第15話 あれ? さっきよりピンチでは?
拳を突き上げて行った俺の勝利宣言に対し、一瞬の静寂。
さぁ、俺の勝利を称えろオーク達! 親族長様の誕生だ!
「ぶっ殺してやる!」「よくも族長も!」「ヒューマンが族長だと?」「認められるか!」「そうだ! 早く飯を献上せよ!」
殺気だったオークどもが立ち上がり、腰に提げた武器を手に取ってリングににじり寄ってきた。
「おかしいな、雪風。この展開は納得いかないだろう?」
「はぁ……誠二。まさかとは思いますが、あなたはこの結末を予期していなかったのですか?」
「まじかよ。オークは一夫多妻制オーケーなんだろ? 俺はここで美女に囲まれたハーレムで贅沢三昧して暮らすバラ色の人生設計が――」
俺はわざと大声でそんなことを言う。それを聞いたオーク達が口々に何やら怒号を発した。リーナスとルファスとオズは忘れ去られているようだ。よし。ここで最悪のパターンはあの三人が人質になる、もしくは巻き込まれることだが――それは回避できたな。
「愚かな妄想を垂れ流している場合ですか?」
確かに馬鹿なやりとりをしている間にも、リングに張り巡らされた鉄線にまでオーク達はにじり寄ってきていた。
「大丈夫だ。勝算はある」
「そうですか。では時間を稼いでください」
雪風の冷たい宣言。
「いいだろう! 新しく誕生した斎藤誠二族長様に早くも挑戦したいってことか? 誰だ? 受けてやろう!」
オーク達の足が一瞬止まる。
「どうする?」「いや、そもそもあいつは新族長じゃない」「ゲオルグリス族長が負けた相手だぞ」「おい、お前いけよ」「いや、いっせいにかかれば――」
ひそひそ話が始まった。新族長への挑戦なのか、それともこの闘い自体を無効とするための抗議なのか、曖昧にする作戦がうまくいった。
「どうした? 死にたい奴から前に出ろ! もっとも、ゲオルグリス前族長が敗北した以上、お前らの中に俺に勝てるやつがいるとは思えないが! さぁさぁさぁさぁさぁ! 一人目は誰だ! 売られた喧嘩は買うぞ? あぁ、支払いは電子決済で頼むぜ!」
「くそ!」「調子に乗るなよヒューマン!」「全員で一斉にかかれば――」「電子決済って何?」「そうだ、そもそもあいつはオークですらない!」「気にすることは無い! ぶっ殺せ!」
あ、いかん。これはまずい。こいつら思った以上に頭いい。
死んだかもしれん。俺は手ぶりでルファス達に逃げろとジェスチャーを送る。
ルファスは懐から手榴弾を取り出している。おい、止めろ、俺まで巻き込まれる。
俺は首を必死に左右に振った。リーナスは余裕で毛繕いをして欠伸をしている。
オズは呪文の詠唱を始めている。止めろ馬鹿!
俺は両手を合わせてバツの字を――
「何をくねくねしてやがるヒューマン!」「馬鹿にしてんのか!」「ふざけやがって!」
待て。俺はとてもまじめだ。何もふざけていない。
その時だった。
「何をしている」
地面に倒れ、気を失っていたゲオルグリスが声を上げた。
「族長!」「族長が気付いたぞ!」「あんなヒューマンに族長が殺されるわけがなかったんだ!」「族長! やっちまいましょう!」
オーク達が騒ぎ始める。
ゆっくりとゲオルグリスが立ち上がった。
俺はコートを脱ぐと彼の腰に巻き付けた。
「……。すまない、サイトウ族長」
「いいってことだ。猥褻物陳列罪で逮捕されちまうからな」
ゲオルグリスは訝し気な顔をして頷いた。
「待ってくれ族長!」「なんでそいつを族長って呼んだんだ!」「族長はあんただろゲオルグリス!」「ヒューマンを殺せ!」
「お前達は、これまでの部族の歴史に泥を塗るつもりか!!」
ゲオルグリスの一喝でオーク達は黙り込んだ。
「この男は俺を倒した。ならばこの男が新族長。当たり前の話だ」
俺は腕組みしてうんうんと頷きたかったが……火に油を注ぎたくないのでそのまま突っ立っていた。
「文句があるのならば――俺が相手だ。新族長を守るのは部族の者の務めだ」
ゲオルグリスはそう言うとオーク達を睨みつける。
俺を囲んでいるオーク達は一人、また一人と武器を収めると跪いた。
「新族長サイトウの誕生を祝福します!」「新族長万歳!」「サイトウ族長万歳!」
俺がゲオルグリスを殺すわけにいかなかった最大の理由がコレだ。
ゲオルグリスが死んだ場合――恐らく俺はオーク達にリンチにされて有耶無耶にされていただろう。
「間に合ったな、雪ちゃん」
「えぇ。残念なことですが」
「え? 今お前、残念って――」
「気のせいでは?」
この野郎――!
今はこの性格の悪い人工知能の相手をしている場合ではない。
「あー、オホン。諸君、ありがとうありがとう」
俺は両手を上げて歓声にこたえる。
「ゲオルグリスもありがとう。誰か彼にパンツを」
俺の言葉を聞いたオークが服を持って走ってくる。
俺は頷いてそれを受け取り、ゲオルグリスに手渡した。
コートを返してもらった。彼の腰に巻かれていたのを考えると何か嫌だな……深く考えるのはよそう……
「オホン。では新族長からの最初の一言を授けよう」
オーク達が静まり返る。
俺は口を開いた。
「じゃあ、俺、三日後くらいには族長をまたゲオルグリスに戻すんでよろしくー!」
「はああああああああああああああああああああああっ!?」
俺以外の全員がなぜか突っ込みを入れてきた。




