっこよかったー! 最後何をしたの?」
ルファスが俺の左手を取って何やら軟膏を塗り始めた。
「痛っ――――――――!?」
俺の左手に激痛が走り、思わず悲鳴をあげてしまった。
いかん、ハードボイルドな俺が無様を晒すわけにはいかん。
「あははー、しみるけど我慢してー」
とっさに俺は痛覚遮断をオン。痛みを切り離した。やれやれ。
「あれ? もう痛くないの? これ凄くしみるけどよく効く軟膏なんだ」
不思議そうな顔をしてのぞき込んでくる。サドか何かか?
「いいかルファスさん。俺のようなハードボイルドな男はちょっと薬が染みるぐらいで大騒ぎはしないものなんだ」
俺はとっておきのキメ顔でそう言った。決まったな。
「ルファス。誠二はずるをしていま――」
雪風のいらない発言を俺は遮った。
「あーあー!」
そういえばリーナスは?
……早速何かのステーキを食べてる。放っておこう。
「で、最後のアレか」
俺は地面に落とした弾丸を拾いながら話を始めた。
「銃弾ってのは、ある一定の温度を超えると爆発するんだ。ゲオルグリスが炎を纏ったとき、すでにゲオルグリスは負けてたのさ。俺に必要だったのはもう打つ手なしと見せかけて、可能な限り油断を引き出すことだった」
「……。俺は油断などしていない」
ゲオルグリスはそう言ってきた。
「あぁ、その通りだ。だが、スリングショットで撃ち込まれないなら、危険性は低いと誤認したはずだ」
ゲオルグリスは頷いた。
オズが手を叩く。
「あっ! じゃあ兄貴! その弾丸とやらをポケットから出したのは……」
俺は頷いた。
「ゲオルグリスちゃんに俺のコートをかけて炎を遮断するさい、万が一にも全部爆発したら困るからだ。俺もゲオルグリスも月まで吹き飛ぶ。最悪だ」
「俺を殺したら、その後、部族の皆と戦いになるから、か」
ゲオルグリスがぽつりと言う。
「そうだ。複数の理由で俺はお前を殺すわけにはいけなかった。そのうちの一つが、お前に勝っても他の奴らは俺を新族長と認めないだろうということだ。他には俺が去った後再び族長になってもらうためだ。そしてエルフ襲撃の依頼についても聞きたい」
「えっ、じゃあ族長の座をよこせ! って言った時に既にそこまで考えていたの?」
ルファスが目を丸くして聞いてくる。
「あぁ、その通りだ」
俺は頷いた。俺は右手を鉄砲の形にしてルファスを指差した。
「すご――」
ルファスの感嘆の声を雪風が遮った。
「ルファス。あんな馬鹿な綱渡りをするのです。この程度の計算ができていないようでは話になりません。つまり何も凄くはありません」
……。雪風め。
「襲撃の依頼か……アレは矢文で届いたんだ。五日後にクレイロードを通るエルフの外交使節を襲撃してほしい、という内容のものだった。報酬はこの山の麓、三本杉の根元に埋めてあると書いてあった。確かめてみたところ、確かに人間の使うオーラム金貨が大量に埋まっていた」
ゲオルグリスが俺の質問に答えてくれた。
「矢は残っているのか?」
「あぁ……」
ゲオルグリスは手で合図をする。近くにいたオークが頷いて走り去った。
「しかし、まさかオズ以外全滅して帰ってくるとは思わなかった」
「そ、それがゲオルグリス族長……」
オズがおずおずと話し出す。
「俺はもう族長ではない」
ゲオルグリスがじろりとオズを睨んだ。
「あ、はいすみません。襲撃したときに、ゲオルグリス前族長から聞いていたエルフの数より多かったんです。それで手間取っているうちにセージの兄貴がエルフ達に加勢して……俺以外やられちまいました」
「そうか、合点がいった。そもそも事前情報だとエルフの外交使節はお忍びだから数は十名以下と聞いていた。しかし、万が一、エルフに接近前に気づかれると被害が大きくなる。確実に勝てるようにかなり多めに送り込んだが……そもそもエルフの数が多かったということか」
「えぇ」
オズは頷いた。
その時、先ほど走り去ったオークが一本の矢を持ってやってきた。
「これだ」
ゲオルグリスが俺に渡してきた。
「これは――ルファスさん」
俺はルファスに見せた。
「うん、これはエルフの矢だよ」
ルファスが頷いた。
「しかし、刻印がないな」
「そうだね。使用者の刻印はされていないよ」
ルファスの耳が心なしか元気なく垂れさがる。
「念のため確認しておくが」
俺はルファスに問いかけた。
「うん」
「人間がエルフの矢を使うことは?」
「どうだろう。絶対にないとは言わないけど……この矢は僕らの住んでる森の樹から作られているんだ。共振するから僕にはわかる」
「ふむ」
話が見えんな――というか、そうなの? すごいなエルフ。
「エルフの森の樹で作られた矢は、ヒューマンに使われたがらない。真っ直ぐ飛ばない」
「まじかよ」
酷い話もあったものだ。いや、待てよ?
俺が弓の練習をしてまっすぐ飛ばなかったのは――俺のセンスの問題ではなかったってことじゃねーか!
「だから、わざわざエルフの矢を使うヒューマンはいないよ。使いたくても使えない」
そう言うとルファスは目を軽く伏せた。
「つまり――襲撃を依頼したのは人間ではなく――エルフだ」
俺はそう結論を出さざるを得なかった。




