第十一話 黒狼胎動〜Ⅲ〜
「くそっ、まだ死なないのかよ!?」
数時間後。
俺と夏芽は、すでに608匹を殺した。
しかし、まだ勝てていない。
最後の一匹が、どうしても倒せないのだ。
|【A.R.K.】搭載兵器《γ砲xl》では全く歯が立たない。
突然、「視界」の端を横切っていく小さくない黒い影。
——ヤツだ。
マズい、そっちにいるのは——
だが、振り向いたころには時すでに遅し。
彼女の気配が戻ってきた、
〈コイツ、どうにかならないの? 私が全っ然集中できないじゃない〉
「ハァ……コイツがどうにかなったら夏芽さんが集中する必要などありませんよ……」
〈あ、そうか〉
まさか、そんなことにも気づいていなかったのか?
どこまでバカなんだよ、この女……。
【A.R.K.】第G改良タイプ“Gaia”。
エゴ・クリスタライトを武器ではなく戦場に優先的に流し込み、戦場そのものと同化することが可能な機種だ。
同化した戦場は、大地でも海でも真空でも全く別の物質の上で戦っていても、自由自在に操ることができる。
弱い敵ならうまくどこかに追い詰めてこの世から追放できるし、そこそこの敵でも他の機種と連携すれば楽に倒せる。
ただ、その分弱点も多い。
例えば、同化までに時間がかかること。
“自我”を他機種よりもはるかに多く削られること。
そして——同化中に一度でも攻撃されると元に戻ってしまうこと。
今、夏芽は3番目の状況に置かれている。
「白神さん、僕1人では無理です! 同化を諦めて単純な攻撃に心血を注ぎましょう!」
一瞬の間が開き、〈了解!〉と明るい返事が返ってきた。
相手の急所は頭部。
しかし、他の個体と比べて異常に小さいのだ、頭部が。
故に、狙いが定まりにくい。
〈拘束はできる!?〉
「無理ですっ!!」
アレを拘束する?
無理に決まっている。
あまりにも早——
……?
違う。
動きが鈍った?
恐ろしくゆっくりと着地すると、奇妙な咆哮を上げる。
やはりだ。
何かある。
「アレから距離をとってください。絶対何かある!」
〈了か——〉
ドンッ。
その音が、彼女の声を遮る。
同時に、苦しそうな声が聞こえてきた。
さっきの音は何だ?
爆発音?
違う。
何かと何かがぶつかった音。
機体と何か。
木?
岩?
——地面。
左を見ると、Gaia-72が黒いオオカミに拘束されていた。
ツメが機体の首を引き裂こうとしている。




