第13話 弾切れ? ピンチ? どーしよー?
(斎藤誠二)
よし、瞼を切れた。血でゲオルグリス族長の右目の視界が悪化する。本来は両目ともそうしたかったんだが――強化されていないくせにいい反応速度だ。
と、ゲオルグリス族長が戦斧を俺から見て左から右に薙ぎ払う。片目になって距離感が狂ったか? 届かな――
(誠二!!)
雪風の警告。不味い、油断した。
――高速圧縮思考。
世界がスローモーションになる。ゲオルグリス族長は両手で戦斧を構えていた。
右手を柄の下側、左手を上側。
ゲオルグリス族長は左手を手放した。右手一本で持ち、身体を前のめりに。つまり、このままだと戦斧の刃が俺に届く。
なんて野郎だ、勘弁してくれ。何パターンか戦術を構築するが――これしかない。
世界が元の速度に戻る。
俺は斜め右に進む。くそ! 本来なら左に進んで死角を取りたかったが……こいつ、強い。
同時に雪風を左手で抜く。
戦斧の柄と雪風が衝突。激しい金属音が弾けた。俺は雪風で柄の叩きつけを防いだまま、斜め右に駆ける。雪風と戦斧の柄が擦れる擦過音が辺りに飛び散った。ゲオルグリス族長との間合いが二メートル。
「恥ずかしがり屋さんだな。そう嫌がるなよ、ハグでもどうだ?」
「俺は男同士でそういうことをする趣味は無い」
「あ、俺もなかったわ! じゃあこれでも――」
そのまま雪風で戦斧を握っているゲオルグリス族長の指を斬り落とそうと加速。
距離一メートル!
「狂戦士の怒り」
ゲオルグリス族長がそう淡々と呟く。
瞬間、奴の身体が燃え上がった。
マジかよふざけんな。熱で肌がぴりぴりする。
何度あるんだ? 熱い。
俺は戦斧の木製部分の柄を雪風で無理やり切断。
それだけで雪風を握っている左手が焼ける。
後ろに跳んで逃げながら雪風を鞘に戻す。
追撃してこようとするゲオルグリス族長。
俺はスリングショットを右手に構え、左手で即座に石礫を掴んで撃ち込む。
防がれる。
折角詰めた距離がまた三メートルに開く。
というか、今度は俺が距離を詰めたくない。
「二度も食らわんよ」
炎に包まれたゲオルグリス族長はそう言うが、反応速度が良すぎる。
油断もしない。やれやれだ。
「遠慮なく何度でも食らった方がいいぞ。楽に負けられるからな」
「ほう、俺がここから負ける、と?」
「あぁ、悪いが俺の勝ちだ」
ゲオルグリス族長が何故金属鎧を着ていないのかわかった。身体を燃やすからだ。
そして奴の衣服が燃え落ちていく。
「でたー!」「馬鹿な、ヒューマンに族長がセカンドスキルを!?」「どちらにせよこれで族長の勝ちだ!」「兄貴……」「何がヤバいのだ?」「ぶっ殺せー!!」「族長の身体逞しー!」
「おいおい、俺は男のストリップなんてみたかないんだ」
「ならさっさと燃え尽きることだなサイトウ」
ゲオルグリス族長がこちらに悠々と歩いてくる。
後ずさりながら、俺はスリングショットを連発する。
もちろん全部防がれる。
あーもっとちゃんとしたスリングショットで鉄球ならな……そして、悲しいことに石礫が尽きた。
「それはなかなか面白い武器だな」
「特許は取ってるから勝手に流用したら駄目だぜ」
俺の背中が張り渡された鉄線に当たる。
さっき火傷した左手がじんじん痛む。
「逃げてんじゃねーぞヒューマン!」「兄貴……やっぱり無理ですよ……もう十分だから逃げてくだせぇ!」「卑怯者が!」「族長! やっちゃってください!」「セージさん!」「誠二! さっさと倒さぬか! 我は腹が減った!」「なんだぁこの猫!」「こーろーせ!」「こーろーせ!」「こーろーせ!」
「弾切れかサイトウ? そろそろお終いだな」
殺せコールが響く中、ゲオルグリスが俺の目の前二メートルでそう言った。
「あぁ、お前がな」
俺は最後の切り札を切ることにした。




