第十話 黒狼胎動〜Ⅱ〜
「「本部の位置が割れた!?」」
2人で同時に叫ぶ。
俺の初陣のときも敵は本部へ侵入してきたが、奴らはおそらく下っ端並みの戦力だ。
それが倍に増えたところで大した脅威にはならない。
しかし、今回は推定で数百匹の群れ。
単体がどんなに雑魚でも厄介なのは明らかである。
〈ええ。割れています〉
そのとき。
天井がかすかに揺れたような気がした。
「クソッ……」
〈機体を出しました。現場職員の指示に従って行動してください〉
「はい」
中年の男性職員に促され、Fenrir-02の目前まで来た。
乗り込む直前、夏芽と少し言葉をかわした。
「萩谷君はまたそれに乗るのが怖くないの? 拒否反応出たんでしょ?」
「……『君』呼びは考え直してください。一応上官ですよ。……まあ、少しは怖いですけど死ぬことはあまり嫌ではありません」
「ふうん。どんなところが怖いの?」
「なんというか……“恐怖”の根源の一つには“不可解”があると思うんですよ。白神さんなら少しはわかるんじゃないですか?」
「ほう。確かに、私も深海は怖いね。“分からない”から」
そう言う彼女の笑顔は、どこか不自然だった。
……そうだ。
Fenrirを初めて見たときも、倉庫でアレを見たときも、怖かった。
わからなかったから。
今俺が見ている機体はこの男を取り込もうとしている——
そう考えただけで、恐怖心が少しだけ和らいだ。
身近の生死をどうでもいいと思っている人間にしかできない考え方だろう。
右手を機体に近づけていった。
やがて。
機体に手が触れる。
吸い込まれる不快感を覚えた直後、よくわからない色の空間に俺は浮遊していた。
——Fenrir-02の内部。
外から何かの衝撃とけたたましい警報が伝わってくる。
覚悟はできているのか?
問いかけると、何かが肯定した。
(よし、Fenrir。動け)
命令を下す。
俺の思考通りに機体が動いていく。
「視界」に映った巨大な黒いオオカミ。
地球のそれとあまり変わっていなかった。
ただ、放っているオーラだけは明らかに違う。
今の俺はアレを駆除するんだ。
だから、せめて500匹を狩り尽くすまではおとなしく協力しろよ、Fenrir。
効果があったのかなかったのかわからない言葉を吐く。
直後、目の前の一体が咆哮をあげながら飛びかかってきた。
飛べ。
そうだ、かわして、馬乗りになるんだ。
ツメを使って拘束して。
口を開いて、γ砲xlをチャージ。
発射したら、即座にその場を離れろ。
機体が後ずさった次の瞬間、一匹目の間近で大爆発が起こった。
爆煙が晴れると、そこには明らかに死体だとわかる状態の一匹目が倒れていた。
Fenrir-02は、少なくとも一回目は俺に従って敵を倒してくれた。
〈——一匹目、討伐完了〉
外で仕事をしている職員の声が耳に入る。
その一言で、俺の胸はいっぱいになった。
残酷な救いを受けただけだと思っていた奴が、誰かを救ったのだ。




