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異世界に転移したが、勇者じゃなくて私立探偵なので喋る剣と喋る黒猫と探偵事務所開きます  作者: FUKAMIEIJI
オークの集落編

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第10話 楽しいオーク文化

 目のまえに投げ捨てられた短剣を、オズは震えながら手に取った。

「わ、わ、わかりました」

 泣きそうな声、震える身体。その背中は限りなく小さかった。


「セ、セージさん……」

 元気をなくしたルファスが俺の右腕にしがみついてきた。

 オズが震える手で短剣の鞘を払う。俺の食いしばった歯が鳴る。おっと、歯が欠けちまう。気を付けないと。ここに歯科医はいないだろうからな。


「まぁ待ってくれよ族長」

 俺は手をあげて制止した。

「何だ客人。歓待はこの恥さらしの始末をつけた後だ」

 ゲオルグリス族長はうるさそうに手を振る。

「いや、そいつは俺の奴隷なんだ。自由にしてやろうと思ってたんだが、気が変わった。俺の所有物に死ねは止めてくれ」


 本当は奴隷制なんざ反対だが、とりあえずはこれで切り抜けるしかあるまい。

「良いかサイトウ。奴隷になるくらいならオークは自刃する。これが戦士の誇りだ」

「じゃあ奴隷から解放しよう」

「ならば敗戦の責を負って自刃するべきだな」

 俺はため息をついた。どっちにしろ死ねってことじゃねーか。


「集落をちょろっとみさせてもらったが――老人がいない。そりゃそうだよな。一度でも敗北したら死ねとかどこのカルタゴ(負けたら死刑)だよ?」

「それが我らの掟だ。口を出すな」

 確かにその通りだった。俺は部外者であり――口を出すべきではない。

 だが、オズは友達だ。こんなところで切腹させるために連れてきたわけじゃない。

 言いたかないが、やるしかない。俺は爆弾を投げ込んだ。

「それがオークという集団を弱くしているとしたら?」


 俺のその一言を聞いたゲオルグリス族長は口を閉ざした。

「セージの兄貴……」

 オズが泣きそうな声をあげた。どうしたらいいかわからないようだ。

「オズ。大丈夫だ。ナイフは鞘に戻して置いておけ」

 沈思していたゲオルグリス族長が口を開いた。

「どういう意味だサイトウ」


「あのリング……」

 俺は広場のリングを指さす。

「あそこでよく模擬戦をしているようだが。あそこの模擬戦で敗北した奴も死ぬのか?」

「ただの訓練だ。死にはしない」

 ゲオルグリスは首を振った。

「でも、負けた奴も成長する。もしかしたら模擬戦でやられた奴より将来的に強くなることもある、そうだな?」

「その通りだ」

「なら、実戦で敗北して、生き延びたなら――」


「それは別だ」

 ゲオルグリスは表情を変えずに言い放つ。

「同じだろうが」

「いや、違う」

 クソ。歴史的に証明されてるんだよ! 人命を軽視してる軍隊が、軽視していなくても大敗北をしてベテランが消えていって、再起できなくて敗北した例なんて腐るほどある! だが、こいつに地球の話をしてもしかたない。


「何も違わん」

 俺は首を振って否定する。

「実戦で負ければ死ぬ。そう覚悟しているからこそ、皆決死で戦えるのだ。だからこそ我らは強い」

「そりゃ全員が死兵なら――」

 そうか、だからか。七割近くまで壊滅するまで逃げ出さなかったのは。通常の軍隊は三割でもヤバい損害と言われている。五割はほぼ壊滅といってもいい。七割近く損害がでるまで戦っていた時点で、こいつらは異常だった。


「理解したか? だから――例外は認められん。我らの部族が弱くなる」

 そう言うとゲオルグリスはオズに向かって首をしゃくった。さっさと死ねと言っているらしい。

「いや。最終的にあんたらの部族は滅びに向かってるよ。強い指導者が残らない。勝ち目のない戦いでも玉砕して無駄に被害が出る。戦術的には強いかもしれないが、戦略的には弱い。逃げ散っても再編されれば再び戦力になる。恥を知って強くなる強さだってある」


「それは弱者の言い分だサイトウ。生き残った真に強い者が教え導けば道を誤ることは無い」

「強いやつが教えるのが上手とは限らない。そもそも、お前、本当に実戦を知っているのか?」

「私を侮辱するのか? ヒューマン!」

 初めてゲオルグリスが俺をヒューマンと呼び――戦斧を肩から降ろす。


「いや、シンプルな疑問だ。実戦なんて毎回違うだろうが。突然の流れ弾で行動不能になることだってある。足を滑らすこともある。最強なんてありゃしない」

「そうだな。お前は多少は実戦を知っているようだなサイトウ」

「もちろんそれを生き延びる実力が大切なのはわかる。だが、命を拾えたなら大切にするべきだ。どうせ戦いなんざ運が絡む」

「その運もまた、力なのだサイトウ」


(誠二よ。我が弟子を勝手に処刑しようとするこの馬鹿を我が――)

(おいリーナス。お前、忘れているようだが、現時点ではファイアアローしか使えないのに何言ってるんだ)

(しかし誠二。ゲオルグリスの言っていることはオーク社会においては当然のことです。オズは可哀そうですが……)

(ならぬ! 雪風!)

 リーナスが珍しく(?)感情的に反論した。よほどオズが気に入ったらしい。

(しかしリーナス、オークの族長からの情報収集が必要な状況において、これ以上の対立は得策ではありません)

 雪風の言うことは確かに正論だった。


 だから俺は口を開いた。

「オークは力を示せばなんでも要求が通るんだよな?」

「そうだ。力こそ全てよ」

 ゲオルグリスが頷いた。


「族長はどうやって決めているんだ?」

「族長を決める闘いを五年に一度行っている。もしくは族長が認める強者が挑戦してきた場合だ」

「で、あんたはずっと族長を?」

「私が族長になってもう二十年だ」


「あ、兄貴……ゲオルグリス族長は歴代最強の族長と言われている凄い人で……」

 オズが小声で聞きたくもない話をしてくる。止めろ。決意が鈍る。

「そうか。じゃあ……あんたらのルールでやってやるよ。俺があんたに挑戦させてもらおう。良いんだよな? 強けりゃなんでも? 賭けろよ、族長の座を」

 瞬間。

 オークの集落から完全に音が消えた。


「兄貴!? いいんですよもう!! 本当に今までありがとうございました。俺、俺、こんなに優しくされたの初めてで……それだけで十分です」

 静寂を破ってオズがそんなことを言い出した。馬鹿野郎!

 俺だってやりたかないが、決意を高めるようなことを言うな!

 いや、高めてくれるならいいんだが。


「セージさん、無茶はやめて帰ろうよ……セージさん死んじゃうよぉ……」

 すっかりしょげ返っているルファスも小声で俺の右袖を引っ張ってくる。

「誠二……非論理的です」

 俺の腰からいつもの非論理発言が飛んできた。

「いいぞ誠二よ! 我が弟子を守る栄誉! こたびは譲ってやろう!」

 足元の馬鹿だけはいつも通りだった。


「ははははははは! サイトウセイジ! 何なのだお前は? 私は面白い。実に愉快だ。こんないかれたヒューマンがいるとは! いいだろう、その挑戦受けてたとう。賭けよう、族長の座を」

 ゲオルグリスの宣言と同時――オークの集落が歓声に包まれた。


 嗚呼、やっちまった…………

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