第14話 試着中はお静かに
(ルファス)
セージさんは、言葉とともにポケットから何かを掴んで引き出した。そして即座に指で弾いてゲオルグリス族長に飛ばす。胴体と、下の方に。
スリングショットを使っても駄目だったのに、なんで?
そしてセージさんはコートのポケットを引っ張り出すとなかにはいっていた小さい物を地面に撒き散らした。
セージさんが弾いた何かをゲオルグリス族長が無造作に右手で振り払った瞬間――僕の聞いたことのない、カロロアの実が爆ぜるような音が弾けた。
「くっ――?!」
ゲオルグリス族長が右手を押さえる。
何があったんだろう! その手はずたずたに引き裂かれていたんだ!
更にもう一度、音が爆ぜる。ゲオルグリス族長がよろめく。
彼の左膝がずたずたになっている!
どんな魔法を使ったんだ! 本当に凄い!
僕は、地面に転がった何かに目を凝らす――あれは、セージさんが『弾丸』って言っていたものだ!
「やっちゃえーっ!!」
「兄貴ーっ!!」
静まり返るオーク達とは対照的に、両手を口に当て、思わず叫んだ僕と、オズさんの叫びがセージさんの背を押したのか――いつも着ていた赤いコートを脱いだセージさんはゲオルグリス族長の右側に突撃していく!
まだゲオルグリス族長は燃えているのに!
セージさんが燃えちゃう……!
そう思った瞬間、ゲオルグリス族長の右側――死角に回り込んだセージさん。そのまま手に持っていた赤いコートをゲオルグリス族長に頭から被せた!
炎でコートが――燃えないっ?!
そうだった、あれは燃えない魔法のコートだった!
「今だー! いけー!」
僕は思わず叫んだ。
「今です兄貴ー!」
「さっさと倒さぬか誠二」
***
(斎藤誠二)
「おーにさーんこーちら!」
ゲオルグリス族長の目の前に走りこんだ俺は、言葉と共に全身を脱力させる。
左足を軸にし、右足を前に進ませる。腰は回さない。
「拳のなーるほーうにっ!」
一瞬だけ力を込めて右の拳を軽く振り回すようにしながらゲオルグリス族長のみぞおちにぶち込む。
忘れずに当たる寸前、左足の膝を軽く抜き――沈降勁も載せる。
掌底をぶち込み、肉を穿つ音が響いた直後、右足が地に着く。
震脚の音が爆発。
ゲオルグリス族長のみぞおちに掌底が触れた瞬間、即座に拳を引く。吹き飛ばすなら引手は遅くても良いが、今回は徹すのが目的だ。
俺の耐炎仕様の赤いコートに覆われ、炎を俺に浴びせることもできないゲオルグリス族長がその一撃で息を吐く。
「げふっ――!?」
「族長!」「馬鹿な!!」「あんなヒューマンのしょぼい突きで族長がー!!」「いやあー!」
「どうだ? ちょいとサイズが合わないが――」
言葉とともに、ゲオルグリス族長の脇腹に左の掌底をぶち込む。
当然これも鎧徹しだ。
「狂戦士の鎧!」
ゲオルグリス族長が叫んだ。
三つ目の技か!
「――なかなかいい着心地だろう!」
再度右の鎧徹しをゲオルグリス族長の胸に叩き込む。
叩いた感触が鉄板を殴りつけるように変化。皮膚を硬化させたか。
「――かはっ!」
ゲオルグリス族長の胸から息が絞りだされる。
だが、その技は俺の鎧徹しには無意味だ!
俺の鎧通しは西暦二千百年の軍用パワードスーツだって貫通する!
コートを外そうともがくゲオルグリス族長。
「お客さん! 試着中に暴れられては――」
俺は連続で鎧徹しを叩き込み続ける。
「――困りますね!」
ゲオルグリス族長が衝撃で一歩、二歩と下がる。
(雪風!)
(的確に脳を揺らせるよう、族長の顎の位置をポイントします)
俺の視界に、コートに覆われたゲオルグリス族長の顎の位置がどこにあるかARでポイントされた。
「どうだ?」
言葉とともに至近距離からの右の上段回し蹴りをコート越しにゲオルグリス族長の顔面あたりに叩き込み、脚を振りぬく。
「安くしとくから――」
更に回転し、左の後ろ蹴りをゲオルグリス族長の顎あたりにぶち込んだ。
「――買っとけよ!」
その一撃で吹き飛ぶゲオルグリス族長。俺はコートを掴んで取り戻し――コートを翻して袖を通す。
地響きをあげ、ゲオルグリス族長の巨体が大地に倒れこんだ。
その身体から、炎は消えていた。
静寂。
ゲオルグリス族長は、立ち上がれない。
彼は、気を失っていた。
「族長ー!!」「セージさんすごーい!」「兄貴、兄貴、まじで、まじで勝ったんですか!」「はやく飯にするぞ誠二」「ふざけんな! いかさまだ!」「ヒューマンごときに……馬鹿な!」「納得いくか!!」
怒号と歓声が渦巻く中。
「俺の――――勝ちだ!」
右手を掲げて俺は叫んだ。




